IS学園。
一夏は箒とセシリアと鈴とシャルとラウラ。いつものメンバーで学食に来ていた。
いつもならこの場所で、食事をしながら楽しく談笑したりしているのだが、今日の話題はあまり楽しくなるようなものではなかった。
「・・・・戦争、か」
箒が悲しそうにつぶやく。
自分の国が戦争をしているのだから辛くて当然だ。
正確には戦争をしているのは日本ではなく学園都市だが、学園都市が日本の中に存在している以上は無関係とは言えない。
「大丈夫だよ。ロシアは日本には手を出さないって言ってるんだし。IS学園にはロシアの代表操縦者の楯無さんがいるんだから。それにロシアだってIS学園に被害をだしたら各国の恨みを買うことはわかってるはずだよ」
シャルが気休めだと分かっていても、箒を元気づけるように言う。
「日本は交戦の意思を否定してるみたいね」
鈴もどこか声に元気がない。
「まあ、当然でしょうね。突然戦争しましょうなんて言われても、はいわかりましたとは言えませんもの」
「心配しなくてもすぐに終わるだろう。いかに学園都市が外より数十年進んだ技術を持つとはいえ、学園都市はISコアを所持していない。まともにぶつかっても勝ち目がない。
教官が言っていたが、速やかにロシアの要求を呑み、一刻も早く戦争を終わらせろと日本政府が学園都市に圧力をかけているそうだ。いくら学園都市が日本でも強い権力を持つとはいえ、日本の中にある都市である以上は輸出や輸入を止めるなりなんなりすれば、言う事を聞かざるを得ない。しばらくすれば、学園都市が降伏して戦争も終わるだろう」
しかし、空気は重いままだ。戦争が始まってしまって、皆不安なのだ。
「ほんと、困ったよな・・・」
一夏も不安そうに呟く。
「戦争のせいで肉とか野菜の値段上がってんだよな。最近は学食だけど料理する時どうしよう・・・」
「「「「「・・・・・は?」」」」」
皆おもわずポカンとしてしまう。あまりに場違いなセリフにあきれてしまった。
一夏は戦争という言葉に実感を湧いていなかった。
臨海学校の時は目の前で起こった出来事だからこそ実感できた。
戦争が起きていることを知っていても、一夏はいつもと同じ日常を送っている。
知り合いが関わっているなら別かもしれないが、今の一夏は、戦争をテレビの中の話としか認識できていなかった。
とりあえず、皆で一夏を殴っといた。
しかし、さっきまでの重い空気はどこかになくなった。
「まあ、気にしてもしょうがないか。私たちがどうにかできる問題じゃない」
箒も少し元気が出てきたようだ。
「ああ、それにもうロシアのISが動いているようだ。制圧される前に学園都市も降伏して戦争が終わるかもしれん」
ラウラの言葉で皆少し安心する。
「じゃあほら、暗い話題は終わりにしよう。そうだ、この時間はたしか世界のお菓子特集がやってるかも」
シャルが明るい声でケータイを操作する。
すると・・・・
「何・・・・これ!?」
シャルが驚きの声を上げる。
皆でケータイを覗き込むと。
臨時ニュースが流れていた。
IS学園の学園長室
生徒会長 更識楯無(さらしき たてなし)とIS学園教師 織斑千冬(おりむら ちふゆ)と学園の裏の経営者である轡木 十蔵(くつわぎ じゅうぞう)の三人は、目の前に映るニュースを見ていた。そこには、ある映像が流れている。
日本海上空をロシアのISと学園都市の兵器が戦っている映像だった。いや、それは戦闘と言えるかどうかも怪しい光景だった。わずか数機の戦闘機がIS部隊を一方的に蹂躙していく映像は、自分たちの常識を木端微塵に破壊していく。ちなみに戦いの映像は世界中に流れている。
そして放送の中で、学園都市の報道官はこう語る。
『我々は貴方たちに一切の強要をしません。ですが、我々は我々の味方以外の者を守る義務もありません。すでにロシア側からはISの他、無警告で弾道ミサイルが発射されています。幸い、今のところは核弾頭の搭載は確認されていませんが、それもいつ禁忌の一線を越えるか分かりません。貴方たちにはご自分の頭で、自身が正しいと思う選択をしていただきたい。もっとも、日本国には優秀なIS学園のIS操縦者の皆さんがいらっしゃいますから、大した問題はないかと思われますが』
・・・・つまり、邪魔立てすれば防空兵器の網から日本の各都市を外すと言っている。
