無口なレッドの世界旅行記   作:duyaku

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12 カエルと刹那

 休日である今日、剣道部の練習も終り本格的に体を動かそうと私は山間部の近くで鍛錬を行っていた。楓曰く、平野に比べ山での修業は足腰などの筋力をもちろん、自身の精神力、状況把握などの力も身に付くのだとか。

 実際今日やってみると、なるほど足場は一定であらず途中途中にあるぬかるみや崖に足を取られることもあり、地形を把握しながら様々な型を取るのは今まで通りにはいかず存外新しい感覚であった。確かに本当の戦いがいつも戦いやすい場所であるとは限らない。このような経験をしておくのは役立つ時が来るかもしれない。

 また、筋力や経験的な意味だけではなく、生きた木々に囲まれて鍛錬するというのは、道場では味わえない清々しい気分にされた。聞こえてくる川のせせらぎやそこに住む動物たちの鳴き声は決して気持ちを揺らがすような物ではなく、自身もまた自然の中の一つであるということを確認させてくれる。道場の匂いや雰囲気も自身の集中力を湧かせているがこのような場所でたまに修業するのも気持ちがいいものかもしれない。

 

 いつもとは少し違った気分で汗を流しながら刀を振る。せっかく広い場所だし人目もないのだから移動術などもたまに織り交ぜ大胆に行動する。そうしていると、少し外れの林の方からどしゃんと何かが崩れるような音がした。初めは大して気にもせず修業を続けていたが、いくつか時間が経つとまた同じような音がする。せっかくのいい気分が少し削がれたような気がして、一呼吸置いた後音が聞こえた場所に木々の上を跳びながら向かっていくことにした。その後も音はなりやまず、それ頼りに移動を続け、ある程度近くの所まで来たかというところでなんとなく地面を見た。すると

 

 

 

 

 背中につぼみと草を生やした大きなカエルがこちらを見上げていた。

 

 

 

 

 「うわあ!」と普段クラスメイトの前では絶対に出さないような短い悲鳴をあげ、木の枝の上にいることを忘れ少し下がろうとして、そのまま枝から落ちる。若干体を委縮していたので受け身も取れず、ドサっという音を立ててお尻から地面に落ちる。体は一般人よりかなり鍛えてあれど多少は痛い。少し涙目になって前を向くと

 

 

 

(おい大丈夫かよ)

 

 

 

 カエルが話しかけてきた。

 

 

 

 私はばっと体勢を立て直し手に持っていた夕凪を前にしてカエルに問う。

 

「…貴様、何者だ」

 

(お、そういや俺念話使える状態のままか。フィーは相変わらず器用だな。いやあいつほどレベル高ければできることなんか。いやぁエスパータイプは無茶苦茶だな)

 

「…質問に答えろ」

 

 確かによく聞くと話しているのではなくて念話で直接語りかけて来ている。だがこの姿、どう見ても魔物や妖怪の類。きっとカエルモンスターやらカエル妖怪やら言う奴であろう。聞いたことはないが。魔物などがこの土地で簡単に現れることは難しいのだからおそらく手引きしたものがいるはず。万が一お嬢様の被害になり得ることを考えると放っておくことなどできない。

 

(あーっと、怪しいもんじゃないぜ?一応俺の主はあんたの所の学園長だかに話は通してあるし)

 

「…確認する」

 

 八重歯をちらつかせながら余裕そうに微笑んでいるカエルを置いておき、学園長へ確認の電話をかける。

 

<学園長、桜咲です>

 

<おお、いつもこのかが世話になっとるのう。何かあったのかの?>

 

<今ほどつぼみを生やした大きなカエルと遭遇したのですが、何やらこれの主があなたと話を通してあるとおっしゃっているのです。これは本当でしょうか>

 

<つぼみを生やした大きなカエル…?…ああなるほど、おそらくレッド君のモンスターじゃな。認識阻害があるからと言ってあまり好き勝手出歩かないでほしいのじゃが…。ん?いや、わしの客人の話じゃ。しばらく麻帆良に住むことになっていての。とりあえずの所害はないはずじゃ>

