とある科学の滅びの獣(バンダースナッチ)   作:路地裏の作者

30 / 91
いよいよ平穏の終わり……事件の始まりです!


029 呼声―コール―

 

「案外早く合流出来て良かったわね、初春さん」

 

 外の日差しを避けて入ったゲームセンターの中、佐天、御坂、インデックス、春上の四人のそばに、会議が終わってようやく合流出来た初春と白井が集まっていた。

 

「で、今回はどんな事件なの? やっぱ最近話題の『乱雑開放(ポルターガイスト)』について?」

「もう、佐天さん……なんでそんなに嬉しそうなんですか……」

「いや、学園都市の都市伝説サイトで今一番ホットな話題は、『乱雑開放(ポルターガイスト)』の真相がなんなのかってことなのよ! ちなみに私は、『別次元からの波動』派ね!」

「そんなわけありませんでしょうに……大体風紀委員(ジャッジメント)としては、そうそう会議の内容は漏らせませんわ」

「ほほう……?」

 

 佐天としては、「会議で実際に話し合ったかどうか」を否定するのではなく、「会議の内容は漏らせない」と躱したことで、何となく今回の会議の議題がなんであったか察するが、あえてそこには触れないことにした。こんな軽口で、大事な友人二人の職務に迷惑をかけるのは本意ではない。

 

「それより早くゲームするんだよ! るいこから聞いたけど、ここってお菓子を好きなだけ取っていいゲームもあるんだよね?!」

 

 インデックスの瞳は、フロアの奥にあるアクリルケースで囲われたゲーム機のコーナーにくぎ付けだった。彼女の言っているのは多分チ○ルチョコみたいな小袋に入ったお菓子をメダルで取るゲームだろうが、この店にあるかは一同誰も知らなかった。

 

「じゃあ、私はインデックスについて行こっかな。クレーンゲームとか久しぶりにやってみたいし」

「お姉様……まーた、低年齢向けの怪しげな両生類狙いですの?」

「ハ、ハア?! そんなわけないじゃない!」

「んー、じゃあ私はカーレースでもやろうかな。初春はどうする?」

「あ、私は……」

 

 初春の視線が、チラリと先程からモグラ叩きの前で佇む春上へと向く。実は彼女、初春が来る少し前に、物は試しとモグラ叩きを始めたはいいが、未だに一度も叩かず、ただ台の前に佇んでいた。

 

「可愛いの……」

 

 どうやら彼女の興味は、得点ではなく、そのデフォルメされたモグラそのものだったらしい。初春と共に苦笑しあい、佐天は店の右手にあったレースゲームの一角へと向かう。

 

「おー、新台が出てる。なんか、この主人公のキャラクター格好いいなあ……」

 

 佐天が見つけたのは、カーチェイスも交えたレースゲーム。高校生ながら国際的人材派遣会社に所属する主人公が、行く先々で事件に巻き込まれながら任務達成となるゴールを目指すゲームだ。

 

「よーし、やってみよっか!」

『行くぞ、カリオン! お前に生命(いのち)を吹き込んでやる!!』

 

 コイン投入とともに流れる主人公の台詞とともに、佐天はハンドルを強く握り締めた。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「ふー、遊んだ遊んだ」

「佐天さん、レースゲームとかパンチングマシンとかばっかりでしたねえ……」

「そう言えばお姉様? 結局、その脇に置いたメダルは使いませんでしたの?」

「え! いや、コレは、その!?」

「あんまり取れなかったんだよ……これだけじゃ、余計にお腹が空くんだよ……」

「だ、大丈夫なの! もうすぐ、ご飯の時間なの!」

 

 一通りゲームを楽しんだ後、佐天たち6人はゲームセンターの自動販売機コーナーのベンチに腰掛け休んでいた。ちなみに、インデックスは空腹を紛らわすためか、適当なジュースを500mlペットボトルで二本も飲んでいたが、新顔の春上以外誰も構わない。彼女らもインデックスの果て無き食欲には、すっかり慣れていた。

 

「それじゃ休憩終わったら、次どうしよっか?」

「そうですね、春上さんとの記念も撮れましたしね」

 

 そう言って、彼女が見るのは携帯の待ち受け画面。そこに写っていたのは、先程6人全員で撮ったプリクラ写真。携帯に写真データを送れるタイプのもので、彼女は撮ってすぐ待ち受け画面を切り替えたのだ。

 

 異常は、そんな時に訪れた。

 

『――――ェ――――――――タ―――』

「ん?」

 

 不意に佐天の耳に、妙な音声が聞こえた気がした。それはまるでノイズ混じりのラジオのようで、何を言っているのか、誰が言っているのか一切判然としなかった。

 

「あ、あれ? 春上さん、どうかしたんですか?」

「へ?」

 

 佐天が意識を周囲に戻すと、春上が急に立ち上がりふらふらと歩きだしていた。どこか夢心地の印象で、やがて自動販売機コーナーを囲むガラス扉にぶつかった。

 

「大丈夫ですか、春上さん!?」

「……うん」

「なになに? そっちのガラスに何かあった?」

「あら、これ……」

 

 春上に駆け寄る初春とそれに追従した御坂と白井が、ガラス扉の向こうの壁に貼り付けられたポスターを見つける。それは、今夜開催される花火大会のお知らせだった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「――――で、初春は張り切って浴衣に挑戦したけれど、着付けが出来ず今に至る、と……」

「うう……見てないで、助けて下さい、佐天さん!」

「ちょ、ちょっと、苦しいの……」

 