たしかにIS学園の操縦者達ならミサイルの迎撃も行えるだろう。
しかし、それをすればIS学園が第三次世界大戦に介入したと全世界から見なされる。
IS学園は世界中のIS操縦者が集まる中立の立場でなくてはならない。
そのため、日本が危機にさらされても動くことはできない。
日本のIS操縦者なら自衛行動はできるかもしれないが、それでも民衆に不安は残る。
多くの国民たちはこう思った。何でもいいから、とにかく自分の所にはミサイルを落とさないでくれ。
おかげで大勢の市民が政治家達の元へと押し寄せているらしい。
あの街を刺激するなと、自分たちの街を安全地帯のままにしてくれと。
大勢の民衆が日本政府の身動きを封じてしまっている。
おかげで政治家たちは、むしろ政治家たちこそが、学園都市を刺激することを恐れ、何もできなくなってしまった。
(・・・・馬鹿共が)
自分の保身しか考えていない無能な政治家たちに千冬は苛立つ。
「まさか学園都市の技術力がここまで出鱈目とは、この映像を見た世界中の人々が驚きますな」
轡木が呟く。
「慣性の法則を完全に無視してますよねこれ。ISにもPIC(パッシブ・イナーシャル・キャンセラー)はありますけど、これは科学技術というよりオカルトな架空兵器じゃないですか」
楯無もどこか呆れたように言う。
「ISも少し前までは架空兵器、おとぎ話のレベルだったんだ。数十年進んだ科学技術を持つ学園都市の兵器なら私たちの理解を超える技術を持っていても不思議はない」
千冬は比較的冷静だ。
あの思考回路がぶっとんだ天災との付き合いで大抵の事には動じなくなっている。
しかし、その千冬でも、楯無が持ってきた映像には絶句する。
列車の上、一人の男が三機のISに囲まれている。
異様な雰囲気の男だった。
白い髪に赤い瞳。とても特徴的な外見だ。
男は信じられないような事をしていた。
無謀に単身でISに突っ込んでいく。
その時、誰もが男は死んだと思った。
しかし男はISを吹き飛ばし、引き剥がし、ねじ伏せていく。
あまりの光景にあらかじめ映像を見ていた楯無以外が唖然とする。
ありえない。
この男はどう見ても生身だ。確かに首に機械のような物が見えるが、あれがIS装甲だとはとても思えない。故に、ヤツはISを操縦していない。あの天災を除けば最もISと関わった千冬がそう断言出来る。
ならこれは何だ?
「・・・・能力者」
楯無が呟く。
たしかに学園都市には能力者を開発しているのは知っている。
大覇星祭(だいはせいさい)という学園都市の体育祭のような映像も見たことはある。
実際、ISにも単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)というものが存在している。
しかし、これはなんだ?
男が何をしているのか、全く理解できない。
「学園都市最強の能力者一方通行アクセラレータ。それがこの男の呼び名です」
対暗部用暗部組織「更識家」の当主である楯無が言う。
楯無は気づいていた。彼からは『闇』の匂いがすることを。
間違いなく彼は暗部の人間。それは彼女が今まで見てきたどんな『闇』より深いものだった。それでいて、なぜか自分の『闇』に近い気がすると、なんとなく感じていた。
彼女は対暗部用暗部組織として今まで何度か学園都市の情報を集めていたことがあった。しかし、学園都市はガードが堅いのであまり情報を集められなかったのだが。
「呼び名は一方通行。本名不明。学園都市では絶対に戦ってはならない恐怖の象徴となっているそうです。彼の能力は不明ですが、一方通行は核兵器を受けても傷一つつかないと噂されてるみたいです」
学園長室に沈黙が流れる。
「君たちなら彼に勝てるかな?」
沈黙を破り轡木が尋ねる。
この場にいる二人は、世界最強のIS操縦者の千冬に、IS学園最強の生徒会長の楯無。
しかし相手は学園都市最強の一方通行だ。
「「・・・・勝ちますよ」」
一瞬答えられなかったが、二人は大切な人を守るために、誰にも負けないと決めている。
それはISの力を過信した愚か者の自信では無く、相手の能力すら分からないが、自分の力を信じた強い覚悟からのものだった。
先生の前なので楯無が真面目口調になってます。
普段の楯無は砕けてますよね。