とある科学の滅びの獣(バンダースナッチ)   作:路地裏の作者

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一ヶ月以上放置しての更新。やっぱ三作同時はキツイ……



002 覚醒―アウェイクン―

 

「――はあ~、憂鬱~」

 

 思わずそんな言葉が、口をついて出た。明日は学園都市名物、身体検査(システムスキャン)の日だ。だというのに、私の心は晴れない。これでいい結果を出せば、月当たりの奨学金が増えて、支給日に近場のファミレスの伝説的メニュー、『抹茶ゴージャスキャラメルジャンボマンゴーデラックスショコラーテパフェ』にも挑戦できると言うのに!

 

 ……万年無能力者(レベル0)だと、テンション下がるなあ。

 

「何よー、涙子(るいこ)。朝からテンション低いわね」

 

 話しかけてきたのはこのクラスで仲が良いアケミ、むーちゃん、マコちんの三人組。ちなみにもう一人の友達は、現在先生からの用事で職員室だ。

 

「だって~。入学早々の身体検査(システムスキャン)でも変わらなかったし、今回も『あの』測定方法なんだよ? テンションも下がるって」

 

「あー、そっか。アタシ等のスキャン方法と違って、涙子のは『痛い』もんね」

 

 測定方法が違うのは、他の皆と違って、私の『能力』が身体に作用しているから。ソレは納得してるけどねえ……。

 

「何が悲しくて、手に刃物突き刺されなきゃならないのよ……」

 

 私の能力は、レベル0の肉体再生(オートリバース)で、範囲は『右腕』のみ。そのため右腕に針を刺したり、メスで薄く切ったり……とにかく痛いのだ。しかも一応他の箇所に範囲が広がっていないか調べるため、身体をあちこち針で突き刺す。これをやると、しばらく半袖の服も、短いスカートも着れない。年頃の女子中学生に、なんてことすんのよ!?

 

「でもいいじゃん。もしも範囲広がってたら、涙子の能力が一番オンナノコの憧れだよ?」

 

「新陳代謝が高いから、夏でもサンオイルも、UVカットも必要ないなんて、うらやましいと思うけどなー」

 

「それに足まで広がれば、いつでもキレイな生足を晒せるじゃない。オトコの食いつきが違うと思うな!」

 

 いや、今彼氏作る気はないし。それにねえ……

 

「範囲が右腕だけの状態なら、簡単にパンダ柄の日焼け女が出来上がるってことだけど?」

 

「「「…………」」」

 

 実際、あったのよ。忘れもしない小学3年生の夏!サンオイルも塗らずに遊びまくったら、右腕だけ殻剥きたてのゆで卵みたいな肌になるという忌まわしい事件が!

 

「未だに口内炎は治らないし、この間路地裏で転んだ時に出来た膝の擦り傷は治ってないし、正直望み薄なのよ~」

 

「「「ご愁傷様……」」」

 

 皆、出来れば慰めてくれない!?

 

「みんな、何話してたんですか~?」

 

 そんな風に話していたところに、私の一番の親友である初春(ういはる)飾利(かざり)が戻ってきた。

 

「何でもないよー、う~い~は~るー!」

 

 親友同士の挨拶代わりに、スカートをめくった。

 

「へ? ……………………さ、さささ、佐天さん!!」

 

「おおう、いちご柄とは、また古風なものはいてるね~♪」

 

 このあたりは、もう慣れたもの。ちなみに、私が初春に近付くたびに、クラスの男子が初春をガン見しているのも恒例だ。

 ……やっぱ、このクラスで彼氏はいらないや。

 

「まったくもう! まったくもう!! 大体佐天さんは――――、ックシュン!!」

 

「お? 初春、カゼ?」

 

「カゼだとしたら、佐天さんのせいです! 道端でスカートをすぐまくりあげるからです!」

 

「あー、ハハハハハ、ごめんごめん」

 

 そんな感じで今日も私は、初春を適度にからかい倒していた。あ~、平和だな~。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「――の、はずだったんだけど、ねえ……」

 

 隣には、ビクビクと震える初春。目の前には、いかにもな凶器を持った武装無能力者集団(スキルアウト)の皆さん……ナンパに鉄パイプや金属バットを持ち込むのが、今の流行ですか?

