無口なレッドの世界旅行記   作:duyaku

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 はるか上空、まわりは空の青さと漂う雲の白さに覆われ、そこは地上のもの全てが粒に見えるような高さであった。そんな人の力だけでは大抵及ぶことのできない場所を1匹の大きな赤い動物が翼を広げ眼を見張るような速さで飛び、その上には少年一人と白に紫がかかった毛並みをもつ猫のような生き物が乗っていた。少年は頭にかぶっている帽子を落とさないように片手で押さえ、もう片手で地図を押さえながら赤い動物を掴んでいる。

 

 …いや動物やら猫やらという表現はここでは間違っている。彼らは「ポケモン」。「モンスターボール」と呼ばれるものに彼らを入れるとポケットにしまえるサイズになるモンスター。つまり「ポケットモンスター」。すなわち「ポケモン」。だれがその呼び名を決めたかは分からないがそのように名づけられた彼らはそう呼ばれ、人間たちで彼らを知らないものはいないと思われるほどこの世界では多く存在している。ポケモンたちはそれぞれ自分のタイプに見合った超現象的な力を持ち、それらを発揮することができる。例えば火のタイプをもつものは炎を操り、水のタイプをもつ者は水を使役したりする。

 

 人は彼らをモンスターボールに入れ自分のポケモンとして持ち、共に生活したり仕事の手伝いにしたりするが、そんな中で自分のポケモンと共に強さを求めて旅に出るものたちもいる。人は彼らをすなわち「ポケモントレーナー」と呼ぶ。ポケモントレーナーはそれぞれの町に存在するポケモンジムの頂点である「ジムリーダー」に挑み、その実力を認められることでバッジを受けとることができる。既定の数のバッジを持ち強さの証明ができる者はポケモンのチャンピオンを決める―チャンピオンリーグに参加する権利を授かり、そこで挑戦者として全ての対戦で勝つことでその地域のポケモンチャンピオンと呼ばれるのだ。

 

 さて、先に紹介した大きな赤い翼をもつポケモン――「リザードン」の上にいる少年も、もちろんポケモントレーナーである。所得バッジ数は8。――過去のポケモンリーグの優勝者である。そんな彼は今無表情のままリザードンの進行先と手元の地図を見広げ悠々としている。通常は座っているのも辛い速度のはずだが、その様子からこの速度でリザードンの上にいるのが慣れているのがよくわかる。その姿を見て横にいる猫っぽいポケモン――「エーフィ」が溜息をつきながら念話を飛ばしている。ちなみに「リザードン」のニックネームは「リザ」、エーフィのニックネームは「フィー」である。名づけ親は彼らの主であるこの少年である。

 

<ねぇ、レッド?あなたのその思いついたら即行動の癖、どうにかならないの?まきこまれる私たちの気持にもなってほしいのだけど>

 

<……>

 

 ジトっと軽く睨むようにしてフィーはその少年――「レッド」の方を見る。レッドは視線に気づいてはいるようだが、何も気にしていないかのように表情を変えない。

 

<……はぁ。またお得意の「……」ね。あなた黙っていればなんとかなると思っているんじゃない? ていうかいつも思うけどしゃべらないのに念話繋げる意味あるのかしら>

 

 フィーは今エスパータイプの能力を応用し自分の考えが相手に届くよう念話ができるようにしている。エスパータイプといえど簡単にできることではないが、飄々とやってしまうその様子からフィーの実力がいかに高いのかが容易に想像できる。そんなフィーの叱咤もまるで届いていないかのようにレッドは念話にも答えない。

 

<がっはっは!坊主のだんまりは今に始まったことじゃなかろうよ!>

 

 リザは長い首を曲げ顔をこちらに向けながら豪快に笑う。彼もまたフィーの能力対象となっているために念話にて意思を飛ばすことができる。レッドは「坊主」と呼ばれたことからムッとした顔になりパシパシとリザの背を叩く。それを受けてリザはなぜかまた「がっはっは!」と笑う。

 

<そうはいってものね。いつまでもだんまりしていたらレッドが将来困るのよ?はやいうちに治さないと。この前なんてショップで店員がおつりを間違えていた時、無言で永遠と圧力かけてたのよ?「おつり間違ってます」くらいいったらどうなの?>

 

<……>

 

