IS学園VS学園都市   作:零番隊

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※今回は暴言、色んな意味で残酷な描写を多く含みます。



閑話 その頃の一方通行

一方通行の目的は打ち止めを助けることだが、そのための情報が圧倒的に不足している。

 

見渡す限り雪原に包まれたロシアの地をあてもなく進んだところで時間の無駄だろう。

 

一方通行は情報を手に入れるため、ロシアの軍事施設を目指していた。

 

軍事施設に近づいていくと、トラックが食料を運び入れているのが遠目に見えた。

 

(そういや学園都市を出てきてからほとんど何も食ってなかったな)

 

衰弱している打ち止めにも何か食事をとらせた方がいいだろう。

 

問答無用に軍事施設を襲撃すれば、情報と食糧の両方を得ることが出来るし、少しは打ち止めを休ませてやれるかもしれない。

 

そこまで考えていた一方通行は、軍事施設に近づこうとしていた足をピタリと止める。

 

「ヤべェな・・・・・・」

 

一方通行は自分の抑えが利かなくなっていることに気付き、一旦頭を落ち着かせる。

 

(俺一人ならともかく、打ち止めが一緒にいるのに血な生臭ェ真似は避けたほうがいい。それに目的をどれくらいで果たせるのか、今の段階じャ全く分からねェ。こんな所で無駄にバッテリーを使うのも馬鹿らしいしな)

 

一方通行が今一番欲しいのは情報だ。

 

既にロシアのISを破壊しているから無意味かもしれないが、無駄な面倒事は出来れば避けたい。

 

向こうが攻撃しない限りこっちから攻撃しないことを決め、かといって警戒は全く解かず、一方通行は打ち止めと共に軍事施設に近づく。

 

一方通行が軍事施設の前まで近づいていくと、目の前に広がる光景に一瞬呆然とした。

 

目の前にいるのは金髪をカールをまいている長身の女。厚着の服を着ていても分かる大きな胸、長い脚、そして大きな尻。モデルのような体形をした女性だ。

 

その女のほうは問題ない。

 

問題なのは女の座っているもの。

 

そこには一人の男が降り積もる雪の上に四つん這いになって女の尻に乗せられている。

 

男の顔は美形と言っていい容姿をしているが、身体中に暴力を受けた後のような痣が浮かんでいた。

 

そういう遊びは誰にも迷惑のかからない所でやれよと一方通行は呆れる。

 

軍のモチベーションを保つためのストレス発散に女を使うという話は聞いたことがあるが、その逆なのかもしれない。

 

即刻回れ右して立ち去りたいところだが、目的を果たすためにはそうもいかない。

 

一方通行が近づいてくると、金髪の女が一方通行に目を向ける。

 

「あら?男がこんな所に一人で何をしているのかしら?」

 

「ちょっと重病人のガキを抱えててな、少し休ませて欲しいンだが」

 

女には一方通行の腕の中で毛布に包まれた打ち止めに気付いていなかったようだ。

 

「あら本当ね。分かったわ。その子はこっちで引き取ってあげるから貴方は早く立ち去りなさい」

 

女は周りにいる部下に命じて打ち止めを引き取らせようとする。

だが一方通行は打ち止めを抱きしめる手を離さない。

 

「俺は一応こいつの保護者なンだが」

 

「だからなに?」

 

女は面倒臭そうに一方通行を見つめた。

 

それは同じ人を見る目ではなかった。

 

底冷えするように冷たい。いや、無関心な瞳。道端の小石を見るような、なんの暖かみもない目だった。

 

「まさか男の貴方が図々しくも私たちの基地に居座ろうって言うの?」

 

女は一方通行を鼻で笑う。

 

「そうだ、いいこと思いついたわ。貴方、そこに蹲って椅子になりなさい」

 

「ハァ?」

 

一方通行は自分の耳を疑ってしまいそうになる。

 

(何を言ッてンだこいつ)

 

「聞こえなかった?椅子になりなさいって言ってるの。そうしたら特別に私の温情で貴方をこの基地に居座ることを許してあげる」

 

「・・・・・・」

 

女は冗談を言っている雰囲気ではない、本気で言っている様だった。

 

一方通行は対話を投げ出してしまいたくなった。

 

(もうコイツ殺していいか?)

