IS学園VS学園都市   作:零番隊

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随分と遅くなってしまいましたが、ようやく投稿できました。



学園都市戦入編
第14話 木原の暗躍


一夏が皆で生徒会室に向かったとき。

 

あの時、突然爆発したような音の後に生徒会室から簪が飛び出してきた。

 

服は乱れ、息が大きく荒れ、身体からはたくさんの汗が流れていた。

傍から見ても普通じゃない状態なのは一目瞭然だ。

 

「簪!!一体何が!!?」

 

動揺した一夏は、慌てて簪に何があったのか問い詰めたが、簪は舌打ちし、一夏達を振り払って走り去っていく。

 

慌てて一夏が呼び止めたが簪は走り去ってしまう。

一夏はすぐに追いかけようとした。

 

「一夏。部屋の中にまだ誰かいるぞ」

 

「えっ!?」

 

ラウラの緊迫した声に、一夏は簪を追おうとした足を止める。

 

ラウラはすでにISを展開して警戒態勢に入っていた。

 

生徒会室にいるのは誰だ?

 

普通に考えるなら楯無たち生徒会のメンバーだろう。

 

だがそれなら生徒会室を爆破したのは誰だ?

 

楯無のいつもの悪ふざけにしては度が過ぎる。

それともただの事故だったのか?

 

だが簪の様子も尋常じゃなかった。

 

一体生徒会室で何が起こったのか。

 

「くそっ!!」

 

周りの静止の声を無視して一夏は即座にISを起動して生徒会室に踏み入った。

 

「!!」

 

そこで一夏は見たのは荒れ果てた部屋と、気絶した本音と虚。そしてその二人により添っていた楯無の姿だった。

 

そして一夏は何があったのかを楯無から聞いた。

 

 

~回想終了~

 

 

あの後すぐに緘口令がしかれ、ほとんど情報が得られなかったが、ここ最近の一夏が接していた簪は別人だったこと、そして、それには学園都市が絡んでいることを知った。

 

一夏は廊下を歩きながら学園都市に対する怒りがどんどん大きくなっていった。

一夏にとってもはや学園都市は亡国機業並みに憎悪の対象だ。

 

亡国機業といい学園都市といいどうして自分の大切な者たちを傷つけ奪っていくのか。

 

楯無のいつもの飄々とした笑顔がなく、悔しさを噛みしめていた表情を思い出す。

 

一夏はこれまで何度も楯無に助けられてきた。

 

今度は自分が助けてやりたいと思う。

 

それに簪は大切な友人だ。なんとしても助け出したい。

 

それなのに一夏は千冬に何もするなと止められている。

 

『お前に何ができる。邪魔になるだけだ!!』

 

一言で切り捨てられてしまった。一夏を心配しての言葉でもあったのだろうが、千冬は一夏が勝手に動く事でこれ以上事態が悪化するのを恐れていた。

 

一夏は目の前の人が傷つくのを見捨てられない。

個人としては美徳かもしれないが、組織としては邪魔なだけだ。

 

前にも一夏は任務中に密漁船を守るために勝手な行動をして、絶好の機会を逃してしまった。

 

一夏には何が重要で優先すべきかを理解していない。いや、理解はしているのかもしれないが、それでも一夏には見捨てるという選択肢がない。

 

一夏には大切なものを選択し、決断するだけの覚悟はないのだ。

 

だからこそ取捨選択できる楯無には行かせることが出来たのかもしれないが。

 

今の一夏が勝手に動けば更に状況が悪化する危険があった。

 

「くそっ!」

 

それでも一夏は納得できなかった。

攫われた簪を思うと、いてもたってもいられなくなる。

 

(・・・・俺にもっと力があれば、皆を守れる力が、千冬姉に認められる力があれば助けに行けるのに!)

 

一夏がそんなことを考えているときだった。

 

「そんなに力が欲しいですか?」

 

「えっ?」

 

振り返ると、そこにはスーツの上から白衣を着た女性がいた

若い女性だが、恰好から生徒には見えない。となると教師だろうか?

