何が起きたかというと、自分在住の北海道日本海側で、例年類を見ない程の大雪(しかも土日連チャン)。水気を十分含んだ40センチ級の積雪に追われて、雪かきに明け暮れていました!パソコンの電源すらつけられなかった(;Δ;)
周囲のモデュレイテッドたちが、キースからの贈り物を受け取った御坂たちによって徐々に殲滅されていく中、未だ目覚めない者がいた。
「はぁ……はぁ……」
佐天涙子は、胸に穿たれた傷口から未だにとめどなく出血しながら、それでもか細い呼吸を保っていた。
「…………」
そんな彼女の傍らに、四人の人影が近づいていく。一人は、幼子を連れた若い女性。その子供を慈しむように抱き上げ、慈愛に満ちた表情を浮かべていることから、その幼子の母親であると分かる。もう二人は、外見がよく似た二人。ウェーブのかかった金髪で、ふわふわした揃いのワンピースを纏い、優しげな視線を佐天へと向ける二人の少女。そして、最後の一人。若い母の腕の中に抱かれた幼子は、どこか二人の少女に似通った瞳を、興味深そうに佐天へと向けていた。
やがて、お互いにそっくりな二人の少女が、佐天の傍らへと座り、振り返って女性へと頷いた。それを受け、女性と幼子もまた、佐天の反対側へと座り、全員で静かに傷口へと手を重ね合わせた。
そのまま、四人の意識は奥深くへと沈んでいく。そこは、佐天とその家族が今も戦い続ける『鏡の国』にして、『不思議の国』だった。
(…………)
白に、覆いつくされていく。上も下も、右も左も、純白に支配された世界に、新しい雪が積もっていく。まるで、何物にも未だ染まっていない、まっさらなキャンバスのような世界。かつて母に生み出されてすぐ、こちらの世界に飛ばされてきた彼女を象徴するかのように、無垢な世界。そんな世界に、今、新たな雪が積もっていく。
ぼんやりと力の入らぬ身体を、そんな純白の世界に投げ出して、佐天は遥か上空から降り積もる雪を見ていた。雪雲を背景に、佐天の手を取り、顔をへの字に歪めているバンダースナッチを見ていた。
(…………
自分が、泣かせているのだ。不意を少し突かれたくらいでコアに罅を入れられて、今にも死にそうな顔で倒れて、心配させているのだ。
(まいったなぁ……)
「家族になろう」と言い出したのは、自分の方なのに。これからずっと一緒にいようと、決めたのは自分の方なのに。決めたことも守れず、言うだけ言って死にかけている。佐天は、自分の惨状が少し情けなくなった。
「…………ぁ……」
「っ! 大丈夫!?」
掠れたような声しか出なかったが、それでもバンダースナッチには聞き取れた。握り締めていた佐天の手に力が籠り、ぎゅっと握り締められる。
「はは……ごめんねぇ……こんなあっさりやられちゃって…………」
「何言ってんのよ! こんな時に、そんなこと気にしなくていい!! 待ってて、今全力でコアの修復を進めているから!」
「…………」
力ない佐天の言葉に、バンダースナッチは必ず助けると返した。けれど、なんとなく佐天には自分がどうなるのかわかったような気がした。もし本当に助かるなら、彼女がこんなに悲しそうな顔をするはずがない。もし本当に出来るなら、自分は既に外に出ているはずだから。
ここが自分の結末だと、分かってしまった。
「私……死ぬんだね」
「――――ッ!!」
佐天のその言葉に、バンダースナッチは何も返せなかった。ただ悔しそうに下唇を噛んで俯いただけ。それだけで、全て伝わった。
「そっか…………」
その事実を受け止めても、佐天の心には余り波風が立たなかった。ああ、自分はいなくなってしまうんだな、と乾いた認識を浮かべただけだった。
「……」
外の皆は、大丈夫だろうか。初春は、自分が死んだら、また泣き叫びそうだ。大人しそうに見えるが、実は彼女は結構感情が激しい方だ。そのリアクションが面白くて、何度もスカートめくりなんてしていたが。御坂さんは、また怒りそうだ。なに勝手に死んでんのよ!とか言って、下手したらあの世まで追って来て、電撃をお見舞いしてきそうだ。白井さんは、一見冷静に取り繕うだろうけど、何だかんだで情の深い人だから、人一倍責任とか感じてしまいそうだ。インデックスは……寂しがりだったから、一番心配だけど、飢え死にしないことを心から願う。
「…………」
そんなことをつらつらと考えていると、ふと自分の傍らの少女が目に入った。
――バンダースナッチ。自分と今は同じ身体を共有していて、掛け替えのない家族になった少女。自分がいなくなってしまったら、この少女はどうなるのだろうか。彼女だけでも、生き残れるのだろうか。その場合、彼女は自分の死に涙してくれるのだろうか。それとももしかしたら――――――彼女まで巻き込んで、死なせる羽目になってしまうのだろうか。
