無口なレッドの世界旅行記   作:duyaku

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4 エヴァとレッド

「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック!氷の精霊17頭!集い来たりて敵を切り裂け!『魔法の射手・連弾・氷の17矢』!!!」

 

 魔法薬の入ったフラスコと試験管を投げつけながら私は呪文を詠唱する。本来の魔力を発揮することのできない私には必須のアイテムであるが、これらを用いても私の全盛期には遠く及ばない。

 

「茶々丸!!下がれ!」

 

 試験管が割れフラスコの中身と液体が混ざりあうと、17つの氷塊が群がる化け物たちのもとに向かう。前方で接近戦をしていた茶々丸後ろに下がり、彼女とスイッチするように氷塊は走り抜け、着弾する。パキィと氷の柱を立てる音が聞こえるが、相手の数が多いだけに威力が拡散して思うよりダメージを与えられない。

 

「っち!数が多すぎる!最初の報告とずいぶん違うではないか!」

 

「マスター。私たちがここに到着してからそれに合わせたように召喚されています。これは…」

 

 初めの報告では、私が向かう先では5体程度の敵しかいないはずであった。それが今では50体以上の妖魔が私たちに向かってきている。初めは他の数か所でかなりの数の化け物が確認しているため、学園側は多くの戦力をそちらに投入した。満月でもない時期であるため力をろくにだせない私はここに向かわされたわけだが…

 

「…もとから私が目的というわけか」

 

 賞金はなくなったとはいえ真祖の吸血鬼。捉えれば使い道はいくらでもある。他の場所はただの誘導であり、私を一人でここに向かわせるためにわざわざ数を操作したのであろう。敵は私の力が弱まっていることに調べがついているということか。でなければ私が少数の妖魔のもとに向かうことが分かるとは考えられない。

 そして他の場所でも私の助けに来られないようにしっかりと足止めされているのだろうな。この数を召喚できるとなるとかなりの実力者。実力だけでなく、腹立たしいことに、この敵は賢くて用意が周到だ。

 

「茶々丸!召喚師の位置は!」

 

「だめです。電波情報が錯乱されていて正しい位置情報がつかめません。…!マスター後ろ!」

 

「っな!!」

 

 茶々丸が勢いよくブーストをかけ、かばうように私の後ろに回る。

 多数の敵と戦うときの基本は囲まれないようにすること。この戦力差ではそれがかなり大事であり、茶々丸を前方におき、私が後ろから援護する形で敵に背後に回らせないように戦ってきた。その陣形が突然現れた敵によってくずされる。

 

「茶々丸!!!」

 

 ドゴと低い音が鳴り、私をかばった茶々丸が敵に殴りつけられる。服が裂け機械部を露出させながら飛ばされた茶々丸のもとに駆けよる。そのままバチバチと電気がはじける音がする自分の従者を拾って、距離を取ろうと後ろに下がる。が…

 

「…っ。囲まれたか」

 

「マ、マスター…。私のことは放っておいてどうか…」

 

「ふん。できるなりとうにそうしている」

 

 置いて逃げろという従者に皮肉をいう。この状況を切り開くには魔法の触媒も魔力も残り少ない。頭には絶体絶命という文字が浮かぶ。

 

「…マ、マスター…」

 

「……」

 

 茶々丸はどうにか私を逃がそうと立ち上がろうとしている。だが体に力を入れるたびにピシっという音を立て崩れる。その間も化け物たちはじりじりと近寄りとどめを刺そうとそれぞれがもつ武器に力を入れる。

 

 

 

 誇りある悪として、いつか自分が滅ばされるのは覚悟していた。それだけのことはしてきたし、自らの生に後悔しているわけではない。だが…

 

『光に生きてみろ。そしたらその時お前の呪いも解いてやる。』

 

「……うそつきが」

 

 自分に呪いをかけたやつの最後の言葉が頭に浮かび、すがるように声をもらす。

 

 斧をもった一匹が手を高く上げ、その武器で私を振り抜く準備をする。その斧には再生不可の呪いのついた印がみえ、どこまでも用意のいいやつだ。とあきらめたような乾いた笑みとともに呟いた。

 

 

 

「マスター!!!」

 

 

 

