或いはこんな織斑一夏   作:鱧ノ丈

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え~、今回はちょっとした息抜きを兼ねまして、本編とはほとんど関係ないお話です。
ただただ、バカがバカなことをやるという話を、さらに上をいくバカな作者が書きなぐっただけの代物です。
以下注意点としまして

・とりあえず真面目に大馬鹿をやるのをモットー
・キャラがおかしい
・正直かなりわかりやすいネタが一杯
・ごめん御手洗数馬君。君は盛大に弄らせてもらった
・作者は反省も後悔もしていないが、ヤバイと感じたらこの話だけ消すという逃げを打つ気満々

さて、カオスに飛び込むお覚悟はよろしいでしょうか?
上等だやってやんよ! という方は、そのまま下にスクロールしてどうぞお読みください。

一応始まる前に言っておきましょう。


さすがにちょっとふざけ過ぎたかなぁと思ってます。こんな作者でごめんなさい(カメラに向かってペコリ)


第二巻
幕間 バカ話


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『男子高校生の日常(休日編)』<ワーォゥ!

 

「よう箒。あ、俺出かけるから。じゃな」

 

「おい待て開口一番いきなりそれか!? いや待て――ってもうあんなトコロに!?」

 

 クラス対抗戦が終わってからしばらく経ってのとある日曜日。天下のIS学園も休日であるが、そんな日の朝に箒は一夏とばったり遭遇し、そしてすぐに別れる羽目になった。

 ちなみに、入学当初から続いていた一夏と箒の同室問題であったが、教師陣の尽力によって寮の部屋割りの変更がようやく決定し、先日ついに二人は別々の部屋となった。

 この件について箒は不満を抱きつつも大人しく従った。そして一夏はと言えば、一人になったことに盛大に歓喜していた。

 

 閑話休題。

 

 一夏と別れてからまた更に時が経ち、昼食の際に食堂で鈴と鉢合わせた箒はそのまま彼女に今朝のことを愚痴ったのだが、思いのほか鈴の反応は平然としたものだった。

 

「ふ~ん。まぁ別に良いんじゃない? 別に外出くらい他のみんなもするし。まぁあいつは立場が立場だけど、だからってずっと学園(ココ)に缶詰めってのも良くないでしょ。別に外出くらい良いじゃない」

 

「しかしだな。人に会っておいてあそこまでぞんざいな態度もないだろう」

 

「な~にを今更。一夏があんなのは、今に始まったことじゃないでしょ?」

 

「それはそうだが……」

 

 愚痴る箒とそれをカラカラと笑う鈴。そんな二人の近く通りがかった千冬が二人に声を掛ける。

 それを好都合と見た箒は千冬に一夏の外出のことを聞いてみた。

 

「あぁ、それならば家の方に行くという話だったな。家の手入れや、必要なものを取ってくるとか言っていた」

 

「ま、あいつならそんなトコでしょうね。フラフラと町に遊びに行くような性格でもないし」

 

 千冬の言葉に至極納得できるという風に鈴が頷く。

 

「そのまま五反田の家に行くとも言っていたな。昼食を馳走になる予定らしい。ついでに中学時代の友人にも会うつもりだと言っていたが……凰、どうした」

 

「いえ、何も……」

 

 五反田の家に――そのあたりから急に表情を歪めた鈴を千冬が訝しむが、鈴は何でもないと首を横に振る。

 そのまま千冬が立ち去ったのを見送り、鈴は更に顔を歪めるとブツブツと呟く。

 

「うわー、よりによって弾のトコですって? しかもダチに会うって、間違いなくメンツ確定じゃない……」

 

「凰?」

 

 ものすごく嫌そうな、というよりはむしろめんどくさそうな顔をしながら呟き続ける鈴に箒も流石に首を傾げる。

 

「あぁ、ゴメン。ただ、ちょっと嫌な考えに思い至ってね」

 

「嫌な考え?」

 

「そう。さっき千冬さんが言ってた五反田っていうのは一夏のダチ。名前は五反田 弾。あたしや一夏の中学の時の同級生よ。んでもって、基本武術一筋なあいつには珍しく、よくツルんでた仲間の一人よ」

 

「その五反田がどうしたというのだ? 話を聞くに普通の友人のようだが」

 

「まぁ話は最後まで聞きなさいって。でもってね、もう一人。一夏や弾とよくツルんでたのが居るのよ。そいつの名前は御手洗 数馬。で、問題なのはこの三人があたしの中学でも随一の変わり者連中で、しかもそんなのが仲良くツルんでるってことよ。いや、弾はかなりまともね。けど、あの二人を同時にに平然と付き合える時点で相当だわ。とにかく、集まるってのは確実にこのメンツだわ。

