無口なレッドの世界旅行記   作:duyaku

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二ヶ月ぶりです。遅れてしまって申し訳ない。投稿しなきゃしなきゃとは思っていたのですが…


14 警備と関西

 ピカが鳴らす雷鳴を聞き、ゼニの放出する水しぶきを多少受けながら俺は二人の修業の様子を窺っていた。しばらくバトルをしていないから体を動かしたい、と二匹が言いだしのでエヴァの魔法球の中の別荘を借りて今二匹は模擬バトルをしている。

 

 ピカチュウの頬を電気が流れバチバチと音を鳴らし、離れた位置からゼニに向かい幾つも電撃を放つ。電気タイプと相性の悪いゼニはそれをくらうまいと身軽に体を動かし、時に口から出す水の水圧を利用して攻撃をかわす。意味もなくかけてあろうゼニのグラサンもここでは電撃による雷光を防ぐのに役立っている。しかも、避けるばかりで先ほどからなかなか攻めることができないゼニだがその様子から焦りは見られない。

 ゼニが狙っているのはカウンターであり、ピカの一瞬の隙をついて一気に近づいて戦いを決めるつもりである。タイプの相性が悪いだけに技の打ち合いになったら負けるのが今までのレッドとの経験から分かっているのだ。カメだけにこういう作戦の時のゼニはかなり粘り強い。ピカはゼニの作戦が分かっているからこそ隙を見せず近寄らせないようにしながら電撃を放つ。

 しばらくその様な均衡状態が続いていたが、ピカに疲れが見られたのか瞬間電気が弱まる。ゼニはその隙を逃すまいと即刻顔体全部を甲羅に籠った後、一つの穴から猛烈に水を噴射し一気に加速して甲羅のままピカに向かって突撃していく。だがピカはその行動を読んでいたのか、しっぽに鋼鉄のような光を帯びせ、振りかぶって向かい打つ用意をしていた。

 

水を噴射して推進する甲羅とピカの鋼鉄のしっぽがぶつかりあおうとしたその時

 

(レッドー、ピカー、ゼニー。茶々丸がご飯作ってくれたわよー)

 

(え!え!ごはん!ほんと!?やったぁ!!)

 

 突如現れたフィーの呼びかけにピカはしっぽを振りかぶろうとした構えを急遽解き、耳をピンとさせ一瞬でフィーの下へ向かっていく。

 

 ピカにぶつかり損ねたゼニは甲羅のまま一人で進んでいき奥まで行き、ズザァと地面と摩擦してから手足を甲羅から出した。

 

(おいピカ!!勝負の途中だったろうがごらぁ!)

 

(お昼までっていったよ!!つまりおわり!!そしてぼくのかち!!!)

 

(ふざけんなぁてめぇええ!!!)

 

 

 ゼニの叫びは虚しくも無視されてピカはフィーと一緒にエヴァの家へと転送されていった。レッドはぎゃあぎゃあと叫ぶゼニに近寄りポンと頭に手を置いた。

 

「……」

 

(……なぁレッド、ピカが電撃を弱めたのは誘いだったのか?)

 

「……」

 

 そう、ピカが電撃を弱めた時、あれはゼニを突っ込ませるための餌だったのだ。あのままピカが電撃を放ちゼニがかわすという構図が続いても、技を放ち続けてるピカが不利だった。ならばあの攻防が続かせてると思いこませている中でわざと隙を作る。ゼニの一番早い移動方法が甲羅に籠って突進であったのは知っていたため、わざと隙を作った直後すぐ迎え撃つ用意をしたのだ。ピカは戦いの間あまり考えるタイプではないが天性の勘でそこまでの試合展開を作ることができる。

 

(っけ、やっぱそうかよ。まんまと釣られたのか俺は)

 

 レッドの沈黙が肯定だとわかったゼニは若干不貞腐れながら歩いて転送陣へと向かった。

 

 レッドからすればそれでもあの勝負の勝敗は分からないと思った。ピカの誘いまでは見事であったが、本気で噴射して突っ込むゼニにアイアンテールで競り勝つのは少し厳しいと考えていた。ゼニの反撃を予想していたのならばピカはそれを避け、すれ違いざまに電撃を浴びせるべきだったのだ。まぁ実戦でそこまで指示を出すのは俺の役目ではあるが。

