とある科学の滅びの獣(バンダースナッチ)   作:路地裏の作者

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なんか漢字とか当て字とか調べたら、『辛味汁掛飯』なるものまで出てきた……その通りだけども!



065 咖喱―カレー―

 

「…………ん……ぐ……」

 

 学園都市第七学区。大通りから外れ路地をいくつも外れたところに存在する、ボロボロになったビル。先日、長点上機学園の布束が、マネーカードをばら撒く拠点に使っていたビルだ。今現在、一部の不良(アンチスキル)しか使用しないようなビルから、女の子の声が漏れていた。それも、複数。

 

「…………んむ……ん……」

「ふ……ん……」

 

 そうして、その声の一つが、遂に堪えかねたように叫んだ。

 

 

「サバカレー、美味(ウマ)ァ~~~~ッ!!」

 

 

 目の前で、提供された食事にがっつく三人の少女。そしてその横の壁際では、これまた同じように食事に飛びつく、特攻服みたいな変な格好の少年がいた。

 

 言うまでもなく、昨日捕縛された絹旗、滝壺、フレンダという少女たちと、何故か勝手に付いて来た削板という少年だった。

 

 そんな彼女らを見て、後ろから様子を窺っていたステイル、神裂、白井らは苦笑しており、全員分の食料を提供した佐天は、彼女らの横で試食の時も含めて四杯目のカレーを平らげているインデックスを見て、天を仰いだ。

 

「なんでこんな事に……」

 

 昨晩、襲撃した施設での戦闘が終わり、施設から撤収する段階になって、まず最初の問題が発生した。施設に防衛を目的とする能力者がいたことから、御坂が向かった施設にも仲間がいる可能性が高まったのだ。そのため、怪我で能力の行使が上手くいかない白井を、佐天が背負い急いで向かうことになったのだが、予想外の事態が起こった。

 

 それまで事態を静観していた削板が、こんなことを言い出したのだ。

 

『色々細かい事情がありそうだし、俺もついてくぜ!!』

 

 そう言うと、気絶していた絹旗を背負い、佐天の後に追従。ステイルたちとの合流後、翌日彼女らが目覚め尋問するまでの間、見張り役まで引き受けてくれたのだ。ちなみに、翌日までの食料を手渡した後、建物にはステイルと神裂が張り巡らせた脱走防止と破壊検知の結界が張られていたが、翌日佐天らが到着するまで脱走の様子は一切無かった。

 

 そして、今まで見張ってくれていた削板への感謝と、昨晩から碌に食べていないであろう三人への差し入れの意味も込めて、食事を提供したのだ。安くて量が買える『水煮のサバ缶』と、庶民の味方『カレーライス』の合わせ技一本、『サバカレー』を。レベル0ゆえに、月末のヤバイ時期に、もう何度もお世話になった『サバカレー』を!

 

 そうしたら、御覧の通りの大好評である。

 

 すっかり調子を狂わされたが、それでも何とか気持ちを奮い起こして、彼女らへの質問をすることにした。

 

「えっ……と…………お腹が満たされたら、そろそろこっちの質問に答えてくれないかなぁ……なんて」

 

 その言葉に一心不乱に食事にかぶりついていた三人の少女は、ピタリとその動きを止め、残りを一気に食べ切り、その食器を地面に置いた。

 

「超黙秘します」

「……北北東から信号が来てる」

「結局話すことなんて無いってワケよ」

 

 半ば予想通りに黙秘を始めた彼女らを見て、佐天は一つ嘆息した。いや、一人については、黙秘なのかどうかも分からないが。現在進行形であらぬ方向を見てぼーっとしてるし。

 

 そんな佐天の後ろで眉をしかめた白井が、彼女らの尋問を変わった。

 

「黙秘と言いますが……そもそも貴女方は、一体何処の何方ですの? あの施設を運営する企業の人間なのか、それとも外部からの人間なのか――そういったことくらいは教えてくれてもいいんじゃありません?」

 

 そんな白井の質問にも、彼女らは黙秘のまま。つーんとそっぽを向いて、一切を答えようとしない。そんな彼女らを見て、佐天はアプローチを変えた。

 

「ん~~…………あっ! それなら、少しでも話してくれた人に、残りのカレーをプレゼントします! 一番最初に話してくれるなら――――」

 

 そう言って持ってきた大鍋を振り返り――

 

 

 ――――鍋に直接スプーンを突っ込んで、残りの全てをさらって食べているインデックスを目にした。

 

 

「…………」

「…………」

「…………」

 

 その場の全員に、沈黙が降りた。

 

「…………えっと、じゃあ他の賞品を「ちょちょちょちょっとちょっと?! なに、なんでこの()、私らの食料奪って食べてるワケ!!?」…………」

 

 気を取り直そうと思った佐天の言葉は、激昂したフレンダの言葉に遮られた。

 

「えー、でも神様からのお恵みである食事は、余したらいけないんだよ。ウチの宗派でも、食事の際には主への感謝を述べてから、余さず残さず食べ尽くしなさいって教えてるし」

「結局宗派とか知らないっての! 私ら昨夜から、そこの黒髪ロングが置いてったカップ麺しか食べてないってワケよ! す・ご・く・お・腹・空・い・て・た・の!! なんで食べてるの、なんで!?」

「フレンダ、超落ち着いてください。話が進みません」

「これが落ち着いてられるかっての! もう倍プッシュくらい報酬の上乗せがあれば、全部ゲロってカレーも報酬も総取りしようとか思ってた私の計画が水の泡なワケよ!! わかる!? この悔しさ!」

「……今のは、聞かなかったことにします」

「……今度の信号は東北東から」

 

 目の前で繰り広げられるコントのようなやり取りに、佐天は頭の横が少し痛くなる思いだった。

 

