案内された扉の先は大きな部屋であった。二階に繋がる階段まであり、低くて広い机に並ぶように置いてあるソファーと、奥にはそれなりの高さで書類や本が綺麗に置かれている机があった。その机の奥に座っていたのは―――
<まさかとは思うけど、ここのトップってあそこのぬらりひょんみたいな人じゃないわよね?>
<ね!ね!すごいね!ぼく妖怪初めて見た!!!>
「…いきなり失礼な奴らじゃのう。」
本気で疑問を感じている私と無邪気にはしゃぐピカを見て妖怪ぬらりひょんはあご髭をさすりながらフォッフォッフォと不気味な笑い声を立てた。
てかお前らぬらりひょんとか知ってたんだなっと千雨がぼそりと呟いた。
ちなみに、現在念話は円滑に情報を伝えられるように全員にオープンにしてある。こちらだけで相談がしたくなったらその都度念話を切り替えるつもりだ。
「さて…まずは自己紹介をしとこうかの。ワシがこの麻帆良学園の学園長、近衛 近右衛門じゃ。」
<学園長ねぇ…。学校の長がなぜこの地のトップと呼ばれているの?>
「この土地は大規模な学園都市でのう。あらゆる学術機関が集まってできた都市なんじゃ。そのため学園長と理事長を請けおるワシが実質この土地の責任者となっておる。」
…でもそれって女子中等部に部屋をつける理由にはならないと思うのだけど…。なにか特別な目的があるのかしら。とかあまり関係ないことが頭をよぎってしまった。
「さて、そちらの名前を教えてくれるかの?」
近右衛門がレッドを見ながら尋ねた。しかしレッドはいつも通り
「……」
「……」
皆がレッドの方を向くがレッドが答えないせいで沈黙が続いた。変に怪しまれないうちにフォローを入れておきましょう。ていうかいつも思ってたのだけれど自己紹介の度に私が言わなきゃいけないのよね。ほんとにまずいわ私の主。ネームプレートでも張ってもらおうかしら。
<ごめんなさいね。私の主あんまり口を開かない主義なの。彼の名前はレッド。そして私がフィーよ。>
そしてこれはピカとリザ。と適当に紹介すると、<うわ!ついで!ついでだよ僕ら!>とピカが騒いだ。
さっきからうるさいからこの子だけ念話つなぐのやめとこうかと考えた。フルオープンなせいでこの子の会話も全員に聞こえている。茶々丸だけピカがしゃべると妙にほっこりしているけど。
「…「口を開かない。」というのは「開けない」という訳じゃないのだろう?」
「……」
タカミチが疑うようにこちらを見る。それはそうだ。自分の名前すらしゃべらないと言うのはいささか怪しい。しかしそれにはなんの理由もないのだから怪しまれたって困る。
<そうよ。悲劇的な事故にあって口を開けなくなった訳でもないし、先天的な病気で口が開けられないという訳でもないわ。ほんとに無口なだけ。こればっかりは今や治しようのない呪いレベルだから悪いけど気にしないでほしいわ。代わりに私が必要な事は伝えるから>
タカミチは納得しきれない様子であったがひとまず身を引いた。これ以上この事について話をしても、レッドがしゃべるようになることはないから引き下がってくれて助かった。
「おのしが代わりに話を進めてくれるならばこちらは構わんよ。おのしの発言がレッド君の意思と判断してもよろしいかの?」
<かまわないわ>
「ふむ。心得た。」
近右衛門は一息つくようにまた自分の髭を触った。
「まず、レッド君。エヴァンジェリンを救ってくれたことに礼を言わしてくれ。助かったわい。」
「ふんっ。」
「……」
救われたという事実が恥ずかしいのか気に入らないのかわからないがエヴァは鼻をならしてこちらから目をそらす。
<お礼を言われるようなことではないわ。多分レッドからしたら助ける気で助けた訳じゃないんだもの。どーせあの化け物たちと戦いたかっただけだわ>
レッドに言われたお礼に対して私が返事をするのもかなりおかしいが仕方がない。というか実際助けたなんて思ってないだろうし。
「それでもエヴァはお主らのおかげで今の命がある。さすがのこやつも再生不可の呪具でやられたら危なかったからのう。こちらの気持ちだけでも受けとってくれんかの」
<それでそちらの気が済むなら受けとるくらいはするわ>