 

 

 確かにこのカエルには強力な認識阻害がかかっている。こんなものをかけられるのは学園長くらいであろう。これなら町中に出ても麻帆良の人たちなら工学部のロボットやら突然変異やらで騒ぐだけでそこまで大したことにはならないし、このカエルが他の人に害をなさなければ問題はないか…。

 

 

<…わかりました。わざわざすいません>

 

<いや、またなにかあったら連絡をくれい>

 

 失礼します。といって電話を切り再びカエルの方向く。

 

 学園長はカエルの主であろう「レッド」と呼ばれる者のことを客人とおっしゃていた…。つまり私のしたことは…。

 

 自分がやらかしてしまった失態に気づき取り返しのつかない気持ちになる。もし私の行動の所為で客人と学園側の関係に問題が起こってしまったら損害など測りきれないかもしれない。自分の顔が若干青ざめ冷や汗を書いていることがわかる。

 

 

「…失礼しました!学園長の客人の使いともしれず無礼なまねを!この責任は全て私にあります!」

 

 

 私はものすごい勢いで膝をつきカエルに頭を下げる。…いやまさか人生でカエルに頭を下げる経験をすることになるとは思いもしなかったが。いけないいけない。こう思うこともすでに失礼である。

 

(なんだか頭の中の方が失礼な事いってる気がするが…。いやまぁ気にすんなよ。そりゃポケモンしらねぇのに俺達みればそうなるのは仕方ねーよ)

 

 ポケモンが何かは分からないが、無礼をしたのは確かである。

 

「…しかし…」

 

(あ~気にすんなって俺が言ったんだから気にすんな!な!気つかわれる方がしんどいぜ)

 

 つぼみと体の境目から2本の蔓がとびだし、まるで人間が「やれやれ」とポーズをとっているかのように形を成す。

 

「…わかりました。ありがとうございます」

 

(…なぁあんた。生真面目ってよく言われねぇか?)

 

「っう」

 

 銃を好んで使う自分の相棒にもよく言われる言葉を言われ詰まるような声が出る。

 

「…あの、えーとカエルさん」

 

(まてまて)

 

「?」

 

(誰がカエルだって?)

 

 

 いやどう考えてもあなたしかいないのだけれども。いくらつぼみを生やそうがカエルはカエルなんじゃないのか?

 

 

(お前ずっと俺の事カエルだと思ってたの?)

 

「…失礼ながらそれ以外に該当する言葉を知りませんでした」

 

(…よくあんな真顔でカエルと思うもんに「何者だ」とか聞けたな)

 

「カエル妖怪とかだと」

 

(やっぱ失礼だなお前!)

 

 カエル妖怪がイ―っとぎざぎざな歯を見せるように威嚇しながら言う。なんかよくみたらちょっとかわいい気もしてきた。ほんのちょっとだけ。

 

(俺は!「フシギソウ」の「ソウ」っていうの!これからは「ソウ」と呼べ!おけい!?)

 

「お、おけいです!」

 

 ガミガミと迫りながら言われたので咄嗟に答えてしまった。私が答えるとカエ…じゃなくてソウさんは満足そうによしと言った。

 

「それで、えと…ソ、ソウさんは何しにこんな所へ?」

 

(ん。いやぁなんか家を造るから木を切れとか言われてな、結構な量切って渡してやったんだが永遠に作れそうにないんでばっくれてきたところだ。まあ必要な分の材料は渡したし俺がいてもいなくて変わらんだろ)

 

「では先ほどからする音は…」

 

(あいつらが家建てては崩してる音だ。…っお、今ので7回目くらいか)

 

 話している途中にも大きな音が聞こえ、ついでに何か悔しがっているような鳴き声まで聞こえた。材料木だけで家をつくるなんていくらログハウスでも無理がある。…というか客人が家を自作してるって実は大した客人ではないのか。

 

(んで、そーいうお前は何してたの)

 

「桜咲 刹那です」

 

(は?)