 

(…ところでレッド)

 

「……?」

 

(俺のサングラスいつの間にかないよう…)

 

「……」

 

 知るか。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

「ふん。ずいぶんとつまらなそうな顔をしてるじゃないか」

 

「……」

 

 レッドがエヴァにそう言われたのはピカとゼニの模擬バトルの後の食事中の時であった。

 

 レッドたちがこの世界に来てからはや一カ月ほど。初めは新しい町の詮索、ここに住むための準備などやることが多くあり、慌ただしく動き回ることで退屈を感じる事は少なかったが今は大体の準備を終え、超に頼んだ家造りの方もあらかた終りが見えてきたころである。

 となると、いかんせんレッドたちにはやることがない。ポケモンたちも初めはエヴァの魔法グッズいじりなどで時間を潰してきたが、今じゃそれも飽きたようだ。しかしそれでもポケモンたちはポケモンたちでこの世界で各々やることを見つけているようにも見える。フィーは暇な時は千雨についていきポケモンのことについて教えたり、楽しくおしゃべりをしている。ソウは週末になると森の方に出かけ、誰かと修業をしているらしい。ピカは適当に町を走りまわりこのかに会いに行ったり茶々丸とお散歩したり、ゼニは麻帆良の川を泳ぎ回り、リザは魔法球の中で快適な場所を探しては寝床にしている。それとどこかのカンフー少女と一度戦ったという話もしていた。

 それぞれが自分のしたいようにしている中、俺は何をしているんだろうな。とレッドは頭の中で考えていた。そんな時、エヴァからこのように声をかけられ、さらに考え込むようにしながら食事を進める。

 

「……」

 

 どちらも話すことなく静かに料理を食べている中、不意にエヴァの後ろで立っていた茶々丸が顔を上げた。

 

「マスター。高畑先生がここに近づいているのを確認しました。いかがなさいましょうか?お食事の後にまた来てもらいますか?」

 

「かまわん。いれてやれ」

 

「了解しました」

 

 おそらく茶々丸はレーダーなどで事前に察知したのだろう。高畑がここに向かうのに気付き迎え入れるため玄関まで歩いていく。茶々丸が玄関を開けると、ちょうどノックをしようとしていたポーズをとったタカミチの姿が見えた。

 

「悪いね茶々丸くん。いまエヴァは大丈夫かい?」

 

「お食事中ですが許可がでました。どうぞお入りください」

 

「ではお邪魔するよ」

 

 そう言って茶々丸について来るように高畑がリビングに現れた。

 

「やぁエヴァ。それとレッドくん。元気にしているかい?」

 

「わざわざこんな所まできて何の用だ」

 

「……」

 

 エヴァがぶっきらぼうの返事をし、レッドは会釈するように頭を下げた。

 

「おや?ポケモンたちはいないのかい?姿が見えないけれども」

 

「おい!私の話を聞いているのか!!」

 

「マスター落ち着いて」

 

「……」

 

 ナチュラルにエヴァを無視してタカミチは何かを探す様に周りを見渡す。そんな様子にエヴァが噛みつくが茶々丸に抑えられる。

 ちなみにポケモンは魔法球の中で食事している。初めはレッドもポケモンたちと一緒に魔法球で食事をしていたが、エヴァに呼び出され用意してもらっている立場からは逆らう事が出来ず、リビングまで連れ出され無理やり同じ食卓につかされている。ついでに言うとポケモンたちの食事は、レッドが持っていたポケモンフードの成分を解析してポケモンが食べれるような物にしてくれてある。科学の力ってすごい。

 

 タカミチはエヴァにごめんごめんと頭を掻きながら謝り、話を始めた。

 

「実はしばらく魔法界にいかなければならなくてね。少しの間夜の警備を代わってほしいんだ」

 

「ふざけるな。なんで私が。いつも通り他の教員にでも頼めばよいだろうが」

 

「みんな新学期の準備で忙しいんだ。生徒に代わってもらうのは申し訳ないし頼むよ」

 

「…私も生徒だが?」

 

「生後600年を超える生徒は君だけなんだ頼む」

 

「貴様なめてるな!何が生後600年だ!赤ん坊じゃあるまいし!」

 

