咲-Saki- The disaster case file   作:所在彰

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第六話 『実力』

 東2局に差し掛かり、親は咲へ移行し、場は膠着状態にあった。

 

 前局の和了りに邪魔されたのか、優希は勢いの感じない三向聴の平凡な配牌から始まった。

 しかし、嵐の手牌は向聴数こそ同じだったではあったが……

 

 

 東2局0本場 親・咲 ドラ{1}

 

 嵐・手牌

 {①②⑤⑥⑦⑧18二西西発発} {三}(ツモ)

 

 

 自風牌・翻牌を重ね、僅か以上に筒子の混一、一気通貫を予感される好配牌。

 ツモないし和からのピンズの打ち下ろしがあれば、最悪、役牌を鳴けば親番だけでも蹴れる。

 

 だが、嵐はこの配牌に何の魅力も感じていなかった。

 役牌を鳴くのは容易いだろうが、和がこちらに筒子の寄りを感じれば、そう簡単に打ち下ろしてくるはずもない。

 自らの手を狭めるような真似はしないだろうが、ギリギリまで抱える可能性は非常に高い。そうなれば、嵐の一手遅れは目に見えている。

 

 結局、第一打に河に顔を見せたのは{⑧}だった。 

 

 

(この手牌でも見に回るのか。いくらなんでも徹底し過ぎだろ……)

 

 

 普通に考えれば{1}切りが安定。

 ツモが悪くとも、役牌を鳴いての混一を目指せる手牌を第一打から見限った。

 

 その打牌に、京太郎は薄ら寒いものを感じる。

 どう考えても、ここは和了りを目指す場面だ。点数は優希の一人浮き、少しでも点数を削り、自身の親番に繋げるべき。

 

 

(そうしないってことは、それだけ腕に自信があるのか……もっと、別の意図がある?)

 

 

 そんな考えを裏切るかのように、局は12順目に縺れ込んだ。

 

 

 嵐・手牌

 {②③④赤⑤⑥⑦456西西発発}

 

 優希・手牌

 {白白②②④⑦⑧} {東横東東} {横二三四}

 

 和・手牌

 {二三四五45688④赤⑤⑥⑦}

 

 

 嵐は聴牌こそいれていたものの、{西}{発}はそれぞれ場に二枚切れの純カラ。和了りを逃した形となっていた。 

 対し、優希は牌を入れ替えた嵐の{二}と和から捨てられた{東}を鳴き一向聴。

 和も{六}{③}{⑧}を引き入れれば、{7}が場に一枚も見えておらず、一発の目に裏ドラも期待できる三面張の一向聴。

 

 やや和が優勢の展開であったが、ここで動いたのは、咲だった。 

 

 

 咲・手牌 13順目

 

{12345五五赤五⑤⑤⑨⑨⑨} {②}(ツモ) {5}()

 

 

 

 僅かに、悩むような素振りを見せての打牌だった。

 そして、その牌に和了り宣言も鳴きも入らないのを見て、僅かばかりに安堵の吐息をついたように見える

 

 

(両面搭子を崩して{②}残し、優希の鳴きを警戒してか?)

 

 

 しかし、咲の打牌は京太郎の予想を全て外したものだった。

 

 

 咲・手牌

 {1234五五赤五②⑤⑤⑨⑨⑨} {③}(ツモ) {4}()

 

 {123五五赤五②③⑤⑤⑨⑨⑨} {③}(ツモ) {②}()

 

 

「……リーチ」

 

(んっ?! また両面搭子を外してシャボ待ちに変更してリーチ!? でも{⑤}は先輩と和が持ってる、{③}はあと一枚、気づいてな……いや、待てよ、おい)

 

「その{②}、ポンだじぇ!」

 

 

 優希・手牌

 {白白②②④⑦⑧} {東横東東} {横二三四} {②②②} {④}()

 

 

 咲のリーチ宣言に、一発消しと聴牌を目指しての鳴きが入る。

 

 その時、京太郎の脳裏に過ったのは、かつて咲の見せた対局と久の言葉。

 普通の人間には見えていないものまで見えている。それが事実であるのなら―――

 

 

 

 咲・手牌

{123五五赤五③③⑤⑤⑨⑨⑨} {⑨}(ツモ)

 

 

(狙いはこっち、しかも咲が槓するってことは……!)

 

 

 「カン――――嶺上ツモ、6000オールです」

 

 

 咲・手牌 ドラ{1}・裏ドラ{発}

 {123五五赤五③③⑤⑤} {裏⑨⑨裏} {③}(ツモ)

 

 

 ――この和了りは、彼女にとって当然のものかもしれない。

 

 

 東家・咲  34,600(+18,000)

 南家・和  10,600(-6,000)

 西家・嵐  13,400(-6,000)

 北家・優希 41,400(-6,000)

 

 

「また嶺上開花とか、咲ちゃんは怖いじぇ。もしかして狙ってたとか?」

 

「そんなオカルトありえません。ただの偶然です」

 

「あ、あはは……」

 

「………………」

 

(和も先輩も強心臓だよなぁ。こうなっても顔色変えないし、焦りが見えない。優希はまあ、点差が一気に縮んだから焦るのも分かるけど……なんで、咲も?)