 

「織斑一夏さんですね」

 

一夏にはその女性に見覚えがない。

 

もっとも、IS学園は広大だ。一夏が知らない教師がいたって全くおかしくない。

新任の先生かもしれないし、むしろ全教師を把握している生徒の方が少ないだろう。

 

一夏は学園祭のときに見ず知らずの女性に連れてかれて実は正体が亡国機業の人間で、白式を奪われかけたという苦い思い出がある。

 

それにここ最近IS学園に侵入者が紛れ込んだりと色々事件続きだった。

 

だから普段気楽な一夏も警戒心があった。

 

IS学園の警備をそう簡単に掻い潜れるはずがないとは思う。学園祭のときは沢山の人が入り込んでいたのだから警備が薄くなり、亡国機業が入り込んでしまったのだろう。だが、それでももし目の前の女性が亡国機業や学園都市の刺客かと思うと警戒してしまう。

 

そこまで考えて一夏は一旦落ち着く。

 

ここ数日余裕がなくなって精神的に疲れたのだろう。

 

生徒会長じゃあるまいし学園内に自分の覚えていない教師がいたって何の不思議もないだろう。

 

取りあえず要件を聞こうとした一夏だったが

 

「初めまして。学園都市からやってまいりました木原唯一といいます」

 

「・・・・・・はい?」

 

名乗った女性に対して一夏はポカンとしてしまう。

 

堂々と学園都市から来たと名乗る女性に、一夏は警戒より先に困惑した。

 

(・・・・・何を言ってるんだ?)

 

戸惑っている一夏が周りを見渡すと、廊下のど真ん中なのに不自然なくらい人がいない。

いつのまにか廊下には一夏と女性の二人しかいなかった。

 

一夏は慌ててISを起動しようとしたそのとき。

 

「ISは起動しないでください。私は貴方に危害を加えるつもりはありません」

 

「なっ!?」

 

一夏には唯一が自分に近づいてきたことにさえ気づくことが出来ず、いつのまにか右腕を掴まれていた

力を込めている様には全く見えないのに振り払うことが出来ない。

というよりも、一夏の方に抵抗の意思が薄れていっている。

 

元々は木原乱数が得意としていた薬品の臭いを使った精神誘導。

 

唯一では乱数ほどたけてはいないが、少し心の隙間に入り込むだけでいい。

 

廊下に人がいないのも同じようなもの。

 

皆この場所を無意識のうちに避けている。

 

隣に咳をする人がいると、風邪を移されたら嫌だという思いから無意識のうちにその人から遠ざかろうとするようなものだ。

 

「あなたの知りたいことを教えてあげましょう。学園都市について、そして更識簪について」

 

一夏はISを起動しようとしたのを止めてその言葉に聞きいった。

 

 

 

 

 

 

「・・・・狂ってる」

 

一夏は学園都市に強い嫌悪と得体の知れない恐怖を覚えた。

唯一に聞かされた学園都市の内情。

 

脳に電極を刺したり、血管に薬品を撃ちこんだり、学園都市は人々を道具にしてまで能力を開発しているらしい。

 

まあ、ある意味それは事実であるし、一般にもある程度知られている事であるのだが。

 

嘘ではない、しかし本当の事ともいえないような捻じ曲げられた形で唯一の言葉は一夏の脳に浸みわたっていく。

 

一夏の頭に思い浮かぶのは、映画で見るようなカプセルの中に学園都市の人間たちが入っているようなイメージ。

学園都市の人たち全員がアレイスターのようになっている光景を想像した。

 

ちなみに一夏はアレイスターのことなど知るはずもない。実験体という言葉に映画で見るような光景を思い描いただけだ。

 

実際はそこまで深刻なものでもなく、学園都市の生徒達も普通に学園生活を送っているのだが。

 

「そこまでして力が欲しいのか!人間をやめるような真似までして、そんなことまでして力が欲しいのか!」

 

一方的な見方ではあるが、まあ間違ってはいない。

 

一般の日本高校生の視点で見れば、学園都市がそう見えるかもしれない。

 

しかし、一般人から見ればIS学園だって同じようなものだ。

 

ISという凶悪な破壊兵器をIS学園の人たちはスポーツやファッションとして楽しんでいる。

 

あんな危険な殺戮兵器を日常で平然と使って遊んでいる。

 

それを当たり前のこととしてIS学園の人たちは受け入れている。

 

これも一方的な見方だが、間違ってはいないだろう。

 

なんにせよ、一夏にとって学園都市は今まで以上に嫌悪の対象となった。

 

「あら?あなただって力を求めているんでしょう?」

 

「それとこれとはっ・・・・!」

 

「学園都市の話は一旦ここまでにしましょう。今急がなくてはならないのは更識簪ですから」

 

簪の名前が出た瞬間、一夏はさらに唯一の言葉に聞きいっていく。

 

「早く彼女を助け出さないと手遅れになってしまいます」

 

「そんな・・・・」

 

一夏は自分の無力さに絶望してしまいそうだ。

 

