喜んで読ませてもらってます。
木原研究施設地下最下層。
白井黒子にとって、この場所は色んな意味で思い出深い場所だ。
かつてクリスティーナ=木原=ライフラインがチャイルドエラーの子供たちを利用し、違法な人体実験、LEVEL6到達のための実験材料に使おうとしていた場所。
敬愛する
この場所は今は閉鎖され立ち入り禁止となっているはずだったが、学園都市の外からやって来た侵入者がこの場所に入っていったという情報を受けて、すぐさま自身の保有するLEVEL4の能力、
例の実験の関係者なのか、IS学園の生徒だというのは本当なのか、今の黒子には判断できない。侵入者の目的は分からなくとも、
「風紀委員ですの!貴方たちを学園都市不法侵入の容疑で拘束させていただきます!」
突然現れた少女を前に一夏は一瞬ポカンとした顔で困惑したが、今は構っている暇はないと思い直し、黒子の存在を無視した。
そもそも一夏は風紀委員というものをよく分かっていない。
唯一が少し説明していたと思うが、詳しい事は知らなかった。
だから一夏は
まあ、ある意味間違いではないのだが、学園都市においてその意味は大きく異なっている。
ともかく学園都市の生徒でもない自分には関係のない話だと、一夏は軽く考えていた。
「動かないでいただきたいですわ。直ちに武装を解除して此方に投降してくださいませ。大人しく投降していただければ、情状酌量の余地ありと貴方の罪も相応に軽くなりますわよ」
投降を呼びかけるにしてはやや高圧的に一夏達に呼びかける。
本来の性格もあるが、黒子は見た目から相手になめられやすいので意図的に強く出ている部分もあった。
普段の一夏ならどうにか話し合いをして解決しようとしていたかもしれない。
だが今の一夏は簪を見つけられなかった焦りと、目の前で鈴が地面の下に落ちて行ったのを見て落ち着きを失っていた。
付き合っていられないとばかりに黒子の言葉を無視して、鈴を助けに向かおうと一夏はISを起動しようとした。
目の前にいるのは中学生くらいの少女。だから一夏は特に警戒もしていなかった。
だが一夏はここが能力者の街であるという事をもっと考えるべきだった。
「えっ?」
一夏には何が起こったのか理解できなかった。
ただ突然視界が回転し、気づけば目の前に現れた少女によって地面に打ち伏せられていた。
痛みも衝撃もなく、まるで時間を止められていたかのように、いつのまに目の前に現れたのか、どうやって打ち伏せられたのかまったく理解できなかった。
「一夏!!」
箒が驚きの声を上げる。
最初に動いたのはラウラだった。
即座にISを起動させ、黒子に迫っていく。
そのままぶつかれば生身の人間はただではすまないはずだが、それを分かっているのかいないのか、お構いなしに掴み掛った。
「ええっ!?」
その瞬間、シャルロットが驚きの声を上げた。
ラウラの手が黒子に触れる寸前に、黒子は突然に姿を消してしまった。
「うおっっ!!?」
ラウラが一夏とぶつかるような事にはならなかったが、目の前で展開される事態の早さに、一夏の思考は追いつかなくなっていた。
気付けば風紀委員を名乗った少女が、少し離れた場所に立っていた。
「いつのまに!?」
「能力者か・・・・」
箒もISを起動し、ラウラは体制を立て直し戦闘態勢に入った。
「大人しく投降していただけません?ISなんて物騒なものと戦うのは面倒そうですし、犯罪者相手とはいえ女性の身体を傷つけるのはあまり快くないのですけど」
その言葉に一夏達の表情に怒りが出ているように見えた。
思わず愚痴る様に言ってしまったが、黒子は即座に失言だったと悟る。
犯罪者呼ばわりされれば不愉快になるのは当然だろう。
それに黒子は知らないことだが、彼らは学園都市に攫われた簪を助けに来ただけなのだ。
一夏達にしてみれば誘拐犯に犯罪者呼ばわりされたようなものだ。
ともかく話し合いどころか早くも険悪な雰囲気になってしまった。