 妖魔の手が振り下ろされ、茶々丸が叫んだ。斧が私の頭に届こうとする。その時。

 

 

 

 

 

 炎の柱が横向きに突き抜け、化け物たちを灰にした。

 

 

 

 

「…は?」

 

 状況を理解できず、間抜けな声がでる。助っ人かと思ったが、学園にこんな高密度の炎を打ち出す魔法を使えるものはいない。なにより驚くことは、この炎には魔力を感じなかったのだ。

地面がジュウと焼けるような音を立てる。前をみると敵の4分の1は今の炎で消えていった。

 

「マ、マスター…あれ…」

 

 炎の発射先であろう方向を茶々丸がボロボロな手を上げ指さす。つられてそこに視線を向けるとそこには

 

 

 赤い帽子をかぶりその上に黄色い動物をのせる少年と、赤い竜がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこからはまさに独壇場といえるものであった。

 敵と私が唖然としていると、少年は妖魔たちの方向に手を向けた。それを合図に竜がすさまじい勢いで低空飛行をし、そのまま妖魔たちの群れに突撃して蹴散らした。ばらけるように敵の陣形はくずれ、私を囲っていた奴らは弾き飛ばされていった。

妖魔は竜を標的とし、一斉に向かっていく。竜は低い声で唸りながら勢いよくしっぽを振り抜いた。しっぽに当てられた妖魔は吹き飛ばされシュウウウウと音を立てて自らの世界に帰っていく。

 向かってくる敵を爪で引き裂き、翼で打ち、尾で払う。大きさは成人男性ほどの竜であるが、その姿はまさに伝説で聞く竜にふさわしいものであった。竜は赤い少年の方にたまに目線をやりながら妖魔を殲滅していく。その時妖魔の中で弓をもつものが遠距離から矢を射る。しかし竜はその妖魔の存在を認知していたかのように振り向きざまに炎を直線状に吐き、放たれた矢ごと妖魔を焼失させる。

 

「茶々丸。あれはなんだ。」

 

「わかりません。あの竜も少年も、その上の黄色の動物も照合データはありません」

 

 茶々丸には魔法界のデータも検索できるようにしてある。それにひっかからないということは魔界などから呼び出されたものなのだろうか。つくられた生物ではないことはわかる。あの動きや迫力はそんなもので表わすことはできない。創生できる竜の実力などたかが知れている。図書館島にもドラゴンがいるが、あれにも優るとも劣らない力である。なにより恐ろしいのは完成されたその動き。どんな状況でも臨機応変に対応するその姿は、まるで百戦錬磨の人の知恵をもつかのようだ。

 その動きを指示しているのは…間違いなくあの少年であろう。私にはわからんが目線や手振り、少ない動きで竜に的確な指示を与えているようだ。

 

「あのガキが主か」

 

「おそらく。しかし竜を使い魔にできるとは」

 

「相当な実力者だろうな。指示も的確で完全に使いこなしている。だが主自ら戦場にでてくるとはな」

 

 妖魔たちが竜を相手にするのは不可能と悟り、少年の方に向かっていく。召喚師や獣使いは見えないところや離れたところで使役するのが常套手段だ。主が前に出てくればそれを狙うのは当然である。

 

「ッち!茶々丸動けるか!」

 

「…!手助けなさるのですか?」

 

「当然だ!やつの目的は分からんが借りを作ってしまったまま死なれるのは癪だ!」

 

「…く!すいませんマスター!正常な動作はまだ…!」

 

「くそ!」

 

 この距離だと呪文を詠唱しても間に合わん。竜も他の妖魔に足を止められていて主のもとまで行けそうにない。妖魔たちが少年に斬りかかろうとする。しかし少年の顔には何も焦燥の様子はなく…

 

 

 

 

 轟音とともに少年の周りに黄色い閃光が駆けた。

 

 

「…は?」

 

 本日二回目の間抜けの声を出す。綺麗に少年の周りにだけ雷が落ちて妖魔たちは消滅していた。上にいる動物の赤い頬からビリビリと電気が漏れていて、雷の原因が分かった。

 

「なんて無茶苦茶なやつらだ…」

 

「マスター。今の雷にも魔力反応はありません」

 

「自然発生の雷を呼び起こすだと?どういう理屈だそれは…」

 