 

一方通行は好戦的な思考になるのをなんとか自制する。

 

「私はこの基地の物資の現場監督を任されているのだけど、仮にも責任者だから部下に投げ出すわけにもいかないし、仕方がないから私が直々に荷物のチェックをしているの。でもずっと立っているのって疲れるでしょ?でも臨時の基地だから椅子すらまともにないし、冷たい雪に座るのも嫌だからコレを椅子代わりに使ってたのよ」

 

女は自分が座っている男を指し示す。

 

「ISを使えない無能な男は軍にいても足手まといなだけでしょ?だからせめて椅子として使ってあげているの。そもそもこういう雑用こそ男がやるべきなのに、何で私がこんなことしなくちゃならないのかしら」

 

女は当たり散らすように腰に差している警棒のような物を取り出して、椅子になっている男の背中を叩く。

 

「ガァッッ!!」

 

男の腕が震えているが、体制を崩そうとはしない。

下手に動けばさらに暴力を受けると分かっているようだ。

 

「なんか震えだすし、座り心地が悪いのよね。本当に情けない。ISを操れないゴミなんだからもっと根性出しなさいよ」

 

男は応える気力もないようだ。

 

「いい加減不快になってきたから貴方が代わりに椅子になりなさい。貴方の細い身体では折れてしまうかもしれないけど、ここにいたいのなら私を不快にさせないように」

 

「・・・・・俺はお前の部下じゃねえンだが」

 

女はキョトンとした表情を浮かべてから、まるで出来の悪い子供に言い聞かせるように憐れんだ目で一方通行を見ている。

 

「貴方分かってないわね。何か勘違いしてるみたいだけど、貴方に拒否権はないの。それにこれは虐待ではないわ。これは教育。ISが誕生してから今の世の中は社会的地位のある役職のほぼ全てが女性で占められているでしょ?男に反乱を起こされても面倒だから徹底的に痛めつけて身に分からせる必要があるの。それが国から課せられた女としての義務、公的な仕事なのよ」

 

(・・・・・・ロシアの政治ってそんなだったか?)

 

ロシアの名誉のために補足しておくと、決してロシア人全てがこんな頭の奴ではない。

 

一部上層部のIS至上主義者たちが強引に推し進めようとしているだけで、正式な仕事でも何でもないが、彼女からすればそれが国のためになる事だそうだ。

 

勿論倫理に反すると反対派の方が多いが、IS先進国のロシアが女性を優遇しているため歪んだ思想も生まれ始めていた。

 

「国を一つにまとめるために、女には敵わないということを骨身に染みるまで分からせるの。私達にはISという絶対的な力があるんだから」

 

女は完全にISというものに取り憑かれ、支配する喜びに酔っていた。

 

ISの影響力は一方通行の予想以上に進んでいる、というか浸食しているようだ。

 

「ほら、早くしなさいよ。何の価値もない男の貴方にここにいさせてあげると言っているのだから這いつくばって感謝するのが当然でしょう」

 

女は苛立つような声で一方通行を睨む。

 

「・・・・・・ハァ」

 

一方通行は何かを諦めたような大きな溜息をつく。

 

女はそれを見て一方通行がやっと大人しく椅子になることを決めたのだと思った。

 

それが大きな間違いだと気づかずに。

 

「つーかよォ、人が珍しく穏便に事を収めてやろうとしてやってンのによォ。さっきからくだらないことを一人でペラペラ喋りやがって、何なんですかァ?馬鹿なンですかァ!?」

 

「・・・・・どうやら口のきき方も知らない様ね」

 

女は立ち上がるとISを起動させ、銃口を一方通行に向ける。

 

他のロシア兵たちは、一方通行を憐れむような目だったり、蔑むような目で見ている。

 

(世界で467機しかないISをこンな馬鹿女に持たせていいのかよ。よっぽど人材不足なのかねェ)

 

「今更這いつくばって許しを申しても遅いわよ。私に対して暴言を吐いたんだから、簡単には死なせてあげないわ」

 

所詮は男、ちょっと痛めつければすぐに怯えて言う事を聞くだろうと思っていた。

 

一方通行を見る女の目は、同じ人間を見る目じゃなかった。

人を人と思っていない無関心な瞳。一方通行はその目を知っている気がする。

 

「・・・・・・ヒハッ」

 

そう、一万人のクローンを殺した一方通行も、こんな目をしていた。

 

「なに?狂ったの?いたぶる前に壊れてしまったら面白くないのだけど」

 

女は自分の圧倒的優位を微塵も疑っていない。

目の前にいる相手がどこの誰なのか、興味も関心も持っていなかった。

 

ロシアのISが何者かによって破壊されたという報告も、生身の男がISを破壊した何て話は何かの冗談だと思って真面目に聞いていなかった。

 