そこまで考えて、佐天の胸にほんの小さな熾火のような想いが灯った。初春。御坂さん。白井さん。インデックス。それに加えて、バンダースナッチとこの場にはいないユーゴーさん。このまま死んだら、自分と深く関わった人々を悲しませることになる。大きな後悔を残すことになる。そんなことになったら――死んでも死にきれない。
「死に、たく、ないよ……」
力の入らぬ口を僅かに動かし、彼女はそれだけを口にした。佐天の手を握り締めていたバンダースナッチの両手に、これまでにない力が籠った。
「――――死なせませんよ」
言葉は、天から降って来た。視線を上げて見ると、純白の雪の中、見慣れた人影が佐天の傍らへと舞い降りて来ていた。ユーゴー・ギルバート。バンダースナッチと共に、佐天の身体に宿ったARMSの中に宿る女性だ。
「ユー、ゴーさ……」
「遅くなってすいません、佐天さん。『援軍』の皆さんをここまで案内するのに手間取ってしまって」
「え……?」
よく見ると、彼女は一人ではなかった。彼女の後ろに四人の人影が見える。その四人の集団のうち、手前に佇む外見がそっくりな二人の少女は、何度も見たことがある風体をしていた。
傍らのバンダースナッチと、全く同じ外見をしていた。
「…………『アリス』?」
バンダースナッチの生みの親。かつてアザゼルと一体化し、すべてのARMSの母となった少女。ヒトを愛する白いアリスと、ヒトを憎む黒いアリスに分かたれた存在。目の前にいるのは、そんな分かたれた二人の少女だと一目で分かった。
二人のアリスは無言で佐天のすぐ近くまで歩み寄ると、バンダースナッチに握られた方とは逆の手を二人で手に取り、言葉を告げた。
「「――――ありがとう」」
それは、純粋な感謝の言葉だった。
「……
「変わって欲しかったけど、私たちでは変えることが出来なかったから」
「だから、ほんのわずかな可能性にかけてこの世界に送り込んだの」
「だから、嬉しい。この子が、本当に失いたくないと思える”絆”を手に出来たことを」
「「だから、ありがとう」」
二人のアリスから交互に述べられたのは、本当に心からの感謝だった。変わって欲しかった。けれど、変えられなかった。『絶望』を押し付けてしまった。それでも『家族』に出会えた。様々な想いが重なり合って、二人のアリスから出た言葉は佐天への感謝だけだった。
「…………それじゃあ、願いましょう」
佐天の手を精一杯握る二人のアリスの後ろから、子供連れの女性が手を伸ばす。彼女のかつての名は、赤木カツミ。かつてはバンダースナッチをその身に宿した、佐天の先輩。二人のアリスの手の上から佐天の手を握り締めた彼女の手に、横から小さな手の平が添えられる。彼女の名もまた、『ありす』。カツミと涼の間に生まれた、未来を象徴するかのような少女。
「そうですね。佐天さんを必ず現実に帰してあげないと」
そう言って、ユーゴーもまたバンダースナッチの隣へと移動し、佐天の手を握る。その顔には、不安など一切感じさせない。佐天が必ず現実に帰れると、信じているからだ。
「”想い”こそがARMSの力――」
「だから、私たちが曇りなく願えば――」
「必ず貴女は、現実に戻れるわ」
「――うん。私もねがう」
「外では、皆が待っていますよ」
願う。6人の人間が一心不乱に願う。彼女の帰還を。彼女の復活を。ただただ一心に願っていく。
バンダースナッチも、また願う。不安を覆い隠し、彼女が現実へと帰還できることを。自分の『家族』として、また一緒にいられる未来を。だから、願う。
願う。
願う。
願う。
願う。
願う。
願う。
――想いは、どんな現実だって覆せる――
――さあ、見せてください――
――――奇跡を!!
白の世界に、光が満ちる。無色だった光は、やがて彼女らの想いを乗せて、その色を変えていく。世界に満ちる光の色は、”青”。それはかつて一人の少女が絶望の中で何よりも願った”希望”の色。”
ようやく佐天の帰還です!さあ、ホワイトの処刑がはじまる……!
白いアリスと黒いアリス。カツミとその娘のありす。ユーゴーにバンダースナッチと、もはやオンパレードともいえるメンバーの想いを受け止めた佐天。彼女のARMSは、遂に最終進化の時を迎えます。プロット作った時から考えていた、『凍結の究極の答え』を次回お見せします!
この連載の今年の進捗。本当は年内で終わらせるつもりだったのですが、どうにも終わりそうにないような……?もしかしたら年末忙しさで連載が不定期になるかもしれません。ご了承ください。