無口なレッドの世界旅行記   作:duyaku

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2パート分。


13 決闘とお話

 私は勝負が始まったと感じると同時に、地を蹴り勢いよく前に出る。体全体で風の抵抗を感じ髪が後ろになびく。

 相手は見たところ四足歩行に加え短い手足、素早い動きができるようには見えない。一気に近づき近接戦闘で抜く手も見せず勝敗をつける…!

私はソウさんを斬りつけるのを防ぐため夕凪の握り方を峰側に変えてから振りかぶり、さらに距離を詰める。相手にたどり着くまで後数メートル、という所で突然視界を緑色の物体が埋める。

 

「…っ!!」

 

 私はそれを回避するために一旦私は身を翻す。どうやら植物の蔓であるそれは私の頬を掠りそのまま後ろに通過していく。ボゴンッという音が鳴り、振りかえると蔓が後ろの岩を貫通しているのが分かる。

 

…なんてでたらめな威力…。直撃したら気絶なんかで済まない…!

 

 それはいまいち真剣身になっていなかった私に危機感を与えるには十分な一撃であった。一度の攻撃だけでソウさんが口だけではなく本当の強者であることを実感する。

 

(おいおいよそ見する暇あんのかよ)

 

 そう言うとソウさんの体からでるもう一本の蔓が再び勢いよく私に向かう。ぎりぎり目で追える速度の蔓をかがむことでさける。その時に自分の髪に蔓が掠り勢いのまま何本か髪の毛抜ける音がした。

 

 …見たところ蔓は出せて二本…!なら!

 

 瞬動により一気にソウさんの近づこうとする。…が足が何かにつかまれていて思うように動けないことに気づく。

 

(注意がたりねーなー。俺自身から出てる蔓だぜ?よけて、はい安心じゃ済まねーよ)

 

 見ると一度目に攻撃してきた蔓がいつの間にか私の足首に絡まっていた。

 

(別に蔓は斬ってもかまわねーんだぜ?斬れるもんならよ!!)

 

「っく!」

 

 私が夕凪を使い蔓を切断しようとした所で足首の蔓に力が入り、吊るされるように持ち上げられる。逆さまの状態でそれでも蔓を斬ろうと夕凪を横薙ぎにしようとするがその前に放り出されるように勢いよく投げつけられた。そのまま木にぶつかる前に体をくるっと回転させ木に垂直に立つような形で着地してから再び地面に降りる。

 

 なんにせよあの蔓が厄介極りない…。俊敏さ、操作性、柔軟性、威力…。どれをとっても申し分ない…。

 

 私が思考している間、ソウさんは自らの下へ蔓引き寄せ、馬鹿にするように上方に向けた蔓をゆらゆらとさせている。

 

(なに遠慮して峰打ちしようとしてんだ。余計な心配しなくていいぞ。俺の主は文字通りすげえ傷薬持ってるし…まぁどうせ刹那じゃ俺を斬れないだろうしな)

 

「…では、本気でいかしていただきます」

 

 確かに刃で斬ることに抵抗はあった。しかしもし私の師となるならば真剣を使う私を軽く打ち負かすくらいの実力でなければ師とは呼べない…。だめだだめだ、負けた時の事を考えてどうする。本気で勝って私の実力を認めさせる。ただシンプルにそれだけでいい

 

 私は夕凪を握り返し構えをとる。

 

「…神鳴流秘剣……斬空閃!!!」

 

 空を切り裂くように夕凪を斜めに振り抜く。刀身から込めた気が刃のように打ち出され途中雑草などを切り裂きながらソウさんに向かっていく。

 ソウさんは、あらよっと呟きながら二本の蔓を地面に押し当てその反動で体ごと浮かし気の刃を避ける。

 

 蔓を移動に使用した…!!今が好機!!

 

 私はすかさず瞬動でソウさんに近づく。相手は空中で動きができない。蔓も防ぐのに追いつきそうにない。

 

……もらった!!