「マスター落ち着いて」

 

「……」

 

 先ほどと同じように茶々丸がエヴァをなだめる構図となる。レッドはそれを片手目に見ながらスプーンで掬ったスープをすする。おいしい。

 

「冗談は置いといてほんとに頼むよ。報酬でもお土産でも買ってくるからさ」

 

「お土産など今さらいるか。…報酬か。ううむ…いや、まてよ」

 

 エヴァはしばらく悩んで首をかしげたあと思い付いたかのようにニヤリと笑った。

 

「タカミチ。その話うけてやろう。しかし警備を代わるの私ではない。こいつだ」

 

「……!」

 

 エヴァはレッドを指さしながら悠々と言い放った。

 

「レッド君が…?しかし…」

 

「こいつに断る権利などない。茶々丸の飯を黙々と食べているこいつにはな。」

 

「……」

 

 いつの間にか飯の恩を押し付けられていた。まぁ大助かりしていたし文字通り黙々と食べていたのは全く間違えていないのだが。

 

「こいつの実力は貴様も知っているだろう。簡単にやられることなどないさ」

 

「他の教員たちにはなんて説明するんだ。レッド君の存在は僕と学園長しか知らないのだぞ」

 

「他の奴らには警備は私と代わったとでも言っておけ。今さらわざわざ私を見に来るような奴などいまい」

 

「…うーん」

 

 タカミチは考える素振りを見せた後レッドの方を振り返り尋ねる。

 

「レッド君は本当にいいのかい?警備を代わってもらっても」

 

「なに、警備と言ってもここに侵入してきた馬鹿どもを狩るだけでいいんだ」

 

「……」

 

 警備と言っても何をするのかという疑問についてエヴァがざっくりと説明してくれて、少しだけど理解できた。要するにここに来た時の様に夜に麻帆良にきたやつらを退治すればいいのか。

 少しの間考えたがどうせすることもないし、エヴァには恩がある。それに…もしかしたら退屈から抜け出せるかもしれない…。

 

 口角を上げたレッドをみてエヴァがふんっと笑う。

 

「OKだそうだ。報酬は適当に金でもやってくれ。詳しいことは私が教えといてやる」

 

「…わかった。一応学園長には報告しておくけど」

 

「よかったな貴様ら。こいつの情報を知る機会が得れて」

 

「…そういうの普通本人がいる前で言うかい?」

 

「なにこいつも馬鹿じゃないさ。そのくらいの思惑を察しするくらいできる」

 

「……」

 

 いきなりこの世界にやってきて住みつき出したレッドたちを責任者が警戒するのは当然。今までは最初以外では特に戦う機会もなく戦力を図る事はなかなかできなかったため、この機会を逃す事はないだろう。むしろ、タカミチは初めからここまで想定してエヴァに夜の警備の交代を頼んだのかもしれない。さまざまな思惑が考えられるが、レッドにとってはそこまで重要なとこではなかった。誰が何を考えていようとレッドはしたいことをする。そのための力があるし、仲間がいる。怖いものなどない。

 

「ふぅ…。それじゃあレッド君。しばらくの間頼んだよ。エヴァも僕がいない間悪さするんじゃないぞ」

 

「約束はできんな。あとお土産は京都のうまい饅頭だ」

 

「…警備はレッド君に頼んだんだけど?」

 

「私がいなきゃ頼む相手すらいなかっただろ」

 

「…お土産はいらないって」

 

「魔法界のはな。京都のはいる」

 

「…京都には行かないんだけど」

 

「いってこい」

 

「…はぁ。わかったよ」

 

 

 敵わないなぁと呟きながらタカミチは玄関に向かって帰って行き、茶々丸がそれを見送る。

 タカミチが玄関を閉める音が聞こえた後、エヴァはレッドの顔を見て満足そうに言った。

 

 

「ずいぶんとましな顔になったじゃないか」

 

 

「……」

 

 

 どんなことにせよ、日常が変わるというのは刺戟的なものである。

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 

 

 「はぁ!?柳家の妖魔使いがつかまったやと!?」

 

 京都のお屋敷のとある一室で長髪の青年が叫ぶ。襖に区切られたその部屋には円形に座布団が置かれており、それぞれに若い女性から老年の男性まで様々な人柄が座っている。

 