 

 

 点数は和と嵐が大きくへこんではいたものの、態度に変化は見られない。むしろ、焦っていたのは優希と咲だった。

 優希は大きく開いていた筈の点数が、あとは6,800点差まで詰め寄られ、5,800のツモか、3,900の直撃で逆転されてしまう。その焦りは当然だ。

 カクンと落ちた両肩が、今抱いている感情をストレートに表現していた。

 

 ――だが、咲が焦っている理由を京太郎には理解できなかった。

 

 誰がどう考えても焦る理由などない。

 これがオーラスの断ラスだというのならば理解できるが、東二局のトップの目は十二分にある状況に焦りや不安を抱える必要などないはずだ。

 

 

(そういえば、咲が{②}を掴んで{5}切りだした時、ちょっと迷ってたよな。あの時見てたのは……)

 

 

 視線の先に居たのは、間違いなく嵐だった。少なくとも、京太郎の目から見れば。

 

 

(先輩の待ちが純カラに気付いていなかったから、切り辛かったのか……?)

 

 

 しかし、それにしても気にし過ぎのように思えてならない。

 嵐の捨て牌には{23789}の索子5種が見えており、{5}が当たりとなるのは{46}の嵌張待ちだけ。

 迷彩を施し、咲を狙い撃ちという可能性もないでもなかったが、優希からの直撃を取った方がトップとの差が縮む分だけ有利なはずだ。

 わざわざ面倒な手順を踏んで、咲から点数を奪うだけの利点が嵐にはなかった。

 

 

(…………半信半疑だったけど、宮永さんと嵐をぶつけたのは正解だったかしら)

 

 

 咲の焦りに気付いていたのは京太郎だけではなかった。

 後ろで嵐の手牌と場の推移を見守っていた久も、また咲に動揺のようなものを感じていた。

 元々、久は人を手玉に取ることに長けた少女であり、心理戦は最も得意とするところ。人の変化には非常に聡い。

 

 

(気を付けなさい、宮永さん。靖子は経験と技術でアナタの感覚の上をいった。……でも、嵐はアナタの感覚がそもそも通用しない相手よ)

 

 

 咲を気にしておきながら、口元には底意地の悪そうな笑みを浮かべていた。

 

 

(何か、また可笑しな笑い方でもしていそうだな……)

 

 

 背後で意地の悪い笑みを浮かべているであろう友人の気配を感じ取り、嵐は心配だとばかりに首を振る。

 

 

(しかし、面白い和了りだった。…………その和了りが、確認したかった)

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 その後、和が咲の打った{④}を山越しに優希を狙い撃ち、7,700の直撃を加えた。

 東3局に至り、親番も回ってきたこともあってか、更に咲と優希から二度の小さな放銃を奪ったが、2本場に入り、その勢いを警戒した咲と嵐は結託し、優希をアシストに回った。

 

 

「よし、ツモ! 中のみの600・900。これでのどちゃんの親は蹴ったじぇ!」

 

 

 優希・手牌 

 {①①23} {横中中中} {⑨⑨横⑨} {横888} {1}(ツモ)

 

 

 東家・和  27,400(-900)

 南家・嵐  12,800(-600)

 西家・優希 31,600(+2100)

 北家・咲  28,200(-600)

 

 

 一時、優希は転落したものの、再びトップへと返り咲いた。後を追うように咲、和が続き、大きく遅れて嵐が追いかける点差。

 

 

「日之輪先輩だけ、点数がへこんでる。大丈夫ですかね」

 

「あら、これくらいの点差、よくあることよ」

 

「じゃなあ。親満ツモればほぼ横並び、親跳をツモれば逆転トップ。まだ東場じゃけぇ、いくらでもチャンスはある」

 

 

 三人の会話もそこそこに東4局、嵐の親番が始まった。

 

 

 東4局0本場 親・嵐 ドラ{発}

 

 嵐・手牌

 {一六九①④⑤⑨1赤567南西北} {北}()

 

 

 (酷ぇ……)

 

 

 重要な親番での配牌は、見に徹し続け、多くの和了りを放棄したツケか、ボロボロの五向聴。

 かろうじて一面子と両面搭子があり、567の三色が僅かに見える程度で、せいぜい鳴いて捌くのがやっとの手牌。和了りを目指すには余りにも遠すぎた。

 

 京太郎が嘆くのも無理はない。

 配牌五向聴から上がれる確率は、1割と少し。現実的に考えれば、十度に一度上がれれば良い方と聞いていた。

 多くのデジタル雀士も、ここまで配牌が悪ければ鳴いて捌くより、始めからオリを意識して手を進めていくものだ。

 