 

「私の名前です。お前ではないです」

 

 気を使わないでほしいと言われたので、こちらも少し強気で私の名前くらいは知ってもらおうかと思った。別に大した客人でないと分かったからって気を大きくしているわけではないのである。

 

(…っは。んじゃ刹那、お前はこんなとこで何してた)

 

…まさか名前呼びとは。クラスでもそんないないのにカエルに…。いやカエルじゃなかった。

 

「えと、剣の修業をしていました。そしたら先ほどの音が聞こえ気になったのでこっちまで様子を見に来たんです」

 

(ほーお。修業ねえ…。強いのか、刹那は)

 

 

「いえ、私などまだまだです。もっともっと強くならなければ…」

 

 

 

 自分の弱い気持ちに負けないように。

 

 

 なによりもお嬢様を守れるように。

 

 

 

 

(ふーん…。…よし!わかった!俺も刹那に修業をつけてやるよ!)

 

 

「へ?」

 

 

いやいやいや何がわかったのだろうか。私には話の流れが全然分からない。

 

(まぁまぁまぁ遠慮すんなって。俺もここ二日くらい体動かしてねぇしちょうどいーわ)

 

「いや、あの、私の修業は剣の修業なんで…」

 

(いいんだよ細かいことは!一人より二人のがいーだろ?)

 

「二人と言うより一人と一匹ですよ!」

 

(うるせーよ!一人じゃないのに変わりはねーだろ!)

 

 だめだ、ここで押し負けたら本当に一緒に修業することになる。カエルと一緒に修業をしてるのを龍宮になんか見られたら死ねる。

 

「えと、その!対人の方がいろいろと修業になりますし…!」

 

(その人がいねーから一人でやってたんだろ?いろんなやつと戦うのも経験だぜ?)

 

「いや流石にカエルと戦う経験なんて必要ないですし!」

 

(ああ!??)

 

「ていうかカエルと修業したところで修業になりませんし!せめて同じくらいの実力者同士でないと!」

 

(あああ!????)

 

 ついつい口論がヒートアップしていき、ソウさんのほうが顔に青筋を立ててひくひくとさせている。

 

(なるほど…。お前は俺がお前より劣っているって言いたいんだな…?)

 

 

「……はっきりとは言えませんが…。私などまだまだですが魔物などと戦う経験もしております。遅れをとる気はありません」

 

 

(…はーん。わかった…。ここで一勝負して白黒つけようぜぇ…)

 

「…はい?」

 

 な、なんかまずい話の流れになってしまった。つい言いすぎた感はあるが本当に戦う流れになりそうだ…。

 

 

 

(俺が負けたら修業の話はなしでいい。だが俺が勝ったら刹那はこれから俺のことを「師匠」と呼べ。毎週稽古をつけてやるよ…!)

 

 

 

「んな!」

 

 カ、カエルを自分の「師匠」にしろと!?剣に生きてきた私がいつの間にかカエルを師にするようなってしまうのか!?全然笑えない!というか何の師だ!

 

(おお?断るつもりか?別に大した話じゃない。刹那が勝てばいいだけだ。そしたら今までの話は全部なし。一件落着。…勝てるんだろう?自称俺より強い刹那さんよぉ…!)

 

 

 

 っく、なんかソウさん切れてらっしゃる…。これはもう…。

 

 

 

「…わかりました。私が勝てばいいんですね?」

 

 

 

 私が勝って大人しくしてもらうしかない…!

 

 

 

 私は万が一人が集まって来ないように防音の符を周りに展開する。

 

(いい答えだ…!参ったと言わせるか気を失わせるかで勝ちだ…!おけい?!)

 

 

「お、おけいです!!」

 

 

 絶対に負けられない勝負が始まる。

 

 

 




№2 フシギソウ

たいようの ひかりを あびるほど からだに ちからが わいて せなかの つぼみが そだっていく。


あえてのフシギソウです。まさかのスマブラのトレーナーの御三家。実は一番フシギソウが好きです。フシギソウかわいい。メガ進化は…うん。


そして刹那。こんなキャラだっけ?

ではまた。

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