カンピオーネ!~旅行好きの魔王~   作:首吊男

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四話

イタリアに居る護堂の下に届いた日本にまつろわぬ神の出現の連絡は、その数時間後にまつろわぬ神の討伐と、あらたに変わっていた。

 

「百合の会が、新たなるカンピオーネと友好関係を結んだって言うのは本当だったのね。最初は半信半疑だっだのだけど・・・まつろわぬ神を倒したのならば間違いないわ」

 

隣にいるエリカが、神妙そうな面持ちで呟く。

護堂は困惑していた。 

新たなカンピオーネが誕生したとの知らせが来たときは、嘘だと信じたかったが...。他のカンピオーネとは違う事を祈ろう。ヴォバンのような典型的なタイプのカンピオーネだけは勘弁して欲しいところだ。

しかし、まつろわぬ神を殺したということは、彼もまた一般人とは大きくかけ離れた存在なのだろう。

 

「同じ国なんだから、友好的に行きたいよなぁ」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

一方その頃の竜司はと言うと。

 

「被害広すぎだろ...。早く帰りてぇーよ...」

 

まつろわぬ神との戦で傷ついた町の修復を行っていた。気が付いてすぐ働かされるとはな。

 

「天童さんの権能は随分と応用が利くんですねぇ、私の知っているカンピオーネとはえらい違いですよ」

 

甘粕さんが俺の作戦の手伝いをしてもらう報酬として要求してきたものは、俺の持つ権能の詳細についてだ。

元々俺が壊してくれと頼んだ場所の修復はするつもりだったが、まさか町全体の修復をさせられることになるとは...。

 

「ふぅ...これで最後だな」

 

(でもどうすんだこれ?)

 

目の前には、半壊したビルがあった。壊れる前は推定百メートルは越していた筈だが、今は見る影も無い。

 

「これ戻しちゃうと、流石に人目に付きませんか?」

「そこは問題ありません。正史編纂委員会の方でちょちょっと記憶を操作すれば、今回は只の嵐が過ぎたことになるでしょう」

 

それでいいのか!?まぁ、神様と戦っていましたなんてばかげたことを正直に話すよりは随分ましだろうが。

 

「時よ!!」

 

そう竜司が唱えると、まるでテレビの巻き戻し映像を見ているかのように、ビルは元通りの状態にもどった。

 

「やっと終わった~」

「お疲れ様です。しかし、天童さんの権能があれば壊れた建物の修理代が浮きますねぇ。どうです?私共の組織で働いてみませんか?勿論給料も弾みますよ?」

「いえ...遠慮しておきます」

 

神々の戦いの度に働かされては身体が持たない。

 

「冗談ですよ、カンピオーネであるあなたをこき使えるほど、私の神経は図太くありませんよ」

 

苦笑をしながらそう言う甘粕さん。やれやれどこまで本気なのだか。

 

「そういえば、俺にあわせたい人ってどうなってるんですか?」

「ああ、その事でしたら大丈夫です。今回の件で貴方がカンピオーネであることは充分証明されましたので。その姿もちゃんと撮ってあります」

「まぁ簡単に言えばもう帰ればいいと言うことです」

「なんですとっ!!」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

今俺は、自宅の机の上に置いてある一枚の紙を凝視していた。

話しは数分前に遡る。

あの戦いから数日後。久方ぶりの我が家でのんびりと過ごしていた処、家に一通の封筒が届いた。

...あて先人不明。何だろう、すごく嫌な予感しかしない。だが、こうして封筒を睨んでいても埒が明かない。

 

「捨てるか」

 

ゴミ箱に放り投げようとした時、携帯が鳴り出す。液晶画面には先日交換したばかりの、甘粕さんの番号が映し出されていた。

 

「もしもし?」

「あ、天童さん。お久しぶりです。と言っても数日程度ですが」

「お久しぶりです。...何かあったんですか?」

 

もしかして、またまつろわぬ神が顕現でもしたのだろうか?

 

「ええ、そちらに封筒が届いていませんか?」

 

封筒?もしかしてこれのことか?

