無口なレッドの世界旅行記   作:duyaku

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16 会議と強襲

「駅から中等部に向かう途中の川原で、珍しい亀を見かけたという報告が二件。街中を走り回る黄色の大きなネズミを発見したという報告が一件。ついには空を飛び回る赤い竜を見かけたという報告が四件…………。学園長これはどういうことですか?」

 

がっしりとした体型でスーツを着こなしているガンドルフィーニが、目の前で悠々と座る学園長に問いかける。中等部にあるこの会議室には学園都市にいる魔法教師が皆集まっており、それぞれが学園長の返答に耳を傾けていた。

 

 

「…………。それで、その報告をした子達はそれらについてなんと述べていたのかね?」

 

「皆工学部で作った精巧なロボット、もしくは新種を見つけたと少し騒いでいるだけで大した騒ぎにはなっていません。…………しかし!」

 

両手を目の前にある机に叩きつけ、大きな音を立てながらガンドルフィー二は学園長を睨む。

 

「魔法関係者がこの生き物たちを発見したという報告もされています!その子が言うにはこの生き物たちはまるで魔物のようだと!学園長!貴方なら何か知っているのではないですか!」

 

学園長はそっと目を閉じて考え込むような顔をしている。この学園で認識阻害の魔法をかけられる者など学園長以外に存在しない。その事がこの件に学園長が関わっているという確定的な証拠となっているのが、魔法関係者には分かっていた。

 

皆が言葉を発することなく学園長の返事を待っていると彼はおもむろに口を開いた。

 

「……そーじゃの。そろそろ君らにも伝えなければならないと思っておった」

 

「……!やはり何か知っているのですね」

 

葛葉が確かめるように言う。

 

「先々月くらいの時かの。エヴァが侵入者にやられそうになったとき、颯爽と助けた青年がおった。レッドという名のその青年は何匹もののモンスターを手懐け完全に使役しておった」

 

「…………」

 

周りにいる魔法先生たちは静寂に学園長の話を聞き入る。封印により力をほとんど出せないが、それでもあのエヴァンジェリンがやられそうになったと学園長は言った。つまり侵入者はかなりの実力を持っていたというわけだ。そして、その侵入者を倒したという青年の実力も相当なものなのだろう。

 

「その後高畑君と一騒動あったが、なんとか話を聞くことができた。急に現れた彼はどうやら別世界から来たようじゃった」

 

「……?別世界?それは魔法世界ということですか?」

 

「いんや。こことは繋がっていない、本当の別世界じゃ。そこでは多くのものがモンスターをポケモンと呼び共に生活しているらしい」

 

あるものが不意に立ち上がり、がたりと音を立てて椅子が揺れた。

 

「ばかな!そんなでたらめの様な話を信じたと言うのですか!」

 

「…………その青年がまほらに侵入するために嘘をついているという可能性の方が高いのでは?」

 

魔法教師の一人は激昂するかのように声を荒げ、一人は冷静に判断するように述べる。

 

「そうじゃの。だからわしとエヴァでしばらく監視を続け彼らのことを調べた。結果、確かに彼の戸籍はこの世界に存在しないし、ポケモンたちは魔法世界にもいないモンスター達であった」

 

座りなさい、とジャスチャーしながら話す学園長をみて、立ち上がった教師は納得しきれないような顔のまま席につく。

 

「……わかりました。府に落ちませんが百歩譲って彼とそのポケモンが別世界から来たとしましょう。それで、このあと学園長は彼らをどうするつもりなんですか」

 

別世界からの来訪者。未だに心から信じているものは少ないが、その者がどんな事情でまほらに来たとしてもその後の対応に慎重にならなければならないことは明白であった。少なくともそのポケモン達が麻帆良内を自由に動き回れる今の状態はどうにかしなければならないと誰もが考えていた。だが、学園長が出した答えは皆の予想を完全に裏切った。

 

「しばらく彼らをこの学園の警備に当てるつもりじゃ」

 

学園長がそう告げたあと、何人かは信じられないという表情をする。身元が不明なものに学園の警備を任せるなど、危機管理が出来ていないにも程がある。教師たちは次々と反対の意見を挙げていく。

 

「ありえない!そんな身元もはっきりしないものを警備にあてるなんて!」

 

「危険すぎるのではありませんか?その者たちが偶然別世界から来たとしてもこの学園に害を与えないという確証はないのでは?」

 

