ついに第三次世界大戦が始まってしまった。
日本海上空。日本の最終防衛ラインだ。
しかし、これは日本との戦争ではなく、あくまで標的は学園都市。
日本は交戦の意思を否定し、一切不干渉とした。
ロシアにとってもそれはありがたい。
日本には学園都市の他にIS学園が存在している。
IS学園はあらゆる国家機関に属さず、いかなる国家や組織であろうと学園の関係者に対して一切の干渉が許されないという国際規約があり、それ故に他国のISとの比較や新技術の試験もしており、ロシアもその恩恵を受けている。
それにIS学園にはロシア代表操縦者であり、IS学園の生徒会長でもある「更識 楯無」がいる。
彼女は戦争が始まっても帰還せず、IS学園で傍観することを選んだ。
ロシアとしても、どうせ戦争は我々が勝つのだから、代表操縦者様は気にせず、そこで我々の活躍を見ていろと思っていた。
ロシアの操縦者達は誰もが自分たちの勝利を疑っていなかった。
ロシアはIS大保有国だ。それに対して学園都市には467個存在するISコアを一つも入手していないことはロシアの情報網で確認済みだ。というより、日本含め、どの国も得体の知れない科学技術を持つ学園都市にはISコアを渡さないように影で動いていた。
いかに学園都市が数十年進んだ科学技術を持つとはいえ、ISを持たない学園都市にISを持つロシアが負けるはずがないと信じていた。ISの力であっというまに学園都市を殲滅するはずだった。
ロシアのIS操縦者 エカリエーリャ=A=プロンスカヤは、目の前の敵に怯えていた。
「・・・・ふざけるな。何よあれは!いくら何でもデカすぎるし速すぎるわよ!!」
ギィィィィ!!と身体に響き渡るような爆音を轟かせ、敵が大空を駆け抜ける。
学園都市製の超音速戦闘機HsF-00だ。全長80メートルの巨体に、時速7000キロオーバーという航空力学の常識を覆すような化け物機体だ。
ロシアのISでも最高時速2300キロなのに、その3倍以の速度とかふざけんな!と叫びたくなる。
学園都市の戦闘機は一機のHsF-00とその周りを飛び交う四機の小型機。
「・・・・・認めない。私はこんなものを認めない!!」
エカリエーリャは目の前の現実を認めない。
もちろん学園都市からの激しい抵抗も予想はしていたが、それでも問題なく勝てると思っていた。
多少高い技術力を持っていようが、ISを持たない相手など恐れるに足りないと侮っていたのだ。
新しい時代の象徴であるISは、この世界において絶対的な力だ。
各機に備わった武装と、なおかつ強靭なIS装甲とシールド、そして絶対防御を持つことで、これまでの戦において、戦闘機や戦車を廃するほどの力を備えている。
その力をもってすればISを持たない学園都市などすぐに陥落させてロシアの支配下に置かれるはずだった。
遅いか早いかの違いでしかなく、それが当然のはずだった。
だからこそエカリエーリャは目の前の現実を否定しようと、戦闘機に向けてアサルトライフルを乱射する。
だが届かない。
圧倒的な速度差のせいで、銃弾もレーザーも相手に届かない。
敵を攻撃範囲に捕える事さえできない。
エカリエーリャ達ロシアIS部隊は、もう何回も攻撃を繰り返しているが、一向に相手に当たることがない。
「うおおおおおおおっっ!!!!!!」
それでもエカリエーリャは『瞬時加速』で突撃する。
三倍以上の速度差がある相手では追いかけようがないが、それでも黙ってやられるわけにはいかない。
ならどうするか。
単純な話だ。
速度で敵わないなら相手の進行方向に出ればいい。
いくら速度差があるとはいえ、相手もただ一直線に進んでいる分けではないのだから相手の進行方向に出ることは不可能ではないはずだ。
そしてこれだけの速度で進んでいるのだから急な方向転換もできるはずがない。
方向転換が出来ないのなら相手の進行方向に出れば後は相手の方からやってきてくれる。
そうすれば直接武器を突き刺すことだって出来るはずだ。
それで倒せなかったとしても相手の機体を破損させれば速度も落ちるだろう。あとは速度の落ちた相手にIS部隊で集中砲火すれば決着がつく。
問題は自分と相手の攻撃の射程距離だ。相手の最大射程距離がどれだけあるか分からないが、ISにはシールドがある。少し攻撃をくらった程度でやられはしない。
