しかも前回気まぐれで投票作った癖に感想を返せていませんでした!
時間は少し巻き戻り。
「いったた・・・・・・」
崩れた床の下に落ちた鈴がそこにはいた。
地面にぶつかる前にISを起動したので実際は大して痛いわけではない。だが慌てていたせいもあって姿勢制御が遅れてしまい、落ちた衝撃を受けたので思わず言ってしまっただけだ。
「・・・・・・・どこよここ」
どうやら結構な深さを落ちてしまったようだ。
さっきまでの場所が最下層だと言っていた。ならこの場所は?
辺りを見回してみると小さな部屋の様で、その前後に細長い道のようなものが続いていた。どうやら下水道の様だ。
そして、後ろに誰かが立っているのに気付いた。
そこにいたのは小柄な少女。
薄暗い部屋の中、フードをかぶっているうえに中性的な顔立ちのせいで分かりにくいが、おそらく女性だろう。
「落ちてきたのは一人ですか。まあ、そのほうがやりやすくて超助かります」
言葉とは裏腹に少女は面倒臭そうに呟いている。
だが鈴には子供が学校に行くのを面倒がるような気軽さに感じた。
見た目だけ見れば、街中にいても何の違和感もない中学生くらいの少女だが、先の言葉から少女が自分をこの場所に引きずり込んだ犯人だと悟る。
「・・・・誰よあんた」
鈴は不機嫌さを隠そうともしない声で威圧的に目の前の少女を見る。
「これから死ぬ相手に超名乗る必要がありますか?」
その言葉におかしな冗談を聞いたかのように笑いだす。
「あははははははっ!!私を殺す?本気で言ってんの?私にはISがあるんだけど、あんたがどうやって私を殺せるって言うのよ?」
未だに鈴の中ではISの絶対性は残っている。
確かに学園都市の技術力の中にはISに対抗できるような物もあるようだが、目の前の小中学生くらいの少女がISを相手に戦えるとはとても思えない。
そんな鈴に対して、絹旗は少し呆れたような目をしていた。
「そうですか、じゃあそう思ったまま超早急に死んでください」
絹旗は鈴をめがけて突進し、その小さな拳を振り上げる。
それに対して鈴は何もせずに立っている。
そもそも軽い物と重い物がぶつかったら軽い物の方が跳ね返されるのは当然のことだ。
速度や強度を考えても、人間がISに勝てるはずがない。
鈴はかわいそうなものを見るような目で絹旗を見ていた。
鈴はISを装備したままだ。そんな鈴に、特に何か武器を使うわけでもなく、何か不思議な力を使うわけでもないパンチを繰り出そうとしている。
子供でも分かる。そんなことをすれば生身の拳など潰れてしまう。
鈴はそんな瞬間を見たくないと、絹旗から目をそらした。
「・・・・えっ?」
気付けば鈴はISごと通路へと吹き飛ばされていた。
鈴は一瞬呆け、次第に驚愕に変わる。
(ありえない!)
生身の人間が腕力でISを吹き飛ばすなど、どう考えてもおかしい。
いや、それ以前に人間の肉体が耐えられるはずがない。
(・・・・能力者ってやつ?)
考えている暇もなく、再び最愛が突っ込んできた。
鈴は体制を立て直すと、最愛に向けて拳を振り下ろす。
今度こそ何が起こったのかトリックを見破ろうと、その瞬間を凝視する。
そして鈴は見た。
ISアーマーを身に纏った鈴の拳と生身の最愛の拳がぶつかり合い拮抗する。
(・・・・いや、違う!)
ISアーマーと拮抗したのは生身の拳ではない。
最愛の手に纏っている不可視のフィールドのようなものが鈴のISに衝突している。
これが絹旗最愛の能力『窒素装甲(オフェンスアーマー)』。
彼女は窒素の鎧を身にまとっている。
一見地味で強そうには見えない能力だが、侮ることなかれ。
彼女は学園都市でも上位能力者のLEVEL4。そしてそれだけではない。
『暗闇の五月計画』。学園都市最強の第一位の思考の一部を植え込むことで、彼女の『窒素装甲』は強化されている。
つばぜり合いの様に二人の拳がせめぎ合う。
鈴は一旦退いて距離をとり最愛を睨み付ける。
「なんで私を狙ってくんのよ!?」
「あなたは学園都市に超不法侵入したのではないんですか?まあ、あなたが何者だろうとどんな目的があろうと私は超仕事をこなすだけですので」
超なんてふざけた言葉を除けば丁寧な言葉使いだが、それは無関心の裏返しのような無機質な声に感じられた。
絹旗最愛は元々学園都市に反する不穏分子を殲滅するために存在する暗部組織『アイテム』のメンバーだった。
だが今のアイテムは崩壊状態。最愛は利用価値なしと学園都市に判断されてしまえば非常にまずい展開になるのは想像に難くない。だからって『猟犬部隊(ハウンドドック)』や『スクール』『メンバー』『ブロック』等の残党共と一緒に仕事をさせられるのは超勘弁してほしいと絹旗は頭を抱えていた。
