無口なレッドの世界旅行記   作:duyaku

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2 フィーと千雨

『……フィ!!!』

 

 真っ暗な意識の中、最後に聞こえた自分の主であるレッドの呼び声を思い出す。この時は久しぶりに声に出して名前を呼ばれたため、不意をつかれた感じがして体が少し硬直してしまった。彼が自分の名前を呼ぶということはそれはさぞかし大事がおこったのだろう。

 

 目を開けて周りを見る。そこはベッドやテーブル、テレビまでが設置されている小さな部屋のような場所であり、自分が丸いクッションの上に寝かされていたことに今さら気づいた。また、一人の少女が四角い箱?…たしかマサキがパソコンだとかいってたっけ…の前の椅子に座って、なにやら手を動かしカタカタと音を立てるのが聞こえる。

 

 私はひょいと優雅にクッションの上からおりて、その少女に近寄っていく。

 

「…お。やっとおきたのか。もう体は平気かよ」

 

 丸い眼鏡をかけた少女はそう言って椅子をくるっと回転し、心配そうな顔をしてこちらを見る。そして私をおびえさせないようにか、手を低くしながら伸ばし私のほほをそっとなでる。本当は興味本位などで触られるのはあまり好きではないのだが、少女の顔から私を真剣に心配しているのが理解できるので、甘んじて伸ばされた手を受け入れる。私が目を細めながら「くぅ」と鳴くと彼女は満足そうな顔をし手を遠ざけた。

 

「しかし、なんであんなところで倒れてたんだよ。てかなんて種名だよこの猫…。でかすぎるだろ常識的に考えて…」

 

 また非常識なことかよ…しかも自分で首突っ込んじまった…。などとぶつぶつ呟きながら少女は溜息を吐く。しかし、「でかすぎる」とは?ポケモンの中ではそこまで大きなほうでもないが…。まさか私が太っていると言いたいのだろうか。常に優雅にあろうと体系や毛並みには細心の注意を払っているのだが。おしゃれなどの美的センスがまったくないレッドにも毎日毛づくろいはしてもらっている。戦闘狂である彼でもポケモンを大事にする気持ちは人一倍強いので文句も言わずやってくれるし。

 

 少し睨むようにして彼女を見ると、彼女はまた溜息を吐きながら愚痴を続ける。

 

 「…はぁ。てかなんで猫に話しかけてんだよ私。毎日非常識にあてられすぎてついにおかしくなっちまったか…」

 

 ふーむ。ポケモンに話しかけることは別段おかしなことではないのだけれど…。…うん。この子なら大丈夫そうね。あんまり誰も彼もに念話はしたくないのだけれど。

そう考えて私は彼女の脳内に話しかけるようにして念話を飛ばす。

 

<はーい。こんにちはお嬢さん>

 

 初めのあいさつを考えずにとっさに念話したため、ちゃらいホストが言うような軽い挨拶をしてしまった。

 びくぅ!と彼女の体が動いた後、声のもとを探すかのようにブンブン首を回し周りを見渡す。

 

<ここよ、ここ。あなたの目の前。>

 

 彼女がピタッと首の動きを止めると私に手を向けおそるおそる指をさす。彼女が小さな声で…おまえ?と聞くと、私がにっこりしながら頷いて話しかける。

 

<はじめまして。私はフィーというわ。よろしくね>

 

 「…………………」

 

<…え、えーっと>

 

 固まったままで反応のない少女に再度念話をする。すると彼女はガタッと音を立てて急に立ち上がり大声を出しながら頭を一心不乱にかきだした。

 

 

「だあああああああああああああああああああああ!!!!まじでまた非常識かよおおおおおおおおおお!!!おかしいと思ったんだよ!!!!こんなでけぇ猫があんな道の真ん中で倒れてて!!!!でもしゃべるとはおもわないじゃん!!!おもわないじゃん!!!!でも放っておくほど屑にはなれないじゃん!!!」

 

<ちょっ!どうしたのよ急に!!>

 

 あきらかにキャラ崩壊してる。てかしゃべるというか念話なんだけど。など急に暴走をはじめた少女に言えるひまもなく、フィーはぐいぐいとおされる。

 