 しかし――

 

 

 嵐・手牌

 {一六九①④⑤⑨1赤567南西} {四}(ツモ) {一}()

 

 {四六九①④⑤⑨1赤567南西} {⑥}(ツモ) {1}()

 

 {四六九①④⑤⑥⑨赤567南西} {7}(ツモ) {九}()

 

 {四六①④⑤⑥⑨赤5677南西} {五}(ツモ) {①}()

 

 {四五六④⑤⑥⑨赤5677南西} {③}(ツモ) {西}()

 

 {四五六③④⑤⑥⑨赤5677南} {7}(ツモ) {⑨}()

 

 {四五六③④⑤⑥赤56777南} {4}(ツモ) {南}()

 

 

(む、無駄ヅモなしに、あっという間の聴牌。高速配牌の次は鬼ヅモ。咲にも負けてねえ……!)

 

 

 京太郎は知らなかった。藤田との対局の際に見せた嵐の強運を。

 怒涛の中張牌八連続引き。幺九牌を切っている間に、{③}が顔を見せれば親満に手が届く和了りにまで昇格してしまった。

 

 しかし、そこで立ちふさがったのは、同じく常識はずれの強運を生まれ持った咲だった。 

 

 

 咲・手牌 8順目

 {八八4567②③④赤⑤⑦⑦⑦} {②}(ツモ) {7}()

 

 

 僅かながら和に視線を送っての打牌だった。

 それは警戒によるものではなく、あたかもオーケストラの指揮者が演奏者たちの調子を見るかのような瞳。

 

 三年の付き合いになる京太郎、心理を読むことに長けた久ですら見逃してしまう微細な変化。

 常人ならば見過ごすであろう咲の異変を、嵐の眼力は決して逃さなかった。

 

 

「チ――」

 

「すまない、原村。ポンだ」

 

 

 嵐・手牌

 {四五六③④⑤⑥4赤567} {7横77} {4}()

 

 

「は……? この手で鳴く? しかもカンじゃなくてポン? わざわざ三色を崩して?」

 

「普通じゃ、まずありえない鳴きじゃな。邪魔ポンにしか思えん。部長はどう見る?」

 

「さあ……? 麻雀やってる時のアイツの頭の中なんて読めないわよ。でも、そうね。須賀くん、折角だから和の手牌でも見てきたら?」

 

「はあ、そういうなら……」

 

 

 四人の背後を回って手牌や打ち回しを見ていた京太郎が、今度は和の後ろに回った。

 

 

(つーか、咲の奴、何であんなありえないって顔してるんだ……?)

 

 

 ついでに咲の後ろに回り手牌を確認しながらも、目を開き、信じられないものでも見るような目で嵐を見る咲に首を傾げた。

 

 そして、全ての疑問が氷解したのは9順目の和のツモだった。

 

 

 和・手牌

 {⑤⑥⑧四赤五六七七七3368} {⑦}(ツモ) {8}()

 

 

({⑦}が埋まりましたが、既に宮永さんと日之輪先輩は聴牌気配。{8}切りで様子見ですね)

 

 

 和から見れば、嵐のポンによって{7}三枚切れ。{68}の嵌張搭子を残しておく意味はなく、当たり牌である危険性の低い{8}切り。

 何ら不思議なことはない、当然の選択だ。しかし、後ろから見る者には驚異的だった。

 

 

(和が{7}鳴けば、あの{⑦}は咲のツモ……てことは、また嶺上開花もあり得たんじゃ)

 

 

 もし、嶺上牌が咲の待ち通りだとすれば、{八②}のどちらを手牌に吸収しても、手が狭くなるだけだ。これを見越していたというのなら―――

 

 出来過ぎといえば出来過ぎの展開に、京太郎はゴクリと生唾を飲み込んだ。

 もし、もし仮にこの展開を嵐が読んでいたというのなら、嵐もまた咲に近い生き物ということ。

 しかも、一時的かもしれないが、咲を上回る何かを秘めている証しでもある。

 

 

(違う……いつも打ってたお姉ちゃんとも、この間対局したカツどんさんとも、日之輪先輩は違う……!)

 

 

 咲は卓の下で、手を握ることで何とか震えを抑えていた。

 

 経験という点ではカツどんさん――藤田 靖子が上だろう。

 相手に“何か”が与える威圧感という点では、彼女の姉の方が上だと思っていた。

 

 だが、全くと言っていいほど相手の手牌が読めない経験は、今までに一度足りとてなかった。

 

 勿論、全てが見えているわけではない。あくまでも何となく、直感の領域を出ておらず、薄ぼんやりとした、曖昧模糊とした説明できない感覚に過ぎない。

 それでも咲はこれまで経験した対局において、全てが外れることなく的中していた。

 

 

(…………分かった。お姉ちゃんやカツどんさんみたいに“何か”は確かにあるけど、感じ取れないんだ)

 

 

 言葉にできない威圧感。時に吐き気すら催す存在感。

 姉や藤田に感じたそれが、嵐には感じ取れなかった。咲同様、藤田もまた同じように。

 

 だが、それは0だったからではない。むしろ逆だ。

 

 巨大な物体が目の前あれば、全体像を把握できないように。

 巨大な音を耳にすれば、耳鳴りで周囲の音を聞き取れないように。

 あるいは、巨大な嵐の中に飛び込めば、激しい風雨に視界を塞がれてしまうように。

 

 “何か”が圧倒的過ぎて、逆に全ての感覚が麻痺してしまっている。

 

 

(もしかしたら、今のお姉ちゃんよりも………………なら、なら―――ッ!!)