 

「来てますけど、あて先人が分からないんですよ。もしかして甘粕さんが送ったものですか?」

「あ、ちゃんと届いていましたか。それなら話しは早いですね。その中から紙を取り出して、目を通しといて下さい。では」

 

そこで電話が途切れる。もう何がなんだか分からん。

 

「はぁー、あて先人だけでも分かったのは良しとするか。そうなると、中身を当然見ないといけないんだが...」

 

やはり躊躇う。何か、見たら行けない類の物ではないのか?

えーい!しかたない!どんな物でも来て見やがれ!

竜司は勢い良く開封した。そこで冒頭に戻る。

 

「なんだこれは?」

 

いやまあ、分かるけどね。一番上にでっかく書いてあるし。

 

「入学手続書ぉ~?」

 

(どういう事だ?俺は学校に通ってるし、転校する気も無いぞ?)

 

甘粕さんの考えていることが読めない。そもそも、どこに転校させる気だ?分からん。一度どういうことか電話してみよう。

prrrrrrr只今電話に出ることができません...

 

「どういうことだぁー!!さっきまで普通に電話掛けてきただろ!?甘粕さーん!!!」

「うるさいっ!!!平日の昼間から騒ぐんじゃないよっ!」

 

くそっ!隣のおばちゃんに怒られちまった!覚えてろよ甘粕さん!

そう毒付きながら、俺はおばちゃんに謝りに行った。

だが、竜司は知らなかった。その一部始終を監視していた者が居たことを...

 

「あれがおじいちゃまの言ってた天童竜司。...う~ん見た目だけじゃ強そうには見えないなぁ~」

 

三百メートルは離れた木の陰から、一人の少女が呟いた。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「あ~なんか久しぶりにここらを歩く気がするなぁ~」

 

(昔は兄貴とよくこの近くを歩いたもんだ...)

 

竜司は気分転換に散歩に出ていた。

 

「兄貴今頃何してんのかな?」

 

竜司はふと昔の事を思い出す。

天童家は、元々裕福な家庭では無かった。その為一番上の兄は高校を卒業すると同時に自衛隊に入隊していった。

 

その数週間後に悪夢は起きた。

父親が交通事故で死んだのだ。仕事の帰り道に飲酒運転をしていたトラックに撥ねられ即死だった。

そこから天童家に亀裂が入り始めた。

 

生前父が生命保険に加入していたことで、多少の保険金が入ったが、母親がその保険金を持って他の男と蒸発してしまった。

それにより俺ともう一人の兄は、一番上からの兄の僅かな仕送りだけで生きていかなければならなくなった。

 

当然、それだけでは足りる筈も無く。俺は当時中学生でありながらもバイトをしなければならなくなるはめになる。

もう一人の兄は昔から俗に言う引きこもりというもので、当てにならず俺はもう一人の兄の分も稼がなくてはならなくなった。

 

俺が必死に働いている間も、なにもしない兄に何度も苛立ちを感じていた。

そういった経緯からか、俺は次第に荒れていった。

 

そんな生活から逃げたくて、高校から一人暮らしを始めた。

奨学金をもらえるように必死に勉強したおかげで、地元では有名な進学校にトップで入学することができた。

それからというもの、誰一人家族には会っていない。

 

「ふうぅー」

 

ため息と共に、重苦しい気分を吐き出す。気分転換の為に外に出たのに、これじゃ本末転倒だ。

 

「あっ」

 

いつの間にかここまで来ていたのか。

そこは小さな公園だった。子供の頃、毎日と通っていた思い出の場所だ。竜司は特にすることもなかったので、少しベンチにでも座って休憩することにする。

 

「変わらないな...」

 

遊具の数も、生えている並木の数々も、昔と何一つ変わっている処がなかった。周りの建物が次々と新しくなって行く中で、ここはまるで時代に取り残された様だ。

公園の真ん中で遊んでいる子供達が見える。最近の子供は、家でゲームばっかしてるもんだと思っていたが、そんなことはなかったらしい。ボールを蹴って追いかける無邪気な笑顔は、見ているだけで心が和んだ。

