或いはこんな織斑一夏   作:鱧ノ丈

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 前回更新分の編集時に切り離した部分に加筆をしたのが今回です。
 今回の話は繋ぎのソレ。シンプルかつ短くなっております。

 さて、原作キャラ関係者かつ出す意味はあるにはあるとはいえ、またもや新キャラ。相変わらず懲りないですね、自分。


第八十一話:彼は人か悪魔か/選定の壁は剣鬼

 亡国機業によるIS学園への襲撃、一大事と呼んで良い事件ではあったがそれも一先ずの終わりを迎え、夜になる頃には世間はいつも通りの静けさを取り戻していた。

 だがどれだけ周囲が、世間がいつも通りとなっていても事件に関わった者、それを知る者は決していつも通りとはいかない。夜が更けてなおも未だにIS学園内の関係者は事件の事後処理と今後の対応に追われている。

 学園の即応戦力として亡国機業と直に矛を交えた生徒らは唐突に現れた敵の存在に各々の考えを巡らせ、そして次こそは完全なる勝利をと意気込みを新たにする。

 

 そして学園から離れた場所においても、今日という一日を振り返り、思惑を巡らせる者達がいた。

 

 

 

「さて、今日のところは一段落。だが、忙しくなるのはここからだ。亡国機業、ようやく表に出てきてくれたよ。親父殿の代からこっち、随分と待たされた」

「その割にはやけに楽しそうに聞こえますが」

 

 都内郊外某所、とある邸宅の一室に二人の男の声が響く。

 

「かもしれないね。あぁ、平穏これ事も無し。私の立場を考えればそれこそが一番なのだろうが、性というべきなのかな。どこかで彼らが引き起こす事態を望んでいる私がいるのも否定はしない」

「少々、語弊がありますね。正確には亡国機業が事件を引き起こし、貴方がそれをその拳で以って屠る、でしょう。付け加えるならば、その事件にかこつけて政府を始めとした国内各所における膿を取り除きたい、というのもありますか」

「うん、流石だ。その通り。あぁそれと、もうその言葉遣いは良いだろう。一応、今日はもうオフだ。公の場ならともかく、私とお前の間にそんな遠慮は不要だろう」

「ならご希望通りに」

 

 仄かな明かりの下で言葉を交わす二人は壮年にあって、しかし満ち満ちた気力のためか実年齢より若々しく見える。気の置けない間柄ゆえか交わす言葉の軽やかさもそれに拍車をかけていると言っても良い。

 

「さて、亡国機業のことも大事だがね。実のところ今日はもう一つ、非常に気になっていることがあるんだ」

あの二人(・・・・)のことか」

 

 首肯で答えは十分だ。

 

「確か例の彼の親しい友人。五反田君に、御手洗君だったな。あぁ煌仙、だがお前が気にしているのは御手洗くんの方か。何せ娘の彼氏だものなぁ」

 

 からかうように言われた二人の内片方、更識 煌仙は否定するつもりは無いのか肩を竦めながら頷く。

 

「それはそうさ。――正直、ウチの娘に本当にそんなのができるとか思ってなかった。むしろお前の娘の方、虚ちゃんや本音ちゃんの方が先だと思っていたよ」

「……確かに、当代ならともかく、簪ちゃんにというのは俺も相当驚いているけどね?」

 

 煌仙と向かい合う彼の名を布仏(のほとけ) (まこと)。更識当主家の姉妹に仕える従者姉妹、虚と本音の父親、そして『更識』においては煌仙の側近の筆頭にして煌仙に次ぐと言って遜色ない実力を持つ存在でもある。

 だがそんな大仰な肩書もこの場に置いてはさしたる意味はない。幼少より主従に留まらずある種の兄妹として、無二の友として育ち、共に子を持つ父親となった身。話題がそれぞれの子のこととなれば、自然やり取りは私人としてのソレになる。

 

「まぁ御手洗君のこともそうだが。その前にだ。五反田君、彼についてはどう思う?」

「端的に言えばごく普通の少年だ。少しばかり他の同年代より肝が据わっていると思うが、特筆するような点は……ご馳走になった野菜炒めは美味かったな」

「彼の家の食堂、調べたら口コミサイトの評価が中々高くてね。早い、美味い、安いと揃ってる。正直、個人的に贔屓にしたいとは思う」

「男として欲しいポイントを押さえてるのが強みだな。……また今度プライベートで行くか」

 

 知る人ぞ知る地元の名店、五反田食堂。思わぬところで新規顧客の獲得に成功していた。

 そも如何なる経緯を経て二人が弾と数馬を知ることになったのか。端的に言えば、学園祭の後に弾が意気投合した相手、それが煌仙であったというだけの話。その後に合流した数馬と二人、揃って真の運転する車にてそれぞれの家まで送り届けたという流れだ。ついでに時間も頃合いだったので弾の家で夕食も馳走になったというおまけがつく。

 おそらく弾はその出会いを偶然と捉えているだろう。だが、それは決して偶然などではない。

 

「さて、じゃあ話を変えて。我が娘と恋仲になるという勇敢を見せてくれた御手洗君についてだが、真の率直な意見を聞かせてほしい。ちなみに私の見解だが、まぁかなり頭のキレる少年だよ。おそらく、私が五反田君と接触したのも偶然とは思ってはいまい」

 

 そう、全ては煌仙の思惑通り。織斑一夏、日本国政府に属する者として、『更識』の者として、一個人として注視に値する彼の数少ないターニングポイントが弾と数馬の二人だ。

 他でも無い数馬と簪が煌仙の知らぬところで話した通り、明確な血縁者が千冬のみ、交友関係もややドライな一夏にとって、弾と数馬は彼を害する者には格好の人質となり得る。その二人がどのような人物か、後々のことも含め好機と判断した故に煌仙は彼らへ接触するよう動いていた。