 見上げると少年の上には黒雲が漂っていた。少年は狙われることも当然のように察知していたのであろう。そのために雷を操る獣を頭にのせ戦場まで出てきたのだ。

 

 竜の方を見ると、どうやら最後の一匹を消滅させたようだった。ドスンドスンと音を立てながら主のもとに近寄っていく。少年はお疲れとでも言ってるように竜をなでる。すると上の動物がピカピカ言いながら少年をたたく。少年は手を頭にやり、頭の上の動物をなでてやると動物は満足そうな鳴き声をあげた。

 

 その後、少年たちはゆっくりと歩いてこちらに近づいてきた。

 

「マスター」

 

「大丈夫だ茶々丸」

 

 私の前に出て、私を守ろうとする茶々丸をなだめる。

 

「… …」

 

 少年は何もしゃべらない。

 

「貴様は―――――」

 

「エヴァ!!!」

 

 何者だ。と聞こうとすると男性を背負って駆けてやってきたタカミチに遮られた。

 

「大丈夫かい!」

 

「無論だ。私を誰だと思っている」

 

「さきほどまでボロボロにやられそうでした」

 

「おい!このボケロボ!!…その背負ってるのなんだ」

 

「この事件の黒幕さ。ここに向かう途中に見つけてね。」

 

「っは。用意周到だったくせに最後はポカか。しまらない奴だ」

 

「はは…。――――それで…君は何者かな?」

 

 少し威圧するように少年に声をかける。見たことのないものを2匹もつれているのだ。怪しさは半端ではない。不思議なことに少年からは魔力も気も感じれないが、戦いに慣れているのであろう雰囲気だけは出ていた。

 

「… …」

 

 少年は答えない。それが怪しさを際立たせる。タカミチが臨戦態勢に入ろうとしているのでひとまず止めておく。

 

「まて、タカミチ。一応こいつには借りがある。…おい貴様、麻帆良の人間ではないな。どうやって麻帆良に侵入した。ここには浸入者を感知する結界があるのだが貴様を感知した覚えはない」

 

「… …」

 

「っ!」

 

「おちつけタカミチ」

 

 質問に答えない少年にタカミチが痺れをきらすがそれをなだめる。

 

「答えられることだけ答えればいい。目的はなんだ」

 

「… …」

 

「…その二匹は使い魔か?」

 

「… …」

 

「なぜ私を助けた」

 

「… …」

 

「……名前は」

 

「… …」

 

「…おい貴様!なめてるのか!!」

 

「マスター落ち着いて」

 

 何も答えない少年に次は私がしびれをきらしてしまった。どうどうと茶々丸が馬を静めるように私をなだめる。…このロボも大概私をなめてるな…。

 

「ふぅー…。なにも答えてくれないんじゃ埒が明かないね…。それじゃあこれだけ答えてくれるかな」

 

「… …」

 

 ゴゥと音を立ててタカミチの周りに風が舞う。

 

「僕たちがここのトップの所まで君を連れていかなければならないと言ったら――――抵抗せずについてきてくれるかな?」

 

 タカミチが気を強め挑発するように言う。言葉の裏には答えなかったら無理やりにでも連れていくという気迫があふれていた。しかし少年は

 

 

 

「… …」

 

 

 

 答えない。

 

 

 

「…仕方がないね」

 

 

 

「まてタカミチ!」

 

 

 

 タカミチが呟き少年に向かっていくのを私は止められなかった。




はい、どうも4話です。

いやぁ無口って大変ですねぇ。そりゃあなんもしゃべらない人が暴れてたら警戒もしますわな。
ボツネタとしてはエヴァをゲットしようとモンスターボールを投げつけちゃって戦闘に入るとかもあったんですけどね。妖魔はともかくエヴァはポケモンには見えませんよね。

次はレッド視点で書くつもりです。今回いきなり妖魔と戦闘しだすレッドに違和感感じる人いるかもしれませんがそれを説明できたらいいなぁて少し思ったり。


そういえば少し短いっていわれたんですが、大体いつも4000文字くらいでいい区切りになっちゃうんですよねぇ。あとこれ以上多く書くと更新ペースもちょっと変わってくるかと。うーんどうしよう。まぁこれからはもうちょいかければと思ってます。

では!

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