 

「ああっ」

 

すると、過って跳んできたボールが竜司の足元に転がってきた。竜司は立ち上がり、ボールを拾う。

 

「返せよ!!」

「は?」

 

見るからに活発そうな一人の男の子が、俺を睨みつけながら怒鳴ってくる。多分俺がボールを奪ったと勘違いしているのだろう。

 

「あー、返す返す。ほら上手く取れよ」

 

軽くボールを投げる。ではないと、俺の身体じゃ子供たち通り越して、公園の外にまで飛んでいってしまう。

胸元に丁度届いたボールを、少年はキャッチする。すると、円陣を組むようにして子供達が何か内緒話をし始めた。

 

「おい見たか今の」

「見た見た。あいつ、あそこからノーバンでボール投げたぞ。それも軽い感じで」

「ここからかなり距離あるのにな」

 

何を言ってるんだ?時折こっちを見てくるが、一切変なことしたつもりはないぞ?

 

「おいお前!!」

「ああ?」

「俺達と勝負しろ!!」

 

はあ?意味が分からん。いきなり何を言い出すんだ?

 

「勝負?何の?」

「サッカー!お前大人だから一人な」

 

確定かよ。まぁいい、俺が面倒見がいいのをご近所さんに知って貰える良い機会かもな。俺は腰を上げると、少年たちの方へ歩き出す。

 

「はやくしろよー」

 

はいはい。そう急かすなって。

 

「遅いぞノロマ」

 

ん?ピクッ

 

「始めちまうぞバカ」

 

んん?ピクピクッ

 

「本当見るからにダメな奴だな」

 

......ビクビクビクッ!

最近のガキは教育がなってねぇなあ...コロス!!

 

「オラあ!!!言わせておけば随分な物言いだなクゾガキャア!!!!」

「逃げてんじゃねーぞチビどもォォォォォォォ!!!!」

「うわわあああああ!!!」

 

こうして、何故かサッカーをやる筈が。いつの間にやら鬼ごっこに変わっていた。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「はあ...はあ...はあ...」

 

舐めていた。子供の元気っぷりを舐めていた。

辺りは夕日で黄金色に染まっていた。...三時間。俺はこいつらを追いかけるのに、三時間も休憩無しに走っていたのだ。この炎天下の中。

 

「あー、休憩...タイム」

 

公園の脇にある自販機で飲み物を買う。

 

「ほら、これは俺のおごりだ。ありがたく飲めよ」

「え、いいのか?」

 

答えるのもだるかったので、頭だけ頷いておく。俺は、缶コーヒーのプルタブを開けて一気に飲み干す。

 

「ありがとう!アホな兄ちゃん!」

 

感謝するのはいいことだが、...誰がアホじゃ!!

はあー、何故か鬼ごっこをしてる間に子供たちに懐かれた。相手をしてくれたのが余程嬉しかったのか、途中で新たに他の子供も参加していた。中には女の子もいる。お前らみたいな奴らがもっといれば、この先の少子化止められそうだよホント。只、大人の財布的には困る...。

 

「次何する?」

「俺はかくれんぼがいい」

「ええー、ケードロしようよー」

 

まだ遊ぶつもりかこいつら!?どんだけパワフルなんだよ!?

 

「お前ら、そろそろ暗くなるから帰れ。今度また遊んでやるから」

「何でだよ~。まだ明るいからいいだろ」

「駄目だ!暗くなってからじゃ遅いの!さあ帰れ帰れ」

「じゃあ約束だぞ!今度また遊べよ!」

 

どんだけ懐かれてんだよ俺...。悪い気持ちはしないが、また走るのは嫌だ。

 

「ああ、わぁーたわぁーた。約束な」

 

そう言って無理矢理家に帰らせる。駄々を捏ねながらも、言うことを聞いて帰る子供たちを見送る。...約束ねぇ。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

家に帰ると机の上で携帯が鳴っていた。

 

(そういえば、携帯置いて出てきたんだっけ)

 

携帯を取ろうとした瞬間、そこで着信音が途絶えた。...履歴を見る...。

 

(うおっ!?二十件も甘粕さんから電話来てる!)