「っは!!!しゃべるねこ!?それを拾っちゃう少女!!??これって典型的なあのパターンじゃん!!!ならん!!ならないぞ!!!わたしは魔法少女の鬱さをすでに知っているんだから!!!いやけど本物の魔法少女の衣装着れるのか…過去とか戻れたらあの黒歴史も…いやまてまていく先はバッドエンドだ落ちつけ私!!!いや決めつけるのは早いか!!!もしかしたら月に代わってお仕置きするタイプかもしれない!!!リリカルでマジカルするほうかもしれない!!!でも!!!でも!!!あああああああああ!!!!」

 

 私が念話することは彼女の頭のキャパをオーバーするほどのできごとだったらしい。サイコキネシスで物を浮かし頭にぶつけて黙らそうかとも思ったけど、一応彼女は私を拾ってくれたっぽいため、物騒なことはせず落ち着くまで待つことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――10分後

 

<どう?落ち着いたかしら?>

 

「……ああ。まだどういう状況かは全然わからんが、とりあえず話は聞く…。えーっと、取り乱してすまなかった。」

 

 いいえ、大丈夫よ。と私は伝え、ほほに汗を流しながら周りをちらりと見る。彼女の暴走によって部屋のものは飛び回り、軽く散乱している。

 

<とりあえず名前、聞かしてもらえるかしら?>

 

「…長谷川 千雨だ」

 

<そう。よろしくね千雨。まずは私の倒れていた状況から教えてもらっていいかしら?>

 

「ああ。そーだな…」

 

 話によると私は桜通りという場所で倒れていたらしい。夜コンビニまで出歩いてた千雨は、そんな私をたまたま見つけ自分の部屋まで運んできたのだとか。

 

<そうだったの。ありがとうね、千雨。でもどうやって私を運んだの?ポケモンに頼んだのかしら?>

 

「ポケモン?なんだそりゃ。どうやってそりゃ普通にかついでだよ。」

 

 かついで…?ポケモンを知らないというのもとても驚いたが、それよりも私をかついだということが興味を引いた。私の体重はだいだい20キロ前半くらい。女子がかつぐにしては重すぎる。力もそんなにあるようには見えないし…。

 

<…ねぇ。なんで千雨は部屋に私を運んだの?倒れている状況ならポケモンセンターでもよかったんじゃないの?>

 

 「ん?だからポケモンセンターてなんだよ。…なんつうかこんな猫珍しいから普通の病院運んだら何されるかわからないだろ?だからとりあえずうちにと思ってな」

 

 私はこの言葉を聞いて全て理解した。彼女は最初から最後まで私の身を案じてくれたのだ。大きな私は道路の真ん中にいたらどうなるかわからない。病院につれていってもポケモンを知らないという彼女からしたら、私がそのまま実験の材料になるのかもと考えたのだろう。私を運ぶという苦労を考えればそのまま置いておけばよかったのに。どう考えてもここまで私を連れてくるのはつらい。それでも千雨は私を背負ってここまで運んでくれたのだ。

 

<っふふ>

 

「なんだよ、急に」

 

<いや、千雨ってとっても優しいのね>

 

「っな!?」

 

 不意にほめられた千雨は頬を赤くして照れる。こんな風にポケモンに優しくできるのはまるでレッドみたいだなと思った。

 

<照れなくていいのよ千雨。あなたのおかげで私はほんとに助かったわ。感謝してる>

 

「…おう」

 

 まだ頬を染めながらぶっきらぼうに千雨は答える。どうやら私は彼女のことを好きになれそうだ。

 

<ふふ。じゃあ話を続けましょうか。さて、千雨。あなたはポケモンを知らないといったけどこれは本当?>

 

「ほんとだよ。てかそれは結局なんなんだ?」

 

<そうねぇ。ポケモンというのはね…>

 

 ポケモンという存在、その力、この念話について。千雨にポケモンについて教えながら私は考える。どんなふうに生活していても、ポケモンを知らないということはあり得ない。ポケモンは遥か昔からいるし、人と共に生活してきたのだから。つまり、ポケモンを知らない人がいるということは…。私は一つの予想を立て、話をしていく中で自分考えはあっているだろうとなんとなく確信した。

 

 

「やっぱしらねぇな。ポケモンなんて。ていうことはフィーはそのポケモンとかいうやつなのか?」

 