 

 

 急速に、咲から放たれる“何か”が高まっていく。

 同じ感覚打ちの優希はぎょっとしたように身体を竦ませ、麻雀の経験の厚い久とまこは冷や汗と共に笑みを浮かべ、付き合いの長い京太郎も違和感に眉を寄せる。

 

 それを一身に受けた嵐は、薄く笑みを浮かべる。

 

 

(流石だ、流石は…………まあいい、森林限界を超えた(みね)の上に花が咲こうとも、(おれ)は何度でも吹き飛ばす……!)

 

 

「ツモ。タンヤオドラ1、1000オール。…………閉まらない安手で済まない」

 

 

 嵐・手牌

 {四五六③④⑤⑥赤567} {7横77} {③}(ツモ)

 

 

 東家・嵐  15,800(+3,000) 

 南家・優希 30,600(-1,000)

 西家・咲  27,200(-1,000)

 北家・和  26,400(-1,000)

 

 

 普段の冷静な態度を崩さず、咲の意気込みに比して、余りにも安い和了りを謝罪する余裕すら見せる嵐。

 咲の変化を察せず、一人蚊帳の外にいた生粋のデジタル雀士・和はきょとんとした表情をしていた。

 

 

(何が安手で済まないよ。この和了りが、アンタ以外に出来るわけないでしょうに)

 

 

 多分に勘を含んだ読みとは言え、咲の手牌と変化を見抜き、自らの判断を信じなければ不可能な和了りだった。

 だが、それでも嵐は運が良かったと言い切るだろう。そもそも{7}を引っ張ってこれたのは偶然でしかないのだから。

 

 その時、久の頭に浮かんでいたのは、かつて部室で交わした会話。

 

 

『感覚や直感も馬鹿にはできない。自分自身でも説明がつかないからそう片づけているだけだ、と俺は思っている』

 

 

 感覚打ちについて意見を交わしていた時、自己主張が少ない嵐が珍しく自分の意見を口にした。

 

 感覚、直感、予感、虫の知らせ。

 所詮、どれも個人の主観に過ぎないものだが、的中することも少なくはない。

 何故、と紐解いても、誰一人として説明できるものはいないだろう。

 

 だが嵐は、そこに理由を付けた。

 そういった感覚は自分自身も言葉にできないだけで、人は五感から何かを感じ取っているのではないか、と。

 

 例えば、聴牌時に生じる打牌音の僅かな変化。

 例えば、自分の引きたい牌を引き入れた時に緩む表情筋。

 例えば、自分が欲しかった牌が川に並べられた時の視線。

 

 例えば、例えば、例えば。

 

 無辺際に存在する数多の仕草(サイン)

 それらを無意識の内に拾い上げ、頭の中で感覚や直感として再構築しているのならば――――

 

 

(だからって、そんな推論に全霊を賭けた上に、現実にしちゃってる、なんてねぇ)

 

 

 それら全てを、嵐は鋼の意思で封じる道を選択した。

 どのような優れた感覚が相手だったとしても悟られぬように。自らの手の内を一切明かさぬように。

 嵐の言が正しければ――――嵐の手牌は、如何なる感覚を用いようとも察せない、悟られないものである。

 

 必要なのは純然たる技術と推察力だけ。

 天から贈られた才能を武器に戦う“魔物”であったとしても、嵐の前ではただの人と変わらない。

 ましてや異能を歪ませるほどの強運があるのならば、多くの“魔物”たちにとって天敵とも呼べる存在である。

 

 久が“感覚の上をいく”ではなく、そもそも“感覚が通用しない”と称したのは、そのような理由だった。

 

 

「さあ、俺の親番、続けさせて貰おうか。」

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 そこからは嵐と咲の場と化した。

 辛うじて和が喰らいついていったものの、流れを掴んだ嵐と咲の強運の前には、一歩及ばずといった具合であった。

 一番酷かったのは優希だ。南場に入った途端、風船の空気が抜けるように集中力を失い、いいように毟られ続けた。

 途中、咲と嵐の点数に差が生じた際、優希が飛ばされることを警戒し、嵐が優希への意図的な放銃があったものの、現在は咲と嵐のトップ争いの様相を呈していた。

 

 

 東家・嵐  29,300

 南家・優希 11,500

 西家・咲  32,800

 北家・和  26,400

 