 

こんなに男から電話来ても嬉しくないんだが...

prrrrrrrr。また甘粕さんからだ。

 

「はいもしもし」

「ちょっと天童さん!どうして電話にでてくれなかったんですか?」

 

こんなに来てたら、気づいていても躊躇うレベルだ。

 

「いやあ、色々とありまして。ってか、甘粕さんこそ出てくれなかったじゃないですか」

「それには色々と事情が...。それより、ちゃんと封筒の中身に目を通しましたか?」

「まあ、一応。入学手続書って何ですかこれは?」

「見ての通りです。天童さんには東京の学校に通って貰いたいのです」

「なんでわざわざ」

「それは国がカンピオーネを監...目の届く範囲に置いときたいからです。天童さんに転校して欲しい高校には草薙さんも通ってます」

 

監視って言いかけたよなこの人...。

 

「気持ちはわかりますけど、転校するだけのお金が家にありません。今の学校も奨学金を貰ってなんとかしている状態なんです」

「天童さんの言い分も分かります。ですが安心してください。高校にかかるお金は、全て国の予算で賄いますよ。ご自宅もこちらで用意します。無論生活費は諸々免除でお買い得。どうです?」

「それでも...」

 

俺は今日遊んだ子供たちの顔を思い出す。東京に行ったら今度遊べるのは何時になるか分からない。

 

「いきなりで今すぐに結論を出せとは言いません。ですが、期限は明後日までです。それまでにイエスかノーか、どちらにせよ決めて置いてください」

「......」

「いい返事が返ってくるのを祈りますよ」

 

そこで電話が終了する。

...転校。話しだけなら、かなり自分に都合の良い条件だ。国の中枢である東京に居て欲しいと言う理由も分かる。...それでも。

 

「ああ~!最近色々あり過ぎるんだよ!」

 

頭をムシャクシャと掻き立てる。考えるのは晩飯を食ってからにしよう。

竜司は冷蔵庫の中の野菜や肉を取り出し、料理を始める。コンビニ弁当などは高い為、普段から自炊を行っている。お金を掛けない料理を作る事に関しては一つの特技と言えよう。

 

「......」

 

一人での食事は大抵静かなモノだ。それで騒がしかったら可笑しな事だが...。昔から一人で食うのには慣れている。不便は無いしな。

 

「ごちそうさまっと」

 

食器を洗う。今一度先程の会話を思い出す。悪くない話しである。どこに躊躇う必要がある?勿論学校の友達に会えなくなるのは淋しい。けど、永遠の別れってわけじゃない。

 

「...そうだ。休みの日に帰ってこれることぐらい出来るんだ。その時でいいから約束を果たせばいいじゃないか」

 

それでもまだ釈然としない。何かが腑に落ちない。何でなのかは自分でも分からないが。

このままでは寝ることも儘ならない。竜司は携帯と財布をポケットに入れると、家から出て、月が上った暗い町の中を歩き始めた。

 

向かっていったのは昼間の公園だ。理由があって来たわけではないが、ここでなら何故か答えが出そうな気がした。

ザッザッザ...

足音が聞こえる。何だ誰かいるのか?

 

そーっと、草葉の陰から覗くと...居た!けど、何か小さいな?

改めてよく見ると昼間の活発な男の子だった。その足元にはボールが転がっている。

 

(何してんだあいつ!?)

 

もう子供が一人でうろついていい時間じゃない。なのにも関わらず、少年の顔は真剣そのものだった。

 

「おい!おま.....」

 

え何してんだ!と叫ぼうとした時。少年を軸に、俺がいる場所の反対側に何かを見つけた。...あれは人?

フードを被った(体格からして)男がゆっくりと忍び足で少年に近づいている。が、それに少年は気づいていない。ふと、男の懐で何かが月の光を反射した。

 

「やべっ!!」

 

その場から勢いよく飛び出す。少年の直ぐそばまで近づいた男は、懐から何かを取り出す。淡い光を放つ銀色のそれは---サバイバルナイフだった。

 

(くそ、間に合え!!)

