とある科学の滅びの獣(バンダースナッチ)   作:路地裏の作者

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さて、ボスラッシュの始まりです……!


第二部 進化編
021 夏季―サマー―


 ミーンミーンという蝉の鳴き声を、外で聞くのではなく、テレビから流れてくるニュースで聞くようになってしばらく。佐天もインデックスも、夏の風物詩とも言えるその鳴き声をテレビから受けながら、部屋の中で余りの暑さに溶けかけていた。

 

「るいこ~、暑すぎるんだよ~~」

「ごめんね~~、エアコン壊れたみたいで……」

 

 元々この女子寮にはエアコンが完備されていたが、数日前に起きた謎の停電と家電製品全滅という怪現象により、常時コンセントが繋がっていたエアコンと冷蔵庫は真っ先に壊れた。テレビが無事なのは、待機電力が勿体ないと佐天がコンセントを抜いていたからだ。冷蔵庫は生活に真っ先に必要な代物なので先に修理を頼んだが、エアコンまでは手が回らなかったのだ。

 

「それで、お昼なに~~?」

「そうめんだよ」

「……昨日のお昼もそうめんで、朝はにゅうめんだった気がするんだよ」

「あれ、そうだっけ? 覚えてないなー」

 

 その言葉に、インデックスが肩を怒らせて立ち上がる。

 

「私は、イギリス清教の敬虔なシスターです。そのシスターの前で偽証は、とんでもなく重い罪になるんだよ?」

 

 語尾は疑問形だが、とんでもない怒気に塗れた通告だった。内心冷や汗を流しつつ、昼食をテーブルに置く。

 

「ほらご飯出来たよ。食べ終わったら、出掛けに初春たちのところまで送っていくから」

「むー、るいこは今日『特別こーしゅー』でいないんだったよね。確かにこの部屋よりかざりのところの方が涼しいかも……」

 

 そう言うとインデックスは凄まじい勢いで器二つ分のそうめんをたいらげ、出かける準備を始めた。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「じゃあ、佐天さん。特別講習頑張ってくださいね」

「は~~い~~」

 

 学校の正門前で初春に会い、インデックスを預ける間、佐天はコンクリートからの熱に焙られ、嫌になりながら返事をした。

 

「それじゃあね、るいこー。おつとめ、ご苦労さまです?」

「何処で覚えたのよ、インデックス……」

 

 風紀委員(ジャッジメント)第177支部の前で別れ、指定された学校へとバスで向かう。彼女が向かっているのは『幻想御手(レベルアッパー)』事件で昏睡状態に陥った使用者各位に義務付けられた特別講習だ。佐天自身はそこまで深刻な昏睡に至っていないのだが、一応は使用者ということで参加することとなった。

 

 そして講習の内容だが、延々と能力の成り立ちからレベル認定から、様々な講義と検査を受けるといったもの。……正直あの時は、ARMSへの恐怖とかで色々追い詰められてたし、こんなに膨大な講習を受けることになるのであれば、もう二度と使用しないと心に誓った。

 

(にしても……)

 

 講習中に、ふと自分の手を眺める。『幻想御手(レベルアッパー)』を使用してすぐは、意識が遠くなることも無かったため、一応自分の本来の能力は把握してみたのだ。自分が本来持っていた能力は、『空力使い(エアロハンド)』。『幻想御手(レベルアッパー)』を使用してようやく手の平につむじ風を起こす程度ではあったが、あの時確かにそれが分かった。

 

「あの……『空力使い(エアロハンド)』の鍛え方って、どうすればいいんでしょうか?」

 

 だから彼女は講習の休み時間中に、詳細は隠して自分の能力を伸ばす手がかりを得ようとした。もっとも大したことも分からず、一般的な能力のイメージ方法と、演算の仕方だけしか分からなかった。

 

 『空力使い(エアロハンド)』は通常触れた物体に空気の噴射点を作る能力で、その噴射の仕方も様々となる。触れた箇所が座標演算の基点となるわけだが、そこから単に直射型の爆風を生じさせる能力もあれば、物体そのものを覆い尽くす『膜』を作る能力もいるそうだ。基点を中心にどんな風をどんな動きで吹かせるかは、個々の才能によるのだそうだ。

 

 佐天の場合、自分の手の平を基点として、つむじ風を発生させていたから、本来は指定した基点から円を描いて風を吹かせる能力なのだろう。

 

 あの事故が無ければ、自分に本来宿っていたかも知れない能力を、佐天は思う。

 

(罰とかじゃなく……いつか来るかも知れない、未来の自分のためにか……)

 

 講習中に一悶着あり、その場にいた警備員(アンチスキル)の言葉を反芻する。罰則とかじゃない。将来目覚めるかも知れない、もしくは将来もっともっと上がっているかもしれない自分と自分の能力のために。特別講習を受ける意味を考え、自分に本来宿っていたであろう能力へと、目を向ける。

 

 今は、無理かもしれない。けれど、いつか必ず。きっと、いつか。

 

 自分の能力に思いを馳せ、少しだけソレを上げる努力をしようと決意した佐天は、講習の総まとめの時間に少し試してみた。手の平の上に乗せたシャープペンシルを、風だけで回せるのかどうか。結果は失敗。ペンは少しも動かなかった。

 

「――で、こっちはどうしようかなぁ…………」

 

 彼女の憂鬱さをより強めるだけの一枚の紙片。それは特別講習の最後に行われた身体検査(システムスキャン)の結果。半ば予想していたことではあったが、とてつもなく気を重くする内容だった。

 

 佐天涙子、能力名『武器変化(ARMS)』、推定『大能力者(レベル4)』。

 

 ……正直、主治医の先生からの診断によれば、身体に散らばったナノマシンが能力として認定されているだけなので、ズルをしたような後ろめたさがある。

 

(多分……一生このARMSと付き合っていくんだろうな……)

 

 帰路のバスの中、彼女は自分の右腕を見つめ、はあ、と息を吐き出していた。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 そして、そんな彼女を遠く離れた場所から見つめる少年がいた。

 

「ふふふ……やはり情報を制する者こそが勝者だね」

 

 彼が見つめるのは、学園都市の要所要所に設置された監視カメラの映像。本来警備員(アンチスキル)位しか確認出来ないそれを、ハッキングして確認しているのだ。

 

「それにしても、まさか能力扱いで登録しているなんて、つくづく凡夫だね」

 

 そう嘯く少年の名は馬場。先日の謎の映像提供から、該当する兵器・能力を検索し、佐天までたどり着いた少年だ。

 

「準備は万端――後は仕上げを御覧じろ、ってところか」

 

 そして、彼の支配する猟犬と毒虫が、都市の中へと放たれる。

 

「行け、『T:GD(タイプ:グレートデーン)』、『T:MQ(タイプ:モスキート)』! あの女を捕らえ、僕のところまで連れてこい!!」

 

 佐天にとって、初めてとなる学園都市の『暗部』との戦いが始まった。

 




最初のボスは、馬場。これ以上ないほどに小物臭く、その癖作戦とかも全てが陳腐。同じ自称天才キャラでも、ARMSのアルに比べ格段に落ちる奴です。使っているのは同じロボット兵士なのにねぇ……

空力使い(エアロハンド)』についてはウィキペディア先生と作者の独自解釈を含みます。この後のイベントに、どうしてもこの能力は必要でして。

先週急に休んでスイマセンでした。それで来週なのですが……お盆ということで更新できない可能性が出てきました。再来週は更新出来ると思います。予定は未定ですが……

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