セングラ的須賀京太郎の人生   作:DICEK

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現代編19 長野県大会 個人戦編③

 

 

 

 

 

 気持ちが強ければ勝てるほど麻雀は甘いものでもない。ではどんな気持ちでいても勝てるかと言われるとやはりそこまで甘いものでもない。京太郎は予測と気持ちはまた別なのだと言う。これは負けるなと心の底から思ってもそれでもなお勝つつもりでやるのがあるべき姿だとも言っているのだが、自分にその境地はまだまだ遠いなと頭痛と戦いながら咲は思った。

 

 長野県大会女子個人戦決勝、第九回戦。前半五戦の不調を補うため、咲はかつてないほどに集中して麻雀を打った。気持ちが牌に乗ったかは分からないが、少なくとも感性は冴えわたっていたように思う。自分が沢山稼いでも、相手がそれ以上に稼いでいたら意味がない。とにかくガメつくとにかく点棒を回収する。自分はただそれだけのマシーンなのだ。

 

 オーラス。六本場。ラス親である咲はとにかくアガリ続ける。現在点棒は85000点。他家の点棒は上家が3300、対面が5900、下家が5800。役満が直撃しても逆転しないぶっちぎりのトップである。対戦相手も皆早く終わってくれと陰気な顔をしている。ならここで終わっても良いかと考えるのはただの素人だ。デキる清澄の選手ならこう考える。ハネ満ツモでマルAトップだと。

 

「リーチ」

 

 南四局六本場 親

 

 三四赤五⑧⑧⑧3455赤578 ドラ四

 

 もはや勝ちの目のなくなった試合であるが公式戦の対局は記録が残る。わざと振り込んだと思われたら今後の起用に響くので、下手に手を抜くことはできない。

 

 最低限切った牌にはこういう理由がありましたと監督コーチに説明できなければ最悪干されてしまうのだが、手牌全てが当たり牌に見える状況と言うのは競技生活にはよくあることだ。

 

 咲から見て下家の選手はまさにその状況で何を切るのか散々迷った挙句、端牌だからという理由で九索を切り出した。一発での振り込みである。対面の選手はまだ冷静で咲の当たり牌をその辺りだと正確に読んでいたが咲からロンの声はかからない。

 

 外したかな? と自分の読みに不安になりつつも現物を切る。上家もそれに続いた。続いて咲のツモは、

 

「カン」

 

 八筒をツモし暗カン。王牌に手を伸ばすのを見て、対戦相手たちは全員手牌を伏せた。

 

「ツモ。リーチツモタンヤオ嶺上開花ドラ1赤1、裏は……なし。ハネ満の6本場、6600オールです」

 

 嶺上牌は六索。下家は咲のツモの声に僅かに遅れて自分の切った牌が一発での当たり牌だということに気づいたが、声を上げることはしなかった。団体決勝で大活躍したこの一年がまだ全国行きの切符を争っていると解っていたからだ。見逃しはムカつくがここで声をあげても恥の上塗りである。苛立ちとついでに悔しさを飲み込み、下家の選手は努めて笑顔を浮かべた。

 

「ありがとうございました。最終戦、がんばってね!」

「……はい、ありがとうございます」

 

 見ず知らずの選手に話しかけられて面食らっている咲を他所に、対局相手の選手たちは頭を下げ、会場に散っていく。九回戦が終わり、次が最終戦。オーラス六本場まで引っ張ったから、おそらく自分の卓が最後だろう。

 

 同じ学校の選手が三人以上にはならないようになど最低限の配慮はあるが、最終戦に限らず個人戦の対局相手はランダムに決定される。現在の順位などは考慮されない。デジタルのサイコロを振るように、粛々と対戦相手が決められるはずなのであるが、

 

 十回戦。最後のオーダーが発表されると会場にどよめきが走った。なにかしらと、考え過ぎてぼーっとする頭で電光掲示板を見る。

 

