もう何度謝ってるかわからないくらいだけどいい加減投稿スピードあげたいです。
これだけ遅くなった割に文章も短い気が……
なので今月中にもう一話くらい投稿できるように頑張りたいと思います!
もういっそこの場で宣言したほうが自分を追い込める気がしますし(その割に目標が小さいのは気にしちゃダメです!)
千冬と真耶の前にいきなり現れた車椅子の女。木原病理と名乗るその女を前に、千冬は警戒している。
「さて、もう一度お願いしますが、円周ちゃんをこちらに渡していただけませんか?」
病理は円周の引き渡しを要求してきた。
口調こそ丁寧だが、病理の言葉からは感情を読み取ることができない。
「……渡すと思うのか?」
「あらあら。困りました。私もお仕事ですから円周ちゃんを連れて行かれてしまうと困ってしまうんです」
どこかとぼけたような病理の声に千冬は僅かに目を細める。
『木原』という存在が学園都市でどのような地位を持っているのかは不明だが、円周は貴重な情報源だ。渡せと言われてはいそうですかと渡せるわけがない。
「渡さないなら力ずくでも、ということか?」
刀を握る千冬の手に僅かに力がこもる。一見自然体だが、いつ病理が仕掛けてきても動けるように警戒し続けている。
「まさかまさか。そんな強盗みたいな恐ろしいことをするわけないじゃないですか。私はご覧の通りまともに立ち上がれませんし、かよわい私には荒事は不向きなんです」
病理は笑顔で敵意はないと告げるが、千冬は一瞬背筋を虫が這うかのような気味の悪い悪寒を感じた。
「木原病理さんは『諦め』のプロなんです。自分も色々諦めてきたし、他人も色々諦めさせてきた。そんなわけで諦めて円周ちゃんを渡してもらいまーす」
「……随分と薄っぺらい人間だな」
「そうですかね。人生で一度も仮病を使ったことのない人間なんて、むしろ珍しいと思います。つまり人類全体として『諦めたがる』というのはメジャーな欲望なのでは?」
「それはお前の偏見だな。少なくとも私は生まれてから一度も仮病など使ったことはない。確かに諦めることができれば人生は案外楽なものかもしれないが、そう簡単に諦められる立場にいないのでね」
「それはそれはご苦労なことです」
千冬は少しの間逡巡したのち、答え決める。
「……分かった。こいつを渡してもいい。そのかわり条件がある」
「織斑先生!?」
真耶が驚いた声を上げるが千冬は無視して病理を見据える。
確かに円周は貴重な情報源だ。本来なら何としてでも確保しておきたい。だがもし拒否すれば病理がどんな手段に出るか分からない。この女の『穏便』になんて言葉はろくでもない物なきがしてならない。この得体の知れない相手と争う事は避けたかった。
千冬には車椅子に座った相手に戦うことに迷いはない。だが同時に、車椅子の相手に負けるはずがないと慢心もしていなかった。
どんなに千冬が強くとも生身で刀だけで戦うには限界がある。
相手は未知の技術を持つ学園都市。車椅子に重火器の類でも仕込まれていても今更驚きはしない。
そして今の最優先事項は学園都市に向かい一夏達を迅速に回収することだ。これ以上この場に足止めをくらうことは避けたかった。
「単刀直入に聞かせてもらおう。お前たちの目的はなんだ?学園都市は一体なにを考えてIS学園に手を出した!?」
「えーと。そんなことを言われても私のような末端には上の考えていることなんてわかりませんよ?」
「……そうか。ならば質問を変えよう。お前は何のために学園都市に手を貸している?お前は元々学園都市の人間のようだが、お前たちの行動がIS学園と学園都市の争い。いや、世界規模の戦争にすら発展しかねない。それを理解していないわけではないだろう」
たとえ病理よりも立場が上の人間からの命令だとしても、それだけが理由ではないはずだ。大規模な戦争にまで発展しかねない危険を犯してまで、何故こんなことをするのか。
