無口なレッドの世界旅行記   作:duyaku

6 / 19
なんか日間ランキング2位になってて「…は?」って声が出ちゃいました。みなさんありがとうございます。


6 千雨の苦悩

<ねぇ千雨?私こんなに堂々と外を歩いて大丈夫なのかしら>

 

 千雨を連れて彼女の部屋を出た後、私たちは外套に照らされた夜道を歩んでいた。外の気温が少し寒いせいか、彼女はコートを一枚羽織って、手をすり合わせながら私の横を歩いている。シロガネ山に籠っていた経験がある私からしたら何ともない寒さなのだけど。

 

「んあ?大丈夫だろ。多分。この辺を夜出歩くやつはすくねぇし、ちょっとでかい猫いるの見たくらいじゃ騒ぎにならねぇよ」

 

 そうかしら?私、猫と比べたら相当大きいのだけど。と横目にしながら告げると、ここじゃあ大した問題にならねえんだよ…。とため息を吐きながら千雨は呟く。

 

「それより私としちゃフィーに一人で話しかけてるのを誰かに見られるのが辛い。クラスメイトに見られたら絶望だ。特に朝倉」

 

 個人名を挙げながらぶつぶつと文句をいう。というか

 

<あなたも念話で返せばいいじゃない?頭で思ってることを私に伝えようと意識する感じで。なれたらそんなに難しくないわよ?>

 

「いや、私は私のアイデンティティを貫く。念話とかしだしたら他の奴に異常なんて言えなくなっちまうかもしれねえ。」

 

 私と話してる時点で常識から遠のいてると思うんだけど…。別世界から私がきた、という話だけで彼女の脳内容量の受け入れが一杯らしく、自分をほんの少しでも非日常から遠ざけ一線を踏みとどまることで自我を保っているらしい。彼女にとって自身が常識の範疇にいることが大切なのであろうか。だとしたら悪いことしたかしら…

 

「…いや、フィーが気にすることねぇよ。フィーだって来たくてこっちに来たんじゃねぇし、フィーを拾ったのは自分の意思だ。後悔なんて今さらしてねえよ」

 

 少しふさぎ込んだ私を察して千雨はぶっきらぼうに言う。まだ短い時間しか千雨と共にしていないが、ちょっと斜めに構えた節があるけれど実際は面倒見が良くてお人よしなことが分かる。

 

 励ましてくれた千雨にお礼を言おうとすると、遠くでした大きな音を耳が拾い、ピンと耳を立たせる。

 

 

<…あっちで何かやっているわ。>

 

「あっち?あのでかい木の方か?私はなんも聞こえねーけど」

 

<私ちょっとは耳がいいのよ。…様子を見に行くわ>

 

「…!行くのかよ…」

 

 千雨はあきれた様子で私を見る。持ち前の直感で、その方向にいったらさらに巻き込まれるのを感じたのであろう。

 

<千雨は部屋に戻ってていいわ。何があるかわからないし>

 

 ここまでしてくれた千雨を危険な目に合わせるわけにはいかない。そう思い忠告すると千雨は自分の頭を片手でガシガシ掻きながら唸りだした。

 

「………あーーー!…どうする私!いわばここはひとつの分岐点!きっと後戻り不能地点!普通に部屋に戻ったらいつも通りの日常!だが…!」

 

 ついに頭を抱えて座り込んでしまった。でも何を悩んでいるのかしら。彼女にとって私についてくる利点なんてないのに。むしろついてくることで日常と非日常の一線を踏み越えてしまう可能性だってある。なのに…

 

 少しの間静かになった後、おもむろに立ち上がってこちらを見た。

 

「…私もいくぞ」

 

<え?なんで?別についてくる必要なんか…>

 

「いいんだよ!行くったら行くんだよ!なんか分からんが多分厄介事なんだろ!フィーに何かあったら拾った身としては気になって寝れねえんだよ!」

 

<え?え?大丈夫よ?私強いし>

 

 

「せっかく決心したのに一つ前の選択肢にもどらすんじゃねえよ!強いんなら何かあっても私を守れよな!!」

 

 

 無茶苦茶だ。勝手に付いてきながらしかも守れとまで言う。しかし私は彼女の気遣いがうれしかった。嫌悪を示してる非日常に自ら足を突っ込んだのだ。彼女がなぜこんなにも私を気にしてくれるかは分からないが、その気持ちに全力で答えようと思う。

 

<分かったわ。一緒に行きましょ。千雨のことは守るわ。何があっても。>

 

「…おう」

 

 彼女は乱暴に返事をする。

 少し急ぎ足で音の下へ向かう途中、素で話せるようになった奴なんて多くねーんだよ…。と彼女が呟いたのが耳に残った。

 