 腕っぷし絡みになると負け無し敵無しリアル無双な『力』の一夏、なまじ頭が良いだけに何か学校の中で変なことがあれば大抵裏のまた奥で一枚噛んでいてしかも殆ど黒幕で、でも積極的に関わろうとしないから趣味も相まって知る奴にはニートなんて言われてる『知』の数馬、でもって二人の制御役だったりメシ作り代行でかなりまともだけどやっぱり根性座ってる『ツッコミ』の弾。

 断言したって構わない。あの三人が一緒になってみなさいよ。そりゃもう一気に――」

 

「一気に?」

 

混沌(カオス)と化すわ。そりゃもう、何があるかさっぱり読めない空気になるって意味で」

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、場所は変わりIS学園に――地理的に見て一応――隣接している臨海の町、その一角。

 元は木造建築であったのだろうが、時の移り変わりに伴って増改築を行ってきたことが分かる三階建ての家がある。だが、その家において住人が生活圏としているのは二階と三階である。

 一回は、その家が営む店となっている。

 その店の名を『五反田食堂』。この家の祖父が創業者であり、地域に親しまれ評判の定食屋である。

 そんな五反田邸の最上階の一室、そこが今回の舞台である。

 

「んでよ、一夏。実際のとこどうなわけ?」

 

「何がだ、弾」

 

「一夏、その程度のことは察しろよ。僕も、既知感なんて感じることもなく想像できるぞ。IS学園のことさ」

 

 五反田家長男である――自称五反田食堂の次期店主の――五反田弾の問いに意味が分からないと告げた一夏に、御手洗数馬がフォローを入れる。

 五反田家三階にある弾の部屋、ここに織斑一夏、五反田弾、御手洗数馬の三人は集まっていた。特に意味があるわけではない。男子学生特有の意味もなくダベるアレである。

 

「別に普通――じゃあねぇな。正直、俺一人が野郎ってのは時々大変だよ。何せ俺は奥ゆかしいからな。色々と気を使うことも多い。そして女衆が多いともなればまぁとにかくかましい。俺にゃついていけんこともある」

 

「あぁ、分かるぞその気持ち。想像するのはとても簡単だ。そして簡単に想像できてしまうから、すぐに既知になってつまらない。……僕はどーでもいーや」

 

「おい数馬、お前興味失くすの早過ぎだろ……」

 

「仕方ないさ、弾。ある意味で数馬、俺以上にイカれてやがる」

 

「ちーがーいーまーすー。僕はただ毎日に未知と新しい刺激が欲しいだけですー」

 

 御手洗数馬という人間をどう表すか。そう問われたとしたら一夏はこう答えるだろう。「俺が知る限り世界で二番目、それでも他とはぶっちぎった変わり者」だと。なお、一番目はかのIS開発者であり一応古い知人でもある篠ノ之束であるが、今はそんなことはどうでも良い。

 同じ男から見ても十二分に整った顔立ち、やや線は細いがむしろ容貌によく合っている。運動は並だが、からきしではない。そして何より恐ろしく頭が良い。単に成績が良いだけではない。一を聞いて十と知るを体現するように理解がとてつもなく早い。そして思考の回転じたいも早く鋭い。

 これだけのプラス要素を持ち合わせているのを知りながら一夏が彼を変わり者とする理由。それは彼の考え方にある。

 

「だってそうだろう? 学校の勉強なんてそうさ。なまじ答えがあるだけに、あっという間に結果が分かる。どれだけ新しい内容をやっても、答えがあるなら結局は同じだ。

 他の物事にしてもそうさ。どれもこれも、大体先が読めちまう。だから何にしても『前から知ってた』っていう既知感を感じる。あぁ、詰まらないよ。だから僕は、とにかく未知や刺激が欲しいのさ」

 

「まぁ、俺もその気持ちは分かるさ。うん、日々新しい技法や体捌き、そうしたのを求めて鍛練に励んでるからな。ウン」

 

「俺に言わせりゃオメーらどっちも重度の変人だよ」

 

 したり顔で頷き合う一夏と数馬に苦々しい顔でツッコミを入れたのは五反田弾。一夏が評して曰く「気楽に付き合える良い奴、あとちょっと手伝うだけで定食奢ってくれる的意味でも」だ。

 そんな彼だが、客観的に見れば至って平凡。顔だちはそれなりだが、ずば抜けて学業に秀でるわけでも、ずば抜けて運動ができるわけでもなし。どこにでもいる普通の男子高校生だ。

 もっとも、彼を知る者に――特に凰鈴音あたりに――言わせれば一夏や数馬と言った一際の変わり者の相手を真っ当に続けられるあたりで相当の剛の者であるとのことだ。

 

