「なによ、あれ……!」
「……あちらは、ミコ様が戦っていた方では?」
彼女らが感じるのは、断続的に弾けて肌を焼く、細かな静電気。もはやあまりの高音に、鼓膜が痛くなるほどの共振の音波。それらが大気に満ち、雷の向こうにいる存在の秘めたるチカラを感じさせるようだった。やがて、雷は収まり、周囲に散った土埃を引き裂いて、その向こうにいた存在が姿を現す。
それは、余りにも優美な異形だった。全体は甲冑のような甲殻に包まれ、重厚な存在感を醸し出していた。しかしそれが胴体の部分に及ぶと、女性らしい得も言われぬ曲線を描き、艶やかな魅力を内に秘めていた。外殻に覆われているというのに、胸元は豊かな母性を感じさせ、腰はきゅっとすぼまり、姉をも超える女性らしさを感じさせた。もっとも特徴的だったのは腰から下で、腰のベルトを思わせる部分から前垂れのような三枚の外殻が垂れ下がり、そのスリットから滑らかな太腿が覗いていた。そして本来臀部があるべき場所には、力強い甲殻に覆われた胴体が繋がっており、その後部にもう一組の両脚が生えていた。その余りにも特徴的な異形、両腕の他に更に四つ足を生やした姿は、神話に語られた森の賢者にして狩人、半人半馬の異形、『
そうして、完全体への変形が終わり、その瞳に光が灯った。その顔もまた変形を果たしており、顔の上半分は巨大な
女性らしさと力強さを同時に感じさせる、馬体が入り混じった異形。そんな相反する姿へと変貌した御坂ミコは、徐に口を開いた。
「――これが≪ユニコーン≫の、真の姿です。と、ミコはお姉様に完全勝利した胸を張ります」
「がっ……!?」
それを聞いた途端、視界の隅の方で駆けつけてきた御坂が突っ伏した。何らかの異常事態かと周囲の敵を押しのけてきたようだったが、思わぬ方向からのカウンターで、メンタルにクリティカルダメージを喰らったようだ。
「おや、どうしましたか、お姉様。と、ミコは殊更に胸を強調するように、腕を組みます」
「ぐっ……! フザケんな! そんなの偽物の胸でしょ! 無効よ、無効!!」
「ふむ、そうですね。確かにこの姿は、私やユニコーンに刻まれた意志によって左右されますから、偽物と言えば偽物ですが。とミコは、お姉様よりも大きく成長してしまった胸部を持ち上げます」
「…………!!」
外殻に覆われているはずなのに、その内側の弾力とか柔軟性はそのままなのか、と御坂の背筋を驚愕が走り回る。外側は形状を保っているのに、その内側の果実はまろやかに形を変える。敢えて言うなら、マンガやゲームに出てくるビキニアーマー着用の女戦士のように、今のユニコーンの胸部は、凶器だった。
「……大丈夫ですよ。お姉様もきっとこれから、成長期が来ますから。とミコは精一杯の気休めを言ってみます」
「がはッ!!」
「お姉様?!」
ついに、御坂の口から何かが出て動かなくなり、白井に支えられることになった。慰めは、トドメとなった。なお、御坂は知らないが、ARMS移植者は高度な再生能力と恒常性によって、遺伝子に刻まれた『理想体型』へと近づく傾向があったりする。そのため、遺伝子的な母親として抜群のプロポーションを持つ御坂御鈴が存在するミコは、今後の成長でも姉の御坂に完勝する可能性が非常に高いのだが、そのことを知らないのは御坂にとって幸福だったかもしれない。
――と、そんな掛け合いをやっている間に、周囲をモデュレイテッドが取り囲んだ。相変わらずその姿に意志は見えないが、身体の一部に電撃や炎を纏わせ、応戦するつもりが見え隠れしていた。そんな周囲の様子を受けて、慌てて御坂らも臨戦態勢を整えるが、そんな彼女らをミコが抑えた。
「……この場は、ミコにお任せください。とミコは自信のほどを窺わせます」
その言葉と共に、二対四本に増えた『タラリアの靴』に紫電が迸る。その雷は周囲の大気を焼き、力を徐々に蓄えていく。完全体となり、更に出力を増した電撃が、
そうして、十分な電撃をその身に蓄えたその時――
「――いきます」
――彼女の姿は、一瞬で視界から消え去った。
