とある科学の滅びの獣(バンダースナッチ)   作:路地裏の作者

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ARMSファンには分かってしまう題名……!



050 魔剣―ソード―

 

「…………っ、ぷはぁっ!」

「はぁ、は……」

「クソ……なんなんだ、一体」

 

 地面に横たわっていた全員が正常な空気を口にし、何とか人心地ついていた頃、窮地を救ったスーツ姿の少年は、変わらず吹き飛んでいった老人を見据えていた。

 

 現在のARMS計画を推し進める主導者、キース・グレイ。学園都市にARMS関係の論文を発表していたことといい、この研究所にARMSの一つを提供していたことといい、どうにも信用できない人物だ。特にバンダースナッチが宿る佐天と親しい御坂・白井は、目の前の人物を油断なく睨みつけていた。

 

 もっともグレイはそんな敵意にまみれた視線などどこ吹く風で、やがて聞こえてきたコツコツという硬質な足音に、相好を崩していた。

 

「あたたたた……全く、年寄りは労わらねばイカンと教わらなかったのかね? いきなり吹き飛ばすことはないだろうに」

「まあ、普通の老人であれば、僕も敬老の精神は持ち合わせていますけどね……脳みそだけ若い肉体に移し替えたどこぞの兵隊や、貴方のように身体中機械尽くめの老人は、老人と扱わないことにしていますので」

「やれやれ……それでここに来たのは、一体どういうつもりかな?」

 

 話し言葉は気安くとても敵対しているようには見えない。しかし、互いに油断なく一挙手一投足に注視する様は、何よりも雄弁に二人の関係を示していた。

 

「僕が提供した『レプリカントARMS』が、遂に解放されたでしょう? 何分あれは試作品だったこともあって、その実情を確認しに来たのですよ」

「……『共振』で察知したか。しかしそれだけなら、ワシを吹き飛ばす必要は全くないのではないかね? 他にも何か、意図があるじゃろう」

「そうですね…………後は、ここの観測機器で観測・収集したレプリカントARMSのマスターデータと、施設の廃棄(・・)を」

「…………」

 

 お互いの間で渦巻いていた不信感が、敵意と殺意にすり替わり始めていた。今、グレイは余りにも軽くこの施設を廃棄すると言ってのけた。それは当然、この施設の所有者であり、実験を執り行ってきた幻生には受け入れがたいことで。

 

「……そう簡単に、証拠隠滅のために殺されては敵わんなぁ……と」

 

 幻生が呟き軽く右手を上げた途端、指先から光線が奔り、グレイの両脚を凍り付かせた。身動きの取れなくなったのを確認した幻生は薄く笑むと、次はグレイの周辺の空間に意識を集中。虚空に生じさせた形容不能の渦によって、グレイの脇腹を抉り取っていった。

 

「ひょひょひょひょ。少しばかり油断し過ぎではないかね? ワシはこんなところで死ぬような人間では――」

「ええ。ゴキブリのようにしぶといのは承知していますよ、もちろん」

「――――!」

 

 抉られた脇腹など頓着せずに返事を返してくる相手に驚愕し、離れようとした幻生を再度の衝撃が襲った。ただの衝撃波では有り得ない、義体技術の結晶である幻生の大脳を直接揺るがすような振動の波に、彼は容易く意識が奪い取られていった。

 

 足元の氷をたやすく砕き、意識の無い幻生に歩み寄ろうとするグレイ。しかし、その袖口にいきなり生じた金属針に、下げていた視界を持ち上げた。

 

「動かないで下さいまし! その男は数々の違法研究に関わった疑いがありますわ。あなた共々、身柄は風紀委員(ジャッジメント)で押さえます!」

 

 風紀委員(ジャッジメント)の腕章を掲げ、そう宣言するのは黒子。しかしそれに対し、グレイは少しだけ嘆息するだけだった。

 

「……はぁ。君ね、幻生を逮捕なんて出来ると思ってる? これだけ大掛かりの違法研究を行っていて、捕まっていないんだ。上層部に黙認している人間がいるに決まってるじゃないか」

「それでもかまいません。それならそれで、根元まで含めて逮捕し続けるのみです。それが与えられたものじゃない、(わたくし)の曲げることの出来ない信念ですから」

「…………」

 

 グレイは沈黙したまま、ゆっくりと立ち上がった。そうして袖口に刺さったままの金属針を掴み取り、床へと投げ捨てる。その投げ捨てた腕を持ち上げ、白井に向けて突き出した。

 

「……それならそれで、まずはその能力での戦い方を身に付け給え。空間系能力で戦う時は――」

 