 とりあえず話を戻すため、一度溜息を吐いてから一言。

 

「――分かりました。そちらの事情が話せないなら、こちらの事情を話せる範囲まで話します。そちらが話すかは、その後決めてください」

 

 そうして佐天から語られたのは、フレンダたちが防衛していた施設群で行われていた実験の詳細。国際法違反である人間のクローンの製造と、その虐殺。そしてそれを利用した『絶対能力(レベル6)進化(シフト)計画のこと。それをどうして佐天たちが止めようとしているか、御坂近辺の事情だけは隠したまま、他は包み隠さずに微に入り細に穿って説明した。

 

 先程、第177支部で同じ説明をされたステイルと神裂の眉間にしわが寄る。御坂達から聞いて知ることが出来た事情は、彼女らの想像を絶するおぞましさだったからだ。魔術側である彼らに出来ることは少ないが、それでも可能な限り力も貸そうと決意させるほどだった。

 

 どうやら彼女らはあの施設の研究は知らされていなかったのか、佐天の説明にわずかに驚いた様子が窺えた。もっともそんな様子が見えたのはフレンダだけで、絹旗はポーカーフェイス、滝壺は相変わらず虚空を見つめていたが。

 

 そして、削板は。

 

「分ぁかっっったぁぁぁっ!! そんな根性の足りねえ悪党は、俺が全部ぶっ潰してやるっっ!!」

 

 と、大声で息巻いていたが。信じられないことだが、彼はこれでも学園都市が誇る超能力者(レベル5)の第七位らしい。昨晩のホストも第二位らしく、思い切り敵に回っていたが。削板は短い間でも真っ直ぐな心根が窺えて、佐天にとっても大分心強いものがあった。

 

 そして叫ぶ削板から、改めてフレンダら三人の方へと向き直り、再度尋ねてみた。

 

「……とにかくそう言う訳で、あの施設は違法な研究をしていた企業の手先なんです。防衛に回っていた皆さんなら、詳しい内情ですとか、私たちの知らないことも知っているかもしれないので、協力してほしいんですが……」

 

 そう言って頭を下げる佐天に、黙りこくっていたフレンダが、はぁ、と一息。

 

「――悪いけど、色々な事情を知っても情報提供とか出来ないってワケよ。そもそも私らの所までは、そんな詳しい情報なんてカケラも降りてきてないし」

 

 絹旗が一瞬フレンダへと鋭く視線を向け、口を閉じさせようとするが、それを手で制し、フレンダは語り続ける。

 

「結局アンタらも隠してることは有りそうだし、こっちも詳しい話はしないケド。私らは()の詳しい事情とかは一切聞かず、単純に『仕事』としてあの施設の防衛を請け負った。それ以上でも以下でも無いワケ。そっちが知りたがる向こうの内情とかは一切知らないしー、あえて聞かないのが長生きの秘訣なワケよ」

 

 そこで話を切り、再び部屋を静寂が包む。そのまま何分か白井やステイルらは彼女らに鋭い視線を向けていたが、やがてふっと肩から力を抜いた。

 

「……事情をあまり知らされていないと言うのも想定の範囲内でしたが、全く何も知らされていませんでしたか」

「まあ、組織という物はそういうものだよ。上に行けば行くほど隠し事が増え、下に行けば行くほど碌に事情も知らされずに使い潰される。僕達も、つい先日痛感したばかりだからね」

 

 そうなると、彼女らに聞くことは既に無い。この場で彼女らに危害を加えるつもりも更々無いため、このままお帰りいただくことになった。

 

 見張りを頼んでいた削板を連れ、佐天たち全員が白井の空間転移(テレポート)で次々に外に出ていく。最後に残った佐天が彼女らに声を掛けた。

 

「情報は得られませんでしたが、これ以上皆さんに危害は加えません。私が去った後は、皆さん元の場所に戻って貰っても結構ですので! それじゃ!」

 

 再び戻った白井と共に、佐天の姿が虚空に消える。それを見届けた後、張り詰めていた緊張を解すようにフレンダや絹旗は、そっと息を吐いた。

 

 彼女らがいたビルからほど近い雑居ビルの屋上。そこに白井や佐天と共に、一人の半透明の少女が降り立った。

 

「――それで、ユーゴーさん。彼女らの言っていたことは事実ですの?」

 

 白井が話しかけたのは、ユーゴー・ギルバート。世界最高峰の『精神感応(テレパス)』能力者。実は尋問の間中ずっと、ユーゴーが彼女らの思考や心理状態をスキャンしていたのだ。その結果に、彼女は首を振る。

 

『事実ですね。彼女らは仕事先である研究所のことは、一切知らされていません』

 

 つまり、ただの雇われの警備員のようなもの。大した情報が得られなかったことに一同が落胆していると、不意に、白井の携帯端末が振動した。

 

「初春? どうかしましたの?」

『大変です、白井さん!』

 

 画面を見て不審に思い、電話をかけてきた初春へと尋ねた白井の言葉を、周りにも聞こえる大声が打ち消した。

 

 

『御坂さんが、いなくなりました!!』

 




サバカレーイベント、回収完了!大抵どんな具を入れても受け入れるカレールーは至高。作者のオススメは、定番のポークカレー。定番でも北海道のジャガイモとニンジン入れると、最高。後はコーンも、甘味が出るけど美味しい。

フレンダは「フレ/ンダ」を回避しました。但しすぐに保身に走るから、原作であんなことになったんですよね。新約で、妹の世話を焼くフレンダを見てみたかった……

御坂がいなくなってますが、この原因は佐天たちの裏で起こってしまった原作イベントにあり。さて、この時期何が起こっていたでしょうか?

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