一位 福路美穂子(風越女子)+602点

二位 原村和(清澄)    +430点

三位 南浦数絵(平滝)   +370点

四位 宮永咲(清澄)    +360点

 

 まず最初に総合順位での自分の名前を探す。現在四位。三位との差は僅か10点。着順一つで並ぶ点差だ。二十人以上もごぼう抜きしてやった。頭痛を堪えて無理を通した甲斐もあったというものである。それでは最後の対戦相手はとオーダー表を見て、会場の選手がどよめいた理由が理解できた。

 

 A卓に例のあの人と和が、D卓には自分と三位の南浦さんの名前があった。順位の近い所で随分と固まったものである。特に一位と二位の卓は会場の視線も釘付けだろう。和など闘志を燃やしているに違いない。さて、と早めに移動して椅子で少し休むかと移動を始めた咲の元に、

 

「失礼。清澄の宮永さんですか?」

 

 知らない声がかかった。早く椅子に座りたいんだけどな、という内心を隠しながら振り向くと、そこにいたのはやはり見覚えのない少女だった。

 

「はい。貴女は?」

「平滝高校の南浦数絵。次の貴女の対戦相手の一人です。向かう先は一緒ですから歩きながら話しましょう」

 

 できれば放っておいてほしいんだけどな、という内心を出さないようにしながら南浦さんとやらの隣を歩く。ポニテから覗く白い項がまぶしい中々の美少女だが学校といい容姿といい名前といい全く覚えがない。京太郎がぽろりとこぼした名前の中にも近い名前はないと思う。

 

 ならば安心かと言うとそう簡単な話でもない。ここでこのポニテ美少女が京太郎の話に度々出てくる『トキ』やら『シロサン』やら『カスミネーサン』ほどの危険度はないと判断するのは早計だろう。その辺でせつなさをまき散らすのは京太郎の得意技だ。今日初めて会った娘でもデートに誘えるんじゃない? という京太郎がいない所での部長の冗談に誰も反論できず、和と一緒に不景気な顔でにらめっこをする羽目になったのも記憶に新しい。

 

 油断しないで行こうと身構える咲を他所に、数絵は妙に親しげに話し始める。

 

「代表の席は後二つ。お互い最終戦まで目が残って良かった」

「二つ?」

「二万五千点持ちの三万点返しで箱下なし。ウマがワンツーで祝儀もありませんから、トップの最高得点が+110、ラスの最低得点が-50。その差160点が一半荘で詰められる最大の点差です。しかし現在トップと二位と差がそれ以上あるので、トップの福路さんは全国確定です」

 

 それでは仮に和が無双したとしても空回りで終了の可能性ありか。直対で勝ったとしても例のあの人の方が順位が上という結果は揺るぎないのなら、県大会でぎゃふんと言わせるのは無理そうである。

 

 とは言えどこかで自分の方が上だということはアピールしておきたい。あんな見た目も麻雀の打ち筋も京太郎相手にこうかばつぐんな人をそのままにしておいたらゴール一直線だ。高校を卒業したらプロにと考えているのであれば近くにいなくなって大助かりなのだが、京太郎から聞いた話ではどうやら大学進学という進路に揺るぎはないそうでその第一志望は地元の国立大学。模試でもA判定だそうだが、美穂さんなら推薦でも大丈夫だろうと京太郎は笑顔で太鼓判を押している。

 

 県下での有数の強豪校に入って一年からレギュラー。個人では三年連続で全国に出場し、最終年にはキャプテンまで務めたのだ。それでも成績が壊滅的なら危なかろうが模試でA判定を取れる大学であれば学校だって全力で支援してくれるだろう。推薦にしろ試験を受けるにしろ地元残留の気配が濃厚である。

 