<そうね。私はポケモン。ポケモンは私たちの世界では多く存在しているわ>

 

「…ん?私たちの世界?」

 

やはり千雨は賢い子ね。そう思いながら私は念話を続ける。

 

<そう私たちの世界では。どうやら私、違う世界からきたみたい>

 

にこっとしながらそう答えると千雨はまた固まった。

 

「ええええええええええ!!!!」

 

固まったと思ったらまた急に大声を出した。また暴走するなら次は物をぶつけようかしら。いいわよね。うん、きっといいわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――10分後

 

<話を続けて大丈夫かしら?>

 

「はい…」

 

しばらくして千雨が落ち着くとまた念話を続ける。千雨の頭には軽いたんこぶができていて涙目になっていた。ぶつけたのは広辞苑だったからそれなりに痛かったのかもしれない。

 

<まぁ世界を移動した原因は割と想像がついているのだけど。とりあえず、この世界のことおしえてくれないかしら?>

 

「そりゃあいいんだけどよ…」

 

<…?>

 

千雨が言い淀んで声をこぼす。

 

「フィーは辛くないのか?他の世界にひとりぼっちで…。」

 

<ああ、そのことを心配してくれたのね。ほんとに千雨は優しい子だわ。でもね大丈夫>

 

「…なんでだよ」

 

 

本当に彼女は優しい。でもは私は大丈夫と断言できる理由がある。

 

<レッドがいるからよ>

 

「レッド?」

 

<私の主>

 

どんなところにいても彼なら向かいに来てくれる。私たちへの愛情が何より大きい彼が私一人を放っておくはずがない。どんな手をつかってもここまで来てくれる。というかもしかしたらもう来ているかもしれない。私の後をおってあの空間の乱れに突っ込んで行ったりして。そう思えるから私は大丈夫。

 

ここまで考え、思い立ったらすぐ行動するレッドを思い出し、ふふっと笑う。

 

「…そうか、なら安心だな」

 

<ええ、安心よ。どんな時も。どこにいても>

 

 

 

あわてなくてもレッドは必ず来てくれる。ならそれまで私は私ができることをしよう。

 

 

 

<では千雨。この世界のこと教えてくれるかしら?>

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……って感じかな」

 

<なるほどね…>

 

 千雨の話を聞き自分の頭の中で情報をまとめる。どうやらこの世界の人々は、人間の力のみで生活している。足りない力は科学に頼るので、いくつかの分野ではこちらの世界の方が発達していそうだ。まぁこの世界でモンスターボールなどがつくれるかどうかは分からないけど。

 

 

<さて、ではいきましょうか>

 

「へ?どこへ?」

 

千雨かきょとんとした顔でこちらをみる。私はゆっくりと玄関と思われる扉に向かって歩き、振り返ってにこりと笑った。

 

 

 

<私が倒れていた、桜通りと言う場所にね>

 




ポケモン図鑑

№484 パルキア

くうかんを ゆがめる のうりょくを もち シンオウちほうの しんわでは かみさまとして えがかれている。

 はい、フィーたちが世界を移動してしまった原因ですね。これから出番があるとはわかりませんが。これは「ダイヤモンド」のポケモン図鑑の説明文です。ほかの図鑑には平行してならぶ空間のはざまにいるだとか空間のつながりを自由に操るだとか言われてます。ちーとっすね。


№196 エーフィ

ぜんしんの こまかな たいもうで くうきの ながれを かんじとり あいての こうどうを よそくする

はい、ヒロイン?のエーフィです。レッドのエーフィの名前は「フィー」。念話とかいうよくわからん能力を持ってます。ポケモンの意思をしゃべらすのは賛否両論だと思いますが「…」しかいわない主人公とガウガウいってるだけのポケモンじゃ話が進まないので…んで設定だと体重26.5キロもありますこの子。作中で言った20キロ前半が本当か彼女の見栄張りかは想像ににおまかせします。


さて2話ですね。見直したとき自分の文才って…なるのは俺だけでしょうか。そしてネギまを読み直すと細かい設定がたくさんあってびっくり。どうしようか…

次はたぶん戦闘できるかなぁとおもいます。戦闘描写しっかりかけるかめちゃ不安ですが…。

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