覚えのないことに関して礼を言われるということは、受け取る側としたらどうなのだろうか。大抵は「そんなつもりはなかったが助かったならよかった」とでも言って素直に受けとりそうだが、レッドは「そんなつもりはなかったからどうでもいい」と思っているだろう。謂われのないことにお礼を言われても無関心、ならばせめて私が受けとって礼を渡す側の気ぐらい楽にしてやろう。
「さて、ここからが本題だが…」
「……!」
そういうと近右衛門から言い知れぬ圧力溢れる。それに反応してレッドもにやりと口をゆがめる。お願いここで争わないで。話が進まない。
「お主らは何の目的で、どうやってここに来たのじゃ?なるべく嘘偽りなく話してくれると助かるんじゃが」
「……」
私たちが怪しまれるのは当然だろう。侵入者の感知にもひっかからず、一番問題なのはタカミチと戦闘してしまったことだ。本当に無害ならば、その場で怪しいと思われた誤解をなんとか解こうとするものである。こちらは誤解を解くどころかにっこりと戦闘に応じてしまった。
「……」
さらに圧力を増した近右衛門をみて、レッドの口端がおもいっきりあがる。
だめだ、レッドのやつ高揚が高まり続けてる。それにつれて周りも敵対の意思と受けとって気を高めている。このまま戦闘が始まったら修羅場でカオスだ。
まさに一瞬即発。
そう思っているとレッドの頭がバリィと弾け、ぷすぷすと音を立ててからレッドは倒れた。
<あ!!ごめん、レッド!!ちょっと高鳴って電気漏れちゃった!わざとじゃないよ!!ほんとだよ!!!>
レッド同様に気に当てられて興奮したピカが倒れているレッドの頭をゆさゆさと揺らす。グッジョブよピカ。あなた今日一の働きをしたわ。
レッドおおおおと叫ぶピカと笑いだしたリザ以外唖然とする周りに、気を取り直して再度会話を始める。
<みっともないところみせちゃったわね。まぁ無言の主はいてもいなくても変わらないから問題ないわ。話を続けましょ>
ひでぇなこいつ…と千雨が呟くのが聞こえたけど事実なんだから仕方がない。
「う、うむ。それでそちらの目的とここに来た方法なんじゃが…」
同じ質問を繰り返す近右衛門に私は返事をする。
<そうね。先に言っておくけど私たちが言う言葉に嘘はないわ。もちろんそちらに対する敵意もない。信じられないかもしれないけどね。さっきのレッドは戦闘狂だからそういうのに当てられると周りが見えなくなっちゃうの。だからそこだけは勘弁してあげて>
どうせ真実を話したところですぐには信じてくれないと思い、軽く予防線を張っておく。ついでにレッドのフォローも。
「うむ。そちらの言葉次第じゃの」
まぁ仮にも長だし、流石にそんな簡単に信じてくれないわよね。
<まず目的だけどね。私たちに目的なんかないわ。気づいたらここにいたのだから>
「それは…どういうことかの?」
近右衛門が不信感をあらわにした声を出す。こちらの意図が読めないタカミチは未だ緊張状態だ。
<私たちね。別世界からきたの>
<<「「「は??」」」>>
千雨と茶々丸以外の全員の声が重なる。やっぱりピカたちも気づいてなかったのね。
それからしばらく、私は自分の身の回りの話をした。ポケモンやポケモントレーナーなどの話から私たちが転移するに至った状況、ここにきてからの行動など。レッドの行動はリザに話してもらったけれど。
全て話し終えると周りは考え込むように静かになった。
「…ふぅむ。ポケモンのう。世界を超えるほどの力を使えるモンスターがいるとは恐ろしい世界よのう」
「学園長!?彼らを信じるんですか!?」
どうやら近右衛門はひとまず私たちを信じてくれるらしい。しかしタカミチにはいまいち信用されていない。レッドと戦闘をしたというのも大きいのだろうか。
「高畑先生。彼らのおっしゃることは信じるに値する要素があります」
思わぬところから助け船がはいる。茶々丸がエヴァに説明しろと促されてそのまま話し出す。
「まず彼らの周りからは過剰な魔力、妖力を感知できません。そのことから魔法世界はもちろん、召喚されたものではないこともわかります。そして彼らの外部形態、内部構造を観測すると作られたものではないことが確実です。今この世界ではここまでの知力、機能、をもった生物は存在しません。よって外の世界からきたというのはつじつまが合う意見です。」