 攻撃を察知し、空間移動(テレポート)で回避しようとする。しかしグレイの攻撃は、その程度(・・・・)で回避できるものではなかった。

 

「――――こうやるんだ」

「がッ…………?!」

 

 衝撃の瞬間、白井の身体が異空間から虚空に無理矢理戻され、振動の波で壁際まで吹き飛ばされた。それを見て即座に御坂は電撃を、上条は鉄拳を繰り出す。しかし御坂の電撃は空中をすり抜けて後ろの壁にぶつかっただけであり、目標を失った上条もその場で右往左往するだけだった。

 

「!? ああ、もう……!」

「どこいったんだ、アイツ!」

 

 いきなり姿を消したグレイを探し、二人が周囲を見回す。どういう訳か周囲に彼の気配は既に無い。

 

「以前に会った時もそうだったけど、やっぱり空間系能力者ね、アイツ……でもそれならさっきの衝撃波に説明がつかないけど」

「いえ……説明できますわ、お姉様……」

「白井! 大丈夫なのか!?」

 

 壁を支えに起き上がる白井の姿に、御坂と上条が駆け寄る。ぶんぶんと頭を振り意識をはっきりさせようとしているようだが、大きな怪我もないようだった。

 

「今の攻撃……空間移動(テレポート)で異空間に移動していた私に問答無用で衝撃を与えましたわ。恐らく空間操作で、周囲の空間そのものに振動を与え衝撃波を生み出していますの」

「――――そういう事。これなら例えどんな相手でも、防御不能の攻撃が可能になる。武装解除が主な風紀委員(ジャッジメント)で居続けるなら、覚えておくと良い」

 

 白井の言葉を肯定する形で、グレイが再び姿を現す。出てきたのは幻生がさっきまでいた観測室。手にデータスティックを持っているところを見ると、マスターデータの回収は終わったという事だろう。

 

「……さて、最後にもう一つ、空間系能力者の恐ろしい攻撃を見せてあげよう。先程と同じく空間干渉を使うが、もし先程までとは違い、空間を『振動』させるだけではなく、『断裂』を作り出してぶつけてしまえばどうなるか…………」

 

 そう話すグレイの右手に、ARMS特有の紋様が浮かび上がる。同時に共振特有の高音が、廊下の中を満たしていく。

 

 

「――――――――技の名は、『魔剣アンサラー』」

 

 

 音も光もない斬撃が、施設を縦横無尽に斬り裂いた。足元から響く地響きに最大級の不吉を感じ、破壊の中心点から全速力で離れた。それでも追いつかず、走り抜ける傍から周囲の壁が天井が床がただの瓦礫と化していく。

 

「う、おぉおおおおおおおおおおっ!?」

「マ、ズ…………!」

「なんて規模の破壊ですの!」

 

 廊下の端までたどり着く暇もなく、三人と気絶した幻生が支えの無い空中へと投げ出される。咄嗟に御坂が鉄骨を含んだ瓦礫を電磁力でつなぎ合わせ、ワイヤーやケーブルを操って四人の身体を引き寄せた。

 

「これにて、施設の破棄は完了……だけど覚えておきたまえ、御坂美琴。計画は、いまだ終わってはいない」

「え……」

「『超電磁砲量産(レディオノイズ)計画』から引き継がれた計画名は――――『絶対能力(レベル6)進化(シフト)計画』。君の新たなる『妹達(シスターズ)』は、今もなおその絶望的な運命の中にいる」

 

 何の支えも無い空中にその身を任せながら、まるで意に介さず薄笑いすら浮かべてそう宣うグレイ。彼の意図はどこにあるのか、その笑みからは依然知ることが出来ない。

 

「嘘だと思うのなら、これから指定する日時と場所に来るといい。何よりも決定的な『証拠』と会せよう」

 

 そうして、最後に日時と場所を伝え、今度こそキース・グレイは虚空へと去っていった。

 




キース・グレイが、マスターデータの回収と施設の破棄に成功しました。その割に幻生は御坂から取り返していませんが、これにも少しだけ意図が。
逃げる空間系能力者を追うのは、とんでもなく厄介です。上条さん相手にはまともに相手せず、逃げに徹している辺りがまたなんとも……。

キース・グレイ監修の空間系能力『応用編』講座。白井は11次元まで含めた演算出来るのに生かし切れていないため、ほんの少しテコ入れが入りました。出来るようになったら、かなりヤバイ能力者が誕生しますw

後は、御坂が中空から荷電粒子を作れるようになれば……(ニヤリ)

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