IS学園VS学園都市   作:零番隊

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第26話 プライベーティア 

エリザリーナ独立同盟国に行く途中、浜面達は民家が並ぶ小さな集落に立ち寄った。

 

その中の診療所に浜面達はいた。ベットの上では滝壺が横になって眠っている。

 

滝壺は『体晶』により風邪のように高熱を出しているが、能力さえ使わなければ今の所命に別状はないはずだ。浜面としても滝壺にはゆっくり休んでいてもらいたかった

 

浜面はじっとしていることに耐えられず、辺りをうろうろしていた。何の目的もなく、ただ不安と重圧から逃れるように同じ所を行ったり来たりしている。

 

「不安なのはわかるけど、今は余計な体力を使うべきじゃないわ。滝壺ちゃんを助けたいなら、あなたもちゃんと休みなさい」

 

「楯無……」

 

楯無の言うことも最もだが、浜面は何かしていなければ行き場のない不安に押しつぶされそうになっていた。

 

「うん。それじゃあ私の話し相手になってくれない?」

 

「話って、何を話せば……」

 

「何でもいいわよー。そうね、あなたの学園生活についてとか聞かせて」

 

それから浜面は楯無と色々なことを話した。浜面のことであったり楯無のことであったり滝壺のことであったり、他にも様々な話だ。

 

なんの変哲もない日常会話。仲のいい友達のように普通の話。

 

暗部関係のことさえ話さないよう気をつけていれば浜面としても気が楽だった。

 

同じ日本人ということもあり、楯無のフレンドリーな性格は浜面たちの張りつめた緊張感を和らげていた。

 

今も楯無は浜面の身に起きた数々の苦難話(ドリンクバー係としてこき使われる日々等)に相槌を打ちながら親身に聞いている。楯無も自分の事やいつも支えてくれる生徒会で一緒に働いている幼馴染たちのこと、恋愛にかけては異常に鈍感なハーレム男のことなどIS学園での生活などを色々と教えてくれた。

 

先程までの暗い雰囲気から一転し、終始明るい様子で話は進んでいた。

 

自分も妹を誘拐されて不安で仕方がないだろうに、それを表に出さずない優しい楯無の性格は浜面にとってもありがたかった。

 

だから浜面は気づかない。自分があまりにも饒舌になっていることを。

 

「はま……づら……」

 

二人が楽しく話していたそんなとき、滝壺が目を覚ました。

 

「滝壺!大丈夫か?」

 

「……はまづら。なにを、やっているのかな?」

 

「何、って!」

 

そこで浜面は気づく。自分と楯無の距離があまりに近いことに。

 

最初は向かい合って話していたはずなのに、楯無はいつのまにか浜面の隣に座り、肩が密着するほどに近づいていた。

 

傍から見ると、まるで恋人同士が楽しそうにイチャついているようにも見える。

 

「あっ、じゃあ私は失礼するわ。後は二人でごゆっくり」

 

「おい!ちょっと待って!」

 

「は・ま・づ・ら」

 

「ぎゃあああああぁぁぁぁぁ」

 

浜面の悲鳴を背に楯無は一旦建物から出る。

 

(恋する女の嫉妬って恐いわねー。さてっと)

 

浜面に向ける優しい笑顔とは裏腹に、楯無は黙々と脳裏で学園都市に関する情報を繋ぎ合わせていた。

 

確かに暗部関係のことは直接口にしてはいないが、浜面とのありきたりな日常会話の中から、楯無はさりげなく学園都市に関する情報を引き出していった。

 

改めて浜面達の持つ情報の有用性を再確認できた楯無は、今度は浜面達の戦闘力について考える。

 

(病気の滝壺ちゃんは戦力外として、浜面君はどうなのかな?)

 

浜面は自分をなんの力も持たないLEVEL0(無能力者)だと言っていた。それが本当なら彼はなんの力も後ろ盾もない状態で学園都市を相手に戦おうとしているということになる。それはどれほど無謀な事か。

 

勿論戦うと言っても楯無と浜面では意味合いが全く異なるが、それでも無謀なことには変わりない。

 

浜面は学園都市に勝てるはずがないことを理解し、その上で自分と滝壺の安全を確保したままどうやってうまく負けるかを考えている。

 

(初めから負けることを前提にするなんて随分と後ろ向きな考え方だけど。自分の無力さをよく理解し、その上で生き残るためなら最善策なのかもしれないわね)

 

戦闘能力は期待できないと判断されたが、楯無の浜面に対する評価は僅かに上がった。

 

そんな時、20代くらいの男が診療所に運び込まれてきた。

 

「ロシア兵?凍傷のようね」

 

楯無は診療所に戻ると、浜面と一緒に様子を聞きに行った。浜面のほほが少しはれている気がするが今は気にしない。

 

ロシア兵は震える唇で何かを呟いた。ロシア語を浜面は理解できないが、楯無が翻訳する。

 

「助けてほしいって。近くにある軍事基地で『荷物』を待っていたら、それが到着する前に学園都市の連中に襲撃されたらしいわ」

 

(……『荷物』か)

 

「何か心当たりがあるの?」

 

「いや、さすがにそれだけじゃ分からない。だけど、もし学園都市が表向きの戦争とは違う理由。つまりその軍事基地に届くはずだった『荷物』が狙いなんだとしたら……」

 

その『荷物』とやらには、何か重要な意味があるのかもしれない。ただの軍事目的とは違う学園都市が狙う『ナニカ』。

 

そこまで考えて浜面は頭を振る。

 

「今の段階じゃ推測しかできないな」

 

「そうね。まずはその『荷物』とやらが何かを聞いてみましょうか」

 