だから絹旗は一人でも仕事をこなせると学園都市に示さなければならない。
無茶をやっているのは承知の上だ。いや、この程度のこと学園都市から愛の逃避行をしてのけた浜面と滝壺に比べれば無茶の内にも入らない。
麦野に関しては心配するだけ無駄なので気にしない。
生きてはいるようだからいつかまた会えるだろう。むしろ麦野が浜面や滝壺を殺しに行かないかが心配だ。
「まあ、とにかく。私が生きるために超諦めてください」
「何訳分かんないこと言ってんのよ!」
鈴はさっきまでのような様子見の拳ではなく、今度こそ思いっきり拳を振りぬいた。
「―――ぐっ!」
今度は絹旗の方が吹き飛ぶ番だった。
どうやら強力な装甲といっても、衝撃そのものを消すことはできないようだ。
思わず思いっきり殴りつけてしまったが、生身の人間にあんなものをくらわせれば吹き飛ぶ以前に五体が四散してグロテスクな死体になってしまうところだ。
いや、それどころか戦車だって一撃でスクラップになるような攻撃だったはずだ。
だが吹き飛ばされた最愛は転がって衝撃を受け流し、地面に両足を引きずって勢いを殺すと再び鈴にめがけて突進する。
「小柄な身体してどんだけタフなのよ!」
そもそもいくら特別な力を持っているとは言ってもISに生身の人間が立ち向かうなど正気の沙汰ではない。
だというのに目の前の少女は全く臆さずに立ち向かってくる。
絹旗の瞳を見た鈴は悪寒に震える。
自分より小柄で年下の少女が何故あんな冷たく無機質な目をしているのか。
そう思った時には、思わず鈴はISの兵器を使ってしまった。
「っっ!?」
鈴のISの肩に展開されているクラスター部分の空間が歪んだように見えた。
「がぁっ!!」
絹旗は全速力のトラックに突き飛ばされたかのように盛大に吹き飛んだ。
龍咆。鈴のIS武装による攻撃だ。
目に見えない衝撃波をまともにくらってしまった絹旗は何度もバウンドし、壁に叩きつけられた。
「まさかISも装備してない人間相手に使うことになるとは思いもしなかったわね。頑丈な鎧があるみたいだし、死んでない、わよね・・・・・」
最後の方の言葉は自信がなさそうにしぼんでいく。
うっかり殺っちゃったかもしれないと鈴の顔が青ざめる。
本来はIS相手に使うものであって普通なら人間相手に使えば即死は免れない。
大丈夫か心配になったが、今は一夏達と合流することが先決だと思い直して絹旗に背を向ける。
鈴が一夏の所に向かおうとしたそのとき、微かな電子音が聞こえた気がした。
それが何の音なのか考えたときにはもう遅かった。
突然通路が爆破し、瓦礫に埋もれて戻る道が塞がれてしまった。
「んなっ!?」
いつのまにか誘導されていたのか、通路の中の方まで移動していた。
「私を引き離して時間稼ぎをすることが目的だったってこと?」
鈴は絹旗の目的に気付いた。
ISの力なら無理やりこじ開けることも可能だろう。
派手な攻撃で生き埋めになることも考えたが、ISなら強引に這い出ることもできるはずだ。
気になるのは残りエネルギーか。
ここから脱出する分には問題ないだろうが、これから先のことを考えると温存しておいた方がいいかもしれない。
簪を見つけ出して連れて帰ればいいだけだと簡単に考えていた鈴は、学園都市の厄介さをそこまで深く考えていなかった。
予想以上に手間取りそうだと認識を改めるも、今は一夏と合流することが最優先だと判断し、強引に塞がった道を突破しようとしたその時。
後ろから何かが飛んできた。
咄嗟に振り向いた鈴が見た物は、携行型対戦車ミサイルの弾頭だった。
そのミサイル弾頭が三発、鈴に向かって飛んできていた。
咄嗟に薙ぎ払ったが、爆炎と衝撃が鈴を包み込む。
「ちっ!!」
爆発を受けてしまったが、所詮は小型の携行武器。ISのシールドエネルギーを少し削られただけ。爆発の煙で視界が塞がれてしまったが、そんなものはISの前に対して意味を持たない。
ハイパーセンサーを使って状況を把握しようとしたその時。
「こんにちは」
「なっっ!?」
いつのまにか近づかれていたのか、絹旗が鈴の首を掴む。
「ぐっっ!何でよ!死んでないにしてもこんなに早く起き上れるはずが!?」
「超ォクソ野郎が、アイテム舐めてんじゃねェぞ!!」
絹旗の口調が変わる。
移植された怪物の暴力性が目覚めるかのように。
絹旗の窒素装甲は、たとえ絹旗が認識していなくても相手の攻撃に対して自動で展開されている。たとえ目に見えない攻撃だったとしても自動で防いでくれる。
それに絹旗はただのLEVEL4ではない。先も述べたとおり学園都市最強の第一位の思考の一部を植え込むことで、能力を強化されている。その中でも絹旗は一方通行の反射を基に防御能力を特化されている。
絹旗の戦闘能力はISに比べて大きく劣っているだろう。
