空港に着いた俺は忘れ物がないか再度チェックする。他にすることが無いからな。今回の旅行は満喫できた。最終日以外は。
「あれから妙に身体から力がみなぎるな」
神様を倒した?せいによるものなのだろうか?今なら何でも出来そうな気がする。自意識過剰か?
何にしても、あれから妙な変化があるのは事実だ。
「まだ出発まで時間あるな。ちょっと散歩でもしようかな」
出発の時刻は三時。今は一時のちょい前なのでかなり時間はある。
「もうちょいイタリア満喫しとくか」
言うが否や、竜司はそそくさと付近を出歩く。もちろん目的など皆無だ。
近くのカフェで休憩しようとした時、そこで異変に気づいた。先程まで辺りに多少なりとも人が歩いていたのに、今はその影すらもない。それどころか、鳥や猫などの姿もない。嫌な胸騒ぎがする。
(誰かに見られている?)
竜司は感じとった。普段なら気づく筈もない、些細な違和感。それを竜司は身体で感じ取った。そこで竜司は思いっきりその場から飛びのいた。瞬間、何もないはずの場所からいきなり、爆発が起きた。
「何だこれ?」
竜司に迷いや戸惑いなどはなかった。驚きはしたもののそこまでだ。仮に自分が避けていなくとも、何の問題もなかったかのように。
「誰だ?出て来いよ」
その声は、彼の普段の声を知っている者なら、あまりの変化に驚きを隠せないであろう、ひどく好戦的な声だった。
彼の問いかけは、何もないはずの空間から返答があった。
『効かないとは分かっていたが、まさか感づかれるとは。間違いない。神を倒したと言うのは本当だったか』
声だけで判断するなら、二十代そこそこの男であろう。さっきの爆発もこいつがやったのは明らかだろう。
すると、予想どおりの外見をした男が、突然現れた。
「お前が今の爆発をやったのか?」
「いかにも。私は、ソルナーリ。あなたの存在を確認しに来ました。以後お見知りおきを」
「よくわからねぇけど、街中であんな爆発起こすとか考えろよ」
「それは心配いりません。あらかじめ、人避けの術を仕掛けておいたので、ここら一帯には誰も来ません」
「人避けのじゅつぅ?」
なんだこいつ、中二病か?
「ええ。もしかして、魔術の類をご存知ないのですか?」
ソルナーリと名乗った男は、さっきまでの薄ら笑いの顔ではなく、本当に不思議そうな物を見るような目でこちらを見てくる。
「知らん。てか何だ魔術って?魔法かなんかか?」
「これは驚きました。まさかそのような方が神をも殺めてしまうとは。・・・魔術というのは、仰るとおり魔法に似たものと言う認識で構いません。先のように、何もない所から爆発させたり、姿を消したりと、術者によっては得て不得手がありますが、そのようなものです」
「へぇ」
「驚かないんですか!?普通そこは少しなりとも興味がでてもいいでしょう!?」
「いやまぁ、つい最近。神様とか分からん奴が相手だったし、俺は見たことが無かっただけで、そう言うのは無いとか信じてるわけじゃないからな。まあ、世界は広いっていうしそんなのがあってもいいんじゃない?」
俺も昔はよく想像していたもんだ。漫画とかで見た技とか魔法を俺も使えたらなぁーとか。決して中二病じゃないぞ。誰だってそういうの考える時期はあるはずだ。うん。
「それよりも、お前一人か?まだ視線を感じるんだけど」
「やはり魔王。魔術の知識がなくとも、高位魔術の隠蔽術をこうもたやすく見切られるとは。いやはや、先程の無礼はお許し願いたい」
いるのか、後数人。なんかことごとく未知の世界にどっぷりとはまってってるなー。
そこでソルナーリは、何かの合図のように、指をパチンと鳴らした。途端に辺りから、黒布を全身に纏った怪しい連中が続々と出てきた。ひぃふぅみぃ....十を切ったところで数えるのを止めた。なんかバカバカしくなってきた。誰だよ、数人とか言った奴、多すぎだろこれは。
「なんだこの犯罪予備軍どもは?」
「これは私の部下、<<百合の都>>の組織員たちであります。気分を害したのであれば立ち去ります。のでどうかここはお納めください」
「いや、そんなに頭下げなくても。全然気にしてない、っていうか、何の為に俺を襲ったのか教えてくれ」
「それは、申し上げた通り。あなたの存在を確認するためでございます。つい先日のまつろわぬ神の気配が急に消えた為、付近の聞き込みと調査で、あなたが倒したのではないかと推測したわけでございます。多少手荒なマネをした件に関しては、私は覚悟はできています。なんなりとお言いください」
二十にも達しそうな数の、全身黒ずくめの男達が、そろって土下座する光景は中々にシュールだった。
「それはいいってか、時間!?やべ!?もう出発の時間過ぎてる!?ああー、帰れないぞこれ」
「それならば、私共の方でチャーター便を手配しましょう。ですので心配なさらないでください。当然、お金などもこちらで用意しますので、他に必要があればなんなりと」
それってつまり、帰りの飛行機代タダ?まじで?