 

 最終局(オーラス)、咲は和了りトップ。和は3900の直撃を咲に、5200のツモ和了り。優希は倍満を超えた和了りがトップ条件となる状況だった。

 嵐はラス親。何点で和了ろうが、トップに立つまで親番を離さなければ構わない。

 

 和と優希が点数を高めていく中、咲は何とか聴牌を果たした。

 

 南4局0本場 ドラ{8}

 

 咲・手牌 10順目

 {二二三五六七②③③④④⑥⑧} {⑦}(ツモ) {三}()

 

 

(これで、聴牌! ……でも)

 

 

 咲が視線を向けたのは嵐の捨て牌だった。

 

 

 嵐・捨て牌

 {二四西35北}

 {南九6②}

 

 

 露骨な筒子面混を感じさせる捨て牌。

 ラス親での連荘がありながら、ただの一撃で勝敗を決する意思が現れているかのような索子萬子の嵌張払い。

 咲の手牌に多くの筒子が残っていたのは、嵐からの鳴きを警戒してであり、索子の一面子を捨てた結果が10順目まで局を長引かせる結果となっていた。

 そして、咲の待ちを見切ったかのような{②}の先切り。

 

 しかし、それも仕方あるまい。

 いつもなら何となく相手の手牌が頭に浮かび、点数も待ちも把握できるにも拘らず、嵐にはそれが全く見えてこない。

 咲はまるで午前にやったネット麻雀のように、全てが手探り、全てが闇に包まれている不安感に苛まれていた。

 

 和は三枚目の{発}をツモ切り、勝負を決する11順目。

 

 ――嵐の河に二枚目の筒子、{④}が並べ打たれた。

 

 

(間違いなく聴牌。ううん、多分待ち替え。{②④}の嵌張から良型の待ちに変えた……!)

 

 

 だが、その待ちが分からない。

 その二枚の筒子から推測するには余りにも判断材料が少なすぎる。

 {③⑥⑨}の三面張、{⑤⑧}などの両面待ち、あるいは{④}を使った{①⑦}の筋引っ掛けシャボ、あるいは字牌も可能性も。

 

 優希は筒子でも掴んだのか、観念したような笑みを浮かべ、安牌の{四}を切り出し、咲のツモ順が回ってきた。

 

 

(安牌以外の筒子と字牌を掴んだら……お願い、勝ちたいの……勝てなくちゃ、いけない――!)

 

 

 牌に願いが届いたのか。咲が掴んだのは{一}。

 まだ咲の心に安堵はなかった。だが、まだツモり合いに持ち込める。自分の感覚以外の予測で危険と判断できる牌を掴むまでは押し通せる。

 嵐の捨て牌と優希が今し方切った{四}の筋であり、そして手牌に抱えておく必要のない牌。

 

 

(これは、ない……!)

 

 

 そんな心の間隙へ、白刃が滑り込むように――

 

 

「――――ロン」

 

 

 ――嵐の静かで、よく通る和了(ホーラ)宣言が耳朶に打った。

 

 え、と漏れた声は誰のものか。あるいは嵐の手牌を知らなかった全員のものだったかもしれない。

 

 

 嵐・手牌

 {①②③一⑦⑧⑨東東東中中中} {一}

 

 

「掴んだら止まらないと思ったよ、12,000だ。俺の逆転トップだな」

 

 

 東家・嵐  41,300(+12,000)

 南家・優希 11,500

 西家・咲  20,800(-12,000)

 北家・和  26,400

 

 

 二順前、嵐の手牌は、この形だった。

 

 

 {①②②③④⑦⑧⑨東東中中中} {東}(ツモ)

 

 

 {③}の嵌張待ちでは、まず顔を出すはずもなく、ツモ勝負に持ち込んでも分が悪い……いや、そもそも和了りを逃しかねないと考えていた。

 そこに{東}を掴んだ瞬間、{②}はまだ通ると切り出し、一旦{①④}のノベタンに受けた。それでも三人のレベルから和了りは望めないとは分かっていた。この時点で、嵐は混一による和了りを見切り、端牌のどれかを掴み、チャンタへと変更を選択していたのだ。

 

 自身の捨て牌は混一を目指していた故に、チャンタとは読み難い。

 混一は50符5翻、チャンタでも50符4翻。値段が同じならば、より和了りの確信がある方を選ぶのは当然の選択だ。

 

 咲・捨て牌 

 {9西九6白南}

 {78①三}

 

 

 また前順に咲の切った{三}も理由の一つ。その際、咲から見て左側に二枚の牌が残っていた。つまり{一二}どちらかの雀頭対子を持っていた可能性も高かった。

 筒子を掴めば、まず間違いなく崩してくる。暗刻になったとしても、和了りトップの状態で平和、タンヤオ以外の役を狙う理由は薄い。

 {二三三}からの{三}切りの可能性も否定はできなかったが、{三}切りの際、咲は手牌の中央からやや右寄りに視点が移動していた。待ちは筒子か索子と読んだ。

 特に9順目まで残した手出しの{①}から、待ちはこの周辺と見切り、{①④}ノベタンから{一}単騎待ちへの切り替えを決断した。

 