 レッドが睨むようにしてエーフィをみつめる。ふんっ!という感じでエーフィは顔をそむけながら攻撃…もとい口撃を続ける。念話ではあるが。

 

<だいたいねぇ、トレーナーに勝負しかける時も無言でずんずん迫っていくだけでしゃべりもしないし。ミニスカート相手の女の子にやったときは大事になりかけたの忘れたの?たださえ表情もめったに変えないのにそんなことして。>

 

<……>

 

 レッドがうつむき心なしか顔が暗くなる。フィーはしかしめずらしく表情を変えたのが暗くなることであったことに気づき少しやりすぎたかなとも思った。

 

 

 レッドはコミュニケーションが下手である。それはもう壊滅的に。なんてったってめったにしゃべらないのだから。俗に言う無口というものなのだろうか、なぜここまでかたくなにしゃべらないかは分からないが、まったくしゃべらないというわけではない。本当に必要な時はしっかりとしゃべる。例えば、ポケモンたちのニックネームをつける時は流石に言葉にしないと伝わらない。呟くようにポケモンに向かってニックネームを告げる。それでも彼がコミュ症なことに変わりはないが、ポケモンたちにとってニックネームをつけられることはうれしい。彼らだって1匹1匹個性があるし、種名で「エーフィ」と呼ばれるのは別に嫌ではないが長く共にするトレーナーにはやはり自分だけの名前をつけてほしいものである。

レッドは例え滅多に話すことがなくても決してポケモンのことをないがしろにするような真似はしない。それぞれのポケモンの性格をいち早く理解し、ポケモンたちがしたいようにさせてくれる。むしろ人との関係より自分のポケモンたちとの関係のほうが大事にしているのかもしれない。しゃべりはしなくてもポケモンたちを愛情込めてなでてくれるし、大切にしてくれるている。そんなレッドの気持ちが直感で本物だとポケモンたちも理解できるので例え彼がしゃべらなくてもついていく。実際レッドとレッドのポケモンたちとの間には言語によるコミュニケーションが必要ないほど深い絆があるのだ。…まぁそれがレッドのコミュニケーションの劣化にさらに拍車をかけているのだが。ちなみにそんな中なぜ念話をするようになったかというと、フィーがもっとレッドと関わりたいと思ったからである。念話なら彼もしゃべれるだろうし自分たちのことをさらに知ってもらえるだろう、そう期待した時期がありフィーが他のポケモンと相談して始めたのであった。結果、レッドが念話でもまったく変わらないという自分のトレーナーのダメダメさに彼らポケモンたちがそろってため息をついたのは簡単に想像できることである。

 

<お、坊主。目的地が見えたぞ>

 

<… …>

 

 レッドが坊主と呼ばれることに抵抗することをあきらめ、前方の目的地に目をやる。リザは先ほどよりも速度を落としバサッバサと大きく羽ばたくように移動する。フィーがレッドの持つ地図を覗き込むようにして、前方の場所と地図を見比べてつぶやく。

 

<思えば長い空旅だったわねぇ。こんな長く空で旅したの初めてじゃないかしら。…うん、地図から見るに場所はあってそうね。あそこが――「テンガン山」>

 

 

「……」

 

 

 それはレッドがテンガン山にむかう前のことである。雪が降る中。いつも通りシロガネ山で特訓をしていると、めずらしく彼を訪ねる者がいた。

 

「レッドさああああん!!」

 

 遠くからレッドに手をふりながら小走りで近づいてくる少年――「ゴールド」はレッドのそばまで駆け寄ると、肩で息をしながら話しかけてきた。

 

「あんたまーだこんなとこにいたんすか。いちいち連絡しにくるこっちの身にもなってくださいよ。」

 

「……」

 

 かなりフランクに話しかけてくるゴールド。雰囲気はちゃらちゃらした感じだが一応彼にとっては全力の敬語なので彼なりにレッドには敬意を払っているのであろう。

 

「…はぁ。いやあんたのだんまり症はもうなれてるからいいっすけどね。オ―キドのじっちゃんがポケモン図艦ちょっぴり更新したいから戻って来いっていってましたよ?」

 

「……」

 

「ちゃんと行ってくださいよ!?ここにこれるの俺かグリーンさんぐらいしかいないせいでいっつもお使い感覚でたのまれるんすから!…え?ポケモン勝負?いやっすよ!めんどくさい!それに今日はあんまり戦闘用のポケモンもってきてないんすから!」