「時間とかも俺が決めてもいいのか?」
「それは勿論でございます」
「なら聞きたいことがあるから、ちょっといいか?」
そうして、俺は疑問に思っていた、神やら魔術の件を教えてもらうことにした。帰る時間はいつでもいいっていってたしな。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
俺、天童竜司は一週間前、イタリアの地で神を殺した。
何を言ってるのか分からない?俺も現在進行形で分からん、が、まあ聞いて欲しい。
俺は夏休みと言う、部活にも入ってない、習い事もテストの成績が悪くて追試といったこともない、一高校生としてはまさに、至高の時間とも呼べる期間を使い、バイトで貯めたお金で一人旅行に行ったんだ。
観光巡りに、サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会という、覚えるのも苦労するような、長ったらしい名前の教会に足を踏み入れた。そこは、かの有名なレオナルド・ダ・ウィンチの、最後の晩餐が飾られている、世界遺産として登録されているすごいところである。
そこで一週間前に神と出会い一悶着あったわけであり、その時の惨状が今でも根深く残っている。
帰りにソルナーリっていう、術者組織にあったおかげで色々と疑問は解決したわけだが。
ようやく、家に帰って一眠りしようという俺を待ち受けていたのは、正史編纂委員会という、国の直属の組織と名乗る所属の二人組みだった。
どこから嗅ぎ付けたのか、俺が神を殺したことを知っており、何かよく分からんが、あって欲しい人物がいるとお願いされた。二人が多少ぎくしゃくしたり、俺におびえてる雰囲気を見せていたが、今は置いとくとしよう。
無論、俺に拒否権などないので従うことにした。相手は国だからな、一般市民としては断れない。そんなことで反逆罪とか嫌ですから。
そんなことがあって一週間がたった。今日は約束の日だ。
「すみません。王の身にはいささか無礼ですが、これで約束の地へとお送りいたします」
そう言われて目の前にあるのは、どう見ても、自分には一生乗れないであったであろう高級なリムジン。生で見るのも初めてなのに、これで無礼とは...俺、いいご身分出身じゃなかったはずだよな?
対面で笑みの一つもない顔で、ご丁寧に頭を垂れているこの男。まぁ流れ的に正史なんちゃらとかの人だろう。
「あー、あなたは?」
「これはこれは申し送れました。私は甘粕と申します」
そう言って、これまた丁寧に名詞を差し出してきた。一応受け取って置く。
「俺は天童竜司です。えっと、年上に敬語で喋られるのって慣れてないんで、タメ口で良いですよ」
「いやいや、私などのような者が、魔王であられる御方にタメ口とはとんでもない」
「魔王?俺が?」
「はい。まつろわぬ神を只の人間でありながら殺めた、数少ないカンピオーネであられる」
「確かに色々あって神様を殺したけど、俺は自分で思っている限りはまともですよ」
「そうは言っても、他の方々がこれまでにして来たことを思えば、そう考えられるのが普通ですよ。ですが、それが御身の命令とあらば、私はそれに従います。私としても、そのような事で逆鱗に触れたくはないので」
どんだけ俺は危険視されてるんだよ。今時のガキでも、そんなんでキレるか。
だが、まぁソルナーニが言ってたことを思えば分からんこともない。
「もうそれでいよ。命令ってことで、これからはそんな畏まった喋りかた無しにしてくれ」
「分かりました。ええ、あなたはこれまでのカンピオーネたちとは違うようだ。嫌もう一人いましたかねぇ」
(なんかいきなりだらけ出したな!?そりゃあ命令したのはこっちだが、いいのかそれで!?)
「それより、早く出ないと間に合いません。話しは行きながらにでもしましょう」
そう言って、リムジンに乗り込む。
(うわあすげぇー、ソファーみたいにふかふかだ。これが上流階級の特権なのか)
まさかここまでとは思わなかった。家柄、車になど滅多に乗らないがそれでも、これが一般的などとは言いがたい物だった。竜司は今は一人暮らしをしており、身近に車を運転できる人がいないため、久しぶりの車で酔わないか心配だったが、それは杞憂に終わった。ものすごく振動がない。寝てしまえば家の中と間違えてしまうのではないか。
「で?どこに向かってるんすか?」
「言っていなかったですか?東京ですよ。少し遠いですが我慢してください」
「東京!?」
遠い。少し程度じゃない。俺が住んでる所は日本海側、本州の真ん中程度。以外に近い気もするが、車でとなると三百キロぐらいはあるはずだ。朝に出たが、日が落ちる前に着けるだろうか?
