とある科学の滅びの獣(バンダースナッチ)   作:路地裏の作者

4 / 91
今回、必死こいて連休中に仕上げました。しかし、仕事が立て込んできてるので、次の投稿は何時になるやら……


003 医者―ドクター―

 

「……い…いや…………戻って、戻ってえええ!!」

 

 自分の右腕を抱え込んで、泣き叫ぶ。端から見るとみっともないかも知れないけれど、今の私にはそんな余裕なんか無かった。

 

 

 自分の腕が、『怪物』に代わるなんて、思っても見なかったから。

 

 

「……オイオイ。何だあ、この能力は?」

 

 先ほどまでこっちをナメ切っていたスキルアウト達が、身構える。だけど私にはそんなのに構っていられなかった。

 

「随分と変わった能力だな……しかも、能力者が泣き叫んでやがるし」

 

「ケッ! ンなワケねえだろ! 大方俺らをバカにして楽しんでやがるのさ!!」

 

 そう言って全員が、新しい武器を持って近寄ってくる。その目には、はっきりと、『憎悪』。

 

 

「「「イキがってんじゃねえぞ、能力者ぁ!!」」」

 

 

 ぶつけられた『憎悪』に身をすくめる。壁に突き刺さったままの右腕も、ビクンと震えた(・・・)

 

「死ねやああああっ!」

 

「おらあああああっ!」

 

 全員が一斉に向かってくる。その形相に恐怖した私は、目を瞑り、そして。

 

 

「…………い…………いやああああああああっ!!」

 

 

 私の絶叫と、裏路地一面に真っ赤な花が咲くのは、ほぼ同時だった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

SIDE:初春

 

(…………ん。…あれ?)

 

 どのくらい寝ていたのか解りませんが、私はコンクリートの上から起き上がりました。周りを見ると、何故か見慣れた風景。

 

「……あれ。ここ、私のマンションじゃ……」

 

 身体を起こすと、私は自分の住む寮の、自分の部屋の前でドアに寄りかかって眠っていた。なんで、こんな所に?

 

「確か……今日は、風紀委員(ジャッジメント)の支部に顔を出して、それで……」

 

 どうにも、まだ頭が覚醒していないんでしょうか?思考に靄が掛かっているみたいです。放課後、支部に行って……そして――

 

 

 そこまで考えたところで、スカートのポケットから、携帯の電子音が鳴り響きました。

 

 

「うひゃい!? えっと、誰から……固法先輩?」

 

 携帯の表示には、風紀委員(ジャッジメント)で私と白井さんを指導してくれている固法先輩。何か急ぎの仕事でしょうか?

 

「はい、初春で――――

 

『初春さん! 今、どこ!? 貴方は、無事(・・)なの!?』

 

――ひゃあ?!」

 

 通話ボタンを押した途端に怒鳴られました。一体、何で……無事(・・)

 

「あの、一体どうしたんですか?」

 

 その問いへの答えは、極めて簡潔なモノ。

 

 

『どうしたのじゃないわよ! 貴方の警邏活動の範囲内で、能力者による武装無能力者(スキルアウト)との抗争があったの! 現場には重傷を負ったスキルアウトだけが残されていて、相手は逃亡。しかもその現場から、貴方の毛髪が検出されたわ! てっきり、犯人側に連れ去られたかと思うじゃない!!』

 

 

 そう言われて、思い出した。そうだ。私は気絶する直前まで、スキルアウトに取り囲まれていたんだ。私の言葉に激昂した人が、鉄パイプを持って、向かってきて、それで――――

 

 

「…………佐天、さん?」

 

 

 一緒にいたはずの大切な友達の姿は、影も形も見えなかった。

 

SIDE OUT

 

 ここは、第七学区にある総合病院。ここには、ある特徴的な人物が勤務していた。

 

(フム、今のところ、どの患者も順調なようだね?)