「ていうかさ一夏。IS学園に鈴が来たってマジ?」

 

「あぁ、それマジよ。つーかこの間ISでやりあったし」

 

「うわー、鈴のやつも災難に……」

 

「おいこらまて数馬。災難とはどういう意味だどういう」

 

「なぁ一夏。お前とやりあうってのはな、少なくとも俺らのようなお前を知っている奴の間じゃ相当なことの扱いだぜ?」

 

「なんだよ、揃いも揃って人を化け物みたいに」

 

『事実そうなんだよ』

 

 ハモった弾と数馬の言葉に一夏は頬をひくつかせるが、気を取り直すように咳払いをする。

 

「ていうか数馬、なんでお前が鈴のこと知ってんだよ。俺、メールとかした憶えは無いぞ。なお、これはあえてしなかったのではない。大真面目に忘れてた」

 

「うん、それもすっごく既知だな。別に大したことじゃないさ。ネットを漁ればこの程度の情報なら幾らでも引き出せるよ。そう、例えば一夏。君が外出一つするのにも尾行やらが付くこととかな」

 

「なにぃっ!?」

 

「ほぉ、よく分かったな」

 

「まぁねぇ~」

 

「いや待てよオイ!」

 

 平然とした調子で会話をする一夏と数馬に弾が声を大にしながらツッコミを入れる。

 

「なんだよ弾。急に大声を出して」

 

「一夏の言う通りだ。もうちょい落ち着けよ。な? もちつけ」

 

「いやあのな、それそんな軽く話せることじゃあねぇよな!?」

 

 言って弾は窓に駆け寄ると外の様子を伺おうとする。それを止めたのは一夏だ。

 

「やめとけやめとけ。無駄だぜ弾。大体の連中は電柱の陰とか路地裏とか、後は通行人装って歩き回ってるとかして目立たないようにしてる。お前じゃあ見つけられねぇよ」

 

「じゃあ、お前なら見つけられるのかよ」

 

「思ってたよりヌルいな。学園に繋がってる臨海駅からここまで、ざっと九人ってトコだな。俺が気配を感じたのは。多分これで確定だろうよ。あぁ、多分大したことはねぇな。単に俺を珍獣よろしく観察してるだけだろう。仮に九人束になっても、俺には全然怖くはない」

 

 そう言って犬歯を剥き出しにする一夏に弾は苦笑いを隠せない。数馬は涼しい微笑を浮かべているだけだが、弾に言わせれば彼も大概なのでカウントはしない。むしろその九人束というシチュエーションを望んでいるような気がするのは、間違っていないだろう。

 

「あー、でだ。数馬、お前はそれをどうやって知ったわけ?」

 

 とりあえず野獣のような顔をしながら小さく笑っている不審者(一夏)は置いておいて、数馬にどうして一夏を付けている人間のことを知ったのかと問う。

 

「ふぅ、まぁこの程度も十分予想の範疇、ではあるけどね。ぶっちゃけ警察とか省庁のサーバーにハックしてチラ見してきた」

「オイィィィィィイイイ!!? ナニ? 何やっちゃってんのコイツねぇ!? ちょっとぉ!!?」

 

 数馬も数馬で聞き捨てならない発現が飛び出してきたことに弾は盛大に突っ込む。ちょっと大声でのツッコミの入れ過ぎで喉が痛く感じてきた。

 見れば一夏も若干目を見開き、驚きを顕わにした様子を示している。

 

「いやー、ハッキングして覗き見なんてよくやるし? もちろん跡なんて残しはしないよ。ぶっちゃけそこから悪さするクラッキングとかしないだけ僕は善良さ。それに、される程度のセキュリティしてる方が悪い」

 

 これっぽっちも悪びれる様子もなくいけしゃあしゃあと言ってのける数馬に弾は今度こそ言葉を失う。そして思う。自分はどうしてこんな連中とダチを続けているのだろうと。

 そんな具合にへこみかける弾を尻目にまたも一夏と数馬は会話を続ける。

 

「あ、そういえば一夏。県警のサーバーにあれ残ってたよ。ほら、二年前のあれ」

「あぁあれか。懐かしいな」

「……今度はなんだよ」

 

 二年前のアレと言われても弾にはさっぱりである。そして一夏と数馬の二人しか知りえない以上、どうせロクでもないことに決まっている。

 嫌な予感を思考の片隅感じながらも、弾は一夏にどういうことかと聞く。

 

「いやさ、二年前だよ。ちょうど俺らが中二の夏前くらいか。新聞に喧嘩沙汰が載ってたろ?」

「あぁアレな? 確か学校で先生が気を付けろって言ってたなぁ」

 