「東京かー。昔一度行ったきりだなー」
「おや、左様ですか。ならば、私が案内してさしあげますよ。どこか、ご要望とかありますか?」
「う~ん。あ、一回東京タワー見たいな。なんか燃えたんでしょ?」
つい先日まで、テレビや新聞に報道されまくってたニュースだ。雷が落ちたとかなんだとかが原因らしい。と、何故か甘粕さんが笑っている。何がツボに入ったのだろう?
「すみません。ちょっと込み入った事情がありまして」
と必死に笑いを噛み堪えながら言ってくる始末。かなり気になる...
にしても東京とは。あまり人込みと言うのが苦手な性分としては、いささか観光に行きたいと思える場所ではない。
竜司の趣味は旅行だ。特にヨーロッパ圏内の、日本じゃお目にかかれない石造りの街や、ツンツンしたお城などが好きだ。成人になったらあっちに住もうとか、結構本気で考えたりもしている。
「それにしても、天童さんが話しの分かる人で良かった。人は見かけによらないものですね~」
「それはどういう意味ですか?」
「いや~、最初に会った時は結構怖かったですよ。目つきがするどいですし、体格も同年代にしては中々。昔何かされてました?」
(うっ)
俺は昔から何かスポーツなどに嵌ったことはない。俺が小さい頃に父親が交通事故で死んでから、金がかかる部活など入ってるより、少しでもバイトしてた方がいいからな。まぁ、そのバイトが工事現場や物資運びなどの、主に肉体労働系だった為か、嫌でも筋肉はついた。中学の頃、それが理由で荒れていたのも拍車をかけた一因だろう。今でも、タバコを隠れて吸っているのはその名残だ。止められないんだもん。仕方ないよね。皆、お酒とタバコは二十歳になってからだぞ。
目つきが悪いのはきっと寝不足だからだ、うん。少し相手を威圧するような感じはするが、少しだ。ほんのすこ~しわるいだけだ。そこまで酷くはない。
「いえ、ナニモシテイマセンヨ」
後ろめたさがあっただからだろうか、棒読みになってしまった。
「それより、俺に会わせたい人ってどんな人なんですか?」
咄嗟に話題を変える。これぞ、逃げの常套手段。
「私の上司ですよ。日本に生まれた二人目の魔王を一度見てみたいらしくて。全く物好きな方だ」
「二人目、確か草薙護堂っていいましたか?」
「おや知っていたんですか。それなら話しは早いですね。こんな小さな島国に魔王が二人も誕生するのは異例の事です。それが、同年代とは、いささか神の采配を疑いますねぇ」
ソルナーリから他の魔王についても聞いていた。世界に俺を含め八人しかいないと言った時は驚いたものだ。当然草薙護堂についても知っている。今現在のカンピオーネでは(俺抜いて)一番若く、新参らしい。しかもそれが今年の春だと言うのだから、今の甘粕の言葉も同意せざる終えない。
「まだ、東京までかなり時間もあるので、休まれてはどうです?着いた頃には起こしますよ」
そう言われては、さすがに何時間も話す話題もないので、気まずくならない内に寝るのが打倒だと判断した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「なんだ...」
「おや、起きましたか」
「これはどうなってるんです?」
「どうもこうも見ての通りですよ...」
目を覚ました俺は、窓の外に見える景色に驚愕した。空は漆黒の雲に覆われ、豪雨が地面を抉るように降り注ぎ、落雷がところどころで落ちているのが見える。
「...まつろわぬ神!!」
こんな大規模な災害は大騎士とて、起こせない。それができるのは、自分と同族か神だけだ。まさかこうも早く神様が出てくるとは。もうちょい間を置こうぜまったく。
「ええそのようです。このままでは被害が拡大する一方ですね。困ったもんですよ、なんてタイミングの悪さですかね」
おちゃらけて言っているようだが。甘粕の声音は本当に困ったように聞こえる。途惑わないだけ流石と言うべきだろう。
「見えた。...あれは、蛇神?竜っぽい感じだった」
雲と雲の間。ほんの一瞬細長い神が見えた。形状から蛇神だろうと予測した俺は、甘粕さんに聞いてみる。
「それだけでは、まだどの神だか分かりませんねぇ。他に何か分かったことなどあります?」
「いえ、すいません。分かったのはそれだけです」
「そうですか。ならばこちらの方で探りを入れましょう」
それにしても、最初に戦ったクロノスとは大違いだ。あいつは世界を無かったことにするとか言っていたが、ほとんど害はもたらしていない。その前に倒したって言うのもあるだろうが、こいつは周りに実害を及ぼしてる分性質が悪い。
「そういえば、草薙は?ここには来ていないんですか?」
「それがですね...先程のタイミングが悪いとはそのことなんですよ。天童さんがイタリアから帰国した前日に、草薙さんもイタリアに向かっているのですよ。つまり、早くても12時間以上は帰ってこれない状況でして...」
なんてことだ。つまり現段階、俺以外にあの神と戦える奴がいないと言う事だ。まさか、初陣がこうも絶望的とは。自分の不幸さに腹が立つ。
「無いもの強請りはできないか...。甘粕さん。俺があいつをなんとかするんでサポートお願いします」
そう言って、まだ走行中の車から勢いよく飛び出す。
「え、ちょっと天童さん!どうするお積もりですか!?」
「あいつを倒す」
すとんと着地する。60キロぐらいは出ていたはずだが、やはりこの身体は色んな意味で無茶苦茶だった。
深呼吸をする。今なら...
