とある科学の滅びの獣(バンダースナッチ)   作:路地裏の作者

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078 死闘―デスマッチ―

 紫電が舞い、火の粉が飛ぶ。周囲をぐるりと取り囲んだ異形の軍団に対し、御坂は、ステイルは、奮戦していた。神裂に至っては、その長刀から繰り出すワイヤーを使った斬撃で二人に匹敵する数を倒していた。それ以外の者たちも、各々自分たちに出来ることで、空間移動(テレポート)で、拳で、そこらにあった瓦礫の破片で、打ち払い、殴りつけて少しでも包囲を崩そうとした。

 

 しかし崩れない。たまに、当たり所が良かったのか、再生しなくなる個体も出始めているのだが、それに倍する数が補充され、包囲網は確実に狭まりつつあった。天に向かって屹立する暗闇の巨人と、そこから舞い降りる異形の兵。それはまさに、絶望的ともいえる光景だった。

 

 そんな中、目覚めたばかりの一方通行(アクセラレータ)は、一つ舌打ちを漏らし、改めて周囲を睨みつけていた。正直、夢うつつとは言え、話は半分くらい理解している。今自分たちを包囲している相手は、こちらを逃がす気などさらさらなく、自分も含めて全員を皆殺しにするつもりだ。――そう、皆殺しである。この自分を。学園都市七人の超能力者(レベル5)の頂点、第一位を。一方通行(アクセラレータ)を。もののついでのように、殺すつもりなのだ。その舐め切った態度が、彼には決して我慢ならなかった。

 

 今現在、自分の周りにいる奴らは、先程まで必死になって実験を止めようと、自分に向かって挑んで来た者たちだ。コイツ等があそこまで必死に実験を止めようとした理由も、正直現在の自分には理解できない。いや、今すぐに理解したくない(・・・・・・・)のかも知れない。だから、今のところ、コイツ等も変わらずに自分の『敵』だ。『敵』の、はずなのだ。

 

 ――なのに。

 

「…………オイ、三下ども」

 

 気づけば、一方通行(アクセラレータ)はそんな彼らに話しかけていた。

 

「っ、はぁっ! 何っ!?」

 

 電撃で、無理矢理敵の攻撃に合間を作った御坂が振り向く。その顔にはっきりと浮かんでいたのは、嫌悪と憎悪。当然だ。『敵』なんだ。お互い、そんな顔を向けられるのが当たり前の関係なんだ。そんなことは一方通行(アクセラレータ)にもよくわかっていた。

 

「今から……オレがあのデカブツに、消し飛ぶだけの攻撃をする。テメェ等は、少しの間オレを守って、時間を稼げ」

 

 それでも、彼の口は止まらなかった。

 

「っ、……! なん、で、アンタなんかのために!」

 

 納得できない、承服できない、という感情のままに、御坂が叫ぶ。当然だ。それだけのことを一方通行(アクセラレータ)はしてきた。だというのに、文字通り襲い来る異形から、少しの間でも盾となれ、と言われて、そうか、と返せる人間などいない。当たり前だ。

 

 だから、これで納得できるのは、相当の馬鹿だけだろう。

 

「――――よし、分かった。少しの間でいいんだな」

 

 返したのは、上条当麻。さっきまで拳一つで第一位と戦っていた、本物の馬鹿。

 

「ちょっと、なんでよ?! コイツがどれだけのことしたと思ってんの!?」

「いや、そう言ったって、このままじゃジリ貧だろ。打開策があるって言うんなら、賭けてみようぜ」

「僕は上条当麻に賛成かな。このまま持久戦を続けると、さすがに僕らのスタミナが先に尽きる」

「未成年の癖に、煙草なんて吸ってるからではありませんの? 何でしたらこの後風紀委員(ジャッジメント)で、煙草が未成年者に与える多大な影響について、滾々と説明してもよろしいんですのよ?」

「……それは勘弁して貰えますか。彼の場合のアレは、火種や霊装を兼ねると言う意味合いもありますので……」

 

 戦闘中だと言うのに、談笑のような口論のような何かが始まった。なんだ、コイツ等。事態が把握できていないのか。それとも能天気なだけなのか。目の前の彼らのことは、一方通行(アクセラレータ)にはまるで理解できない。――けれど。

 

 ほんの少しだけ、そこに自分は入れないだろうことに、本当に少しだけ、寂しくなった。

 

 上空で、キュゴッ!という、大気そのものを呑み込むかのような轟音が鳴り響く。まるで、たった今少しだけ抱いてしまった感情を、振り切るように音が、空気が鳴き喚く。生じさせたのは、空気の圧縮。極限まで圧縮させ、空気を急激にプラズマへと変えていく。

 

「――くだらねェこと言ってねェで、キッチリ守りやがれ。なンなら、一緒に吹き飛ばしてやっても良いンだぜ?」

「なんですって?! ホラ、見なさい! コイツ、全然反省とか、良心の呵責とか一切感じてないのよ! 守る必要なんてないわ!」

「いや、それだと俺達だってただじゃすまないだろ。こんな時にそんなこと追及してもしょうがないだろ。全部終わらせてからにしようぜ」

 

 言い合いながら、全員がその攻撃を通らせるために奮闘する。飛来した金属弾を、空間移動(テレポート)した鉄板が弾き飛ばす。バリケードを超えて襲ってきた異形を、電撃が打ち据える。炎が寄り集まり、巨人となって異形どもへと咆哮する。鋼線(ワイヤー)と刀で戦う時代錯誤な女が、嘘のように巨体を吹き飛ばしていく。そして、彼らの防衛線を越えて飛来した、視認も感知も出来ない『空間そのものの断裂』は――――。

 

 ――ツンツン頭の少年の、ただの『右拳』で砕かれた。

 

「――――やっちまえ、第一位(さいきょう)

「巻き込まれたくなきゃ下がってな、三下ァ(さいじゃく)

 

 そうして墜落した光球は、暗闇そのものとしか見えない巨人へと突き刺さり、辺りを真昼のような光の中へと染め上げた。

 

 ……そんな彼らの、すぐ後方で。

 

 キース・グレイは、只々その身を包む無力感から、遥か天空を見つめ。初春とユーゴーは、血を吐き続ける佐天の手を、決して冷めることがないように、温もりが伝わるように、両手で柔らかく包み込んでいた。

 

((――――――――お願い))

 

 彼女を一番近くで見続けていた二人は、ただ祈りを捧げ続ける。

 




プラズマ火球、炸裂回終了。ほんの少しだけではあるけど、一方通行の歩み寄りを書いてみたかった!だってこの人、打ち止め出てくるまでいいトコ無いですからね。

ハンプティダンプティ、つまりモデュレイテッドを降らせてる大元を狙うのは着眼点としては合っています。ただ、相手にそれ以上に厄介な特性があるだけで……。

次回は、絶望の戦場と、そこに駆け抜ける人の意志。果たして、奇跡はおきるのか!?(一番の問題は、作者がそれを描写し切れるか、かも知れません(笑))

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