 

そこでようやく気づいた少年だが、時既に遅し。男のナイフが握られた右腕が振り上げられる。そのまま一気に振り下ろした。

ザクッ。手応えがあった。なのにどういうことか、そこから寸とも動かない。---原因は直ぐに分かった。

横からナイフを掴み掛かるようにして竜司が抑えているからだ。掌から流れ出た血が地面に落ちる。竜司は男の腹を思いっきり蹴り、吹っ飛ばす。

 

「ぐうええぇええ、うぐううがああああああ!!」

 

男は奇妙なうめき声を上げたと思うと、すかさず竜司を襲ってくる。

 

(コイツ、薬中か!?)

 

男の目は血走り、口からは涎が垂れている。

竜司は男の単調な攻撃をかわし、少年を抱きかかえる。腕の中からは恐怖の為か、小刻みに震えていたのが分かった。

 

「お前だけは絶対に許さねぇ」

 

大物主から簒奪した権能を使う。たちまち竜司の身体は巨大な蛇に変わった。

 

「ああ、あがっ、あがっ、がっ」

 

男は目の前の恐怖に、失禁しながら気絶した。

 

「ほらもう大丈夫だぞ」

「...兄ちゃん、今何したんだ?」

 

竜司が蛇に姿を変えたのは一瞬である。それも、顔を抑えるように抱きしめていたので今の光景は見えなかった筈だ。突然男が倒れていることに驚いているのだろう。

 

「あー、俺覇気使えんだ」

 

それっぽく誤魔化しておく。

 

「え、ホントか?じゃあ、身体伸びたりするのか?」

「それはできねぇ。...それよりこんな時間まで何してたんだ?」

「それは...」

 

急に少年が口篭る。

 

「どうした?何か言えない理由でもあるのか?」

「......上手くなりたかったんだ」

「上手く?何が?」

「サッカー。...今度兄ちゃんと遊ぶ時、少しでも凄いとこみせたかったから。ごべぇんなさぁい~」

「はあー、全く。練習するのはいいけどこんなに暗い時間までやっちゃ駄目だろう」

 

そう言いながら頭を撫でてやる。

 

「う...ひっぐ、怒らないの?」

「ああ?俺の為にやってくれてたんだろ?なら許す。けど次はこんなことしたら駄目だぞ。分かったな?」

 

こくりと頷く。

 

「アホな兄ちゃん」

「何だ?後、そのアホっての止めろ」

「アホな兄ちゃんはアホだけど、すげぇーカッコいいんだな!俺見直した!」

 

ぐはっ!!そんなド直球で褒めるな!

 

「いつかもっと俺が大人になって、サッカーで金メダル取れるぐらいに上手くなったら、その時は見ててくれよ!」

「金メダルぅー、お前がぁ?」

「なるんだよ!悪いのか!?」

「まあ、精々頑張れ。無理だと思うけどな」

「なんだとー!じゃあ約束。俺はいつか絶対金メダルを取る。兄ちゃんはその瞬間を絶対見ること!」

 

そう言って右手の小指を突き出す。察するに指きりだろう。

 

「んじゃあ、当分は遊べないなー。金メダル選手になるなら、すごい努力が必要だぞ?」

 

竜司も右手の小指を突き出す。

 

「頑張る!いつか兄ちゃんに負けないぐらい強くなるからな!」

 

そうして固く結んだ指を数秒間維持していた。

 

その後竜司は少年を家まで送り届けた後。男を刑務所に放り投げ、帰路についていた。

竜司は約束を思い出しながら右手の小指を見つめる。

 

「お前ならきっとなれるさ」

 

家から出たときの心境は、今では激変していた。竜司の顔は清々しい程に爽やかだった。

ポケットから携帯を取り出し電話を掛ける。

 

「甘粕さん。俺...決めたよ。ああ、転校する!」


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