 咲にとって何が忌々しいかと言えばこっちの方面ではおじゃま虫の姉も同じ進路を言っていることである。近い所ではうちの部長も鶴賀の部長も同じ進路を口にしている。世の中国立以外にも良い大学はあると思いますよと心の底から言いたいが、京太郎が絡まないのであれば姉のことは大好きなのだ。また一緒に暮らせるのなら嬉しいし一人暮らしをするならお泊りとかも行ってみたい。本当に自分にはもったいないくらいに良いお姉ちゃんなのだ。京太郎が絡みさえしなければだが。

 

 脳内で勝手に始まる姉の良い所探しを中断しつつ、表情を引き締めて数絵に顔を向ける。聞かれることは大体予想できているが、舐められないための手順は必要だ。

 

「それで、私に話があるんでしょ? なにかな」

「京太郎について教えてください」

 

 やっぱりな! という心の叫びをおくびにも出さないようにしつつ……はやっぱり無理だった。言葉にならない呻き声がため息と共に口から突いて出る。本当にどうしてうちの京ちゃんはこうなんだろう。

 

「…………うちの京ちゃんとはいつから?」

「先ほど知り合いまして。色々あって連絡先を交換しました。関係を深めていく努力はこれからしますが、その前にできるだけ情報収集をしておきたいんです」

 

 ポニテの毛先をいじりつつ頬を染めてかわいく視線を逸らす数絵にむかむかが止まらない。

 

 せつなさまき散らすにも限度ってものがあるんじゃないでしょうか京ちゃん。その辺歩いてても女の子引っ掛けるなら逆に沢山女の子連れまわしてた方が安全かもね! という内心を噛み殺しつつ咲はそう、と短く返事をした。

 

 何となくというか確信に近いものがあったがやっぱり恋敵だ。これが所謂番外戦術なのだとしたら相当に効果的だと思う。卓までもう少し。そこまでには話を一度区切らないといけない。この話題が頭の片隅に残ったままだと次の勝負でこのポニテ美少女に遅れを取ると咲の勘が言っていた。

 

「麻雀とはやりんが大好き。おうちにはエイスリンとウタサンって二匹のカピバラ。女子力高くてお料理お裁縫得意。男の子の十倍以上女の子のお友達がいます。モテモテです。忌々しいです」

「お付き合いしている女性は?」

「いないと思います! でもお付き合いしている男女がするようなことは卑猥なこと以外は大体やってるんじゃないかと」

「ふむ。それでは『男女の適切な距離』という言葉の意味を少し考える必要がありそうですね。お答えいただきありがとうございました。正直、はぐらかされると思っていたので意外です」

「誰と仲良くするか決めるのは京ちゃんだしね」

 

 そこに口を出す人間を好んでくれる人間は少数派だろう、というのはいくら友達付き合いに疎い咲でも察しがつく。年頃の女の子として恋敵が増えるのは好ましいことではないが、それ以上に京太郎に遠ざけられる方が怖いのだ。

 

 一方で数絵の方も咲の微妙な心情は理解していた。六人しかいない麻雀部で男子は京太郎一人きりだ。女所帯の麻雀部で同級生の女子三人が京太郎と疎遠と言うことは考えにくい。数絵の読みでは一番の仲良しは先鋒の彼女だと思っていたのだが、この豆狸といった感じの愛嬌のある少女も仲良しそうである。やはり情報収集は必要なようだ。

 

「対局前にありがとうございました」

「いえいえお構いなく。勝つのは私だからね。それ以外のことでは親切にしないと」

「またまた御冗談を勝つのは私ですよ。でも麻雀の神様も粋な計らいをしてくださいました。点差は10ポイント。私たちに限って言えば、着順が一つでも上になった方が勝ち、ということですね」

 

 相手よりも点棒が多ければ勝ち。他所の状況に左右されない実にシンプルな勝利条件である。五位以降の選手が上がってくる可能性もあるにはあるが、それは今までの条件を持ち越すことで カバーできる。何にせよとにかく点数を稼げば良いのだ。そうすれば自然と目の前の恋敵よりも上に行けるし全国にも行けて何より京太郎に褒めてもらえる。良いことずくめだ。