 言われて弾が思い出すのは一夏が語る時期に、県内での出来事を主として取り扱う地方新聞に一時期載ったこの近辺における暴力事件のことだ。

 暴力事件と言っても死亡者が出たなどという大沙汰ではなく、路地裏などで少々柄や素行に問題があるような――いわゆるヤンキーな――学生が怪我をした状態で見つかり、何人かは病院に運ばれるということが何度かあったというものだ。

 一度や二度程度ならばまだしも、ごく短い期間に頻繁して起こったために地方紙に記事が載り、不良同士の大規模な喧嘩に発展することを警戒してか、夕刻以降には警官が町内を巡回するまでになった。

 今となってはそんなことなど無かったかのように話題にもならないが、それでもこうして話に出されれば「そういえば」と思い出すくらいには近隣住民の記憶に残っている。

 

「あれ、ボコしたの全部俺」

「……もう何も言わねーぞ絶対」

 

 あっさりとした一夏の告白に弾は大声を出したいのをこらえる。

 

「で、何がどうしてそうなった。ほら、全部吐いちまえ。楽になるぞ」

「別に元から楽だけどよ。あ、刑事さん。カツ丼くれ。汁物は鰻の肝吸いな」

「出ねぇよバカ。つーか俺デカじゃねぇし」

 

 例えいついかなる時だれであれ、ボケを振ってきたらツッコミで返す。それがこの三人の流儀である。

 

「あーオホンッ。あれだ。IS学園できたせいか、そこに非常に近いこの町は結構発展したろ?」

「まぁそうだなぁ。爺ちゃんも昔より客が増えたって言うし、実際駅のあたりとかは結構様変わりしたよな」

「うん。それでだ、発展したのは良いけど、まぁ光あれば影があるって言うの? 良くないこともある。どういうわけか、ちょっと柄のおよろしくないのもチラホーラと目につくようになった。ドゥーユーアンダースタァーンド?」

「あぁ、確かに。それとその英語ウザいから止めれ」

 

「……オホン。さて、そんな二年前のとある日だ。俺はある悩みを抱えていた。それは、『鍛えた技を使いたい、けど相手がいない病』だ」

「んな病名聞いたこともねーよ」

「だって俺が今考えたもん」

「知るか。ほら続き」

 

「まぁそれで、相手がいないことにとにかく俺は悩んだ。いわゆるライバルとか欲しかったが、そんなのはいない。かと言って知り合いに『おい、勝負しろよ』と吹っかけるわけにもいかない。それこそ腕っぷしで全部決まるヒャッハーで世紀末な世界ならまだしもだ。そんなある日だった。

 夕方、ふと町の賑やかな方を考え事をしながら歩いていたら、人にぶつかっちまってな。普通ならそこで謝って終いだけど、その時俺がぶつかったのは、もう髪の毛とか染めまくってシルバーチャラチャラつけていかにも『僕ヤンキーですぅ』な感じの人だった」

「あ~、なんか先が読めたような気がするけど、続き行け」

「おう。正直俺も面倒は嫌だからね。サッと謝ってパッと去ろうと思ったが、なんと親切なことに向こうからイチャモンつけてきてくれてね。そのまま路地裏に一緒に行って――気が付いたら全員のしてた」

 

「うん、どーせそんなオチだろーと思ったよ」

 

 色々あって一周回ったのか、弾が浮かべる表情はいっそ爽やかな笑顔だった。

 そして一夏の言葉を跡を継ぐようにして数馬が補足を加える。

 

「そしてそのことに味をしめたこいつは、以後何故かヤンチャなお兄さん方に絡まれることが多くなったんだと」

「何故かよく繁華街とかで柄の宜しくないお兄ちゃんとかにぶつかっちゃうことが多くてね。何故か。俺はその都度正当防衛をしていただけだよ」

「どう考えてもわざとです本当にありがとうございました」

「ちなみに手早く確実にやることやったら現場からは二分以内に退散がモットーだったな」

「一度は単独犯って説も上がって犯人像のイメージも出たらしいけど、見事に一夏から大外れだったな。これも俺の嘘のタレこみやネットの書き込みのおかげかな」

「いやー、数馬。お前の手際には本当に世話になるよ。色々と」

「気にするなって。僕と君の仲じゃないか」

 

『ハッハッハ!』

 

 揃って快活に笑う二人に弾は何も言わず、ただため息を吐くだけだった。

 

