<あ!レッド!やっとおきた!おそい!おそいよ!目覚ますの!>
目を開けた時、ピカが俺の頭を揺らしながら叫ぶのを聞いて、なんで自分が気を失っていたかを思い出した。
「……」
<ご、ごめん!ごめんて!だからそんな目でみないで!>
お前のせいだろうが、と視線で訴えると激しい手振りでピカがあたふたとしだす。
<て、ちがう!ちがうよ!今はそんな場合じゃないんだって!>
ほらあれ!とピカが俺の視線をある方向に促すとそこには
怒りで毛が逆立ちゴゴゴゴと文字が浮かびそうなほどの威圧感をだすフィーの後ろ姿があった。
<今、まさかとは思うけど、千雨の記憶を消すといったのかしら?近右衛門?>
フィーがにっこりと笑みを浮かべながら首をかしげる。表情とは裏腹に、誰がみても分かるような怒りがフィーの雰囲気から溢れ出ていた。
「左様じゃ。基本ワシら魔法使いは現代社会と平和裡に共存するためにその存在は一般人には秘密としておる。もし知られたらその記憶を消すなどして対処せねばならばいのじゃ」
フィーの圧力に物怖じせず、堂々と学園長が述べる。それを聞き、千雨と呼ばれる少女がひっ、と短い悲鳴を上げた。
<自分たちの都合のために人の記憶をどうこうして良いと思っているの?ずいぶん勝手なものね、魔法使いというのは。記憶を消すというのは当然私たちのことも忘れてしまうということよね>
「そうなるのう。おぬしら存在の出所を知っているというのは混乱を招くことになる。特に別世界から来たなんて情報はのう。ワシらと話す前から長谷川君はキミからそのことを聞いておったようじゃしな」
出会いがしらにフィーが自分のことを話したのが少し仇となり、ッチと舌をならす。
<もちろん認めないわ、そんなこと。あなた達なんかに私たちの出会いを汚されたくないもの>
フィーの体に力が入り戦闘態勢になる。それに触発されるようにタカミチが口を出す。
「だけど!魔法の存在を知っているだけで危険な事が起こることもあるんだ!僕らにだって敵がいない訳じゃない!その敵に魔法関係者と勘違いされて長谷川君の身が狙われることだってありえる!」
知っていると千雨が危険。その言葉によってフィーが少し怯む。
「…僕らだって記憶を消したいわけじゃない。だけど、無関係な生徒を危険に巻き込むなんてことをしたくないんだ…。わかってくれ…。」
タカミチがつらそうに言う。タカミチにとっても千雨は自分のクラスの生徒の一人。記憶を消すのが本当にいいことだと思っているわけではない。しかし、それ以上に危険な目にあう可能性は残したくないと思っている。彼はどちらが正しいともいえない2つの選択から、苦い思いで選んだのだろう。
「…彼女はいざという時自衛する手段がないしのう。魔法の素質に優れている訳ではない彼女は、いざ魔法を練習したところでたかが知れておる。」
多大稀なる才能がなければ、ゲームや漫画のように急激に強くなることはない。一人の兵隊に勝つことだって簡単ではないはずだ。兵隊だって毎日訓練をしている。それを何日か修業した所で覆せるほど現実は容易くはない。力を知ってから数日の訓練で敵をバッタバッタと倒せるようになるのは、主人公体質たるチートをもつものくらいである。
<……でも、私は…>
フィーは迷っていた。敵から千雨を守れと言われたら、彼女は迷わず守るであろう。しかし俺たちだってずっとこの世界にいるわけではない。いつか自分の世界に帰った時、千雨の身を守る手段がなくなる。しかし、だからといって彼女との出会いをなかったことにされたくはない。
<……>
フィーは苦虫を噛みつぶしたような表情で、顔を下げる。
「……」
それを見て、俺は周りに気づかれないようにリザとピカに指示を出す。二匹は親指をぐっと立て、リザは俺と千雨をひょいと持ち上げ背中に担ぐようにする。千雨はうわっと悲鳴をあげなすすべなく持ち上げられる。
「っな!」
周りが俺たちの突然の行動に意表をつかれている間に、ピカは激しい閃光を上げて部屋を急激に照らす。皆が目を怯ませているうちに、リザはフィーを拾って全速力で学園長の後ろにある窓に突っ込みそのまま外に飛び出した。
――――――――――――――――――――
しばらく空中を移動した後、途中で広場を見つけて、俺たちはそこに下りた。リザとピカにお礼を言い、そっと撫でる。
「…」
<…千雨、ごめんなさい…>
困惑したような顔をしている千雨にフィーが話かける。