「そォだよなァ。俺は何を馬鹿みたいにグタグタ悩んでたんだろォな。最初からこうすれば良かったじゃねェか」

 

慣れないことを無理にやろうとするからこうなるのかと反省する。

 

一方通行は首元のチョーカーに手を伸ばす。

 

学園都市最強による虐殺が始まった。

 

 

 

 

 

 

「大分時間を無駄にしちまったな。バッテリーは基地に充電できる環境がある事を祈るか」

 

どうやらISを所持していたのは最初の女だけだったようで、特に問題なく軍事基地の制圧は終わった。

 

打ち止めは気を失っている様で、血なまぐさい場面を見せずに済んだ。

 

臨時の基地と言っていたが、本当に物資がほとんどない状態だった。

 

「・・・・・・囮か?」

 

その割には罠などが仕掛けられている形跡は見られない。

 

ひとまず安全を確認すると、手近な場所に打ち止めを寝かせてやる。

 

手近な機材を使って、どうにか充電は行えそうだ。食糧も手に入れることが出来たし、ここからが本題だ。

 

一方通行は、ISを粉々に粉砕され、手足を砕かれた女を見やる。

 

「うぁ・・・・・・・あぁ・・・・・」

 

まさに息絶え絶えといった感じだ、女の顔は見るも無残に歪んでいる。

さっきまでのモデルのような美しさが嘘のようだ。

 

「ひいっ!!」

 

一方通行が近づくと、怯えた声をあげて後ずさろうするが、身体がほとんど動かないらしく、芋虫の様に這いつくばっているだけだ。

 

一方通行は、女を蹴り転がして仰向けにすると、腹を踏みつぶす。

 

既に能力は切っているが、女の骨が軋んで、筋肉の一部が損壊するのが分かる。

 

「があああああっっ!そんな・・・・・何で、絶対防御が・・・・・」

 

既にISはコアも無残に破壊されているが、女にはそれも理解したくないのかもしれない。

 

「絶対防御ねェ。まさに名前負けだな。学園都市の核シェルターの方がまだ強度あったぞ?」

 

女の顔が絶句するのを気にせず、一方通行は羊皮紙を見せる。

 

「お前、これが何か分かるか?」

 

「・・・・・・知らない。私はそんなの知らない。本当よ!」

 

嘘を言っている様には見えない。

 

「ハズレか。なら、お前にもう用はねェな」

 

「いや、待って。待ってください!私、何でもします。何でもしますから!お願い殺さないで!」

 

一方通行は女の懇願を無視して女の頭を踏みつける。

 

「があぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」

 

メキメキと頭蓋がひび割れる音が聞こえる気がした。

 

一方通行は首元のチョーカーに手を伸ばし、一瞬だけ能力を使って女の命を終わらせようとした。

 

一方通行が女を殺そうと決めた一番の理由は、昔の自分と同じ目をしていたからだ。

 

もしあのLEVEL0のような善人なら命を奪わず、もしかしたら更生させる事だって出来たかもしれない。

 

だが自分は悪党。気に入らないから、敵だからという理由があれば人を殺す。

 

一方通行が能力を解放しようとした、その直前。

 

「待ってください!」

 

誰かの声が、一方通行の耳に響いた。

 

その声の主は男。

 

よく見ればこの女の尻に敷かれていた男だった。

 

これには一方通行も驚いた顔をした。

 

「お前・・・・・・」

 

「その人を、イリスさんを殺さないでください!」

 

どうやら女の名前はイリスらしいが、一方通行にとってはどうでもいい。

 

「・・・・・なんでコイツを庇う」

 

「イリスさんは、本当は優しい人だったんです。ISを持ってからは別人のように変わってしまったけれど、それでも俺にとっては憧れの人なんです!」

 

正直言って、一方通行にとってそんな身の上話などどうでもいい。どこにでも転がっていそうな話だ。

 

一方通行は疲れたような溜息をつく。

 

「目障りだ。とっととその女連れて逃げろ」

 

お涙ちょうだいなんて勝手にやっていればいい。

 

「えっ?あっ、ありがとうございます!」

 

男はイリスを背負って雪原を歩いていく。

 

自分を虐げてきた女を助ける男と、力を失いボロボロの身体になったが、虐げていた男に助けられた女。

 

まるで自分と同じ、一万回も殺しておきながら、打ち止めによって救われた一方通行と重なって見えたのかもしれない。

 

「・・・・・・」

 

男の思いをくだらないとは言わない。

 

一方通行は二人から視線をきると、打ち止めの元へと歩き出した。

 

 

 

 

 

 


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