「で、結局どうしたんだ? たしかそれもある時からパッタリ無くなったろ」

「あぁ、それね。まぁ、ちょっとあちこちにサツの目が光るようになっちまったからな。自主的に控えた」

「そーかよ。つか、話戻すけど数馬も大概だよな。警察だとか偉い所にハッキングするとか」

「いやぁ、実際やってみたらできたし。それに、衆目に晒されない物ってのも中々面白いもんだぜ? 一度見ちまえばすぐに既知になって詰まらないけど、それを見るまでは未知っていうのは中々に良いもんだ」

 

「あぁそうかい。ほんと、俺もよくお前らとツルんでるよな。話してると本当にそう思うわ」

「いや、そりゃあ……」

「ねぇ?」

 

 愚痴るような弾の言葉に一夏と数馬は顔を見合わせる。そして――

 

『お前が同類だからじゃね?』

 

「チクショォォォォォォオ!!」

 

 見事なまでにハモって理由を告げる二人に、弾は慟哭の叫びをあげた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…………』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 不意に三人の間に沈黙が流れる。会話が盛り上がっている時、ふとしたことで話が続かなくなった時によく見られるあの現象である。

 そんな状況を打開する方法は実にシンプルだ。この際なんでも良いので新しい話題を出すことである。そして、会話を続けるために次の話題を持ち出したのは一夏だった。

 

「で、俺ちょっと気になってることがあんのさ」

 

「なんだよ。頼むからまともなこと言ってくれよ?」

 

「弾、大丈夫だ問題ない。いやな、今日は日曜だろ? しかもなかなかの快晴。気候も穏やか。そんな良い日に俺たち野郎三人揃って――」

 

 言って一夏は部屋に置かれたテレビに目を向ける。

 

「アニメのブルーレイ鑑賞会なんてやってるんだ?」

 

「一夏、原因はすべてコイツだぜ」

 

 首を傾げる一夏に弾はこいつが元凶だと数馬を指さす。指を指された数馬は数馬で、どうして疑問に思うのか分からないと言いたげに首を傾げる。

 

「いや、休日にアニメ見て過ごすとか……普通だじゃない?」

 

『そうかぁ?』

 

 今度は一夏と弾がハモって疑問を浮かべる。

 ちなみに一夏の思い浮かべる有意義な休日とは、ただひたすらに、そして存分に鍛練で己を鍛え上げることである。息抜きに家事や勉強だ。どうせ姉は仕事でいないことがほとんどだし。

 弾の場合は、規則正しくいつも通りに起床し、日中勉学や家業の手伝い、跡取りに相応しくるための料理の腕磨きを行い、夜になれば家族と団らんの時を過ごすというものだ。

 圧倒的に弾の方が健全なのは言うまでもない。ちなみに数馬の場合は、『ニート』の一言で表せる。本人いわく親は学校の成績や株での稼ぎなどで黙らせているらしいが。

 ちなみにそんな会話を続けている最中でもテレビではアニメが続いている。

 御手洗数馬、まず間違いなく変わり者である彼の数少ない熱心な趣味、それがアニメや漫画、他にもライトノベルなどに代表されるサブカルチャー全般である。

 好みの作品が関わるとあれば遠出してイベントにも参加するあたりかなり気合が入っている。

 

「これって確か、中学の時に見せてくれたやつだよな?」

 

「そうそう。一夏にも弾にも、まだ途中までしか見せてなかったろ? 良い機会だから続きを見せようと思ってな」

 

「そういやそうだったな。へぇ……。しかし、アイドルものか。俺の中ではアイドルものってもっと低年齢層の女子向けってイメージなんだけどな」

 

 顎に手を当てながら言う一夏に、数馬は分かってないなと言いたげにチッチと指を振る。

 

「良いか一夏。確かにアイドルものにはそうしたものが多い。それは事実だ認めよう。けどな、どんな路線だろうと作り方しだいで対象は変わるものなんだよ。あぁ、実に素晴らしいね。アニメとは、漫画とは、小説とは。まさに人類が生み出した珠玉の文化だ。作品一つ一つに世界がある。そしてその行先は様々だ。世界の数だけ異なるエンディングという未知がある。たとえ同じ作品であっても、同好の士によってまた彼らそれぞれのエンディングが生み出される。

 まさに未知の坩堝。つまらない既知にありふれた現実(リアル)と比べて実に甘美な世界だ。歓喜も狂気もありとあらゆる感覚の未知が詰まっている。胸を打つ。これを素晴らしいと言わずして何と言う。これこそ娯楽の極致だよ。異論は認めん、断じて認めん、これが真理だ黙して従え」

 

「アー、ソーダネー」

 

 一人で勝手にテンション上げて盛り上がる数馬に一夏は適当な相槌を打っておく。弾に至ってはもはや何か言うことすら放棄していた。

 