 

私は刀を振り下ろした。

 

 

(…おしかったな)

 

 振り下ろした私の刀はソウさんの体からでる葉の淵で受け止められていた。そのまま、ぼんっという音と共に蕾から出た粉末を直撃し、私は意識がなくなった。

 

 

 

 

(…おら、おきろ)

 

 頭に響く声によりばっと私が起きるとソウさんが真横にいた。慣れない顔にうお!っ

と驚くとソウさんが心外そうな顔をした。

 

「す、すみません。少し驚いてしまって…」

 

 ソウさんは気にするなとでも言うように蔓を左右に揺らした。

 

「私は…負けたんでしょうか…」

 

(ああ。負けも負け。歴史的超大敗北ってやつだ)

 

 どやぁと顔をにんまりさせながらソウさんは言う。…それが敗者にみせる顔ですかっ…!ジロっと睨むようにしてソウさんを見るとくっくっくと笑い声を漏らしていた。

 

(まぁ、思ったよりよくやってたぜ?身体能力や反応スピードはそれなり。最後の刃を飛ばして蔓を使わせたのも上出来だったしな)

 

 思いがけず褒められて私は少し驚いた表情をする。

 

 

(でも最初に策もなく突っ込んできたのは最悪だな。俺の外見だけで突っ込むのが正解と判断したろ?俺が本気ならあそこで蔓を当ててただろうし、レッドまでついてたらなんとか避けてもその避け道まで予測されてノックアウトだ。戦いは詰まる所立ち回りと間合いだぜ?勝つためにはまずは負けないことができるようにならねえと)

 

 

褒められたと思ったら一気に落とされてなんとも言えない気持ちになる。しかし思ったよりもソウさんが私との戦いを分析していたようで私は聞きいっていた。

 

(お前生真面目な性格のくせして妙に突っ走る癖あるだろ?格下相手じゃ通じるけど格上じゃカウンター取られてあぼんだぜ。)

 

「っう」

 

 確かにそうかもしれない。京都からこっちに来て長が相手をしてくれなくなってから、久しく格上と言われる人たちと戦っていない。夜、龍宮と組んで侵入者と戦う時も龍宮のフォローあっての戦いだし強者と呼ばれるものは多くはなかった。いや、龍宮のフォローがあったからこそ私はいつも斬り込みに行けたのだ。それに慣れてしまったのか、深く考えずに斬り込む癖が確かについているのかも。

 

 

(格上と戦う時、常に考えろ。思考をとめるな。仮にも剣士なら斬られたら終わりなこと位分かってるだろ?奇策秘策なんでもいいから使って何が何でも勝たなきゃならねえ。逆に格下と戦う時は決して驕るな。死に物狂いの奴は何をしてくるか分からん。それこそ邪道な真似だろうがな。お前は絡め手や駆け引きについて学ぶべきだな)

 

「……」

 

 すごい…。こういう風に私に戦い方を教えてくれる人は多くなかった。これは多大な戦闘経験と実力があるから言える言葉だ。

 

(あとは―)

 

 

「師匠!!!」

 

 

(うお!)

 

 

 突然声を張り上げたことによりソウさんはびっくりするようにのけぞる。

 カエルを師にするのは未だ若干抵抗がある。しかしこの人、いやこのカエルに教わるということは多く得るものがあるはずだ。力を得るために、恥を忍ばずにはいられない。

 

 

「これからよろしくお願いします!!!」

 

 

(お、おう)

 

 

 急に態度を変えた私に少し引き気味になりながら師匠は承諾する。その後毎週この場所で鍛錬することを約束して私たちはそれぞれ帰って行った。

 

ここに奇妙な師弟関係が誕生した。

 

 

 

――――――――――――

 

 

 「う―…ん」

 

 目が覚めると同時に私は両手を上に向かわせるように体をぐうっと伸ばす。まだ眠気は残っているが、おちおちしていたら学校を遅刻してしまう。二度寝したい誘惑に打ち勝ち私は顔を洗いに行く。

 