 

 同じ決意に燃える咲たちが卓につくと他の二名は既にそこで待っていた。そちらの二人は既に全国圏外である。圏内二人の勝負を邪魔しては悪いと最後の対局には後ろ向きだったのだが、やってきた二人のあまりの気合の入りっぷりに完全に気おくれしてしまった。

 

「席順は――」

 

 卓の上に牌が四枚伏せられているのを見て咲が問うが、二人はどうぞどうぞと手を差し出す。二人とも年上のはずだが完全に腰が引けている。檻の向こうから客に見られる猛獣とはこういう気分なのかと思いながら咲は隣の猛獣仲間を見た。数絵は薄く微笑んで肩を竦め、

 

「お好きな席にどうぞ」

「そう? それじゃあ出親で」

 

 伏せられている四枚の中から当たり前のように東を引く咲を見て、対局相手の二人はドン引くが、

 

「それなら私はラス親で」

 

 続く数絵が当然のように北を引くのを見て、僅かに残っていた戦う意思が完全に燃え尽きてしまった。戦う前からお通夜ムードの二人を他所に、隣同士に座ることになった咲と数絵は視線を交錯させる。

 

 

 

 

 

 

 

「勝つのは私だよ」

「受けて立ちます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 前半一位通過で終えたと思っての肩透かしの後、必勝の思いで臨んだ後半戦。四戦が終わった段階で一着三回に二着一回。前半戦合わせて九戦合計が一着七回の二着二回。連帯率百パーセントの好成績であるのだが、電光掲示板にある和の順位は相変わらず二着のままだった。

 

 名前の横にはこれまでの順位と得点が表示されるのだが、和の上にある福路美穂子の横にはこれまでの九戦全て1の文字しかなかった。連帯率どころかトップ率100%という中々お目にかかれない数字である。前半五戦でも大概だったのだが、美穂子は後半ここまでもそれを維持していた。

 

 全自動卓が導入されるようになってから個人戦の対戦数も増えたのだが、手積みの時代を含めてさえ、全勝での全国出場は例がないという。全勝リーチでさえ30年ぶりのこと。その30年前にリーチをかけたのが奇しくも先ごろ引退した風越の先代コーチが三年キャプテンの時であるらしい、と解説が言っているのを小耳に挟んだ。

 

 奇妙な縁もあったものだとは思う。世間は全勝通過を望んでいるのだろうが、同じく奇妙な縁でセッティングがされたのだ。原村和はこれを、直接ぶちのめす機会がやってきたと考えていた。

 

 京太郎がどうにも年上好み……いや、それも正確ではない気がする。年上に弱いというか年上と過ごす自分が自然であると考えているというか。客観的にはそれを年上好みと表現するのだろうけれども、和からすると全く違う。

 

 年上じゃないと嫌! という京太郎本人の積極的な希望があるのであればともかくとして、そうでないのならば十分に矯正は可能だ。幸い自分は同じ学年同じ学校同じ部活でバイト先も同じという最強に近い環境を既に手にしている上に容姿が京太郎の好みの線であるようだし、あと二年もあれば一線を越えることも十分可能だろうと和は考えていた。

 

 だが悲しいかな。アドバンテージを積んだだけで勝てるのであれば、京太郎はとっくに『トキ』か『シロサン』か『カスミネーサン』辺りの、会話の中で一日一回は名前を聞く女のものになっていただろう。これから時間をかけられるというのはあくまで未来の話であって、これまで時間をかけてきた過去の女どもには遅れを取っているに違いないのだ。

 

 ならば好きだと思ってもらえることはできるだけ積み重ねておきたい。元々勝ちたいと思っていた麻雀に、更に勝ちたいと思える要素が加わったのは好ましいことだが、人生会心の麻雀ができたという手ごたえがあっても上がいた。世の中上手く行かないものである。

 