<…私、あいつらにあんなこと言っておいて自分の都合であなたに迷惑をかけた…。私たちの出会いをなかったことにしたくないっていう私の都合に巻き込んで…。私は――>
「あああ!うるせえよ!」
フィーの言葉が、千雨の大声によって遮られた。千雨はずんずんとフィーに近寄り、人差し指でフィーの額をつきつけながら続ける。
「よくわかんねーけど!フィーは私が記憶を消されるのを防ごうとしてくれたんだろ!私だってフィーとの記憶を消されるのは嫌だ!」
それを聞いたフィーが目を丸くして千雨をみつめる。
「それに…ほ、ほら、あれだ。私らもう…あー、なんだ、と、友達だろ?友達が私のためを思ってくれてした行為だ。素直にうれしいと思ったさ、う、うん。」
千雨は照れくさそうに、顔を赤くして後ろを向いてしまった。
「……守ってくれるんだろ?私を。」
<…………ええ。そうね。守るわ。何があっても>
その言葉を聞いて、千雨がへへっと笑った。
<レッド、あなた達にも迷惑かけたわ。ごめんなさい。せっかく学園側と敵対もせずうまくいきそうだったのに>
<フィーが気にすることじゃないよ!ぼくらね!フィーの味方だよ!>
<そのとおり!我らはレッドに従っただけだからのう!>
「……」
俺たちはそれぞれ気にするなという風にフィーを慰める。
「…でも別に飛び出して逃げる必要はなかったんじゃねえか?あんな去り方じゃ学園側と決別したみてえだったぞ?」
<<<確かに>>>
3匹のポケモンが声をそろえてこちらをみる。ていうかリザとピカ、お前らは飛び出るのに協力したじゃねーか。
<坊主のいうことに従っただけだがのう。我はどんな状況でも坊主に従うぞ。どんな指示であってものう>
<んー。ぼくはね!なんか悩んでるフィーが見てられなくてね!なんとかできるならと思って協力しちゃった!てへ!>
「……」
まぁ結局指示したのは俺な訳で、責任は確かに俺にあるな…。
千雨の記憶を消すか消さないかという2択。正直俺にとってはそのこと自体はどうでもよかった。千雨とはまだ会って少しの時間しか経っていない。感情を入れ込むほどの関係ではないのだ。
しかし、フィーが苦しんでいた。
千雨の身を案ずるか、自分の都合を押し切るかでフィーが迷い、悩んでいた。
それだけで俺が動く理由は十分だ。
千雨の身をたいして案じてない俺は、フィーの都合を選ぶに決まっている。そのためあの状況では千雨を連れて逃げるしか思いつかなかったのだ。
自分で言うのも何だが俺はかなりの自己中心主義なんだろう。いつでも自分の気持ちに正直に、したいと思ったことをする。フィーが大事な俺は、フィーのために動く。そのせいで次なる問題が起こったとしても、その都度自分の気持ちに従って動くことが変わることはない。
<…いえ、もうこのことはいいわ。レッドが私のためにこうしてくれたのは分かってるし、レッドが少し壊れてるのも知ってるしね>
フィーがため息交じりに言う。しかし壊れているとは何たる言い草だ。フィーの言葉にリザとピカもうんうんと頷いている。お前らはなんか腹立つ。
「それで、貴様らはこれからどうするつもりだ?」
「……!!」
急に聞こえた声の方向に全員注意をむけ、ポケモンたちは戦闘に入る準備をする。
「そう身構えるな。別に襲いかかったりはせん。少し聞きたいことがあるだけだ」
ニヤリと笑みを浮かべながら近づいてくるのは、エヴァと呼ばれていた金髪幼女と緑色の髪をした機械的な少女の茶々丸であった。
「貴様らが長谷川 千雨の記憶を消したくないのは分かった。だが実際問題こいつの身の安全はどうするつもりだ?貴様らがこの世界にとどまっている間はいいが、帰った後はどうする?貴様らとてこの世界に残るはなかろう」
じりじりと近寄りながらエヴァは問いかけるように話し続ける。
「この問題に気がつかなかった訳ではあるまい。まさかとは思うが貴様らのうちどれか一匹残るつもりか?はは、そこまで間抜けとは思わんがそれはお勧めできる解決法ではないな。自分の主がいるくせに他の人間のために一生を尽くすなど、意思をもつ貴様らならいつか思いあぐねてしまう。」
俺達の目の前までエヴァは近づくと凄むようにして言う。
「答えろ。これからこいつの身を案ずる手段があるのか。まともな案がないなら無理やりにでもこいつをじじいの下へ連れ戻す。力をもたず知識だけある者などそいつのためにも碌な事はない。」
「……」