 

 白衣を纏ったその顔は、何故かカエルを連想させる風変わりな顔。しかしその腕前は、間違いなく世界一。≪冥土返し(ヘブンキャンセラー)≫の異名を持つ名医だった。

 

「――――で、君は患者かい?」

 

 診察中の廊下で、ボロ布に包まって蹲っていた私に、主治医(・・・)の先生は、話しかけてくれた。

 

「…………先、生」

 

「? ……! ……佐天君、かい?」

 

 そこでボロ布が、私の足元に落ちる。

 

 

「私を……私の『右腕』を治してッ!!」

 

 

 そこには、いまだスキルアウト達の血が滴り落ちる、純白の異形の腕があった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「――成程。話はわかったんだね」

 

 あの後、先生に運び込まれた診察室で、先生は私の右腕が変貌したときの状況を聞いてくれた。そして、『能力の暴走』の可能性があるとして、鎮静剤を処方した飲み薬を渡してくれた。それを飲んで、気を落ち着けてみると、右腕の形は、元の人間のものになっていた。

 

 ……よかった。

 

「――収容された子達の容体だけどね、大事には至らなかったそうだよ。さっき収容先の病院に聞いてきたからね?」

 

「……よかった。本当に、ありがとうございます」

 

 そう言って、私は頭を下げた。そのときの私の頭の中は感謝の気持ちで一杯で、だから次の先生の言葉は完全な予想外だった。

 

 

「…………君の、その『右腕』の正体が知りたいかい?」

 

 

 その言葉を聞いて、私が浮かべたのは、驚愕。次の瞬間には、何も考えずに先生に掴みかかっていた。

 

「知ってるんですか!? だったら、教えてください!!」

 

「――ッ、わかった、わかったんだね?」

 

 ◇ ◇ ◇

 

「――――これから見せるのは、6年ほど前の手術映像なんだ。君ならよく知っているはずだね?」

 

 取り出されたのは、ディスク型の記録メディア。わざわざこんな古臭いものを持ち出してくるって事は、今の記録メディアが無かった時代なんだよね?もっとも今の私には、そんな考察より重要なことがあった。

 

「私が、交通事故に遭ったときの……」

 

「そう……それが全ての始まりなんだね……」

 

 そうして、映像が展開される。そこに映っていたのは、想像以上の光景だった。

 

『先生、血圧が下がっています!』

 

『強心剤! 輸血パックもありったけ持ってくるんだ! 僕はすぐに、右腕の再建に入る!!』

 

 映像の中の自分は顔面蒼白で、右腕はぐちゃぐちゃ。正直自分でなければ助かるとは思えないような状況だった。

 

『よし、では患部の切開を――何!?』

 

「え!?」

 

 映像の中の先生の驚愕と、私の驚愕が重なる。ソレは余りにも予想外な光景だった。

 

 

 『右腕』全体に奇妙な紋様が浮かび上がり、ぐちゃぐちゃだった傷が、まるで巻き戻るように直っていくのだから。

 

 

 しかも、それだけではなかった。

 

『これは……『吸収』しているのかい?』

 

 映像の中の私は、『右腕』のあちこちに差し込まれていた手術器具や、チューブなんかをまるで『食べる』ようにして、取り込んでいったのだから。

 

「せ、先生、なんですか、これ…………」

 

「……当時は、僕にも原因がわからなかったんだがね? 君が完全に回復したあと、色々な検査をして解ったよ」

 

 そう言って、先生は、映像の中の私の右手、『何か』を握り締めている(・・・・・・・)部分を拡大した。

 

「ここをよく見てほしい……君は当時、『金属製の球体』を握り締めて運び込まれていた。映像を解析したところ、この不可思議な再生現象は、この金属球を中心として起こっているとわかったんだね?」

 

「……あ!」

 

 それで、私は思い出した。学園都市に来る時に握り締めていた『お守り』を。

 

「そして映像の中でもわかるとおり、この金属球は再生と同時に強烈で不可解な振動を起こしていた……その振動を解析し、音声ファイルに変換してみたのが、コレだ」

 

 そう言って流されるのは、一つの音声ファイル。

 

 

『……ガガ…………ピー…我…は……≪ARMS(アームズ)≫…………ピピ…………我……が名、は…………≪バンダー、スナッチ≫…………』

 

 

 それは、明らかに私が耳にした声と同一のものだった。

 

「恐らく、君の右腕を治したあの金属球は、何らかの『意志』を持っている……それが、今日に至る僕の結論だ」

 

 私は、自分の右腕を見つめた……そして恐怖していた……何か得体の知れないものが、近くにいるように感じたから。

 

「さて、ここからが僕の本題なんだがね?」

 

「……え?」

 