一夏は、早くしないと簪がフラスコの中で薬漬けしされたり、改造人間にでもされてしまうのではと思ってしまう。

 

「ですが今ならまだ間に合います」

 

唯一は一夏に希望を与えてしまう。

 

「ことは一刻を争います。今すぐ行かなければ手遅れになってしまうかもしれません」

 

「じゃ、じゃあすぐに千冬姉に話して・・・」

 

「織斑千冬に話してはいけません。世界最強の『ブリュンヒルデ』が動けばIS学園の戦力が大幅に低下してしまいます。学園都市はそれを突いてIS学園を攻めてきます。それに織斑千冬はIS学園の総指揮者です。更識簪個人よりIS学園全体を優先させるでしょう」

 

「でも!」

 

「あなたが織斑千冬にこのことを話せば、織斑千冬は貴方に勝手な行動をとらせないようにするでしょう。そんなことになってしまったら誰が更識簪を救うんですか?」

 

「っ・・・・!!」

 

「私はこれ以上何の罪もない子供たちが実験材料にされるのが耐えられないんです。今頼れるのは貴方だけ、更識簪を救えるのは貴方たちだけなんですよ」

 

白々しく心にも無い台詞を一夏は聞きいっている。

一夏は唯一の言葉を信じてしまった。

 

親がいない一夏は今まで姉の千冬に頼り切るだけだった。だから今度は誰かに頼られたい、自分の手で誰かを救いたいという願望が一夏自身も気付かない内にあったのだろう。

 

姉の千冬とのスペックの差は、もはやコンプレックスを感じるのも馬鹿らしいほど激しいものだった。

千冬の弟というだけで周りが勝手に期待し、勝手に失望していく。一夏には自分でも気づいていないが重圧になっている。

 

それでも一夏は姉に恥じない男になりたい。自分のそばにいてくれる人たちを守りたいという思いがあった。

 

唯一は切っ掛けを、理由を作るだけでいい。

一夏は簪を助けに行くことを決意した。

 

「それと、これを渡しておきます」

 

唯一が渡したのは手のひらに乗るプラスチックのケース。

中には白い粉末状の薬が入っている。

 

一夏は知らないが、それは『体晶』と呼ばれる薬で能力を意図的に暴走させる。

 

「IS操縦者の力を底上げする薬です。開発されたばかりの薬ですから本当に危険な事態のときだけ使ってくださいね」

 

突然渡された薬に戸惑ったが、持っているぶんには問題ないと思った。それにいざというとき本当に助けになってくれるかもしれない。

 

一夏は力を貸してくれる唯一に感謝し、一夏は『体晶』を受け取る。

 

「貴方たちの力で彼女を救ってあげてください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

木原唯一は海原のように変装したりしてIS学園に入り込んだわけではない。

 

ただごく普通にIS学園に紛れ込んでいるだけ。

 

唯一からしてみれば何も驚くことではない。

 

木原とは散歩にでも出かけるような気軽さで学園都市から飛び出し、優秀な実験体を探し求めて世界のどこかに突如現れたりするのである。

 

もちろん暗部の気配は隠している。一般人が彼女を見ても何も異常は感じないだろう。

 

だが『木原』といえど、完全に闇の臭いを隠すのは難しい。織斑千冬や更識楯無など見る人が見れば暗部の気配に気づくかもしれない。

 

だがそれならそれでいい。暗部の気配はいわば『エサ』だ。彼女の異常に気付いたものは有用な実験体候補として彼女のリストに載るのであった。

 

もちろんただ『闇』の臭いに気付いただけではあくまで記憶の端にとどめる程度だが、『木原』に目を付けられるという事が幸福か不幸かなど言うまでもないことである。

 

それに気づかれたとしても、はぐらかしきる自信が彼女にはあった。織斑千冬も更識楯無も決して甘い人間ではない(妹の事になると少し別かもしれないが)。だが彼女たちの知る闇は学園都市暗部に比べればまだまだ薄味だと唯一は思っている。警戒はされるだろうが、唯一のやることは変わらない。

 

そして彼女が今目を付けているのは『原石』の存在。

 

『原石』。つまりは人工ではなく自然に発現した天然物の能力者たち。

『幻想殺し』や学園都市第七位の『解析不能』など、『原石』には木原ですら全容を掴めない研究材料が沢山いる。

 

彼女にとって『原石』は学園都市を飛び出しても研究したい存在だ。

 

だからこそ、以前『原石』を残虐な研究に使われるのを危惧した男がいた。

 