 

 どうしてこうなったかと言うと、初春が風紀委員(ジャッジメント)の警邏活動(要はただの見回り)に出ると言ったので、私が強引についてきたのだ。そして裏路地に入ったら、いかにもな人たちに囲まれて今に至る、と。

 

「なー、さっきから言ってるだろ? こんな裏路地にいないで、もっとイイトコ行こうぜ?って。俺らについて来いよ」

 

「そうそう! 文字通り、天国みたいな体験できるぜ!」

 

 ……うわー。私も初春も、発育はあまり良い方じゃない。それでも、明らかに『18歳未満お断り』な感じで誘うって、もしかして真正の幼女愛好者(ロリコン)なんじゃなかろうか。だとしたら、本気で貞操が大ピンチなんだけど。

 

「……なんだあ、その冷めた目つきは」

 

「……なんでも、ありませーん。とりあえず、お誘いは遠慮しときまーす」

 

「そ、そーですよ! 大体こんな昼日中から女の子に強引に誘いをかけるなんて、恥ずかしくないんですか!」

 

 って、初春!どーして、余計なことまで言うの!?

 

「――アンだと、このアマ!」

 

「きゃあ!?」

 

 逆上した男に、初春が腕を引っ張られ、引きずられていった。ヤバイ!

 

「オイ、車回して来い! こうなりゃ多少強引にでも、連れていっちまおうぜ!」

 

「そうだな、駒場のグループに見つかると厄介だ。確実に意識を奪って、車に押し込んじまえば、問題ないだろう」

 

 そう言ってもう一人の男が手に鉄パイプを持って、初春に近付いていく。

 

「ちょっと! 初春に何する気よ!」

 

 そう叫んで近付こうとするけど、目の前に他の男たちが立ちふさがる。ああ、もう、ジャマ!

 

「大人しくしてな。コイツの次は…………お前の番だからよおッ!!」

 

 男の頭上に振り上げられた鉄パイプが、何故かゆっくりと見えた。

 

 

「や、め、てええええええええっ!!」

 

 

 心の底から叫んで、手を伸ばす。届くはずなどないのに。止められるはずなどないのに。

 

 

 だけど。

 

 

――力が欲しいか?

 

 声が、響く。

 

――力が、欲しいのなら……

 

 それは、いつか、どこかで、聞いたことがある声。

 

(力が欲しいか、ですって……?)

 

 当たり前だ。私は、止めたいんだ。初春が傷つくのを。誰かが傷付けられるのを。だから――……

 

 

(欲しいわよっ!!)

 

 

 頭の中で、力一杯叫ぶのと、甲高い衝撃音が響き渡るのは、同時だった。鉄パイプは振り下ろされること無く止まり、初春は近くで起こった衝撃で気絶した。

 

 だけど、そんなことは、この場にいる全員にとっては、あまりにも些細なことだった。

 

「な…………なによ……これ……」

 

 壁に突き刺さり、鉄パイプを抑え込んだ『右腕』。その腕は、もはや人のものではなく、純白に彩られた異形の腕へと変化していた。

 

 

――力が欲しいか?

 

――力が、欲しいのなら…………くれてやろう!

 

 

 頭の中に響くのは、遠い昔に聞いた声。私にはまるで、開幕を告げる口上のようにも聞こえていた。

 

 ……運命は、今、回り始めたのだ。

 




ARMS覚醒!の回でした。

作中に少し出てきましたが、本作の佐天さんは、レベル0の肉体再生(オートリバース)と学園都市に認識されています。そりゃあんな分かりやすい成果があれば、そうなるわなぁ……本来の空力使い(エアロハンド)の扱いがどうなっているかは、もう少し先ですね。

そして!バンダースナッチは、本作では右腕から、しかも第一形態からの発動です!原作では第一形態すっ飛ばして、いきなり完全体の発動でしたが、こういう段階踏んだ展開が、作者のツボです♪外見イメージは、ジャバウォック第一形態の色違いで☆

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