 場状と自らの運を利用し、的確な読みを以て道を固め、三人の想像の上をいく、正に完璧としか言いようのない迷彩だった。

 

 

「――――フフ」

 

「おー、こんなの流石に止まらないじぇ」

 

「先輩、尖り過ぎっすよ」

 

「本当に。でも、どうして混一に……?」

 

「そうだな。ここまで牌が寄ってきてくれた、と言うのもあるが、全員タンヤオが絡みそうな捨て牌だったからな。一つの色で固めれば字牌や端牌が切り辛くなって手牌の進行が送れる、という意図もあった」

 

 

 一年組は負けたにも拘らず、晴れやかな笑みを浮かべ、嵐の打牌を賞賛していた。

 最も勝ち負けに強い意識を向けていた咲ですら同様のありさま。まるで、こうまでされては笑うしかない、と言わんばかりに。

 

 

「相変わらず、こっちの想像を超えてくるわね、アンタ」

 

「ワシなら染め手一択じゃから、あの手牌からチャンタを目指せんわ」

 

「賞賛は素直に受け取っておこう――――それで、今すぐにでも卓に入りたいという顔をしているが?」

 

 

 座ったまま首だけで後ろを振り返った嵐は、二人を見据えて言い放つ。

 久とまこは一瞬、キョトンとした表情で顔を見合わせたが、すぐさま満面の笑みを浮かべる。

 

 

「じゃあ、入らしてもらうかのう」

 

「ほら、最下位と三位は抜けなさい。久しぶりに本気で行くわよぉ」

 

「お前のそういう言動は聞き飽きたが、手は抜けないな」

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

「凄かったなぁ、先輩」

 

「あの直感と強運は、可笑しいじぇ。……イカサマか?!」

 

「全自動卓ですよ、優希。私としては、あの読みの方が怖いですが」

 

「無筋を押し通してるかと思ったら、当たり牌掴むとピタリと止めちゃうもんね。槓材も一枚浮かしで止められて、なかなかカンできないし」

 

「そんなオカルトありえません」

 

 

 入れ代わり立ち代わりメンバーを変えての半荘五回、嵐はただの一度もトップを譲らなかった。

 東場で優希に勝り、和の効率と速度を超え、咲の槓を封じ、久の悪待ちを読みきり、まこの染め手を染め手で返す。

 

 自らの実力をまざまざと見せつけ、弱いから卓に入らないではという疑念を払拭した。

 もっとも嵐にも、一年達にも、そのような疑念は些細なものであり、始めから思慮の外であったが。

 

 兎も角、四人は久の部長命令で散歩に出ていた。

 いくら合宿だからと言って、根の詰め過ぎも良くない。重要なのは緩急と集中力。

 学ぶべき時は全身全霊で学び、休む時はきっちり身体と頭を休める。なあなあで続けても、成長は望めないだろう。

 

 四人が行くのは合宿所に程近いに流れている『早乙女滝』と呼ばれる滝へと続いている遊歩道。

 周囲は木々に囲まれ、遠くには川のせせらぎと滝の流れる音が聞こえる。

 道の脇には似たような種類の野花が咲いており、茂る新緑は夏の到来を静かに謳っていた。

 

 

「あー! くっそー! 飛ばされたの俺と優希だけかよ!」

 

「一緒にするな犬! 私は狙い撃ち、お前はツモだじぇ!」

 

「こいつぅ、結果が一緒じゃ変わらねぇよ!」

 

 

 元々守りの薄い優希、経験が圧倒的に足りていない京太郎は嵐を含めた部員達にはいいカモだった。

 優希は勢いに任せて当たり牌を掴んでも止められず、京太郎は押し引きの加減が分からず、当たり牌を止められても、その後の和了りへと繋げられなかった。

 

 京太郎は優希の頬を引っ張り、優希はドスドスと京太郎の鳩尾を小突く。

 見慣れた光景ではあったが、いつもの部室とは場所(シチュエーション)が違うからか、和と咲には新鮮な光景に映っていた。 

 

 ふん、とお互いに顔を逸らして離れるまでが、いつもの流れだった。

 

 

「ちぇー! のどちゃん、さっさと先に行くじぇ、京太郎がイジメるぅ!」

 

「ちょ、ちょっと優希、待って、待ってください!」

 

「こらー! 人聞きの悪いことを言うんじゃねぇー!」

 

 

 優希は和の腕を引っ張り、さっさと遊歩道の先へと進んで行ってしまった。

 和に対して高嶺の花を見るような感情を抱いている京太郎への細やかな嫌がらせだったのだろう。

 

 

「……ったく、優希にも困ったもんだ」

 

「ふふ、京ちゃんも楽しんでる癖に」

 

「ま、それは否定はしないけどな」

 

 

 クスクスと笑い声を漏らす咲に、京太郎は肩を竦めませ、おどけてみせる。

 

 それに調度いいタイミングだった。

 合宿が始まったばかりの頃、嵐と話した咲から感じて違和感の正体が何なのかを探るには、またとない機会だ。

 

 

(アイツ、何かとタイミングがいいんだよなぁ。あんな性格だけど人から嫌われることがないのは、そういう理由かな?) 