「私がいることを忘れないでほしいですわ!」
「僕もやらせてもらうよ!」
セシリアとシャルロットもISを起動し、戦闘態勢になった。
黒子は自分の失言を後悔したが、どっちにしたって彼女たちはやる気満々だし、黒子もどちらかといえば話し合いよりも力で押さえつけて解決してしまう方だ。
黒子はため息をついてやるべきことを決めた。
「仕方ありませんわね。怪我しても恨まないでくださいませ」
ISと能力者の戦いが始まる。
何しろ相手からすればこちらの攻撃は当たらず、向こうは攻撃の軌道が無いため、避けるだけでも困難だ。
いかに最強の兵器と呼ばれるISであっても、瞬間移動する相手を捕えるのは難しい。
さらに遮蔽物を無視した攻撃、三次元的な制約にとらわれない攻撃のため、強靭なISアーマーやシールド、絶対防御も意味をなさない。
相性でもISで戦うのは最悪と言える。
だが
学園都市LEVEL4の白井黒子とIS学園の代表候補性五人の戦い。
黒子は苦戦していた。
箒が勢いよく飛び出し、黒子に迫っていく。
日本刀型ブレード『雨月』を振り下ろす。
当たるだけで確実に五体を砕くその一撃を黒子は空間移動で躱す。
しかし躱されることは箒も分かっていた。
ハイパーセンサーを全開にして警戒していたシャルロットが黒子の姿を探す。
見つけた。方向はシャルロットの後ろ。距離が離れているがシャルロットは
だがその手は触れることなく虚空を裂き、またもや見失ってしまう。
(連続でテレポートできるなんて反則だよ!)
黒子は迫りくるISの攻撃をかわし続けていた。
彼女たちがISで突撃し、それを黒子が空間移動で躱す、躱す、躱す、もう何度もこれを繰り返していた。
お互い有効な攻撃が決まらずに苛立っている。
黒子は風紀委員で容赦のない性格として知られている。だがそれはあくまで風紀委員としての話だ。
いくら容赦がないと言っても、黒子は暗部の人間ではない。根の部分では一人の女の子に過ぎない。
もちろん攻撃してくる相手に怪我をさせたくないなんて殊勝な心がけはない。一人の女として女性の肌に傷をつけるのには忌避感が無いわけではないが、仕方がない事だと風紀委員として割り切っている。
だが、問題はISの速度が予想以上に速い事だ。
地下というと狭いイメージがあったりするが、天井もかなり高く、広大なスペースを持つ地下空間。
動きが制限されるとはいえ、ある程度ISが動き回れる広さはあった。
それでも室内に五機のISがいるのだから攻撃を当てるだけならさして難しいことではない。
問題なのは攻撃を当てる箇所だ。
ISが高速で動いているせいで狙いをうまく定めることが出来ない。
相手が一人だけだったらそこまで問題にはならなかっただろう。
だが五機のISの攻撃を警戒しながら相手に狙いを定めるのは困難だ。
いくら地の利があり、相性でも有利であるとはいっても、数の差は大きく働いてしまう。
他人から見ると簡単に空間移動させているように見えるが、能力を使うために頭の中では複雑な計算が行われている。
黒子は空間移動があるとはいえあくまで生身の人間だ。
一撃でもくらったら致命傷を負ってしまう。
だからと言って、手足を狙ったつもりで心臓でも打ち抜いてしまったら大変だ。
日本の警察だって犯罪者相手だからと言って銃は威嚇か自衛用で、基本相手を射殺することは厳禁だろう。
風紀委員も犯罪者相手とはいえ殺人は許されない。
さらに問題なのは、相手が自分に傷がつくことを意識している様子が全く見られないことだ。
普段ISをスポーツとして使っている弊害だろう。
ISには絶対防御がある。だから傷つくことはないし死ぬことはない。
普通の相手ならそれで問題はないかもしれないが、黒子のテレポートの前では問題だ。
箒たちもあまり遠距離攻撃をしていない。
下手に射撃をして黒子を殺すことを避けたのかもしれない。
