とある科学の滅びの獣(バンダースナッチ)   作:路地裏の作者

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ギョロ目の彼女の登場です!



042 遭遇―クリティカル―

 

 道場の中心で、佐天涙子は熱を持った息を吐いた。先程からの激しい運動に、身体はとっくに音を上げ、肩で息をしていた。右手で保持しているクッション材を捲いた訓練用の盾も、今にも地面に下ろしてしまいたかった。

 

「…………ッ!」

 

 それでもわずかに残った意地で盾を持ち上げ、一矢報いるために正面から突進(チャージ)を試みて。

 

「はい、今日の所は終了じゃん♪」

 

 制圧術の師匠である黄泉川愛穂に真っ向から叩き潰された。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「…………だ、大丈夫ですか……?」

 

 先日の都市伝説調査から数日、風紀委員(ジャッジメント)177支部には初春と佐天、そしてインデックスの姿があった。その中で佐天一人、顔や手足のいたるところに絆創膏を貼り付けた状態で、机に突っ伏していた。

 

「あ~~~…………ダイジョブ、ダイジョブ……これくらいしばらくすれば、バンちゃんが治してくれるから……」

「いや、だからって無茶していいってことにはならないんですよ? 黄泉川先生にお願いして、警備員(アンチスキル)の逮捕術と制圧術を習おうなんて……」

「ARMSは身体が資本だからね~……格闘術も習っておかないと、いざって時に動けないでしょ~……」

「私はよみかわの学校のご飯も美味しいから、また遊びに行きたいんだよ」

「あ、あの、インデックス? 佐天さんは遊びに行ってるわけじゃ……」

 

 現在この部屋には彼女ら三人以外の姿はない。先輩の固法は巡回の最中であり、白井や御坂は未だ現れてはいない。

 

 あれから都市伝説『レベル5クローン計画』については何の成果も上がっておらず、そんな事実が存在する確証も無かった。そのため、今度は視点を変えて調査してみようと決まり、今日はその方法を話し合う予定だった。ちなみに上条も参加する予定ではあったが、担任の小萌先生直々に「上条ちゃん、馬鹿だから補習です♥」と死刑宣告(ラブコール)。少し遅れそうだとの連絡があった。

 

 佐天が突然格闘術を習い出したのも、こうした現状を少しでも打破するため。何かあった時に、今度は全力で動けるようにするためだった。

 

 しばらく三人で他愛のない会話を続け、佐天は机に突っ伏し続けていると、やがて白井と御坂がやって来た。

 

「来たわよー、インデックス、初春さ――うわ?! 佐天さん、今日は一段と死んでるわね」

「案外もう少しで新たな扉が開くかも知れませんわよ? (わたくし)もお姉様の電撃(あいじょう)を頂くと…………私、私、もう!」

 

 入って来て早々の馬鹿な(いつもの)発言に、白井ご要望の電撃(おしおき)が炸裂した。床でビクビクと痙攣していた白井が、やがてゾンビのように起き上がり、咄嗟に電撃から避難させて机の上に投げた茶封筒を拾い上げる。

 

「あ、ううぅ……と、ところで初春? ここに来るまでの路地で、こんなものを拾ったのですが?」

 

 初春に手渡した封筒の中から取り出したのは、一枚のマネーカード。中身はそこまで高額でもないが、落とし物は落とし物として持ち主へと届けるつもりだった。

 

「あ、白井さんも拾ったんですね」

「……()?」

 

 ◇ ◇ ◇

 

 詳しい話を聞いてみると、現在学園都市のあちこちで封筒入りのマネーカードが見つかっており、噂好きの一部の学生にそれを探すのが流行っているのだそうだ。金額は小額から1万円を超える高額までと様々だが、何故か決まって学園都市の路地など人目に付きにくい場所に放置されている。そのため、宝探し感覚でマネーカードを探していた学生がスキルアウトの縄張りに入ってしまう事件や、拾ったマネーカードを恐喝される事件まで出始めているのだ。

 

 もっとも、そんなことは、現在進行形で貧乏学生をしている側には関係ないわけで。

 

「くっ…………どうして俺は、そんなホットな噂をチェックしていなかったんだ……!」

 

 後から来て話を聞いた上条は、本気で悔しがっていた。無能力者(レベル0)の上、ここ数週間インデックスを自宅に泊めていた上条の銀行口座は、食費の増大でガリガリと削られていたのだ。

 

「……あー、上条さん? さすがにマネーカードは遺失物ですので、この話を聞いた後は、ちゃんと警備員(アンチスキル)風紀委員(ジャッジメント)に届けてくださいね? ネコババは駄目ですよ」

「ぐぅっ……!!」

「あちゃぁ、それなら私も? 残念だなー、そういうの探すの、結構得意なのに」

 

