タグにとある科学の超電磁砲を追加しました。
IS学園職員室に教職員や生徒会役員の三人が集まっている。
本音も虚も大した怪我ではなかったようで、問題なく動けるようになっている。
職員室は重苦しい空気に包まれている。
またしてもIS学園に侵入者を許してしまった。
それだけでなく、誰も侵入者に気づくことが出来ず、その侵入者はIS学園で何日も生活していたという。何とも間抜けな話である。
教師たちの何人かは楯無に責任を押し付けようとしていた。
対暗部用暗部「更識」の当主でありIS学園最強の生徒会長ともあろう者が妹に化けた侵入者に気づかずに何日もIS学園内に放置したばかりか、無関係の女子生徒を理不尽に巻き込んでしまったのだから。
これに関しては楯無も全く反論できず、深く自己嫌悪していた。いくら妹のことで頭がいっぱいで冷静さを失っていたとはいえ、あまりに無様な失態をしてしまった。
しかし楯無たち生徒会役員と千冬以外、誰も侵入者がIS学園に潜んでいる可能性にさえ気づくことが出来なかったのだ。
教師たちも学園都市の侵入者は八人とも同じ姿をしていたことは報告されていたはずだ。そこから姿や見た目だけの判断では学園都市相手には通じないことを推測できなかったのは失敗だろう。
同じ姿をした人物を別人と疑うのは難しいものだ。
実際学園都市の大覇星祭では、妹達(シスターズ)の一人が御坂美琴と入れ替わって競技に出場してしまうアクシデントがあったが、口調が全く違うにもかかわらず一部を除き同級生たちからにも気づかれなかったくらいだ。
今後の対策などが話し合われたが、未知の技術を持つ学園都市相手に有効な対策法など誰も思いつかなかった。
そもそも妹達(同じ顔をした八人)の侵入方法すらつかめていない状態で、どうやって逃走したのかも分からない。
IS学園の出入口を見張っている警備員は誰も見ていないと言うし、監視カメラも侵入者の姿を映し出していないのだ。
学園都市には『空間移動系能力者』という真面目に校門を警備している者たちに喧嘩を売るような能力を持つ者がいることを教師たちは知らない。
「あの日に警備をしていた者が手引きをしたのではないかしら?出入口を見張っていた人が侵入者をわざと中に招き入れたとか」
一人の教師が発したその言葉に別の教師が激昂した。
「何故そんなことをするというのですか!?」
「そうでもなくてはIS学園に侵入するなど不可能でしょう。それに例の更識簪に化けてIS学園に入り込んでいた侵入者も内部に協力者がいたと言う方が自然なことでしょう」
その言葉に、部屋の空気がさらに重くなる。
今この場に侵入者の仲間が、学園都市にIS学園を売り渡した裏切り者がいるかもしれない。
いや、そもそも学園都市の人間は別人に変わることが出来ると報告されている。更識簪に化けていたように、今も別人になってこの場にいるかもしれない。
皆は疑心暗鬼におちいり互いを疑い出す。昨日までの友人が別人に成り代わられて隣に立っているかもしれない。恐ろしい話だ。
「そもそも本当に侵入者がいたんですか?記録は何も残っていないし、侵入者を斬ってしまったという織斑君のISにも現場にも血の一滴も発見できなかったじゃないですか」
IS学園の監視カメラは妹達に改ざんされている。絶対能力者計画の時に御坂美琴がやった研究所のカメラをハッキングして侵入したのと同じ方法だ。妹達にもこれくらいの芸当はできる。ISの戦闘記録も改ざんされたようだ。
そう、侵入者がいたという証拠はどこにもないのだ。侵入者を見ていない人たちの一部は、織斑千冬が弟を英雄にするために自作自演をしているのではという話まで出ていた。
血の跡が見つからないのは当然だ。学園都市は自分たちの技術が外に漏れるのを許さない。
ロシアに投入した兵器軍も回収するか、爆発して消し去る等々、技術情報流出防止手段は無数にある。
ましてや能力者のDNA情報に関してはその比ではない。
学園都市内であっても、能力者のDNAの扱いは非常に厳しい。
ましてや妹達(シスターズ)はLEVEL5の御坂美琴から造られた軍用クローンだ。その
血液を外部に取らせるわけがない。
「学園都市の目的が分かりませんね。IS学園を敵に回すという事がどういうことかくらい向こうも分かっているはずですが」
「このことが各国に知れ渡れば、学園都市はほぼ全ての国を敵に回すことになります。そこまでして学園都市は何がしたかったのでしょう?」
世界各国からIS操縦者を集めるIS学園を襲撃すれば、各国が黙っていない。
まして学園都市は今戦争中だ。他の事になど気を回している暇はないはずなのに、学園都市はロシアどころか世界中に喧嘩を売ってしまったことになる。