 洗面所で顔を洗い、寝癖を直すようにアイロンでブローをかけている間、この土日の事を思い返していた。道で拾った大きな猫が実は他の世界からきたモンスター、ポケモンといわれるもので、この世界には魔法使いなんかが存在していて、教員やクラスメイトがまさしくそれであった。秘密を知ってしまった私は身を守るために自分を守ってくれるポケモンを育てることとなり今に至る。

 

 …改めて考えても冗談のような話であった。できることなら夢であってほしい。そう思うがちらりと視線に入る卵がこれが現実だということを突き付けてくる。ここが一人部屋というのが唯一の救いであった。あんな大きな卵見られたら何を言われるかわかったもんじゃない。一応学園長がこの卵にも認識阻害をかけてくれたが、私のクラスに持って行ってどうなるか考えただけで若干憂鬱になった。

 

 髪を後ろに結んだあと適当に朝食をとり、歯を磨いて制服に着替える。伊達眼鏡もしっかりと装着し重い足取りで学生かばんと卵の入ったナップサックを背負い私は学校に向かった。

 

「おはようございますです、千雨さん」

 

「…おう、おはよう綾瀬」

 

 教室につき席に近づくと隣の席の綾瀬に挨拶されてそれを返してから席に座る。非常識なやつらばかりのクラスだが、数少ない常識的な人間にはあいさつくらい返す仲だ。

 

「…?珍しい荷物ですね?そのナップサックはどうしたんですか?」

 

「っぎく」

 

 いきなり隠しておきたかった事をつかれ焦る。何が認識阻害だ。全然阻害できてねーじゃねーか!

 

「い、いや、これは、あのな」

 

「…?まぁ言いにくいものなら特に言及しませんが。そんな珍しいもの入れてるようじゃありませんから」

 

「…ああ、そうしてもらうと助かる」

 

 卵のシルエット丸出しなんだけどな…。一応魔法きいてんのか…。

 なんとか怪しまれてはいないものだから少しほっとする。

 

「おい」

 

 綾瀬と二人で話していると、いつの間にかエヴァが近寄り声をかけてきた。

 

「屋上にこい。それをもってな。話がある」

 

 それだけ言うと眠そうにあくびをしながら教室から出ていく。茶々丸がその後ろについて行き、こちらに一例してから続いて教室を出た。

 

「…エヴァンジェリンさんが朝からいるなんて珍しいですね。それに話って…」

 

「あー、この土日にたまたま会ってな。ちょっと行ってくるわ」

 そう言って私は卵の入ったナップサックを持って立ち上がり、教室を出て屋上に向かった。

 

 

 

 

 

「急になんだよ、呼び出して」

 

 まだ寒さが目立つこの季節。さすがに朝から屋上を使用する者などおらず私たち以外に人はいなかった。

 

「ふん。まだ授業まで時間がある。それに多少さぼっても全く問題ない」

 

「あんたはな。私は目立ちたくないからちゃんと授業受けておきたいんだよ」

 

 

 私は寒さを少しでも和らげるために両手で腕をこすりながら答える。茶々丸は寒さなどまったく感じない様子で、エヴァは寒さに慣れているのか特に反応を見せずなんとなく眠そうにしている。

 

 

「っは。目立ちたくないだと?こんな卵までもって来てよく言うわ」

 

 

「うるせーよ。要件はなんだよ」

 

 

 痛い所をつかれ、私はムスっとしながらいう。

 

 

 

「では簡潔に済ますか。…貴様のその卵、私に譲らないか?」

 

 

「……は?」

 

 

 予想外の要件に思わず声が漏れる。

 

 

「貴様がその卵を必要とするのはなんのためだ?自らの身を守るためだろう?私にそれを渡したら責任を持って私が貴様を守ってやる。いくら衰えようが貴様一人守るすべくらいいくらでもある。茶々丸もいるしな」

 

 

 

「……」

 

 

 

 エヴァが淡々と語るのに私は黙って答えられずにいる。屋上に吹く風がヒュウウと音を立てるのが耳に入る。

 

 

 