遠距離攻撃をしなくてもISによる攻撃は生身の相手では十分致命傷に至ってしまう。
だが接近戦なら相手が避けてくれるから問題なく行える。
お互い相手を一撃で殺せる力を有していながら、それを使えないでいる。
黒子を疲れさせた所で、ラウラの
殺人への忌避感はあっても、IS学園での生活のせいか人間相手にISを使う忌避感はあまりないようだ。
矛盾しているようにも思えるが、彼女たちは日常的にISを使っているのでそのことをあまり気にしていない。
殺さないようにしてくれる気配りは嬉しいが、自分が殺されないようにも配慮してほしいものだと黒子は思う。
まあ黒子のテレポートは基本防御不能なので防御という手段は悪手、だから彼女たちの戦術はある意味正しいのだが、それでも戦うなら自分の命を大事にしてほしいものだと黒子は敵ながら思ってしまう。
彼女たちはこの戦いを普段の授業と同じように考えてしまっている。
ラウラは別にしても戦場での戦う危険というものを分かっていないように見える。
ISを過信している弊害。絶対防御があれば大丈夫なんて考えは危険だ。
いざ戦場で命のやり取りを行えば、彼女たちは何もできず震えるだけかもしれない。
そのなかで一夏の様子がおかしかった。
一夏はISを展開しているものの、一歩も動かずに震えている。
無論、武者震いなどではない。
IS学園で少女を傷つけてしまった恐怖が一夏に行動をためらわせた。
また自分の手で目の前の少女を傷つけてしまうことを恐れていた。
実質、黒子と戦っているのは一夏を除いた四人。いや、AICを使うタイミングを見計らって集中しているラウラを除くなら、今黒子の相手をしているのは箒、セシリア、シャルロットの三人だ。
黒子からすれば一夏とラウラが何を狙っているのか分からない。いつ攻撃してくるか分からないため、意識を外すわけにはいかない。
黒子もなんとなく一夏の戦意が薄い事には気付いてはいたが「それじゃあ、あなたは何しているんですの?」と思ってしまう。
結果論だが、戦闘に参加せずにISを構えているだけの一夏は、警戒している黒子の行動を制限していた。実際に戦闘に参加するよりもずっと戦いに貢献していると言えた。
黒子は考える。
(・・・・・体制を立て直したほうが良さそうですわね)
このままではジリ貧で黒子は追い詰められてしまう。
それなら一度空間移動でこの部屋から脱出し、黒子を見失わせて動きを止めた所に再び現れて金属矢を撃ちこめばいい。
一見単純だが確実な手のように思えるが、デメリットも存在する。
それは黒子自身も、部屋から脱出した瞬間に相手を見失ってしまうことになる。
脱出するなら最低限ハイパーセンサーの効果範囲から逃れる必要がある。
そうでなければ見失った相手に逆に攻撃を受けてしまうことになる。
ISのハイパーセンサーとはどれくらいのものを感知できるのか、効果範囲はどれくらいなのか、詳しいことを知らない黒子には判断が出来ない。
箒の雨月が黒子に迫っていた。
「っっ!!」
考えていたせいで対応が少し遅れてしまった。
なんとか空間移動で回避したものの、黒子の動きが一瞬止まる。
「いまですわ!」
「ラウラ!」
セシリアとシャルロットの呼びかけに答え、ラウラが動き出す。
「・・・・これで終わりだ」
AIC。
動きを止められてしまう停止の結界が黒子の動きを捕縛する。
「なっ!!?」
黒子は動かなくなった自分に驚愕する。
(動けない!?これは・・・・)
ラウラ・ボーデヴィッヒの専用機『シュヴァルツェア・レーゲン』のAICを受けた者は動く事が出来ない。
「もう逃がしませんわよ」
「大人しくしててね」
動けなくなった黒子にセシリアとシャルロットが近づいていく。
ラウラも黒子の首元にブレードを突き付けている。
「さて、色々聞きたいことはあるが。嫁、お前はどうしたんだ」
「えっ?ああ、悪い」
やはりまだトラウマから抜けきっていないのか、一夏の顔色は悪い。