 

 

 

 

 

 

 目的地につくと、異類異形のもの達が群がり、それと戦う主の姿が見えた。私たちは見つからないように少し遠めにその様子を見る。千雨は常識からかけ離れた状況をある程度覚悟していたようで、平静を保とうと頑張りながら私に聞いた。

 

「…あれもフィーみたいな「ポケモン」ってやつなのか?」

 

<いいえ。違うわね。あんなのは私の世界にはいないわ。あれはきっとこの世界の産物ね>

 

「……私の世界にもあんなの居るはずはないんだが…」

 

千雨がぐったりとしながら頬をぴくぴくとさせる。

 

<あれと戦ってる赤いのと帽子かぶった人の上にいる黄色いのが「ポケモン」。あ、帽子かぶってんのが私の主ね。>

 

「…まぁ、あの化け物たちよりは万倍は良い外見だな。てか主見つけたのにえらい冷静だな」

 

<いつか会えるって分かってたのだもん。まさかこんな早く会えるとは思わなかったけど。てか私を探さず何バトル楽しんじゃってんのかしら。…後で問い詰めなきゃね…。>

 

 

 少し怒りを露わにすると千雨が冷や汗をかきながら少し引いた。ああいけない。ちょっと威圧しすぎたわ。

 

「…主の戦闘手伝わなくていいのか?」

 

<あの程度なら今出しているポケモンで十分よ。それにここから離れてあなたが狙われたら困るしね>

 

 それに、レッドずいぶんと楽しそうにバトルしている。急な横やりをいれて邪魔をしたくなかった。

 

 

<あそこにいる二人は…襲われてたのかしら?>

 

 私が化け物の近くで座り込んでる女性二人を示すように言うと、千雨が「ッげ」と声を漏らした。

 

 

<知り合い?>

 

「クラスメイトだ…。なんでこんなとこに…。」

 

 

<…私には片方はロボットに見えるのだけど。>

 

 

「ああ、よかった。そう見えるならきっとクラスメイトに間違えない」

 

 

<……もう片方は金髪外人の幼女に見えるのだけど。>

 

 

「ああ、よかった。それも間違いなくクラスメイトだ」

 

 

<………あなたのクラスってなんなの?>

 

 

「私が聞きたい」

 

 

 そんな受け答えをしていると、いつの間にかレッドたちが敵を倒し終えたようだ。レッドはポケモンを連れて千雨のクラスメイトに近づいていく。

 

「…っ!」

 

<大丈夫よ。流石にレッドはあんな子供たちに手を出さないわ>

 

 先ほどまで暴れていた連中がクラスメイトに近づくのは千雨に不安をよぎらすが、それを私がなだめる。

 

 すると次に壮年の男性が凄まじい速さで跳んできた。

 

 

「<は??>」

 

 

 千雨の声と私の念話が重なる。

 明らかに外観は人間なのだが、あの速さは人間が出せる速度ではなかった。

 

 

<なんなのあれ…>

 

「……私のクラスの担任だ」

 

 

 まさかあんなびっくり人間を知ってるはずない、と答えを得るつもりもなく呟いたが、驚くことにあれも千雨の知り合いだったようだ。

 

<…………あなたのクラス…>

 

「言うな!もう言わないでくれ!流石に理解しきれん!!」

 

 クラスメイトが化け物たちと一緒にいたのは、何かしらあって巻き込まれたのであろうと無理やり自分を納得させたが、担任がびっくり人間でしたというのは、千雨には納得しきれなかったようだ。

 

 

 その後、びっくり人間の気に当てられてレッドにスイッチが入ったようで、二人は戦い始めた。千雨の担任が信じられない動きをする度に、彼女の顔が青ざめていく。身近な存在、それも教壇に立って自分たちに物を教える人間が化け物と戦えるような人間でしたというのは、彼女にとってショックなことだったのであろう。

 

 

 やっぱり無理やりにでも置いてくればよかった。と彼女の心を守り切れなかったことに私は後悔した。

 

 戦闘が熱を増していくと、千雨の担任が本気を出すようで、雰囲気が変わる。それにあわしてレッドがあいつの入ったモンスターボールに手をかけた。

 

<まずいわ!!!!>

 

「…!どうした!」

 

<…!戦いを止めるわ!>

 

 説明する暇もなく、要件だけ述べて戦場にかける。千雨も慌ててついてくる。

こんなところであいつを出したら当たり一面どうなるかわからない。千雨の身を守るためにも絶対に止めなくてちゃ!