 

 

 片岡 優希は非常に子供っぽい性格である。

 小生意気な性格をして、自分に素直になれない場面も多々あり、真面目な場面でふざけてみせる。

 人によっては敬遠したくなる者もいるだろうが、優希に限っては別だった。

 

 いつも皆の中心にいるわけではなかったが、賑やかしとして皆を盛り上げる役回り。それでいて、タイミングがいい。

 人が傍にいて欲しい時には傍に、一人にして欲しい時にはふらりと消える。

 人との距離感が近く、馴れ馴れしさとも取れる態度も、そのタイミングの良さの前には、愛嬌にしかならなかった。

 

 

「…………京ちゃん、どうかしたの?」

 

「あー…………、咲はさ、麻雀、楽しいか?」

 

 

 京太郎が咲に違和感を感じ取ったように、咲もまた京太郎の変化に気付いたのか、不思議そうな顔で問いかけてくる。

 しかし、どの程度まで探っていくかを考えていた京太郎は、逡巡の後、咲が変わり始めた頃から聞いていくことにした。

 

 

「……? 凄く楽しいよ。先輩たちと打つのも、和ちゃんたちと打つのも。…………勿論、京ちゃんと打つのも」

 

「あれぇ?! 何か俺だけ取って付けた感がありませんかねぇ!?」

 

「あはは、冗談だよ、冗談」

 

 

 絶妙の間を持たせて自分の名前が出てきたことは予想外だったのか、思わぬ精神的なダメージに顔を悲痛に歪ませながらの絶叫だった。

 

 それもいつものやり取りなのか、咲は楽しそうに笑うだけ。

 今、こうしている間は、三年の付き合いになる幼馴染に何の違和感も感じない。

 

 

「じゃあさ、なんで大会に出るんだ?」

 

「だって、麻雀部員なんだから、当たり前でしょ?」

 

「それはそうなんだけどさ」

 

 

 京太郎には確たる目的意識も、インターハイに何か夢を抱いているわけではない。

 ただ、自分と同じ一年の和と優希が出場を決めたからこそ、それに合わせた。流されたと言ってもいい。

 優希にせよ、和にせよ、他の先達たちにせよ、何がしかの明確な目的や夢があって大会に望もうとしている。

 

 楽しいだけなら大会に出る必要などない。

 そもそも、京太郎の知る宮永 咲は好きこのんで人前に出るタイプではなかったはずだ。

 

 

「部長はインターハイの団体戦に出て優勝するのが夢だろ。染谷先輩は多分、部長の手助けをしたいんだと思う。日之輪先輩はプロになりたいんだと」

 

「………………」

 

「だから、お前が大会に出るのも、俺とは違って理由があるんじゃないかー、って思ってさ」

 

「それは……っ!」

 

「――――咲?」

 

 

 歩幅を合わせ隣を歩いていた京太郎は、突然隣から消えた咲に背後を振り返る。

 見れば、咲は顔を俯かせ、遊歩道の真ん中で立ち止まっていた。

 彼女の弱々しい姿なら何度も見てきたが、余りにも悲痛な姿を見るのは初めての経験だった。

 

 

「……それは、その」

 

「――――……」

 

「ほ、ほら、部長も三年生だし、全国へ行けば、私が初めて麻雀を楽しめた全員と、長く楽し、める、から…………」

 

 

 自分でも無理に態度を保とうとしているのを自覚しているのか、台詞は後に行くに連れ、途切れ途切れの擦れたものとなっていった。

 それは何かを隠そうとしているのではなく、抱えているものを明かすべきなのか、それとも口を閉ざしてしまうべきなのか、迷っているように。

 

 口を開き、いっそ全てを吐き出そうとしても言葉にならない。言葉にするだけの勇気がない。

 それら全てを感じ取った京太郎は、ふぅと溜め息をつきながらも、優しげな笑みを浮かべる。

 

 

「そっか。そうだよなぁ、部長たちには随分世話になってるし、恩も返さないとな。…………それはそれとして、別の隠してる理由があるのはモロバレですけどね?」

 

「……あ、あうぅぅ」

 

「しかもそれ、優希か和に話してね?」

 

「え? えぇぇぇ? なんで、なんで分かるの?」

 

「おいおい、ポンコツ咲ちゃんと三年も付き合いあんだぜ。幼馴染京ちゃんを舐めんなよ?」

 

 