 口ではそう言うが、実のところ、佐天はあまりお金に困ってはいない。幻想御手(レベルアッパー)事件の後、特別講習での能力測定で、ARMSのレベル換算が4に上がっており、翌月からは支給される奨学金も増額した。上条の所から再び佐天の寮に戻って来たインデックスの食費含めて、佐天一人で賄えるくらいなのだ。

 

「しかしそのマネーカードのせいで犯罪に巻き込まれる学生がいるのであれば、放ってもおけませんわね。初春、私の方でも独自に調査してみますわ。貴女はここで、通報にあった場所から配布者の行きそうな場所の洗い出しをお願いしますわ」

「あ、だったら私もそれ手伝いますよ。私もそういう宝探し関係得意ですから」

「あー、なら俺もそれ行っていいか? よく考えたら拾得物だし、もしかしたら、一割……!」

「……どんだけ余裕ないのよ」

 

 そう言って動き出したのは、白井、佐天、上条、御坂の四人。初春は発見場所から、配布者の行動パターンの分析。ちなみにインデックスは特に役目もないが、冷房の効いた室内から炎天下の外に出る気は端から無かった。

 

「いってらっしゃい! 私はここで冷たいジュースとお菓子を食べながら、待ってるんだよ!」

「まあ、大人しくしてくれるんなら構いませんけど……でも、そうなると、今日はこの間の調査の続きは出来そうにありませんね」

 

 そう締めくくる初春に、佐天が少しだけ待ったをかけた。

 

「だったらさ、バンちゃんとユーゴーさんに頼まれてたことがあるから、少しだけ調べてみてくれない?」

「ん。私も。手伝おうか?」

「ひゃあ! 姫神さん、何時からいたんですか!?」

 

 ◇ ◇ ◇

 

 その後、177支部から出発した白井、上条、佐天、御坂の四人は、学園都市の路地と言う路地を見て回った。時間をかけて入念に調べ、時には危険地帯に行こうとする他の学生に注意もした。そうして、夕方5時ごろ。

 

「よっしゃぁ!! 8枚目のマネーカード、GET!!」

『佐天さん……嗅覚とか第六感とかどうなってるんですか…………白井さんは3枚で、御坂さんは2枚だけですよ』

 

 初春が電話口でそう告げてくるが、上条の戦績についてはあえて触れない。路地で「不幸だ」と嘆く男子高校生の為にも、触れないのが優しさだと理解しているから。

 

「ホント、有り得ないわね……」

「あ、御坂さん♪ 近くだったんですね。それじゃ白井さんや上条さんと合流して、一回支部に戻りますか」

 

 大分日も暮れてきたため、今日の巡回は終了。支部に戻ってマネーカードを届けた後、家路に着くつもりだった。

 

「――――ォイ、本当なのか? 例のマネーカードばら撒いてる女見つけたってのは?」

「「ん?」」

 

 聞こえてきた呟きに、二人で路地を覗き込むと、そこには数人のスキルアウトが屯していた。顔には下卑た笑みを浮かべ、どう見てもこれから恐喝などの犯罪を犯しますと言っている感じだった。

 

「あー……御坂さん?」

「……とりあえず、後をつけましょ。マネーカードを本当にばら撒いている奴なのか確認したいし」

 

 気付かれないように一定の距離を空け後をつけると、スキルアウト達が入っていったのは、路地の先にある一つの廃ビル。その廃ビルの前までいくと、4階にほんのわずかに灯りが点くのが分かった。

 

「(……御坂さん、いきなり電撃はやめてくださいね。せっかく気付かれてないんですから)」

「(分かってるわよ。それより――――!)」

 

 慎重に階段を昇っていくと、上階で金属製の何かを壁か床にぶつけるような音がした。慌てて階段を昇り、灯りのある部屋を静かに覗き込む。

 

 そこにいたのは、白衣を纏ったギョロ目気味の少女。白衣の中に纏っているのは、学園都市でも有数の名門校、長点上機学園の制服。静かな語り口で少女は相手の恐怖を煽り、偽りの能力の情報、暗闇と紙鉄砲の音だけで相手をパニックに陥らせ、スキルアウトを制圧してみせた。

 

 思わずその見事な手管に、隣の御坂と共に拍手を贈った。

 

「いやー、中々見事なモン見たわ」

「そうですね。私たちなら、殴るか電撃かになっちゃいますし」

 

 不意の拍手にも、目の前の少女は一切表情を変えない。そのまま一通り二人を観察するようにねめ上げたあと、一言だけ告げた。

 

「――――……あなた達、『オリジナル』と『バンダースナッチ』ね」

 




布束さん、初登場。マネーカードは皆で探してますが、上条は……「不幸」ですから……そして姫神は、気配遮断スキルを絶賛習得中ですw

次回はバンダースナッチとユーゴーが依頼した調査の結果になる予定です。施設がある「かも」と分かっていれば、実は見つけ出す方法はあります。

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