「肉はくれてやる!その代り、骨は断たせてもらうぞ!!」
的確に状況を判断し、圧倒的な速度差がある相手の対応としては間違ってはいない。
だが甘い。
学園都市の戦闘機はありえない動きをしていた。
まっすぐ自分に向かってきたはずだったHsF-00は、機体は前を向いたまま、突然進行方向を変えてきた。
「なんだとっっ!!!」
あまりにトリッキーな動きにエカリエーリャは声を上げる。
そもそも学園都市のHsF-00は機首を前に向ける必要すらなかった。
エカリエーリャはこれ以上距離を詰めることをあきらめ、エネルギービームを撃ちこむが、曲芸的な動きで軽々と避け、全長80メートルの巨体が大空を自由自在に飛んでいる。
今まで馬鹿正直に真っ直ぐ飛んでいたのは遊んでいたからだと思えるほどふざけた飛び方をしてくれる。
「なめるな!!」
叫ぶとともに大型ライフルを構える。
ロシアのIS部隊も一斉に武器を構える。
ロシアのIS部隊は、HsF-00を囲うように、同士討ちにならないように、慎重に計算して動いていた。
「撃てえぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!」
その叫びを合図に、全てのISが辺り一帯をまとめて薙ぎ払うように乱射する。
銃声が響き渡り、数百、数千に及ぶ弾丸とレーザーの嵐が駆け抜ける。
それはHsF-00を狙ったものではなく、辺り一帯を掃射するかのようだ。
大空を埋め尽くすような攻撃。これならいくら速くても絶対に逃れられない。
勝った!!!
その瞬間、ロシアのIS部隊は誰もがそう思った
もはや、回避は不可能
故に、そこに居る全員は自分達の策が成功した事を確信した。
相手は常識など嘲笑う学園都市。その核心は呆気なく砕かれた。
HsF-00は独楽の様に高速回転して向かってくる攻撃を弾き返した。
もちろん数百数千の攻撃全てを迎撃したわけではない。
あくまで向かってくる攻撃だけを跳ね返したわけだが、それでも非常識な事は変わらないだろう。
あまりの出来事にロシアのIS部隊の者たちは今目の前で起こった現象に呆然とし、激昂した。
「ふざけるな!!いくらなんでもありえないでしょう!!」
「なによあれ!?無茶苦茶にもほどがあるわよ!!」
もはやあれの正体が戦闘機に偽装したUFOだと言われても信じられそうだ。
自分達が相手にしている相手の異常さを改めて思い知るが、それでも生き残る為に全員が武器を構え、学園都市の戦闘機に照準をに合わせ連射する。
「ふざけやがって!ふざけやがって!!あんな動きして何でパイロットは平気なんだ!!いや、それ以前にあんなふざけた速度を出してればとっくに中の人間は潰れてるはずだぞ!!」
重い物を速く動かせば、その分大きな慣性の力が働く。あの戦闘機はISの30倍近い巨体だ。とっくに潰れるかバラバラになっているはずだ。あの巨体にISのようなシールドバリアや絶対防御が使われているのだろうか。だとしたら航続時間も圧倒的に短いはず。元々あの戦闘機はこっちの3倍以上の速度で動いている。その分エネルギーの消費量も多いはず。持久戦に持ち込めば勝てる!
しかし、そこで敵からの通信が入ってきた。
「持久戦狙いなら諦めな、俺の機体は装甲表面の摩擦熱をエネルギーとして利用する機構が備えられている。つまり、速度を出せば出すほど効率が上がる。最大じゃ90パーセントぐらい削減できるんじゃないか」
「なっ!!」
自分の無線用暗号をあっさり解析されたことにも驚いたが、聞いたこともない技術に目を丸くする。
「さて、そろそろ終わりにしようか」
明らかな余裕な口調で告げる。
直後、仲間たちが次々と光に貫かれて撃墜していった。
「しまった!!」
攻撃しているのは四機の小型機。
HsF-00のあまりの存在感に圧倒され、小型機のことがいつのまにか意識から外れていた。
そんなことを考えている間に、エカリエーリャのISも撃墜されていた。
そして、その映像を見ていた世界中の人々は知ることとなる。
究極の機動兵器と称されているISその力はまやかしなのだと。
そして、この日を境に、世界は荒れ始める。