淡々と茶々丸が理由を述べることによって、みんななんとか納得してくれたようだった。というか今さらっと聞きなれない言葉が聞こえたのだけれど…。
「ふむ、とりあえずそちらの事情はわかった。うちのタカミチも早とちりしてすまんかったのう」
「…っ」
そういうとタカミチが申し訳なさそうな顔をした。この近右衛門という老人。トップとして下の者の責任をもつという気概があり、ここにきてようやく少し好感が湧いた。
<かまわないわ。こっちの戦闘狂もノリノリだったもの。お互い様よ>
<えへへー!><がっはっは>
何故か笑いだす二匹。あちらを見習って少しは申し訳なさそうにしてほしい。
<…それより。次はそちらの話をしてくれるかしら?タカミチも近右衛門も普通の人って訳じゃないんでしょう?>
こちらが最も気になることを聞く。ただの人間であそこまで迫力を出せるわけがない。この世界でもタカミチが異質であることは千雨の反応が表わしていたし、大量の化け物についても知っておいた方がいいと思った。
「そうじゃのう…。」
近右衛門が千雨の方にちらっと視線を向けた後、驚くことを口にした。
「ワシは魔法使いなんじゃ」
<<<「は?」>>>
今度は私らポケモンと千雨が出した声が重なった。
それから近右衛門は信じられないような話を始めた。この世界の裏側には「魔法使い」たるものが存在していて暗躍している。「魔法使い」は精霊の力を借りて「魔法」を使用する。例外はあれど、「マギステル・マギ」を目指して彼らは精進している。…などなど
信じられるような話ではなかったが、ここでうそをつく理由はないし、タカミチの動きを見てしまったら納得するしかない。
<てことはあなた達はみんな魔法使いなのね>
「正確には僕は違うけど…まぁそういう認識で構わないよ」
タカミチの言葉を聞き千雨が、まじかよほんとに魔法あんのかよ…と言いながらうなだれている。
「さて、お互いの事情が分かったことだしこれからのことを決めようかの」
そうだ。特に私たちは今問題が山積みである。帰る方法、それまでの衣食住などなど。さすがにそれらの話はレッドなしで決めるわけにはいかない。とりあえず今日の寝床だけでも確保してこれからの方針を決めなくては。そう近衛門に告げると
「そうじゃのう。あまりおぬしらにうろうろされても問題になる。とりあえずは認識阻害を強めておくわい」
そういって近右衛門が何やら呪文を唱えると私たちとレッドのもつ他のモンスターボールの周りに円形の不思議な紋様が光って消えた。さきほどの私たちの話をきいて、私たち以外のポケモンにも認識阻害がいくように気を使ってくれたらしい。
「さて、今日の宿はどうするかのう」
「私の家でいい。そいつらには借りがあるしな。」
エヴァが間髪いれず答える。おお、なんと助かる。意図せずレッドが助けたのだが、いい方向に転がったらしい。
「ならば今日はそんなところかの。これからの方針がきまったらまた報告にきてくれんか。なるべくワシらも協力するからのう」
<ありがとう。助かるわ>
地域のトップの人が手伝ってくれるとなると心強い。基本的にここの人たちはみなお人好しなんだろうか。意外となんとかなりそうで上機嫌になっていると
「さて…千雨くん。悪いが君には記憶を消去してもらわねばならない」
なんてぬらりひょんが言いだして、私の中にどす黒い何かが駆け回った。
はい、7話です。ちょっと中途半端なとこで終わっちゃいましたけどこの続き書いたら長くなりそうなので区切っちゃいました。
早々にリタイアするレッドさん。しかしほんとにいなくてもかわらない(オイ
てかフィーいなくなったらこいつらどうするんだ…あれ?主人公フィーじゃね?そしてタカミチってこんなキャラだっけ?
認識阻害はボールにかけたら中までかかるというご都合主義ですいません。でも学園長って強いらしいしこれくらいできるっしょ!うん!(汗
さて次回は新しいポケモンだせたらとか思ってます。
…いまさらだけどしゃべりだすポケモンたちとか地雷臭やばいね…
では!