教師たちはざわざわと騒ぎ初め、各々が意見を述べだす。あるものは麻帆良から遠ざけるべきだと言い、あるものは監禁しておくべきなのではとまで言い出した。収拾がつかなくなるかも知れない、一人がそう思った直後に学園長はカッと音を鳴らし周りの注目を集めた。

 

「……わしは長いことこの学園におる。だが、別世界からなにか現れるなんという現象は初めてじゃ。彼とポケモンたちはこう言った。空間の歪みに吸い込まれここに来てしまったと」

 

多くの視線が学園長に刺さる中、ゆっくりと呼吸をし、低くとも皆の胸に響くような声で言う。

 

 

「……彼ら以外のものが別世界から来ないという保証はどこにあるのかね?」

 

 

何人かはびくりと反応し、今の言葉の意味を察する。別世界から現れる人物がいたということは、他にも何者かが現れる可能性があるということだ。それが今回のように話の通じるものならば良いが、問答無用で暴れるような輩だと間違いなく学園は混乱する。

 

「何が理由でこの世界と他の世界が繋がってしまったかはまだわからんがの。今後の対策のため別世界のことをよく知っている彼らを味方に引き入れておくべきじゃとわしは思う。幸い彼らは実力も高いようじゃしの」

 

もし、万が一にでも、再び別世界からポケモンが現れたとして、それに一番うまく対処できるのはレッド達だと。学園長はそう考えている。

 

「いい関係を築いておくためにもあまり彼らを縛るべきでないと思うのじゃ。彼らが無意味に一般人に被害を与えるようなものたちで無いことはわしが保証しよう」

 

まだ納得しきっていないものもいるが、何人かは承諾したように頷き、会議室の中はしんと静まる。

 

「………これで今回の会議は終わりじゃな。機会かあったら彼らのことを君たちにも紹介するつもりじゃ。では、解散」

 

これは、レッド達とガンドルフィー二達が出会う数時間前の話である。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「君たち!その子達から離れろ!」

 

ガンドルフィー二がレッドたちに向かって叫ぶ。しんとした夜だからかその声はよく響き、彼らの耳を揺らした。静かに吹き抜ける風も、彼らの不信感を煽るようで、速度を増した雲は月を隠すように動く。ガンドルフィー二達の顔からはレッドたちに対する警戒心がはっきりと見え、横にいる葛葉も同じように思い、腰に指した刀に手を置いていた。

 

彼らは考える。だから別世界からきたなどいう人間は信用出来ないのだ、と。

 

「…………」

 

対して、レッド達はめんどくさい事になる前に早く誤解を解こうとしていた。

 

……この状況は確かに勘違いされても可笑しくないのだろう。自分たちは彼らの教え子であろう生徒を蔓で葉巻にして気絶させているのだから。だが解決するのもさして難しい問題ではないはずだ。この生徒たちを解放し事情を説明すればいいだけだ。

 

レッドはソウに指示を出しこの生徒たちをあの大人たちに返そうとする。

 

 

「……………………」

 

 

忽然と、彼らの頬を撫でるように風が吹いた。

 

 

 

(…………レッド?)

 

 

風をうけたレッドは指示を出そうとした手を止めた。

 

不意に動きをとめるレッドをポケモン達は不穏な思いで見つめる。

 

 

レッドは言葉にできないような不可解な感覚に襲われる。この感覚は、初めて感じるものではない。例えば、誰も立ち入る事の出来ないような洞窟の奥で。例えば、今まで人が踏み入れた事のないような建造物の上で。背筋を妙にそそり、浮き足を立たせるようなこの感覚は何度か味わったものだ。そして、そんな時は決まって……。

 

 

「…………」

 

 

再び風が吹き、服をはためかせた。

 

 

ポケモン達と妖魔達の戦いのため、周辺の草木は少し焼け、風と共に若干の焦げ臭さを運ぶ。

 

 

風が吹く度に足元に見える雑草は踊り、遠目に見える木々は揺れている。

 

 

月明かりがはっきりと照らしていた夜だったはずなのに月かかった雲は厚みを増し、回りの暗さは拍車をかける。

 

 

足元からカサカサと音が聞こえる。どうやら、近くにいた昆虫たちがここから離れて行くようだ。

 

 