「プロの軍人がそう簡単に教えてくれるか?」

 

「そこは私に任せて、ここまで弱った状態なら話を聞くことは難しくないわ」

 

「でも!」

 

「いいから。私に任せて。悪いけど、二人っきりで話がしたいから浜面は部屋から出てて」

 

「……分かった。頼む」

 

聞き分けのない子を諭すように言われても浜面には反論できず、出ていくことしかできなかった。

 

女の子にそんなことを任せてしまうのは抵抗があった。かといって浜面に何かできるとも思えない。結局楯無に任せることになってしまった。

 

実の所、楯無にとって自分の身分を明かしてしまえば話を聞くことは難しいことではない。

浜面を追い出したのは、自分がロシアのIS代表操縦者であることを知られるのは避けたかったからだ。

 

「くそっ……」

 

楯無に追い出された浜面は、何もできない自分の無力感と、女の子に任せてしまう不甲斐なさに苛立った。

 

「情けねぇ。これじゃあアイテムにいた頃と何も変わらねえじゃねえか……」

 

戦闘能力も尋問の能力もない浜面だが、力がないからと言って何もしない理由にはしたくなかった。

 

「何ができるかじゃない。今の俺のするべきことは何だ……」

 

そんなことを考えていたときだった。何やら辺りが騒がしくなってきたことに気付いた。

 

「何だ?」

 

上手く言葉に出来ない緊張感があった。

 

ロシア語で怒号や悲鳴が飛び交うも、浜面には理解できない。

 

診療所でロシア兵から話を聞いていたはずの楯無が突然飛び出してきた。

 

嫌な予感がする。

 

「どうしたんだ!!何があったんだよ!?」

 

「……プライベーティアよ」

 

「ぷらいべーてぃあ?何だよそれ」

 

「元々は中世の軍事制度の名前よ。政府公認の海賊で、敵対する国の船を優先的に襲うことで、敵国の財政を苦しめると同時に奪った金品で自国の財政を潤そうっていう制度なの。その間、海賊たちは『政府公認』として国に保護される。騎士の名誉を得た海賊もいたそうよ」

 

一瞬浜面の頭には某海賊漫画の七武海が思い浮かぶが、すぐに頭から消し去る。

 

「それがどうしたんだよ」

 

「ロシア軍は今でもそのプレイベーティアを採用しているの」

 

楯無の表情には緊張と焦りが見える。

 

「軍の中に存在する空白部隊。正規要員はゼロだけど、ロシア製の最新装備を渡して汚れ仕事を請け負う代わりに短期間で稼げるから、国内だけでなく国外からも人が集まってくる人気の仕事らしいわね」

 

「ここにはロシア軍にとっての味方だっているんだぞ。まさか集落ごとぶっ潰そうなんて真似はしないだろ?」

 

「相手はプライベーティア。そんな話は通じないでしょうね」

 

状況は悪い。だが絶望的というほどでもない。

 

いかに最新装備を持った武装集団だろうと、楯無にはISがある以上は負けはしない。

 

だが浜面や滝壺を守るとなると一気に厳しくなる。

 

一瞬楯無はロシア代表操縦者である自分がここにいると明かせばとも考えたが、すぐに無駄だと答えが出た。

 

プライベーティアにそんな事情は関係ない。一般的な軍事行動に縛られず、金と殺戮を目当てに集まったような連中だ。

 

むしろ元日本人がロシア代表だということに不満を持っているロシア人も多いだろう。この期に乗じて楯無を亡き者にしようと考える者がいたとしてもおかしくない。

 

(笑えないわね……)

 

浜面達や集落の人々を見捨ててこの場を離れる案もあるが、楯無にとって貴重な情報源である浜面達をこの場で失うのはあまりに痛い。

 

「仕方がない、か……」

 

自分がロシアの代表操縦者だと告げ、攻撃を止めるならよし。

 

話が通じないのならそのまま戦闘に突入するしかない。

 

楯無はISを展開し空へと浮かび上がる。集落の人々から驚きや困惑の声が上がるが、今は気にしていられない。

 

傭兵部隊・プライベーティアが近づいてくるのが見える。

 

数は大して多くはない。戦車が二台と攻撃用ヘリが三機。だが小さな集落を潰すには十分すぎる戦力だろう。

 

「私はロシア代表操縦者の……」

 

オープン通信で名乗りを上げようとした楯無の声は、ヘリから放たれる弾丸の返答によって掻き消された。

 

「……」

 

予想していた展開ではあるが、話も聞かずにISを相手に攻撃を仕掛けてくるとは思わなかった。

 

『おいおい。いいのか?相手ISだぞ?』

 

『関係ねえ。やられる前にやっちまえばいいんだよ!』

 

『結構可愛いじゃねえか。原型残ってたら死体でもいいから犯してやるよ!』

 

『ぎゃはは!殺す殺す殺すぶち殺すぜえええええ!!』

 

品性の欠片もないプライベーティアの声がご丁寧に通信で楯無まで届いている。

 

楯無は冷めた溜息を溢し武装を展開する。

 

楯無の持つ第3世代型IS霧纏の淑女(ミステリアス・レイディ)は、ロシアが設計したISモスクワの深い霧(グストーイ・トゥマン・モスクヴェ)を基に楯無が1人で独自に組み上げた強力な機体だ。

 

左右に浮かぶ「アクア・クリスタル」から水のヴェールが展開され、ドレスの様に楯無を包み込む。

 

「ちょっと、教育が必要みたいね」

 

楯無の言葉は死刑宣告としてプライベーティアに放たれる。

 

その美しき水色の機体は楯無が軽く両手を広げると音も無く飛び立ち、プライベーティアへと迫っていった。

 

 


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