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春上が皆に告げた時折彼女の『声』が聞こえるという事実。そして、彼女の能力が受信専門の『
「…………」
「……あ、あのさー、初春? そろそろ機嫌治しなよ、ね?」
「だって! 白井さんは、春上さんの次に、その友達まで犯人扱いして! こんなの、とても納得できるわけ無いじゃないですか!」
何とか初春の怒りを鎮火しようと佐天も頑張っているが、余り効果が無い。理屈は分かっても、心情的に納得できないようだ。
「別に私は、
「……ッ!」
「ちょ、ちょっと! 白井さんまで火に油注ぐような発言、やめてください!」
そりゃ
「佐天さんはどうなんですか! 佐天さんだって、枝先さんがそんなことするわけないって思いますよね?!」
「え? えーと……」
佐天は少しばかり言葉に詰まる。果たしてここで、自分の推論を述べるべきか。というのも、佐天は春上と違い
「……枝先さんが、今回の『
結局は全てを話すことにした。その言葉からそう思う根拠として、一連の『
「「「………………」」」
「……え? な、なに?」
「…………佐天さん」
「は、はい!」
とんでもない迫力を伴って投げられた御坂の言葉に、思わず背筋が伸びる。何というか有無を言わせぬ迫力があった。
「……つまり、佐天さんは、最初の『
「え? い、いやー、あの時は、正直何かの聞き間違いかなー、と……」
「しかし、その時点で『声』との何らかの因果関係は察してしかるべきでしょうに」
「は、はあ……」
「しかも『声』が助けを求めるものだって言うんなら、その『声』の主に何か異変が起こっているとも考えられたわけですよね……」
「…………」
御坂、白井、初春と、ここまで話を聞いて佐天は察する。目の前の三人は、自分が秘密にしていたことに対して、かなりご立腹であると。
それを裏付けるように、次の瞬間三人は同時に爆発した。
「なぁんで、それを早く言いませんのッ!! 初春、今の話が本当なら、枝先さんはあくまでSOSを求める要救助者の可能性が高いですわ。『
「いえ、支部に戻る時間も惜しいです! 今このモノレール内から、辿れるだけの情報を辿ってみます! 助けを求めてたって言うんなら、急いで枝先さんを助けないといけませんから!」
「枝先さん達の収容先が分かったら、あの木山春生の所在も確認してくれない? AIM拡散力場との関係といい、今回の事件といい何かひっかかるのよ」
忙しく動き出した三人の横で、佐天は少しだけ手持ち無沙汰な感じだった。とは言え、佐天自身もこのことに確証を持ったのはつい数時間前だったし、何よりテレスティーナという女性の前で、この推測を口にしたくなかったのだ。
(……あの女にあった時から、ARMSがほんの少しだけ震えてる。これは…………『嫌悪』?)
そう。ARMSが、あの女性の
(……まさかね)
自分の飛躍した考えに自嘲しても、不安は消えない。佐天の心の中に、漠然とした黒雲は残ったままだった。
◇ ◇ ◇
後日、
このあたりで、何故かテレスティーナと『先進状況救助隊』が出張って来て、木山の確保と被験者たちの発見も自分たちがやると言ってきた。初春経由でそれを知った佐天は、余計にテレスティーナへの警戒を強めたが、以前の『声』よりも確証の無い話なので、それを口にするのも憚られた。
結局その日は177支部でも大した成果を上げられず、その場はお開きとなったわけだが。
「――――で? なーんで、お前さんは私の前にいるじゃんよ?」
「いやー、
ある高校の職員室。
「……捜査情報はあまり口に出来ないが、あのテレスティーナは確かに怪しい。それでも現段階で実際の犯罪に手を染めているという確証も無い以上、手を出すわけにもいかないじゃんよ」
「それなら……木山先生の方については?」
「木山春生の保釈の件についてだな? そっちは確かに私らも掴んでいるが、それを部外者のお前さんに言う訳にもいかないじゃん」
黄泉川の正論に、思わず歯噛みする。
「でも……今回の事件、木山先生も関わっているかも知れないんです。木山先生を保釈した人間が真犯人かも知れないですし。せめて木山先生を保釈した人が、何を目的として彼女の保釈金を支払ったのかとか分かりませんか?」
「…………そこまで心配する必要は無いと思うじゃんよ。保釈金を支払った人間は言えないが、あくまで人体実験の被験者を救うため、当時の研究内容についての意見聴取が目的らしい。人物的にも信頼できるし、純然たる医療目的じゃんよ」
「医療…………」
そこまで聞いて佐天は思考を開始する。黄泉川先生からこれ以上詳しい情報を聞くのは不可能だろう。そうなると別ルートで木山先生の所在を調べる必要がある。医療と聞いて彼女の脳裏に、次に接触すべきカエル顔の医者の顔が浮かんだ。
「さ、そろそろ私も仕事に戻らなきゃな。被験者の子供たちが心配なのは私も分かったから、無事が確認できたら連絡してやるじゃんよ」
「――はい。わかりました」
少しだけ生返事で返して、部屋を後にする。その足で向かうのは、第七学区のとある病院。いつも彼女が利用する主治医の元だった。
(……でも、どうやって聞き出せばいいんだろ?)
病院に向かう道すがら、佐天はいつも世話になっている主治医の顔を思い浮かべる。あの先生は何より『医者』であるという事を本分としている以上、患者の情報などそうそう簡単に教えてくれないだろう。
「やっぱ、正面きって頼むしか――――ん?」
そんな風に頭を悩ませていたところ、視界の奥に気になるものを見つけた。病院横の駐車場の角に差し掛かった時、駐車場の入り口を通った青いスポーツカーの助手席に、友人の姿が見えたのだ。
「御坂さん? それに…………」
運転席側は影になって良く見えなかったが、何となく妙な雰囲気を感じ、駐車場の塀へと身を隠す。しばらく様子を窺うと、出てきた人物に驚愕することとなった。
「…………木山先生ッ!?」
まさに探していた当人が目の前に現れ動揺したが、すぐにもう一度塀の影に身を潜めた。幸い見つかってはいないのか、車から降りた二人は、そのままカエル顔の先生の病院へと入っていった。
(……まさか、ここだったのかー。――――それに)
塀の影から再度様子を窺う。木山先生が乗って来たスポーツカーのさらに奥。駐車場の入り口が見える角に、まるで隠れるように駐車した一台の車が目に入ったのだ。その車に刻印されたのは、『MAR』。『先進状況救助隊』の車だった。
(この分だと、御坂さん達を尾行してきたのかな? やっぱりきな臭いか……)
救助隊なのに明らかな越権行為。佐天の視線はこれ以上ない程細められ、その右腕はわずかに『共振』してすらいた。
これから起こる『戦い』を、予見するかのように。
迷探偵サテン、終了。佐天は見た目通りの中学生なので、足を使う捜査が基本です。進学校でお嬢様な白井や御坂みたいに成績も良くありませんし……もっとも『超電磁砲』なら交友関係が広いのも彼女ですが。
佐天がテレスティーナを警戒してる理由……彼女はエグリゴリの科学者どもと完全に同類なんですよね。そりゃARMSだって警戒します。正確には『中の人』がですが。