「ISを手に入れようとしたのでしょうか?」
「最悪でも、ISだけは奪われてはならない。奴らの得体の知れない技術力ならISコアを解析できる可能性も十分ありえる。男でもISを起動できるようになるかもしれないし、ISを大量生産されてしまう可能性だってある」
そんなことになれば世界のパワーバランスが大きく崩れる。
少なくとも表向きは世界のパワーバランスはとれていた。
ISという兵器に等しい物が開発されたからは大きないざこざは少ない。
絶対的な力を持つが故に戦いという者に対してある程度の抑止力になっている。良くも悪くもISが機能することで世界の見せかけの平和は護られていると言える。
「それに世界に発信したあの映像もおかしいです。学園都市がISを超える兵器を持っていることをアピールしてしまう事は彼らにとってもいいことだとは思えません」
ISに対抗できる力、それ以上の力を持つ者が現れたらどうなるか。あんな力を持つ奴らは危険だから滅ぼそうと戦争を起こしてくるかもしれない。実際、ロシアは戦争を挑んでいる。
ISを超える力も認めない連中だっていることだろう。このままでは対学園都市連合が出来てしまう可能性だって十分あり得る。
「単なる迎撃や威嚇以外の目的があると?」
「分かりません。彼らは何が目的なのか・・・」
結局状況は進展せず会議はずに終わってしまった。
楯無は会議中一言も喋らずに考える。
楯無はとんでもない失態を犯してしまった。
後悔に苛まれるが、今考えるべきことはこれからの事だ。
あの侵入者は言っていた。妹はロシアにいると。
それが本当かどうか今の楯無には確かめる術はない。
楯無の勝手な判断で学園都市やロシアに行くことは出来ない。
すでに楯無にはロシア代表操縦者として救援要請が何度も来ていた。
学園都市相手によっぽど苦戦しているのだろう。なりふり構わず戦力を欲している。
救援に来なければ代表操縦者の資格を剥奪すると言っている。
それ以前にロシアが戦争後も無事でいられるか分からないが
しかし・・・・・
救援に答え、ロシア代表操縦者としてロシアに向かい、その途中で偶然にも簪を見つけ、保護してしまえば。
IS学園にはあらゆる組織や国家に縛られないという決まりがあるが、有名無実化している決まりになっている。ここは様々な組織や国家の思想や思惑が混ざっている。ましてや今は戦時中だ。律儀に守ってやる必要はないだろう。
だが、それでいいのか。
ロシア代表操縦者としてはいいかもしれない。
だがIS学園生徒会長として、その判断は正しいのか。
対暗部用暗部『更識』の当主として、その判断は正しいのか。
IS学園の生徒会長が戦争に参加して国際問題に繋がる可能性だってある。
もう、これ以上の失態は許されない。
それでも、妹を切り捨てる事なんてできない。
(私のやるべきことは・・・・)
「悩んでいるのか?」
突然千冬に声をかけられて楯無は驚いてしまった。
見ればもう会議は終わっている。
会議の内容は半分も頭に入っていない。
本当に今の自分は何をしているんだろうと深く自己嫌悪する。
「恥じる必要などない。私も同じだった」
「えっ?」
最初は何を言ってるのか分からなかったが、すぐに気付いた。
千冬も、過去に弟を誘拐されている。
モンドグロッソ大会のことなど頭の片隅にも残らず、他の事は何も考えられなかった。
ただ一夏の無事のみを願って行動していた。
あの時の自分の取り乱し様は我ながら見苦しいものだと、千冬は思った。
後さき考えず弟を救出するため突っ込んでいった自分を思い出す。
「行け」
「えっ?・・・あの」
「妹を助けに行くのだろう」
「でも、それは!!」
「決めるのはお前だ。だが、後悔するような選択だけはするな。ただし、行動の責任はお前だけに留まらない。全てを背負う覚悟があるなら行って来い。何を犠牲にしてでも、守りたいものが人にはあるものだよ」
本当は止めるべきだろう。
本来ならIS学園教師として、千冬は楯無を止めるべきだった。
だが千冬は知っている。何を犠牲にしてでも守りたいものがある事を。
同じ姉として、誰よりも大切な人がいることを知っている。
「先生。ありがとうございます」
楯無は決断する。
そう。今の楯無はIS学園生徒会長でもなく、対暗部用暗部『更識』の当主でもなく、ロシア代表操縦者でもない。
ただ一人の姉として戦うことを決意する。
「ごめんね。二人とも」
楯無は後ろに控えている本音と虚を見る。
「留守は任せて~」
「お気を付けて。それと、忘れないでください。私たちはいつでもお嬢様の味方です」
「・・・・ありがとう。二人とも」
こうして楯無は、怪物たちの戦場へと足を踏み入れることになる。
IS学園襲撃編終了
次回学園都市潜入編が始まります