 あの後、ポスターを見た全員で、花火大会に行くことになった。そこで、TPOに合った浴衣着用となり、それぞれでレンタルの浴衣を着ることになった所までは良かった。ところが浴衣の着付けが出来るのは、お嬢様学校で和服の着付けも習った御坂と白井の他は、学園都市外部のお祭りで弟に着付けをした佐天ぐらいのもので、初春はネットの知識で挑戦。見事撃沈して、巻き添えの春上とともに、身体中に帯が巻き付いていた。

 

 とりあえず巻き付いた帯を一度ほどいてから、改めて春上に浴衣を合わせ、てきぱきと佐天が帯を捲き直す。

 

「――はい、一丁あがり!」

「ありがとうなの」

「スゴイです、佐天さん! あっという間に、こんなにキレイに!!」

「るいこは、本当にすごいんだよ! 私もこの日本の伝統衣装の着心地に大満足なんだよ!」

 

 初春に同意するインデックスも、普段とは異なり浴衣を身に着けていた。紺色の生地に大輪の花火が描かれた浴衣は、彼女の可愛らしさを良く引き立てていた。

 

「さ、次は初春だよ」

「こんなことなら、初めから佐天さんに頼めば良かったです……」

「でも、初春頑張ってんじゃん」

 

 浴衣をきちんと合わせながら、佐天が微笑む。その笑みに笑い返しながら、初春は続けた。

 

「今度は、私の番だな、って思いましたから」

「ん?」

「私が風紀委員(ジャッジメント)の試験に中々受からなかった頃、佐天さんたちは、励ましてくれたり相談に乗ってくれてたじゃないですか」

 

 それは、随分と前の話。初春が風紀委員(ジャッジメント)を志望し、その適正試験に臨んでいたころ、佐天やクラスの皆が少しでも初春に協力しようと、気晴らしに付きあったり、一緒に色々調べたりしていたのだ。面白半分ではあったものの、初春にとってそれは強い原動力となった。

 

「だから、今度は私が春上さんの力になりたいんです。あの時、皆が力を貸してくれたみたいに……」

「まったくぅ、いつの間にか立派になっちゃって、姉さん嬉しい! こっちのお子様パンツは成長しないみたいだけど」

「裾をめくらないでください!!」

 

 騒がしくも暖かな日常。笑いが絶えないその空気に、佐天もまた癒されるのだった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「たーまやー!」

「かーぎやー!」

「お腹にどーんと来るの……」

「確かに、ここって穴場よね」

「あ、ホラ! また上がりますわよ!」

「花火に、タコ焼きに、イカ焼きに、綿菓子に、リンゴ飴に……日本の夏は最高なんだよ!!」

 

 着付けも無事終わり、御坂達とも合流した一行は、河原にほど近い斜面に設けられた踊り場のようなスペースへと来ていた。佐天の浴衣は水色の地に黄色い水仙の花と、竹とんぼをあしらった柄。初春は、桃色の生地に朝顔が彩られており、春上の浴衣は、白地に紫陽花が映える柄だった。合流した御坂は橙色に綿毛のタンポポが描かれたものであり、白井は紫に薔薇が裾に描かれたものだった。

 

「「たーまやー!!」」

 

 再び上がった夜空の大輪の花に、佐天と初春が示し合わせて叫ぶと、それを見ていた春上がふっと微笑んだ。

 

「? どうかしましたか、春上さん?」

「あ……ううん、思い出してたの」

 

 空に咲く花火に、御坂と白井が微笑み、インデックスがはしゃぎながら夜店の食べ物を掻き込む。それは、本当に何処にも不安などないような風景。

 

 けれど、それが永遠に続くことなどない。

 

『―――――ル――』

「ん?」

 

 不意に、何かが聞こえたような気がした。

 

「あのね……昔私にも、初春さんと佐天さんみたいな――――あ……」

「? 春上さん?」

 

 突然、フラフラと土手の上へと歩き出してしまった春上を、初春が追いかける。二人を急いで追いかける佐天は、妙な胸騒ぎに襲われていた。

 

(これ……やっぱり、気のせいじゃない……?)

 

 昼間も聞いた気がした、妙な声。ノイズ交じりで、どこで誰が喋っているのか分からなかったが、今佐天は自分だけが聞こえる原因をはっきりと確信した。

 

『―――ェ―――リィ―――――』

「この声……ARMSから……!」

 

 さっきから右腕が小刻みに震え、そこから声ならぬ声が、情報として頭の中に直接響いてくる。そしてその声は、春上を追いかける内に徐々に強く、はっきりと聞こえるようになった。春上の視線が、虚空を彷徨う。

 

「まさか――――」

『――た…すけ…――――』

「どこなの……? 何がそんなに苦しいの……?」

「――春上さんにも、この声が聞こえてる?」

 

 ズシン、ととてつもない衝撃に襲われたのは、その時だった。

 

「キャア!」

「『乱雑開放(ポルターガイスト)』!?」

 

 足元から来た激しい揺れにとても立っていられず、近くの鉄柵へと捕まる。虚空を見つめていた春上も、地面に投げ出された。

 

「春上さん!」

 

 初春が春上を庇うように覆いかぶさった。揺れから顔を上げた佐天は、二人の近くの電灯が土台から崩れ、二人に倒れ掛かるのに気付いた。

 

「初春ーーーッ!!」

 

 右腕のARMSを起動させ、佐天は二人の元へと駆け寄った。

 




花火大会終了です!原作との変更点としては、どういうわけか佐天にも『声』が聞こえてます。ARMSを通して、という辺りがミソですが。

ゲームセンターでのレースゲームは、完全にお遊び。正直、超古代文明の遺産を守る、AMスーツ着用の国際的エージェントが出演するガンシューティングゲームと、どっち出そうか迷いましたwちなみに2Pキャラは、ショットガン持ったライカンスロープです(笑)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。