病理の答えを聞くことで、学園都市の目的の手掛かり、その一端にでも繋がるかもしれない。そう考えての質問だったのだが…。
「私の目的、ですか?それは今貴方が言ったとおりです」
「……何?どういう意味だ」
千冬には病理の言葉の意味が分からなかった。真耶もわけがわからないという表情を浮かべている。
病理は物分りが悪いなぁ、と言いたげな表情で溜息をつく。
「人類史上の中で最も科学を発展させたものは何か、知っていますか?」
突然そんな関係ない話をされ困惑するが、千冬の脳裏に一瞬篠ノ之束の姿が浮かんだ。学園都市を除けば科学の発展と聞いて真っ先に思い浮かぶのがISを開発した幼馴染の姿だったからだ。
「まさか、お前たちの狙いは束か!?」
ISの存在によって世界は大きく変わった。学園都市にとってもIS開発者である篠ノ之束は無視できない存在だろう。束を狙うためにIS学園に干渉し、一夏や箒を囮にでも使うつもりだったのか。
「……はい?」
千冬の言葉が予想外だったのか病理はポカンとした表情を浮かべた。まるで全くの見当違いの答えを返され困惑したかのようだ。
病理は溜息をつき、まるで幼い子供に教え聞かせるように語りだした。
「最も科学を発展させるもの、それは戦争ですよ」
生物ははるか昔から争うことにより進化してきた。
獲物を狩るために武器を作りだし、文明が発展すれば人間同士の争いもあり、国が出来れば国家間の戦争も起こる。国益のため、平穏、家族、民の為、信ずる神の教義等理由は様々。
その為により多くの相手を殺すために兵器が生み出された。
そして危機に脅かされた人々。多くの命を散らし、蹂躙され、それでも生き残るために足掻き、知恵を絞り、技術を向上させていく。恐るべき脅威との対峙が人を成長させ、科学を発展させる糧となる。
「ロシアと学園都市。その二つが戦い、勝った方が相手の技術を吸収する。でもそれだけでは『木原』としては足りないかなーと思いまして」
今の世界は危機感が足りない。ISの力を絶対視するあまり、学園都市の脅威に未だ楽観的な所がある。
IS学園の状況を見ればそれがよく分かるだろう。不安げに見て見ぬふりをするか、逆に好戦的になり軽はずみな行動に出たりする者もいる。
病理としては、IS側が危機感を持ってもらい、学園都市に対抗するため技術を発展させて欲しいのだ。
「やはり競い合う相手がいてこそ技術は発達するものですから。ISと学園都市が競い合い、互いの技術を発展させていくことで科学全体の成長を促したいのです」
それこそが木原病理の狙い。
「……そんなことの為に戦争を起こすと?そんなことになれば世界規模の戦争に発展してしまう!科学の発展どころか世界中が疲弊するぞ!」
国力の低下、生産性の低下、労働力の低下等、確かに技術は発展するかもしれないが、戦争によるデメリットはあまりに多すぎる
「ええ確かに。何の罪もない人々が戦争の犠牲になるかと思うと私も胸が痛みます」
ですが、と病理は続け。
「諦めましょう。科学の発展に犠牲はつきものでしょう?」
病理は黒い両目を見開きニタリと笑った。
「……狂っているな」
「あらあら。悲しいことを言いますね」
病理は頬に手をあて首を傾げる。
「それでは質問に答えた事ですし、円周ちゃんを渡してもらえますか?」
「……いいだろう」
千冬は本能的に悟っていた。こいつと戦えば勝っても負けてもただではすまない。色んな意味で甚大な被害がでるだろう。
千冬は病理から目を逸らさないまま縛られた円周から離れていった。
病理は車椅子で円周の元に近づいていき、よいしょ、と声を上げて円周を掴みあげると、そのまま立ち去ろうとする。
「……はたしてお前の思うとおりにいくかな」
「あら?それはどういう意味でしょう」
たとえ負け惜しみでも、それでも千冬は言葉を続ける。
「確かに私たちはISの力を過信しているのだろう。だが、それはお前たちも同じではないのか?」
先程の病理の発言は戦争をしようとも最終的に自分たちが絶対勝てると確信していなければ出てこない言葉だろう。