誰も答えることができず、緊張感が俺たちの周りを駆ける。しかしフィーだけは違った。
<…ふふ、案ならあるわ。さっき思いついたの>
フィーはエヴァの問いかけにまったく引くことなく飄々と答えた。
「…ほう、いってみろ」
くだらない案ならば許さん、とでも言うように爪を立てて指を曲げる。
<千雨には…>
<ポケモントレーナーになってもらうわ>
<<「「はぁ!?」」>>
みんなの叫びが重なって夜の空に響いた。
「おいそれは貴様らのどれかがこいつに仕えるということか?」
エヴァは若干青筋をたててリザやピカを指さす。
<いいえ違うわ。正真正銘千雨だけのポケモンを手にしてもらう>
「で、でもこっちの世界にポケモンなんていねーだろ?!どうやって自分のポケモン捕まえるんだよ!」
ついに黙ってられなくなった千雨が会話に参加する。
<ふふ、それはね。レッド、あれを千雨にあげて。どっちでもいいわ>
…ああなるほど、そういうことか。フィーの思いに気づいた俺は自分のリュックをまさぐりあれを取り出す。
「…それは――」
「……卵?」
俺から片手では持ち切れないような卵を受けとった千雨は、未だ状況を理解していない様子である。あのバッグのどこにあの大きさの卵が入ってたんだ…とエヴァが呟くのが聞こえたがそれはスルーしておいた。
<そう、ポケモンの卵よ。あっちにいるときに卵を置き去りにする馬鹿なトレーナーがいてね。仕方なく拾っておいたのよ>
「……ふーん…」
千雨は卵をいろんな方向から見たり、持ち上げたりして様子を確かめる。
<千雨にはそこから生まれるポケモンを育ててもらうわ。もちろん私たちも協力するけどね。ポケモンは人より大きな力を持つ。自分のポケモンを持てば、その子がきっと身を守ってくれるわ>
「…でも、いいのかよ。ポケモンを自分を守るために使うなんて…。」
<いいのよ。トレーナーのポケモンはね、好きな主に育てられて、一緒にいて、それに従うことが一番の幸せなの。主の役に立つことが何よりうれしいの。そのポケモンのためにも、あなたを守らせてあげて。あなたはきっといいポケモントレーナーになれるわ。>
「…わかった」
千雨は思いを決めたように目をしっかりと開き頷いた。
「ッふっふっふ…はーはっはっはーー!!!」
そんな千雨を見て、エヴァは耐えきれなくなったように笑い出した。
「まさか、そうくるとはな。麻帆良生まれのポケモントレーナーか。これは面白いものができたな茶々丸」
「はい、マスター。…正直千雨さんがうらやm…いえなんでもありません。」
っくっくっくと未だ笑いながらエヴァは腹に手を抑える。
「くくっ。学園側にはこっちから説明をしといてやる。じじいから長谷川 千雨のまともな自衛手段がなかったら回収してこいと言われていたがこれなら大丈夫だろう」
学園側との問題も、なんとかなりそうであった。俺としたら対立したらそれはそれでおもしろかったんだがな。強い奴一杯いそうだったし。
「さぁ、ではいくぞ。貴様らついてこい」
そういってマントを翻してエヴァは進む。
<ねね!どこいくの!>
ピカがいつの間にかエヴァの頭の上に跳び移り尋ねる。
「えええい!何だ貴様は!うっとおしいぞ!」
「あーマスター。うらやましい…」
<ねぇねぇ!どこつれてってくれるの!>
ピカに遊ばれる小学生みたいだ…と思ったが、言ったら怒る気がしたのでやめておく。
「じじいのところで言っただろうが!私の家だ!!」
どうやら俺たちは今からエヴァの家に行くらしい。
はい、どーも8話です。
…どうしてこうなった。
いやあほんとは飛び出してくつもりなんかなかったんですけどね。いつの間にか出て行ってました。そして新しいポケモンは出なかった…すまぬ…
レッドさんの性格のことですけどね、かなりゆがんでます。自己中です。まぁ普通の自己中とは違うつもりなんでいつか説明できたらなと思ってます。
あとは4次元バッグについて。
スルーしてくれたほうが助かります(オイ
ゲームでもってるのもどう考えても四次元バックですよね。チャリが入るんだもの。
まぁ無理やり説明するならモンスターボールにポケモンが入るような機能をもってるみたいな?…うん無理やりっすね。
卵について
卵は手持ちの一匹と数えてません。アニメのカスミみたいに考えるならボールには入れませんしね。
最近少し忙しくて更新ペース遅れるかもですがまたよろしくお願いします。
では。