「それを持っているのはさぞめんどくさいだろう?それに貴様は生まれたそいつの面倒まで見なくてはならない。私に身の安全をゆだねれば貴様が何もせずとも守ってやる。私に任せれば今までとかわりなく安泰な学園生活を送れるぞ」

 

 

 

「……」

 

 

 

 エヴァの言うとおりだ。ポケモンといえど生まれた時は赤ん坊。いずれ強くなるとはいえそれまで世話をするのは当然私だ。それは私が望んでいた日常的で平穏な生活とは離れているかもしれない。引き換えエヴァに任せれば私は何もすることはない。危険な目にあってもエヴァの助けを呼ぶだけでいいのだ。

 

 

「…お前はこの卵をどうする気だ」

 

 

「何、別に悪いようにはせん。特別珍しいものだから暇つぶしがてら私が育ててみようと思っただけだ。無理に研究材料にしたりなどするつもりもない」

 

 

「……そうか」

 

 

 私は、考える。たぶんエヴァは嘘などついていないであろう。ポケモンが好きそうな茶々丸までついている。もしかしたらエヴァたちの下にいる方がこのポケモンもいいのかも知れない…。

 

 …その後少し考えた結果、決心はついたが、それは初めから思っていたことと変わらない答えだった。

 

 

 

 

「…エヴァその話……悪いが断らせてもらう」

 

 

 

「…ほう」

 

 

 ニヤリと笑みを浮かべながらエヴァは私に問う。

 

「…それはなぜだ?」

 

 

 

「…大した理由じゃねえんだ。いや、ただの自己中心的な考えなんだけどよ」

 

 

 ―――私は一息ついてからぼそぼそと話し始める。

 

 

 

「この卵な。もらった時は確かに面倒なことになったなと思ったし、これからのこと考えていろいろ悩んだりもしたさ。

―――でもな、これを背負った時に重みと温かさを感じたんだ」

 

 

 茶々丸とエヴァは聞き入るようにじぃっとこちらを見つめてる。

 

 

「…これ、フィーによるとどっかのトレーナーに捨てられた卵らしいんだ。育てるのに億劫になったやつのな。それを聞いて他人事のようにひでえやつだな、なんて思った。その後この卵をよろしくなんて言われて、特に考えることなく持ち帰ったよ。んで昨日一日この卵を見ながらいろいろ考えた。…そしたらな、この卵たまに揺れるんだよ」

 

 

 

 だんだんと自分の言葉に熱が入りいつの間にか寒さを感じなくなっていた。

 

 

「私、それみて思ったんだ。まだ卵なのにこいつこんながんばってるって。それで柄にもなくこいつのためにできることないか考えちまった。毛布まいてあげたり、なでてやったりしてな。」

 

 

 

 まだ生まれてもないのにな、と少し笑いながら続ける。

 

 

「ただの同情かもしれねえ、似合ってもねえ母性本能っぽいのに当てられただけかもにしれねぇ。でもこいつは私が育てたいと思った」

 

 

―――私は顔を上げ二人を見つめ返す。

 

 

「気づいたら守るだが守られるだがの事考えてなかった。私の都合だけで悪いが、こいつは私が育てたい。私に育てさせてくれ」

 

 

 

頭を下げて頼みこむ。少しの間風の音しか聞こえず、エヴァたちは未だ私を見ていた。

 

 

「ふん。上出来な答えではないか」

 

 

 くっくっくと笑いながらエヴァは口を開いた。

 

 

「ちなみに言っておくが、貴様の気持ちを少し試してみただけだ。まぁ卵をくれるといったならしっかりともらっておいたがな。…戻るぞ茶々丸」

 

 

「はい、マスター。千雨さん、その子をよろしくお願いします」

 

 

 

エヴァは身を翻し校舎への入り口に向かっていく。

 

 

呆然と立つ私に背負われている卵が少し動いた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はいどーも13話です。
書きたかった話がかけました。レッド?もうちょいまってね。
こっからは原作までちょい早回しでいきたいですね。


更新ペースはまたちょっと遅れるかも。すまぬ…

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