 悶々としながら歩いていたからか指定の卓についたのは和が最後だった。対戦カードを見る限り他の二人も三年だが、知り合いだったのだろう。和やかに話していた三人が和がやってきたのを見て立ち上がった。

 

「原村さんからどうぞ」

 

 実の所場決めの牌を引く順番に、公式の決めはない。地域によって年齢の低い方から引くとか現時点で成績の良い方から引くとかあるらしいが、長野にはそういった慣例はないのだそうだ。なので全員揃ってから引く以外に共通する決めはない。

 

 どうにも自分は最初に引いてほしいとよく思われるらしく、この十戦目も含めて全ての試合で最初に引いてくれと言われてしまった。別に順番などどうでも良いのだがお客さん扱いされているようで気分はあまり良くない。

 

 だが、最終戦に限っては話は違う。元より知り合いは多くなく顔と名前が一致する選手と言えば清澄の仲間と龍門渕と鶴賀の選手くらいだ。都合14人――うち二人は予選落ちし衣は出ていないので本戦に参加しているのは11人だが、その11人とはこの九回の戦いで行き会うことはなかった。風越の眼鏡をかけた何某さんとは打った気がするがもちろん勝った。

 

 九戦もすれば一人くらいは行き会いそうな気もするが、十戦やってその唯一が例のこの人になったのはオカルティックなものを信じないタチの和でも運命を感じずにはいられない。

 

 さてと卓に伏せられた牌を見る。裏向きになった東南西東の4枚の牌。今回のルールでは東を引いた選手が席を選び、そこを基準にして残りの三人が座る。東を引くイコール出親だ。和の個人的な好みで言えば状況を見てから対応できる親が遅めの西とか北が良いのだが、京太郎を始め自分以外の一年はどういう訳か東を引きたがる。

 

 東場に雑に強い優希はともかく京太郎は何故と本人に聞いてみたが、とにもかくにもそういうものらしい。麻雀漫画では主人公はここぞという時に東を引いて、そして勝つらしい。優希はその感性に感じ入るものがあるらしく、京太郎の発言を聞いて『だよなー』と意気投合していた。

 

 仲良しっぷりにムカついたので二人の頬を突いて怒りを伝えてみた、清澄の夕暮れである。ちなみに咲は京太郎がそう言うから同調していただけで麻雀漫画は和と同じく全くと言って良いほど嗜まないらしい。こういう趣味の乖離はお互い苦労しますねと声に出さず咲に同情する。

 

 流儀を通すか彼のジンクスを尊重するか。和は迷わず後者を選択した。何故なら例のあの人がそこで見ているから! と気合を入れて牌を引く――

 

「あ、原村さんは南ですね。それじゃあ田村さんと堀江さんどうぞ」

「いいのー? じゃあ私から……西だった」

「次は私ねー。できれば出親じゃない方が良いんだけど……北!」

「みっぽ出親かー」

「そうみたいですね」

 

 残り物の東を引いた美穂子は一番近い席を選びそこに座る。南を引いた和はその下家の席へ。早くも精神的に風下に立たされた気分だが、それ以上に技量に勝る人間の下家という最悪の並びに心中でため息を漏らす。京太郎に意地悪をする麻雀の神は、どうやら自分にも試練を与えたいらしい。

 

 対局を開始してください、というアナウンスに全員が一礼する。カラコロ回り始めるサイコロの音を聞きながら、美穂子は何でもないことのように言った。

 

「原村和さん。京くんから色々話を聞いて対局を楽しみにしていました」

「私もです。聞いた話は良い話だと嬉しいですが」

「手放しで褒めてましたよ。京くんに愛されてますね。ですから――」

 

 左右で色の違う瞳に見つめられた和の背中に怖気が走った。顔には柔和な笑みが浮かんでいる。雰囲気も穏やかで評判通りの優しい人という風であるが、和に向ける視線には競技者としての明確な敵意が浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

「全力でお相手します。勝つのは私です」

 

 

 

 


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