 

 そう判断してからすぐに、二人の間に跳び込み、戦闘を中止させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 戦いを止めてから、壮年の男性――タカミチという人に案内をされ、大きな建物の中に入った。ここは千雨が通う女子校の中等部らしい。…女子校の中にいるトップってどうなのかしら。

 

 レッドが出していたポケモンはモンスターボールに戻らず一緒に歩いていた。初めて来る地なのでボールの中ではなく外で景色を見たかったらしい。

 

 

<まったく。あなた達がいながらなんでレッドを止められないのかしら>

 

<え、えっとね!ちょっとこっちもノッてきちゃってね!ちょっとだよ!ちょっと!!んでね!僕もね!駄目だとは思ったんだけどね!ついね!ねぇレッド?>

 

「……」

 

 

 ピカが「てへっ」と舌をだしながら悪びれずに言う。レッドは当然答えない。念話は私たちの間にしか繋がっていないはずだが、そんなピカの様子に惹かれたのか、緑の髪の機械の少女――茶々丸がピカをジィっと見つめる。

 

 

<……リザ。あなたも…>

 

<いやあ、久しぶりの戦闘だったもんでな!周りなぞなんも見えておらんだわ!がっはっは!!>

 

 急に笑うように吠えるリザの声で、周りの人間がビクっと肩を震わしリザを見る。<いやあ、すまんすまん!>と適当に謝るリザを無視し、全員に<なんでもないわ。うちのバカがごめんなさい>と代わりに謝罪を入れておく。タカミチは少し気にした様子だったが、気を取り直して案内を始めた。

 

 

 私たちの中でも戦闘好きだけが戦線にでたのが問題だったわね…。いや、比較的みんな戦闘は好きなんだけど、こいつらは特に周りが見えないから…。

 

 

 

 しばらく中を歩くと目的の場所に着いたらしい。タカミチが「僕たちが先に中に入って事情を説明してくる。少し待っていてほしい」といって扉をノックする。

 

「学園長。僕です」

 

「うむ。入っていいぞ」

 

 中から老人の声が聞こえると、失礼します。と言いタカミチが中に入る。千雨のクラスメイトの金髪幼女――エヴァと呼ばれていた人もそれに続き、中に入ろうとする。

 

「茶々丸。お前らはこいつらを見張っていろ。何かあったらすぐに呼べ」

 

「はい。マスター」

 

 エヴァは茶々丸に指示を与えてから、ギィっと音を立て扉を閉めた。

 

 

「「「……」」」

 

 誰も声を上げようとしなかったので、少し表情を暗くしている千雨に話しかける。

 

<千雨。大丈夫?>

 

<ああ、大丈夫だ。心配掛けたな>

 

 すでに非日常に半身が浸かってることを自覚しているのだろうか、千雨は念話で答えた。それが私に罪悪感を植え付ける。

 

<…ごめんね、千雨。あなたを巻き込むようにしちゃって>

 

<謝んなって。拾ったのも踏み込んだのも自分の意思だ。これでも後悔してねぇよ。ただ担任があんなんだったってことに整理がつかないだけさ>

 

 千雨が軽く私をなでながら言った。素直になでられてる私をみてレッドたちが珍しいものを見たという顔をした。…あとでシメル。

 

 

 

「…千雨さん」

 

 急に茶々丸が声をだし、名を呼ばれた千雨が驚いた様子で茶々丸の方を向いた。

 

「あんたから話しかけられるとはな、茶々丸さん」

 

 下の名で呼び合うような仲でもないのであろうが、名で呼ばれたのを皮肉っぽく返すように千雨も茶々丸と名で呼んだ。

 

「あなたはこの方たちと知り合いだったのですか?」

 

「いや、知り合いってほどでもねえよ。この猫みたいのを拾って、飼い主の下に返そうとしたら巻き込まれちまっただけさ」

 

「そうですか、では、…あの…」

 

 歯切れが悪そうに言う茶々丸に千雨が「なんだよ」と乱暴に返事をした。

 

 

 

 

 

「その…。その猫と黄色いの…触らせてもらってもよろしいでしょうか」

 

 

 

 

 

 

<<「「……」」>>

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後すぐにタカミチが「入っていいよ」と呼びに来たせいで、結局茶々丸は私たちをなでれず、ロボットなのに悲しそうな顔をしていた。

 

 




はいどうも、6話です。
話がぜんぜん進んでねぇ…。
3視点はやりすぎた感。まぁ次からは普通に進むんでご勘弁。

千雨は基本クラスメイトを苗字で呼ぶイメージですが、漫画では最初から茶々丸と言ってた気が…いや違ったらすません。まぁこの作品ではこんな感じで名前を呼び出したってことで。

そして千雨のちょろさ。彼女もあっという間にフィーと仲いい感じになってますが、このころの千雨が素で話せる相手って少ないんで大事にしたかったんじゃないっすか?それにネギま勢って基本ちょろいからね、うん(オイ

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。