「学園都市の技術や構成員の能力は脅威だが、それでも一つの都市でしかない。物資や資源には限りがあるはずだ。長引く戦争に耐えきれるとは思えんが?」
「……まあ、確かにそのとおりですねー」
いくら学園都市が自給自足しているとはいえ、輸入輸出が完全に途切れれば危うい。
「それに、お前たちはISの力を甘く見すぎている」
ISは進化する。戦闘経験を蓄積することで、IS自らが自身の形状や性能を大きく変化させ、より強化された状態になる。
それに千冬の幼馴染たる篠ノ之束がこのまま何もしないとは思えない。
あまり私たちを舐めるなと、千冬は病理を睨み付ける。
「うわー。暑苦しい根性論とか苦手なんですけどー」
「人間は諦めないことで成長するものだ。お前のいう科学の進歩だって諦めたらそれで終わりだろう?」
「それを言われると痛いですねー」
「後悔することになるかもしれないぞ?ISがお前の思想を越えた脅威となって学園都市を襲う事になるかもしれんぞ」
ISは今や全世界に広がっている。病理の言ったように危機感に煽られた人々が力を結集させISを強化していけば、ISはこれからも進化し続ける。いずれ学園都市に匹敵、そして上回る力へと発展するかもしれない。
「…………ふ。ふふ。ふふふふふふ。あはははははははははははははっ!!」
何がおかしかったのか、突然病理はケタケタと大口を広げて笑い出した。
これには千冬も困惑し、真耶は呆然としていた。
「なるほど、期待させていただきますよ。ISが私の思想さえ超え、新たな科学の礎になることを」
千冬の言葉に病理は笑顔で答える。
「陳腐な言い回しになりますが、人は無限の可能性を持っています。人々がISを学園都市さえも飲み込む力へと発展させる可能性だってあるかもしれません。それもまた、科学の一つの姿なら私は喜んで迎え入れましょう」
今は学園都市が最先端の科学を独占しているため、学園都市に集中して『木原』が生れているが、もしISが力を持ち科学が全世界に拡散したとすれば、世界中に『木原』が出現することになるかもしれない。
(まあ、それはそれで面白そうですけど♪)
病理はこれからの科学の行く先を妄想しながら楽しんでいた。
その後迎えの車に乗り込んだ病理は。
「学園都市に行くなら二人とも一緒に乗っていきます?」
「「…………」」
まるで友人を自宅に招くかのような気軽さで突然そんなことを言ってきた。
病理としては既に時間稼ぎは終わっているのでどっちでも構わないのだが、今までの流れをぶった切ってそんなことを言い出す神経が理解できない。
確かに千冬と真耶は車を失ってしまった。早く学園都市に向かわなければならないのは確かだが、だからといってこの女と一緒の車に乗るのは勘弁願いたかった。
「なんだったんでしょうね、あの人……」
「……さあな」
真耶に言葉を返しながら千冬は自分の無力感を痛感していた。
(さっきはああ言ったが、学園都市の構成員数人相手にこの様とは……)
強くなりたいと千冬は久しぶりに本気で思えたような気がする。
「ともかく今は一刻も早く学園都市に向かう。いくぞ山田先生」
「はっ、はい!でも車壊れちゃいましたよ。タクシーを探しますか?」
「いや、時間が惜しい。ヒッチハイクだ。その辺の車を捕まえるぞ」
「ええっ!正気ですか!?東京の街中なんですから呼べばタクシーくらい直ぐ来ますよ!」
「時間が惜しいと言っている!もはやなりふり構っていられんからな」
(その恰好でやるつもりですか……)
千冬の衣服は円周との戦いでボロボロになり、僅かに下着が見えるような恰好になっていた。
不埒な輩が襲って来れば大義名分で車を奪えるかもしれないが……。
「うぅ~」
顔を赤くしながら色んな意味で不安に押しつぶされそうな山田真耶であった。
次回はロシア編に突入します。上条さんの出番はまだ先ですが、楯無と浜面のターンに入ります。
今月中に投稿!