周りの空気が徐々に変わりゆく中でレッドは立ち尽くす。目の前の学園関係者とのいざこざは、二人の少女を返せば直ぐに丸く収まると考えていたし、もちろんポケモン達もレッドはそうするつもりだろうと思っていた。だが、今はそんなことをしている場合じゃないと彼の五感が必死に訴えていた。冷え込んだ空気と彼の緊迫感が混じりポケモンたちの頭の中にも警報が響く。

 

…………何か………くる。

 

「ガンドルフィー二先生。もう力付くであの生徒たちを取り返しましょう」

 

動きのないレッド達をみて、スーツをきた女性が腰に指した刀を抜きながら言う。ガンドルフィー二も同様に臨戦態勢に入る。この二人はどうやら辺りの空気が変わったことに、気付いていない。二人が地面を蹴り、進みだそうとした。

 

「…………」

 

レッドはフィーに二人を直ぐに吹き飛ばす様に指示をだす。

 

フィーは若干戸惑いつつもサイコキネシスで弾くように二人を後ろに飛ばす。飛ばされた二人はまるでここから離れていくかのように遠ざかる。

 

二人は大きく後方に飛ばされながらもすぐさま体制を立て直し声を荒げた。

 

「……くっ!!やはり信用出来ない輩だったか!」

 

「…………」

 

レッドはガンドルフィー二の言う事などまったく気にかけず虚空をみているようであった。

 

ガンドルフィー二と葛葉が再びレッド達の元へ向かい斬りかかろうとしたその時であった。

 

 

 

 

 

 

レッド達とガンドルフィー二達の間に大きな楕円刑の穴が空いた。

 

 

 

 

 

 

「…………!!」

 

 

二人はブレーキをかけるように駆け出した足を止めた。

 

穴の中からはバチバチと激しい音と光が漏れる。

 

「な…………なんだあれは…………」

 

呆けている二人のもとに高音たちが投げ込まれる。

 

(おいてめえら!そいつら連れてさっさとここを離れろ!)

 

ソウが蔓を使い高音達をガンドルフィー二達の方に渡しながら叫ぶ。

 

穴から漏れる光と音が更に激しくなる。ピカの頬も呼応するかのように電流の軌跡を見せながらパチパチと音をたてる。

 

 

…………ゾクリ。

 

 

ガンドルフィー二と葛葉は背筋に虫が這うような感覚に襲われた。大気が振動するかのようにバチバチと音を立て続け、穴から漏れる光は強くなり続ける。

 

「…………」

 

ポケモンとレッド達は臨戦体制になりながら楕円形に空いた穴から目を離さない。

 

 

 

辺りを吹く風は強さを増しゴウゴウと音を鳴らす。雲の移動も速さをあげ、上空には厚く暗い雷雲が群がりながら、穴から出る音に呼応するように雷は音を立て雨を降らす。

 

空間を裂いた様に表れた穴からする気配が一層強くなった。

 

 

 

 

 

初めに見えたのは、黄色の翼であった。

 

穴から現れたその翼は、鳥の翼と言うには余りにも鋭さを帯び、紫電が翼の周りを駆け巡っている。

 

次に見えた脚は、地につかず空を漂い、岩すら崩せるかの様な爪がついていた。

 

ゆっくりと姿を現わしていき、全体を楕円形の穴からでたときそれは、二枚の翼で自らの姿を覆うようにしていた。

 

雨音が一層と強まり風と共にレッド達の頬を水滴が走り続ける。

 

ブウンと消え行く音を立てて楕円形の穴が消える。

 

姿を隠すようにしていた二枚の翼をおもむろに広げた。

 

ガンドルフィー二達は迫力と恐れで体を動かす事が出来ない。

 

そのポケモンはすっと口を開き、当たり一帯を揺らすような轟く咆哮で鳴いた。

 

 

咆哮を受けながらも、レッドはゆっくりとポケットにあるポケモン図鑑を取りだし目の前のポケモンにむける。ポケモン図鑑は呼応するようにピピっと電子音を鳴らし語り始めた。

 

 

 

 

『サンダー。電撃ポケモン。雷雲の 中に いると 言われる 伝説の ポケモン。雷を 自在に 操る。』

 

 




どーもお久しぶりです。

なんでサンダー?とか思うかもしれませんがその答えはまた後ほど。

オメガルビーアルファサファイアの情報が多くきてますね。

原始回帰とか良くわかんないですが私のメガニウムを早く進化させてください。

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