『魔人になるはずだった男』オッレルス。

 

彼は原石を得体の知れない研究に使われるのを避けるため、警告として学園都市に襲撃し、世界最高の『原石』削板軍覇を倒したこともある。

 

だがそんなものを恐れていては『木原』は務まらない。

 

それに『原石』に目を付けることで『魔人になるはずだった男』のようなオカルトの存在が出てくる可能性もあるが、それはそれで唯一にとっては好都合だ。

 

科学とオカルトは互いに不可侵。それが暗黙の了解だ。

 

『木原』といえど科学の存在であり、オカルトに手を出そうとする者はそういない。

 

『木原』の中でも上位グループに属する木原病理さえもオカルトに手を出そうとはしない。

 

しかし唯一は思う。そんなことを気にして躊躇っているのは木原らしくない。

それに踏み込んでこその『木原』ではないか。

 

唯一はオカルトを知ることでヒューズ=カザキリのような科学を越えた新たな科学に到達できるかもしれないと考えていた。

 

実際。唯一はまだ知らないことだが、木原加群はオカルトの領域に手を伸ばそうとしている。

 

そして、世界中の『原石』のほとんどはすでに学園都市が回収したが、まだ『原石』の候補は残っていた。

 

織斑一夏。彼は『原石』である可能性があるとして目を付けていたが、あくまで可能性であるために学園都市には引き入れなかった。それに彼は既に『男でただ一人ISを動かせる者』としてIS学園に入学してしまっている。さすがに今から学園都市に引き込むのは難しかった。

 

「焦っても仕方ないですね。とりあえず私の仕事はほとんど終わりましたし」

 

既に一夏の周りにいるメンバー全ての仕込みは終わっていた。

 

長い時間をかけて少しずつ一夏達に対して仕掛けはしていた。

 

一夏が動けば必ずあの子たちも集まってくる。後は織斑千冬に気付かれないように手引きすれば問題はない。

 

様々な思いがあれど、結局の所彼女たちは皆一夏に依存している。

 

それは一夏グループの中で最も強いラウラ・ボーデヴィッヒであっても例外ではない。

むしろ彼女が一番依存性が強いかもしれない。

 

似ているようでいて、一夏グループは上条勢力とは違う。

 

一夏グループは一夏を中心に、足りない部分を仲間たちが助けて補っている。

目の前に傷つき、助けを求める人がいれば助けるかもしれないが、その在り方は少し一方通行だ。がむしゃらに仲間を助けようとするも、彼らは敵と味方を明確に分けている。

 

それはある意味当然のことだ。勇者が魔王を倒してハッピーエンドになるのがセオリーだ。勇者にとって魔王の都合や思いなど考慮することはない。

 

上条勢力も上条当麻を中心として集まった人たちだが、その在り方は少し違う。

 

彼も仲間や友達を助けるために戦ってきた。

だが彼が救うのは仲間だけではない。上条当麻は敵であっても救おうとする。

敵にも様々な思いがあったのだろう。その思いを理解しようとし、その上であり方を否定して、その上で救おうとする。

 

ただ単純な敵味方の問題ではない。

 

彼も色んな人を傷つけてきたし、傷つけられてきた。

 

悲劇や争いがなくならなくても、悲しい結末を変えるために戦える。それが上条当麻の在り方だ。

 

そんな上条と一緒に戦う人たちがいた。

それは彼の味方だけではない、彼の敵だった者だっていた。

その人たちにも色んな事情があっただろうし、彼の味方になったわけじゃないのかもしれない。

それでも一緒に助け合って戦うことが出来たのは上条当麻の存在が大きく関わっていたんだろう。

 

 

学園都市暗部の深い『闇』の住人である自分も上条当麻に関われば表の世界で幸せに笑っているのだろうか?

 

一瞬、そんな未来像を想像してしまった木原唯一はぶるっと悪寒に震えた。

 

ありえない妄想だ。考えるだけバカらしい。だが

 

(観察対象としては面白そうだけど、やっぱ上条当麻には関わらない方がいいかもしれないわね・・・・)

 

割と切実に思う唯一だった。

 

 




第七位の原石最大をいじめたくらいで学園都市暗部への警告になるの?と思ってました。学園都市はそんな甘くないだろう。魔神の恐ろしさを学園都市が把握しているなら別かもしれないが。アレイスターが止めたか。
でも一方通行が学園都市上層部に暗部に汚い仕事させるのやめさせろと警告したときも一応効果はあったみたいだから大丈夫なのかな。新入生はあくまで彼らの独断みたいですしね。

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