「何事にも時があり、天の下の出来事にはすべて定められた時がある」
淡々と言霊を紡いでいく。神から簒奪した権能を使用する為に呪力が湧いてくる。
「産まれる時も死ぬ時も殺す時も癒す時も。全ての時は我が手に!!」
瞬間、周りが自分を除き、スローモーションになる。降る雨の一粒一粒が今なら見える。初めてにしてはいい出来だ。
今の俺は、周りから見たら超高速で動いてるように見えるだろう。実際は、自分の時の流れを早くしただけなので、俺からしたら普通に動いているのと変わらない。だが、何かあった時は対処しやすくなった筈だ。このまま一気にあいつの所まで駆け上がる。
竜司は思いっきりジャンプした。普通ならばその後自由落下が始まるのだが、竜司は空中の空気の時間を止め、それを足場とする。それを繰り返し、空を翔る。この時間を操る能力は実に自由度が高い。使い方次第で良くも悪くもなる。これは腕の見せ所だな。
とその時、巨大な落雷が竜司めがけて飛翔してくる。竜司の存在に気づいたのだろう。数十と稲妻が迸る。その全てを危なげなく避ける。これも体感速度を数十倍上げた恩栄だろう。
「ゴロゴロとうるせぇなぁ。少しは付近の住民のことを考えろよ」
言ったとこで無駄だろう。神なんて、人間を虫けらのようにしか見てない奴らばっからしいからな。
右から来る雷を時を止めた空壁で防ぎ、真上からは間に合わないと判断して、瞬時に飛びのく。
まいった。万能は万能だが、圧倒的に火力がない。このままじゃジリ貧だ。早くしないと被害が拡大するっていうのに。
と突風が竜司を襲う。なんとかその場に持ちこたえたものの、次の落雷をかわしきれなかった。左腕があまりの電圧に焼け焦がれる。
痛い。あまりの痛さに思わず叫びそうになる。けど我慢できないほどではない。
「くそ、覚えてろよこの野郎」
いつの時代の捨て台詞だよと思いながらも必死に目の前の黒雲まで迫る。そして見えた。この嵐の現況であるまつろわぬ神が。
ここぞとばかりに自分が持てる最速で突っ込む。そこで始めて、全長二十メートルは超えそうな、蛇の形をした神と対峙する。
「汝、人の子でありながら神を殺めた者よ。我、大物主と戦うことを望むか」
「望まねーよ。けど、このままこの国の人間に迷惑かけるってんならぶっ飛ばす」
「ふふ、おもしろい。神を殺した力、見せて貰うとしよう」
またしても雷を飛ばしてくる。が、さっきまでと大違いの速度と大きさ。
「時よ!!」
あわやと言う所で、先端が突然止まる。
「時間を操る能力か。ならば、数で圧倒するとしよう」
と周りに数十の稲妻が現れる。
(まじかよ!一つでもかなりしんどい威力だってのに...くそっ)
内心で悪態を付きつつ、能力を駆使して避ける。全体に空壁を張り、一度距離を置く。
「ああ、我は願う。邪悪なる者を倒す力を。愛する人を守る力を。子供から大人へと、弱者から強者へと、相応しき力を。ここに誓おう。我が道を阻むものを、敵を、全てなぎ倒すと」
新たなる聖句を唱える。そこに顕現したのは、全長二メートルほどの大きな鎌だった。クロノスが使っていたのと全く同じものである。
次々に飛来してくる雷を手にした鎌で打ち落とす。武器としては未完全であるはずの鎌を易々と操る様は、さながら死を刈り取る死神のようだ。
「その首切り落とす!」
甘粕さんのキャラが掴めない...
すごいのか!?すごくないのか!?普通!?変態!?どっち??
と、書くのにすごく苦労する。これであってる?大丈夫?