「えっ?!」
「な……!」
後には轟音だけが鳴り響き、『幻獣』は『彗星』へと変化した。
◇ ◇ ◇
そして、遠い戦場の彼女の猛りは、同じ血を分けた姉妹へも伝わっていた。
「んぅっ……!」
「エリー、大丈夫?」
急に蹲ったエリーの体調を、警策が気遣う。御坂ミコと同じレプリカントARMSを移植されたエリーが、完全体と化した彼女の共振に身を竦ませている。彼女は、感じ取っていた。自分たちが向かうその先に、たった今自分と同じ存在が生まれたことを。そのチカラが、自分と比べても格段に高いことも。しかし、それでも。
「あそこに、いかなきゃ……!」
彼女の胸中に燻る、不安の芽は消えていない。この先に待つであろう強大な敵と、周囲の脅威から大切な『ともだち』を守るため、彼女もまたレプリカントARMS≪トゥイードルダム・トゥイードルディ≫の封を開け放つのだった。
◇ ◇ ◇
大気が、縦横に引き裂かれる。衝撃が、辺りの敵を手当たり次第に破壊し、跡形もなく粉砕していく。そうして、それら一切に
「すごい……!」
御坂が、自身の妹の勇姿に思わずつぶやく。
戦場は、一気に一方的な展開となっていた。
「いける! いけるわよ、これなら!」
「そうですわね。あの大量にいた量産型のARMSたちも徐々に数を減らしていますし、後はあの巨大な靄のようなARMSを何とか出来れば……」
御坂や白井の顔にも、たちまち希望が浮かぶ。実のところ、二人は先程まで戦い続きで、少しだけ疲弊していたのだ。それも、無理からぬことだろう。何せさっきまで彼女らが対峙していたのは、数を数えるのも億劫になるほど大量にいる完全体のARMSたち。さらに奥には、それらを際限なく生み出し続けている天衝く巨体がいるのだ。むしろそれらを前にして未だモチベーションを維持しているのは脅威的なことであるし、決して兵士や戦士ではない一介の女子中学生としては驚嘆すべき胆力だ。
そこに降って湧いた、
――しかし。かつての世界でホワイトに取り込まれた唯一の息子は、以前こんな風に口にしていたことがある。
「『希望』こそが、人間にとって一番の災厄――――まさにその通りだな、
圧倒的な
「――――――!」
何度目かも分からぬ
「ッ?! これは、なんですか!? とミコは、困惑を露わにします!」
周囲の景色が、一変しているのに気が付いた。今、彼女がいるのは先程までの屋外ではない。夥しい機械が設置された、どこかの施設の中。金属とコンクリートに覆われた、人工的な空間。おおよそ有り得ないとは思ったが、空間系能力者によって運ばれてしまったかと様子を窺っていると、周囲の機械の陰から、人影が歩み寄って来た。
「――素晴らしい性能だったよ、レプリカントARMS≪ユニコーン≫」
そう言って近づいてくる沢山の人物は、全てが同じ顔。金髪に眼鏡をかけ、白衣を纏った研究者然とした姿。ミコは、知らない。その人物こそ、かつてのホワイトの姿だと。全ての絶望を生み出した、忌むべき元凶なのだと。
だからこそ、彼女の反応は、どうしようもなく遅れた。
「だがこれ以上――――『王』に逆らうのは、不敬だろう?」
その言葉と共に、周囲の空間から生じた幾筋もの閃光が、
ユニコーン、完全解放!!か~ら~の~、ホワイトの大逆襲、でした。希望から、急転直下の絶望は王道ですね。どっかの青髭の旦那も、『恐怖には鮮度があります』とか言ってたしw
ユニコーンの完全体のイメージは、騎士(ナイト)とマーチ・ヘアを足して二で割った感じ。甲冑ぽい甲殻なのは騎士のイメージ、艶っぽい口元とか女性的なシルエットは、マーチ・ヘアのイメージ。
あと、スタイルやプロポーションのイメージとしては、Fateシリーズのペガサスに乗ってたライダーさんも入ってます。どっかのマッチョな征服王ではなく、蠱惑的なメデューサさんで!!(ここ重要)おかげで御坂との対比が、圧倒的戦力差になってますww
ちなみに最後の攻撃はARMS原作読んでる人にはお馴染みですね。そう、『魔眼』です。