 

 レッドのボールを無言で持ち上げる仕草だけで何をいいたいのか把握できる時点でゴールドとレッドの仲のよさが分かる。少し前まで二人でこの場所で修業し高めあった仲だから当然ともいえるが。ちなみにめんどくさがりのゴールドはその時に二度とレッドと修業しないことを誓ったのだとか。

 

「あーそれじゃ俺帰りますね?あんま長いすると風邪ひきそうですしここ。」

 

「……」

 

「はいはいまた今度ポケモンしっかりもってきますよ。おそらく、たぶん、めいびー」

 

 ゴールドがレッドに背を向きながらめんどくさそうに手をふって帰ろうとする。途中何かに気づいたようにつぶやくようにして言った。

 

「あ、そういえばシンオウ地方のテンガン山に神話に伝わるポケモンが最近一瞬だけ姿を現したらしいっすよ。んでその辺は空間に乱れがみられるから近づくなってマサキがいってましたっけ。わざわざあんなとこまで行くやつなんていないと思うけど」

 

 ゴールドがそう言って振り返るとすでにレッドの姿はなく彼のポケモンの羽ばたくような音だけがかろうじて聞こえた。

 

 

 レッドはテンガン山の頂上「やりのはしら」に到着し、あたりを見渡した。がれきが崩れ今にも壊れそうな場所であるが、それなりに広く床がわりと平らにそろっていて歩くのにそんなに困らないことを考えると、昔は整備された場所だったのが分かる。

 

<ふぅむ。こんな場所に神話のポケモンがのう>

 

 リザが首を下げ短い手で顎をさすりながらいう。

 

<まず、目撃情報からして怪しいのだけれども。一瞬だけあらわれたってどうゆうことかしら。そして空間の乱れっていったいなによ。そんな現象聞いたことないわ>

 

<……>

 

 2匹のポケモンが考察している間、レッドが周りを索敵する。確かに普通はあんな目撃情報じゃ動かしない。いくらレッドがすぐに行動を起こすタイプでも情報くらいは集めてからいく。しかし、神話級のポケモンと言ったらのんびりしていて会える相手でもない。伝説のポケモンは数度しか会ったことがないが、どれも神々しいオーラを放ち目を奪われるような者たちで会った。そんなポケモンに会えるなら会ってみたいという気持ちがあったが、それだけが理由ではなかった。

 何か言い表せない直感があった。そこに行けば何かがあると。最近の退屈な状況から何か変わると。別にポケモンたちと修業するのが退屈だと言ってるわけではない。

 

 ただ、強くなりすぎると変わってしまうものがあるのだ。周りも、自分も。

 

 <レッド?何か見つけたの?>

 

 てくてくとフィーが近づいてくる。なにもないと手振りで示そうとした時、それは表れた。

 

 <何…これ…>

 

 それは確かに空間に存在していた。円のなかに青い流線がうずまき、異様な雰囲気を醸し出すそれ。明らかにこの世界では見たことがないものである。フィーがおそるおそるそれに近づこうとする。

 

「… …フィ!!!」

 

 レッドは本能的に危険を察知して声を荒げフィーを止めようとする。

 

<え…きゃぁ!!!>

 

 久しぶりに声をだしたレッドに驚いたのもつかの間、フィーはその空間に吸い込まれるようにして飲み込まれた。

 

「… …!!!!」

 

 レッドは勢いよく駆けてその空間に手をのばす。

 

<坊主!!!!!>

 

 リザもそんな主につづき猛スピードでレッドを止めようとする。

 

「……………………!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 スゥという音がきこえ、一人のポケモントレーナと二匹のポケモンを飲み込んだそれは姿を消した。

 

 




どーもはじめまして。duyakuです。
思い立ったので書いちゃった系です。初執筆です。

小説かいてる人はみんなすごいですね。一万文字くらいのを投稿しづづけてる人はほんと尊敬しました。

今後の構成はまだ悩んでますが、設定として、ポケモンたちはあまりゲーム基準ではないです。ゲームの技などはつかいますが、自分たちでいろいろ応用できる形にする予定です。
また次からは視点をだれかに固定しようとも考えてます。んーフィーとか。

感想、批評まってます。

※9/10少し改訂しました

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