 視線を上げた先にあったのは、あの日からこれまでずっと見守ってくれていた、『お医者さん』の真剣な顔。

 

「もしも、君が、今右腕に巣食っている『謎の金属球』を、今すぐにでも取り出したいというのなら、僕は全力を尽くそう。必要ならば完全に生身と変わらない義手だろうと、細胞を培養して作る『第二の腕』だろうと、作ってみせよう。そのために僕は君を治療し続けてきたんだからね?」

 

「あ……それじゃあ、私の身体測定(システムスキャン)の時に、いつも先生が来てたのって……」

 

「治療の経過を診るのも、医者の仕事だよ?」

 

 ……そっか。見守ってて、くれてたんだ。

 

「あの時には出来なかったが、今ならば沢山の選択肢も取れる。君を完治させることが僕の仕事だからね?」

 

「先生……」

 

 私は、目頭が熱くなるのを感じた。

 

「君も、すぐには決められないだろう? なにせ腕一本のことだ。今日のところは帰って、じっくり考えて、結論が出たら連絡が欲しいんだね?」

 

「はいッ!!」

 

 ◇ ◇ ◇

 

 佐天が去った後の、診察室。ライトの消されたそこで、備え付けの電話機の電飾だけが光っていた。

 

「――ひさしぶりだね?」

 

『おや、私だと解っていたのかい?』

 

 受話器から聞こえてきたのは男だか女だかわからない声。だがその声を当たり前のもののように、部屋の主は続ける。

 

「悪いけど、用件だけ済ませてもらうんだね? 彼女には、『手出し禁止』だ。どうせ君からすれば、『目的』に必ず必要というわけでもないんだろう?」

 

『――おやおや、随分ご執心だな。一人の患者にそこまで入れ込むとは、珍しい』

 

 その言葉に、部屋の空気が僅かにきしんだようにも感じた。

 

「……僕はね、彼女を『治療中』なんだよ。情けない話さ。患者を必ず救うと決めてきた僕が、6年経っても彼女を完治させられないんだから」

 

『…………』

 

 その言葉に対する返答は、沈黙。それはそうだろう。電話の人物、彼もまた、このカエル顔の医者に救われた一人なのだから。

 

 

「アレイスター、僕は『医者』だ。そこに患者がいるなら、必ず救う(・・・・)。それは君もわかっているだろう?」

 

 

 言外に、『彼女を救うのを邪魔するな』…そう言っているのだった。

 

『…………いいだろう。彼女が自分から(・・・・)踏み入れない限り、私が彼女を巻き込むことはしないと誓おう』

 

「……流石に、彼女の意志までは変えられないからね? それで、いいよ」

 

 そこで会話は終わり、一人の『医者』の診察室は暗闇へと包まれた……。

 

 ◇ ◇ ◇

 

『――……ふふ、全く君は、少し甘いな。この街の『闇』を、甘く見すぎだ』

 

 ある窓の一切ない不可思議なビルの中、巨大なフラスコに逆さまに浸かった男か女か、老人か青年かもわからぬ者は、一人呟く。その人物の前には街の何ヶ所かを写した、映像が展開されている。そして、その人物は、その一つを拡大し、笑みを深くする。

 

 

『ましてや、この世界の――――≪魔術≫という名の『闇』も、ね』

 

 

 その映像に映っていたのは、一人の少女。路地裏から顔だけを出し、周りを窺う少女。日本では珍しい銀髪の髪と西洋人特有の白い肌を、純白に金の縁取りのある修道服に包んだ少女。

 

 

 ≪禁書目録(インデックス)≫と呼ばれる少女だった。

 

 




と、いうわけで、≪冥土返し(ヘブンキャンセラー)≫登場!さらに、統括理事長に暴食シスターまで登場!!の回でした。

≪冥土返し≫さんは、相変わらずチートです。手術映像やそのほかのデータで、ARMSの共振を解析できてしまってます。まあ、こうでもしないと、『ARMS』や『バンダースナッチ』という単語が出せないんだよねえ……

ちなみに作者は、≪冥土返し≫の医者としての姿勢が大好きです。後は、アレイスターの暗躍っぷりも……

いよいよ物語に本格的に入り、次回は『ガールズラブ』タグを入れさせた、あの風紀委員とお姉さまが登場!のはずだったんですが、次回は何時になるか不明です……仕事ホントに忙しくって……

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。