「大丈夫だよ一夏。鈴も簪さんもきっと無事だよ」
シャルロットが一夏を心配している。
一夏も黒子の元に近づき喋りかける。
「大人しくしてくれ、抵抗しなければ乱暴なことはしないよ」
それに対して黒子は薄く笑う。
「まるでもう勝負がついたかのような言い様ですわね」
その言葉に一夏は僅かに眉をひそめる。
「強がりはやめなよ。ラウラの停止結界を受けているんだから君はもう身動きが出来ない。仮に動けたとしても、生身の君がISを装備している俺たちには勝てないだろ。ISを装備している限り君の攻撃は効かないよ。それに君が怪我をしていないのは彼女たちが手加減してくれたからだ。これ以上やるなら君はただではすまなくなる」
一夏としては無駄な抵抗をして怪我をしてほしくなかった。
あの時のような事にはなって欲しくなかったから。
まだ誰もISを解除していないし、AICも継続中だ。もはや黒子には何もできないはずだった。
「舐めすぎですわよ間抜け」
黒子が吐き捨てるように呟くと同時に、彼ら全員のISに異常が起こった。
「なっ!!」
「ええっ!?」
セシリアとシャルロットが驚きの声を上げた。
突然ISのウィンドウが異常を知らせる。
「何!?」
ラウラのAICもいつのまにか消えている。
「身動きが出来なければ能力を使えないなんて言った覚えはありませんわよ」
黒子が動けないと思ってわざわざ自分から近づいてきてくれた。
いつかの第五位のときの様に頭をクラックされて動きが止まったわけでもあるまいし、問題なく能力を使えた。
黒子はスカートの中に隠し持っていた金属矢を、ISの武装やアーマーの内部にブチ込んだ。
ISコアにブチこめられれば一番よかったのだが、黒子にはISコアがどこにあるのか分からない。
だがそれでも機械の内部に異物を押し込んだのだからISはもう使えないはずだ。
「これで終わりですわ!」
形勢逆転。黒子はこの時点で勝利を確信した。
その考えは甘かったようだ。
ラウラの呼びかけで皆即座にISを量子変換し、再装備する。
カンと軽い音を立てて無数の金属矢が地面に落ちる。
「なっ!!?」
ラウラはISを装備した手で黒子の身体を掴む。
「ぐうっ!!」
加減はされているが、締め付けられる痛みに集中力が乱れる。
(ちょっ!ISの詳しい構造は知らないですけど、兵器、精密機器の類でしょう!?取り除いたとはいえ異物を撃ちこまれて異常はないんですの!?)
痛みと動揺のせいで能力を行使するための計算がうまくいかない。
(くっ!我ながら進歩がない事ですわね)
以前学園都市に侵入してきた褐色肌の女。
その相手にも黒子は単身で挑みかかり、無様にやられてしまった。
その時と全く同じ状況に追いこまれてしまった。
あの時は学園都市第三位のLEVEL5。御坂美琴が助けてくれた。
(お姉さま!)
思わず心の中で叫んでしまった。
いつも風紀委員の仕事に関わるなと言っている癖に都合が悪くなると
そんな都合よく御坂が現れる訳がない。
その時、世界が揺れた。
天井から轟音と共に瓦礫の山が降りそそいだ。
「うわっ!?」
一夏が驚きの声を上げる。
皆即座に警戒し、それを見る。
天井を突き破ってそれはやって来た。
「すげぇな、こりゃ。すげえ根性無しがいるぞ」
彼にはここで一体何があったのかは知らないし、一夏達や黒子の事情も知らない。
だが彼は一部始終ここで何があったのかは感知した。
「お前たちが誰か詳しくは知らないし、事情も知らない。それでもな・・・・」
ナンバーセブン削板軍覇。
「女を戦わせて自分はバトル解説しているような根性無しはぶっ飛ばされても文句はねえよな」
根性の男がその拳を一夏に振り上げる。
突然スキルアウトに囲まれたLEVEL0のあなた!
助けを呼ばないと!
誰を呼びますか?
コマンド
①助けて上条さん!
②助けて根性さん!
③助けてカブトムシさん!
④助けて一方通行!
⑤助けて浜面さん!