「しかし、このアニメって結構登場人物多いよな。普通アイドルものなんて、アレだろ? 私アイドル目指してま~すって主人公一人、でなくても精々二、三人程度か。それだけにスポット当ててのし上がってくようなもんだろ。これなんて、13人も居るじゃねぇか」

 

「ふむ、なるほど多いと感じるか。ただまぁ、この辺りは割とリアルに忠実というか、ぶっちゃけリアル見てみりゃ10人超えのアイドルグループなんかざらだろ? 多いとこなんか50人近く、下部組織含めりゃ三ケタいってるのもある。その中でファンは自分の好きな娘を、あるいは全体そのものを応援する。同じ方式さ。ただ次元の数字が一つ違うだけだよ。

 ちなみに今さっき一夏が言った例はもっと低年齢の女児向けに多いな。代表例を挙げるとすれば、数年前にその年齢層の間で流行った『きら○ん レボリューシ○ン』、あたりかな」

 

「いや、そこまで聞いてねぇし……。つかよく知ってんなお前」

 

 軽い疑問のはずだったのに妙に詳しく答えてきた数馬に一夏は軽く引く。ただ、よくよく考えてみればいつものことだった。

 

「でだ、我が友一夏よ」

 

 急に数馬がズイと顔を近づけてくる。ぶっちゃけ気持ち悪かったので思わず殴り飛ばしそうになったが、なんとか腕を抑えて我慢できた。

 

「な、なんだよ」

 

 近い近いと数馬の顔を押し離しつつ一夏は聞く。

 

「いやな、単刀直入に聞こう。誰が好みだい?」

「はい?」

「中学時代から今日まで、僕は良作を良き友人である君らにも知ってほしいとせっせとちょくちょくアニメのディスクを見せてきた。君だって嫌がらなかっただろう? 少しは興味があって、ぶっちゃけ好みの娘の一人や二人くらいいるんじゃないのか?」

「え、いやそのだな。えーっと……」

 

「フフン」

 

 ピッとリモコンを押して映像を一時停止。数馬はおもむろに自分の携帯を取り出すと幾つかの操作をして画面を一夏に見せつける。そこには、件のアニメに登場するアイドル達が勢ぞろいしている画像が映っていた。ちなみに、映像を止められたことについて弾は何も言わない。もう好きにしてくれと半ばあきらめモードに入っていた。

 

「さぁ、誰が好みだ!」

「いや、待てお前とにかく落ち着けよな?」

「さぁ!」

「え~っと……」

 

 とりあえず答える必要があるらしい。ならばと一夏は改めて画面を見る。さすがに適当な答えを返すわけにもいかない。選ぶなら、まじめに選ぶべきだろう。

 

「強いて言うなら、この二人か……? アニメの中で歌ってる歌も悪くなかったし」

 

 そういいながら一夏が指さした二人のキャラを見て数馬はふむ、と頷く。

 

「なるほど、チハヤにタカネか。悪くないチョイスだ。歌にも目を付けるとは中々良い着眼点だ。一夏、やっぱ君センスあるよ」

 

 正直そんなセンスを褒められても困ると言うのが一夏の本音だ。

 

「ふむ。どちらも比較的クールな方のキャラとは言え、二人には結構な違いがあるな」

 

「胸がか?」

 

「黙れ、()()言ってやがる」

 

 数馬によるツッコミの拳を軽々とかわしながら一夏は冗談冗談と言う。

 

「良いかい一夏。世の中な、言って良いことと悪いことがあるんだぜ」

 

「お、おう」

 

「まぁ良いさ。よし、続きと行こう。なぁに安心しろ一夏。もう後半だ。このアニメ、後半でのチハヤの単独シーンは……かなりイケるぜ?」

 

 期待しろと言うようにニヤリと笑うと数馬は続きを再生する。その横で弾は昼食の算段を立て始めていた。

 

「あーところで数馬」

「ん? どした?」

「いや、このアニメ、作品それ自体を見始めた頃からかなり気になってたことがあるんだよ」

「ほぅ。なんだ、言ってみろよ」

「あぁ、あのな? この双子の姉妹のアイドルいるじゃん?」

「あぁ、アミにマミな? ちなみに俺はマミの、姉の方が好みだな。いやどっちも好きだけど。で、二人がどうした?」

「いや、この二人さ。声が鈴のやつにそっくり――」

 

「修正してやるーっ!!」

「ブッピガンッ!?」

 

 一夏の言葉を遮って数馬のツッコミのチョップが一夏の頭頂部に炸裂した。その速さたるや、一夏ですら不意を突かれたとは言え反応できず直撃を許すほどだった。そこに込められた鬼気迫るものに、一夏は思わず意味不明な呻きをあげる。