 「おちつけ多湖家の者。あやつはもとからエヴァンジェリンが狙いであった。反関東というよりの」

 

「落ち着いてられることか!それでもあやつは反関東魔法協会の重大な戦力やぞ!ただでさえ大きな戦力差がさらに広がってどうするんや!」

 

 諌める老年の男性の声を無視して長髪の男――多湖 呉満は声を張り上げる。

 

「だからといって騒いだところで何も変わりまへん。それに柳家が捕まったことで長の目は厳しくなっております。今は無茶な動きはできまへん」

 

 チっと舌を鳴らしてから多湖は座りなおす。

 

 こいつらは根性がない。やれ反魔法協会だやれ長だと言ったところでその重い腰をあげることはめったにない。自分の家の名誉を傷つけることを異常に恐れ、保守的に保守的にとしか動かない。麻帆良との勢力差に怖じ気づき、反勢力としての旗を掲げて長に反対することだけで自分は力になっていると思い込んでいる。いや、もしかしたらそれすら形だけなのかもしれない。昔からの家柄上反勢力を謳っているがもはや刃向かう気などさらさらないのだろう。見込みがありそうなのは天草家の長女や柳家の家長であったが、天草の者は独自に動き、柳家の者は目先の利益に焦って捕まってしまった。

 

 「とりあえずこれからしばらくは無茶な行動はよしときましょ。…では今回の定例会議は終りということで」

 

 何が今回のや…!いつも通り様子を見よう、戦況を整えよう、焦らず行こうてなんもするつもりないやんけ!

 

 多湖は内心で毒づきながらズカズカと立ち上がり家にさっさと戻って行く。ここらがあいつらとの手の引きどころかもしれない。こんなやつらに縛られて動けないでいるよりも天草のように独自で動いた方がよっぽど意味がある。

 

 多湖が苛立ちながら自分の屋敷の自室に戻ると一枚の式符が置いてあるのに気づいた。多湖は柳と仲が良かった。反勢力のなかで唯一攻撃的な柳とは多湖は気が会い、よく話す仲がらであった。そのためすぐにそれが柳家の者からだとわかると、式符から式神が現れる。猿のような式神の目から光が跳び出し、それが壁に当たると映像が流れだした。

 

 …みるからに柳の麻帆良との戦いの様子なのであろう。うまく戦力を分散しエヴァンジェリン相手に50体もの妖魔で押している。このままだとエヴァンジェリンを倒せるのではないか。そう思った所で赤い竜と帽子をかぶった少年が現れた。そこからは少年たちの独壇場であり、妖魔を次々と消滅していく。そこに高畑まで現れ、なぜか少年たちと戦いになったあと近くにいた少女とともに学園へと消えていったところで映像は終わった。

 

 おそらく柳は捕まった時のために情報収集用の式神を用意しておいたのだろう。そして、

わざわざ多湖個人が最も有用に情報を使えると考えて送ってくれた。確かにこの映像だけでかなりの情報を得れた。関東の新しい戦力になりえる帽子の少年。高畑と一戦交えたことから純粋な魔法協会のものではないのだろう。また近くにいた眼鏡の少女。この子も今までの情報から聞いたことがなかったものだ。こいつらはおそらく魔法協会に染まっているものではないと考えられる。これを反勢力のやつらに見せたところでこいつらの様子を見ようとなど言いだしてお茶を濁されることは目に見えている。それよりも

 

 

 …うまくこいつらを引き込むことができれば…。

 

 

 多湖は映像に映った帽子の少年と眼鏡の少女を見ながら、新しい作戦を立てると共に独自で動く事を決意した。

 

 




お久しぶりです。遅れて申し訳ない。更新頻度は遅れるかもしれないですけどがんばります。

そしてついにネギま側主人公がでないまま、オリキャラ、オリストに入ってしまいました。長々とやるつもりはないのでどうかご勘弁ください。


さて、ここ2ヶ月でいろいろありましたね。ポケモンオリジン、赤松先生の新作、そしてポケモンxy。

まぁネタバレをいっちゃいそうなのであまりどれも触れませんがひとつだけ。


まさか私がガルーラを嫌いになるとは思いもしなかった。

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