 京太郎が察したのは、後ろめたさだった。

 幼馴染に全てを話していない後ろめたさ。新しくできた友人に隠し事を先に明かした後ろめたさ。

 

 それぐらいは分かるだけの付き合いはしてきたつもりだ。気づかれていないと思われたのは、それこそ心外だった。

 

 

「ぽ、ポンコツは酷いよ! 私だって家事くらいできるし!」

 

「えー、いまだに迷子になったり、何もないとこでコケそうになったり、和とか優希とかいないとボッチだし」

 

「うぐ、……くぅぅ、そういう京ちゃんだって、原村さんの胸ばっかり見て鼻の下伸ばしてるよ!」

 

「ぐっはぁぁぁ?! 嘘ぉ! バレてんの!?」

 

「バレバレだよ! 女の子は視線に敏感なんだからね! あと部長とか私の足もよく見てるでしょ!?」

 

「咲の足から尻にかけてのラインと部長のストッキングはエロい!」

 

「そういうこと本人の前で力説する?! 京ちゃんのエッチ、スケベ、変態!」

 

「男子高校生なんて、こんなもんだぞ。変な幻想持つなよ」

 

「…………………………………………日之輪先輩は?」

 

「あの人は、ほら、色々と次元が違い過ぎて、ちょっと……」

 

 

 此処にはいない先輩の顔を思い出し、二人の本気半分悪ふざけ半分の口論はピタリと止んだ。

 

 嵐にも欲望や本能はあるのだろうが、それを理性で完璧に抑え込んでいる。

 高校生などまだまだ子供だ。自分のやりたいことだけをやって、明日(これから)のことなんてどうでもいいから今日(いま)を楽しみたい人間で溢れている。将来に向けて明確な進路を定め、そのために必要な努力をしている人間など一握り。

 だが、彼はそれ以上だ。行動の一つ一つに信念を感じるほど、強い意志を感じ取れる。

 

 二人は目を逸らしあい、引き合いに出した人物が間違っていたのを認める。

 咲は嵐と京太郎を比べたことを、京太郎は嵐に至らぬ自分を、お互いに謝りあう。

 

 

「まあさ、言いたくないならいいけどな。俺だって、お前に言ってないこととかあるし」

 

「ふーん、そうなんだ。ちょっと意外かも」

 

 

 京太郎は裏表のない性格をしている。色々な意味で、自分に正直な人間である。

 

 そんな性格だったとしても、隠している部分、言っていない秘密はあるものだ。

 隠すという行為は、それが当人にとって重要な意味を秘めているのだ、と示している。

 もし、他人に対して何も隠すことのない人間は、何一つ大事なものがない人間か、全く逆に自分の人生に何一つ恥じる所などない人間だけだろう。

 彼は、人格が破綻した人間でも、高潔な人間でもない。何処にでもいる、普通の人間だった。

 

 

「聞いてほしいなら喜んで聞くけど、お前が言いたくないなら無理矢理になんて聞かねーよ。デリカシーに欠けるのは自覚してるけど、ないわけじゃないからさ」

 

「………………うん、ありがとう、京ちゃん」

 

 

 結局、京太郎はそれ以上、踏み込んでいくのを止めた。

 決して臆病風に吹かれたのではなく、咲の内面に触れるのが怖かったわけでもない。

 嵐に言われた、咲が自分に向けている信頼がどういったものなのかを考えた結果だった。

 

 中学時代、咲との関係を冷やかされることも少なくなかった。

 思春期特有の気恥ずかしさから互いに距離を置かなかったのは、相手を心配していたからではなく、何となく居心地が良かったからだ。

 

 恐らく、咲も同じ理由だろう。

 互いにとって居心地の良い関係。それが三年間続けてきたものであり、咲の望んでいるものと京太郎は判断した。

 

 

「そろそろ行こうぜ、お姫様」

 

「うん! しっかりエスコートしてね、王子様?」

 

 

 仰々しく片膝を付き、まるで埃を被った演劇のワンシーンのように京太郎は手を差し出した。咲も芝居がかったノリに満面の笑みを応え、手を繋ぐ。

 咲はともかく、王子だの騎士だの、どう考えても自分のガラではなかったが、笑いあえるならそれでいい。

 

 結局、京太郎は不安の正体も、咲の抱えているものを知ることはなかった。

 何一つ解決しておらず、何一つ変わっていない。人によっては、問題を先送りしているだけと笑うだろう。

 

 だが、もし……もし、咲から感じていた違和感が、言いようのない不安が、現実に顔を見せたというのなら―――

 

 

(迷子になったら手を引っ張って連れ戻して、倒れそうなら支えてやるだけだ)

 

 




というわけで、主人公の実力でした。
多分、これなら十分に魔物相手でも戦っていけるレベルなんじゃないかなぁ、と思っています。
あと幼馴染二人も本編よりぐっと仲良くなっています。これからもそういうところも書いていくつもりです。

では、ご指摘、ご感想、お待ちしております。

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