 

「良いか一夏。それはな、そればかりはな……触れちゃダメだ。色々マズい。うん、やめとけ。いや、別に黒歴史とかそんなんじゃなくてな、あえて気にしないのがマナーというやつだ」

「え~っとそれじゃあ、あのタカネの声がやっぱり俺のクラスメイトの四十院に似ているってのも……」

「ダメだ」

 

 険しい、真剣な眼差しで言うなと念押しする数馬に、流石の一夏も素直に頷いて従う。

 

「よし、じゃあ続きだ」

 

 そう言って三人でアニメの続きを見る。見ながらも、会話はなおも続く。

 

「これも今更だけど、回ごとにメインのキャラが違うんだな」

「まぁ全員に均等にスポット当てようと思ったらこれが一番手っ取り早いしねぇ」

「今何話だっけ?」

「二十話。もうあと五話くらいだ。飯食ってしばらくする頃にゃ全部終わるよ」

「この二十話はどう考えてもチハヤ回だな。その前回にタカネ回か」

「一夏、君も悪くないって思ってるだろ? いやいや否定するな。その気持ちはよく分かる。僕も、この二十話とその前の十九話が入ってるブルーレイ七巻はお気に入りだからな」

 

 そんな取り留めもない会話をしながらもアニメは進んでいく。そして終盤、ライバルプロダクションの工作によって歌えなくなったチハヤが、仲間たちが作り上げた新曲を歌おうとする場面。

 やはり声が出ずに俯く美早の下に駆け寄る仲間たち。彼女らの歌声に後押しされて、ついに美早が過去のトラウマを振り払い高らかに歌い上げた。

 

「やった!」

 

 瞬間、一夏はそんな声を上げてガッツポーズを決めていた。そして、ハッと己のしたことに気付く。

 三人並んだ真ん中に座る一夏は、まず左の弾を見る。

 

「まぁ、頑張れや?」

 

 仕方ないなこいつと言うように弾がヤレヤレと首を横に振る。親友のそんな態度にヤッベーと冷や汗を流す一夏の肩に、右からポンと手が置かれる。

 右側、すなわち数馬の居る方に嫌な予感を感じつつも振り向く。そして振り向いた先には――

 

「ウェルカム」

 

 それはもう晴れ晴れとした笑顔を浮かべてグッとサムズアップを決めている数馬の姿があった。

 

「いや、たまたまだたまたま。ちょっと魔が差しただけだよ」

 

「否定するな、認めろよ一夏。何にも恥じることはない。好きなことに好きと感じて何が悪いんだ? ん? ん?」

 

「ちがぁう! えぇい! オラ、次の回始まっぞ!」

 

 強引に数馬を視界から追い払う一夏。追い払われた数馬はと言えば、しょうがないなコイツと言うようにニヤニヤと一夏を見ていた。

 

「別に良いじゃないか。何にも恥じることはないんだぜ?」

 

「見てみろよ、このライブシーン。良いだろう? 実際に声優さんたちがライブで歌ったりもするんだぜ?」

 

「盛り上がるだろう? なぁ、一緒に熱くなってみたいとは思わないか?」

 

「怖くなんかないさ。失うものなんざない。ただ、最高の娯楽を得るだけだ。一歩を踏み出す、それだけでいいんだよ」

 

 アニメを見る横で数馬がそんな悪魔の囁きを一夏に吹き込む。口を真一文字に固く引き締め、そんな言葉には耳を貸すまいとする一夏だが、どうにも座りながら上半身が左右にブーラブーラと揺れている。

 そんな様を見て弾は『こりゃそろそろ限界かもな』と、友人がまた更に変わり者街道を突き進みけていることを悟った。

 

 途中ではあるが弾が一時的に席を外す。この日の昼食は自分が受け持つと事前に二人に公言していたため、それを果たしに行ったのだ。

 なお、現在五反田邸にはこの三人しかいない。住人である弾の家族たちは全員出払っている。そのため、食堂も今日は休みとなっているが、それはどうでも良い。

 事前に仕込みはしておいたため、作り上げるのにさほど時間は掛からなかった。

 出来上がった野菜炒めを大皿に盛り、部屋に持っていく。この後にご飯などを運び込む。部屋に近づくにつれて未だ続いているアニメの音が聞こえてくる。

 音から察するに、またアニメの中でのライブシーンか何かだろう。特にどうと思いはしないので、そのまま部屋に入る。そして――

 

『せーの! ハーイ!  ハーイ! ハイハイハイハイ!!』

 