だがそれでも、その防御能力にかけては優秀だ。
鈴の攻撃は強烈だったが、本気でないとはいえ学園都市第二位の攻撃を受けた絹旗からすれば耐えられないというほどでもない。
「このっ!!」
鈴は掴み掛ってくる絹旗に向けて拳を振るう。
「ぐっ!!」
だが絹旗も掴んだ手を離さずもう片方の手で殴り返す。
お互い最新技術で生み出された力でありながら、不格好で原始的な殴り合い。
絹旗の窒素装甲はISに対して相性が悪い。
離れた所から遠距離攻撃を受け続けるだけで絹旗は何もできずにやられていただろう。
まともに戦えば間違いなく絹旗は負ける。
だから機動性の活かせない狭い通路に誘い込み、遠距離攻撃できない超至近距離で戦っている。いくら龍咆が斜角のほぼ制限なしで撃てると言っても、ここまで超至近距離ではさすがに使えないだろう。
そこまでやっても絹旗が勝てる可能性は低い。
今の絹旗は片手を使えない状態で、手を放してしまえば勝機を失ってしまう。
対して鈴は両手を存分に使える。遠距離攻撃が出来ないとはいえ、それでも戦力としては鈴の方が有利だろう。
だが、それでも絹旗は勝とうとしている。
(こんな奴に勝てないようじゃ、LEVEL5クラスの化け物相手に戦えません)
これから先、あのレベルの相手と戦うことになったとき、おそらく今の絹旗では生き残れないだろう。だからこそ絹旗は自分より戦闘力が上であろうISを倒そうとしている。
絹旗にも勝機がないわけではない。
鈴のシールドエネルギーには限りがあるのに対し、絹旗は窒素がある限りずっと展開していられる。絶対防御だっていつまでも使えるわけじゃないだろう。
だからこのまま殴り合えば最終的に倒れるのはお前だと、絹旗は笑う。
もちろん実際はそんな単純ではないことを絹旗は理解している。
いくら窒素がある限り防ぎ続けられるとはいえ、絹旗は全くのノーダメージとはいかない。体力や気力にだって限界はあるだろう。
それでも絹旗は笑う。身体の骨も既に何本か折れているかもしれない。だが諦めずに殴り続ければ、最後に勝つのは自分だと。
(こんな超根性論、私のキャラじゃないんですけどね。あの超大馬鹿野郎に毒されでもしたんですかね)
絹旗の脳裏にとある不良男が浮かび自嘲する。
「何なのよあんたはっ!!」
鈴の目は異常なものを見るようだった。
仕切り直されたら終わりだ。鈴が冷静なっていれば、他の対処法を思いついたかもしれない。
鈴の息はあがりはじめているが、構わず絹旗はただただ右手で殴り続ける。
皆が帰って来るまでアイテムの居場所を守り抜くために。
鈴も恐怖を振り払い、負けじと拳を振るう。
「アタシは負けない。もう負けるわけにはいかないのよ!」
一夏と共にいたい。一緒に戦いたいと思っていた。
こんな所で負けるようではまた一夏は一人で戦って傷ついていく。
「こんな所で、負けられるかああああああっ!!!!!」
鈴は殺さない様に気をつけることなど完全に頭から消えていた。
目の前の敵を確実に倒すことを決める。
鈴は絹旗に首を捕まれたまま空中に浮かぶと、絹旗を地面に引きずりながら高速で飛び立った。
「がああああああああああああっっっ!!!!」
さすがに絹旗も叫びを上げる。
だがその手は未だに鈴から離れていない。
それどころか絹旗は薄く笑っていた。
(・・・・やっぱりこんな根性論で勝てるほど甘くはないですね)
この程度で、絹旗は諦めない。
鈴は引きずっていた絹旗を壁に叩きつけた。
「これで終わり!!」
鈴は肩の大型クラスターにエネルギーを溜める。
近距離用の拡散衝撃砲。この距離では鈴もまとめてくらってしまうが、今は早急に倒すのが先決と判断した。
自分の首を絞める手が未だに緩んでいない。いや、それどころか更に力が強まっていく。
鈴は早く目の前の相手を倒さないと危険だと本能が告げていた。
「私は窒素を操る能力者です。超それだけしか出来ない人間です」
絹旗は血を吐きながらも未だに薄く笑っていた。
絹旗の全身の骨は所々折れてしまっている。
だが絹旗の能力『窒素装甲』は自分の周りの圧縮した窒素を操る能力だ。
絹旗はそれを利用して自分をマリオネットのように動かす術を無意識の内にやってのけた。
新たな
自分の周りの窒素を操る能力。正確に言えば絹旗の衣服や手に持った武器なども絹旗の一部と認識されている。
そこから絹旗は首を絞めている鈴、そして鈴の身に纏うISも絹旗の一部と認識させる事に成功させた。
鈴のISに窒素の鎧が展開されていく。
既に鈴の衝撃砲『風』は発射態勢に入っている。
「アンタ何をしたの!!?」
「あなたの言うとおり、超終わりという事ですよ」
次の瞬間。鈴と絹旗は爆発に飲み込まれ、見えなくなった。
次回は根性さんのターン!