 その思惑をおそらく数馬の方は見抜いている、それが煌仙の見立てだ。唐突に簪から『付き合う男子ができた』とメッセージが届いた時は驚いたものの、なるほど確かにあの娘らしいと納得させられてもいた。

 

 

 御手洗数馬を如何に捉えるか、その問いに合わせて煌仙の纏う雰囲気が微妙に変わったことを真は手に取るように把握していた。その上で煌仙が望む答えとは、考えるまでも無く長年の付き合いによる経験が最適解の言葉を真の口より発させた。

 

「はっきり言わせて貰おう。悪魔か化生の類だ。件の織斑一夏にしても、武人(われわれ)の観点で言えば相当な原石。だが、『更識』の者として見るなら、彼の方がはるかに末恐ろしい」

 

 それこそ待ち望んでいた答え、そう言うかのように煌仙は薄明りの中で小さく笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 学園祭に関わる諸々が落ち着きを見せた数日後、学内には新たな話題の種が盛り上がっていた。

 かねてより計画が進められ、学内においても一部の生徒が関わっていた倉持技研の新型機、そのIS学園内におけるテスター選抜の最終試験実施日を迎えた。

 ここまでくれば内々の進行とする必要もない。学内の各所には実施の旨が告知され、希望者はその選抜試験の模様を観覧することができる。試験内容は新型機を装着した候補者と、学園・倉持技研共同による選抜試験運営が用意したアグレッサーの模擬戦闘に依る。

 基本的に打鉄、ラファールが主であり後は代表候補生らの一部が駆る専用機しか見ない学内において別の機体、それも完全な第三世代とまではいかずともカタログスペック的には匹敵しうる新型が見れるとあって、土曜にも関わらず試験会場のアリーナ観客席はそれなり以上の人の入りを見せていた。

 

 

「それではこれより、我々倉持技研開発の新型機、そのIS学園内テスター選抜の最終試験を始めさせて頂きます」

 

 アリーナピットに集ったテスター候補者達の前で進行役を務めるのは倉持技研所属技術者の川崎。常ならば一夏の白式や簪の打鉄弐式に関するメンテナンス調整を主な用事として学園に出向く彼だが、今回はこちらがメイン。

 

「試験の内容については事前にお配りしていた資料の通りです。今回、政府の援助もあり試験用に新型機『紫電』を二機、用意しました。まず皆さんには交代で紫電のテスト操縦を行って頂き、その後にアグレッサーとの模擬戦闘を行って頂きます」

 

 進む説明と並行しての質疑応答。テスト操縦の持ち時間、模擬戦闘の判定方法、模擬戦闘結果の合否判断における役割、試験内容の認識が進んでいく中でその質問が出たのは最後のことだった。

 

「アグレッサー、模擬戦闘の相手は誰ですか?」

「そうですね、確かに。事前に紹介は必要でしょう」

 

 頷いた川崎は控えていた別のスタッフに相手を呼ぶように指示を出すと続ける。

 

「今回、この選抜模擬戦も特殊な形になっています。通常でしたら模擬戦の相手には学園の先生方、あるいは当社所属のテストパイロットや自衛隊に依頼しての派遣となるのですが、より機体と乗り手のありのままを見ようと考えた結果、先方からの打診もあり今回の決定に落ち着きました」

 

 川崎は語る。そも今回の新型『紫電』は単なる打鉄の発展機に留まらない。開発にあたりデータを基とし機体は三種。打鉄のこれまでにおける広範に渡る稼働データ、更識簪が駆る打鉄弐式の情報処理能力。そして、第三世代『白式』の経験を補って余りある高機動性を活かした乗り手の技量による格闘戦のデータ。そして紫電に特に活かされたのは白式のデータ。であれば、相手取るならば源流である白式こそ相応しい。

 そこまで語られたところで候補者全員の脳裏にもしやという考えがよぎる。だがそれを誰もが露わにするより早く、アグレッサーが到着したことでピットに通じる扉の一つが開き、刹那に寒気すら覚える剣気が候補者全員を貫いた。

 

「……」

 

 剣気の主は無言のまま歩を進め川崎の隣、候補者たちの前に立つ。

 その顔を集った全員が知っていた。いや、知らない者など居ないと言っても良い。だがその表情、その眼差しは()を知る彼女らの誰もが知らない、殺気すら混じったものだった。

 

「直前となりましたがご紹介します。今回の選抜模擬戦、相手機体は白式。そしてパイロットは、織斑一夏さんです」

 

 そして一同の前に立った一夏は無言のまま、刃のごとき眼光の鋭さを微塵も緩めることなく息を詰まらせるような殺気と共に佇んでいた。

 

 

 

 

 

 




 冒頭は更識パパと虚ちゃん本音ちゃんパパの会話。更識一門親世代の場面。
 さて、二人の話題に挙がったあいつは一体何をしでかしてくれたのか。それはまた後々に。

 そしてもう一つ。夏休み編よりちょくちょく話題に挙がっていた倉持技研新型機のテスター選抜も何かいつの間にか終盤になっていました。

 なぜ一夏が模擬戦相手になっているのか。
 なぜ一人で全員を相手取ろうとしているのか。
 なぜ敵に向けるような殺気を出しているのクワァ!

 その答えはただ一つ……

 ハァー

 また次回で!!


 感想、ご意見、随時大歓迎です。どんな些細な一言でも構いませんので、お言葉を残していただければ何よりの喜びです。
 この新型機テスター選抜はかねてから書きたかった話、なんとかモチベーションを維持して次回もお届けしたいです。

 それでは、また次回更新の折に。


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