 部屋に入った瞬間、アニメのライブに合わせて見事にコールを入れている馬鹿(友人)二人の姿が飛び込んできた。

 

「……ダメだこりゃ」

 

 ただ一言、弾は諦めと共にそう呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「違う、あれは気の迷いだ。雰囲気にあてられただけだ……」

 

「いい加減認めろよ一夏。結構ノリノリだったろう?」

 

「うるさいわ!」

 

 アニメに一段落をつけた三人は卓を囲って昼食を摂る。

 

「まぁさ、一夏。ほどほどにしとけよ?」

 

「弾、お前まで……」

 

 味方は居ないのかと一夏が肩を落とす。

 

「まぁアレだ一夏。少なくともこの程度じゃ俺はどうこう思わねぇよ。お前が変わり者なんて、今更だ。お前が、俺のダチなのは変わりない」

 

 友人を気遣う弾の言葉に、一夏は静かに首を上げた。

 

「弾……」

 

「一夏……」

 

 二人の視線が交差する。それを見ながら数馬は――

 

「さて、スレ立てるか。『俺たちずっと』友人二人がホモホモしい件『親友(ツレ)だよな』っと」

 

「止めろ!」

 

「つーか見つめんなよ気持ち悪い!」

 

「お前が先だろ一夏!」

 

 やいのやいのと決して静まることなく食事が進む。

 

「でだ、一夏。どうよ? ゲームの方も」

 

「いや、良い。ていうか学園の寮にハードないし」

 

「別に家でも良いだろ? それにハードなら俺複数台あるし、貸すぜ? どうだ、ヤ ラ ナ イ カ?」

 

「その聞き方やめろマジでやめろ終いにゃしばくぞ」

 

「そう言いつつ拳をポキポキ言わせるのは止めようぜ?」

 

「つーかお前、そんだけどハマりして、完璧に終わったらどうするつもりなんだよ?」

 

「無論、確かに悲しくはあるがそれもまた運命と甘んじて受け入れるさ。元より、物事全てに始まりと終わりはあるのだからね。

 そうさ、終わりだって俺は愛でてやるよ。なにせそれはまだ俺が知らない未知なんだ。俺は俺にこう言い聞かせよう。未知の結末を知れと。ん? 今考えたにしては中々良いフレーズだな。よし、座右の銘にしよう」

 

『いやどうでも良いし』

 

 一人で納得する数馬に一夏と弾が揃って突っ込む。こんなことも、今日でどれだけやったか分かったものじゃあない。

 

 

 

 

 山も無い。オチも無い。ただ延々とダベるだけの行為を、野郎三人は続ける。そこには生産性もクソッタレもあったものではない。

 意義があるか否かと問われれば、ほぼ確実に否だろう。だが、それでも彼らは笑っていた。

 友と笑いながら時を共有する。そうすることのできる尊さを彼らが知っているとは限らない。多分知らないだろう。

 だが、ただ笑顔で穏やかな時を過ごすことができるということを尊いとするのであれば、彼らにとってこの時間は決して無為なものでないことは、間違いないと言えるはずである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ていうかさ、僕は思うのよ。一夏、弾。どんだけきれいに締めようとしても、結局やってることがバカだったら意味無いよなーと」

 

「違いない」

 

「お前ら見てるとよーく分かる」

 

『HAHAHA!!』

 

 

 

 

 




さて、今回の話の中に仕込んどいたネタ、分かった方はどれだけいるのでしょうか。
使ったネタに、「これだろ分かりやすいんだよバーカ、ハハッワロスww」というような感じでも構いませんので、感想とかで言及いただけると嬉しいかなーと思ったり。

数馬くんについて、原作でもさっぱり描写がないのでかなり弄繰り回しました。
多分思想とかそういうのは一夏以上に根っこの部分でクレイジーです。束さんに近いものがあったりするかもです。彼のセリフの端々、入れたネタに気付きましたかな?

弾についてはかなりまともな常識人、けど変わり者二人に付き合える剛の者って感じです。
冒頭にありましたが、鈴は基本彼ら三人も友人と思っていますが、三人そろったカオス空間はちょっと勘弁という感じです。カオスすぎてそのうちナマモノとかでるかもしれませんねww
いや、やりませんけど。

次回は本編に戻ります。原作二巻に突入です。
原作二巻は、また色々弄ってサクサク終わらせたいなと。というか、あの問題をまっとうに書こうという気になれなくて。どの問題かはあえて明言しませんが。

では皆様、また次回に。

※(2014・5・27)数馬の一人称及び作中作について少々修正を加えました。
なお、本作はあくまでフィクションです。作中作など、どっかで見たような感覚を抱くかもしれませんが、そこはそれとして割り切って頂けると助かります。

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