IS学園VS学園都市   作:零番隊

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※注意

今回の話は楯無の鬼畜要素が含まれています。
楯無も一応『闇』側の人物だからやってみましたが、楯無ファンの批判を飼いそうで怖い。でも後悔はしてないです。
楯無の鬼畜要素はたぶん今回の話だけだと思いますが、楯無ファンの方には注意が必要かもしれません。



第12話 尋問

「あなた、何者なの?」

 

「・・・・」

 

海原の喉元に槍の切っ先を突き付ける楯無。

 

本音と虚は楯無の後ろに避難している。

 

「あなたに黙秘権はないわ。色々と答えてもらうわよ。学園都市からの侵入者さん」

 

どうやら学園都市の刺客であることは確信しているらしい。

 

(まずいですね・・・・)

 

このままでは海原は捕まってしまう。黒曜石のナイフを取り出すのを目の前の楯無が黙って見逃してくれるとは思えない。

 

それに仮に取り出すことが出来たとしても、今の状態では無意味だ。

 

海原の扱うアステカの魔術であるトラウィスカルパンテクウトリの槍は、金星の光を反射し、あらゆる物体を強制的に分解するというとても強力な魔術だが、室内では意味をなさない。

なぜならこの魔術の使用には黒曜石の鏡を使って天から降り注ぐ金星の光を反射するという性質上、金星の光が届かない室内では扱うことが出来ない魔術だからだ。

 

逆に言えば外に出ることが出来れば勝機はあるかもしれないが、目の前の人物がわざわざ外に出るのを許すはずがない。

 

(仮にここを出し抜いたとしても、学園の外に力ずくで出るのは難しい。援軍を呼ばれてしまったらその時点で終わりですね。まさに手詰まりですか)

 

海原は疲れたように息を吐く。

 

「まったく、本当にうまくいかないものですね」

 

海原の口調が変化し、纏う雰囲気も変わった気がする。

 

海原の態度を楯無は諦めと取った。

 

「それにしても私の妹に化けて私にあんな事してくるだなんて、とんだ変態ね」

 

「いや別に自分は何もしていませんが!?あなたが勝手に色々してきただけでしょう!!」

 

海原は楯無の言葉に慌てたように否定する。

 

「ふ~ん。反応から見るにやっぱり男の人なのね。純粋無垢な簪ちゃんの顔を使って女の子たちに変態行為をするなんて」

 

「だから自分は何もしていませんよ・・・」

 

「嘘?それともやっぱり女の子の下着被ってスーハ―すれば満足な変態なの?」

 

「・・・・いい加減変態から離れてください」

 

「変態でしょ。男が人の妹に変装して好き放題やってくれちゃったんだから」

 

楯無は変わらない笑顔で断言する。

 

その不自然なくらいの満面の笑みがとても怖い。

 

ちなみに以前シャルロットが男性と偽ってIS学園に転入してきたこともあったが、気にしない。というかこの場合、罪の大きさが段違いなのだ。女尊男卑以前の問題である。

 

「さて、それじゃあいい加減に本題に入りましょうか」

 

にっこり笑顔で喋っているのに海原には処刑人の死刑宣告に聞こえた。

 

「それではお待ちかねの尋問ターイム♪」

 

そして海原は気づく。楯無の瞳の奥深くで怒りの感情が燃え上がっている。

 

(ああ、そういうことですか)

 

つまり、このふざけた態度は自分を押さえつけるためのものなのだ。

 

ああやってふざけて笑顔を無理やり張り付けていないと、怒りで我を忘れて今すぐにでも海原を殺しかねない。

 

(さて、どうしますか。一応この場を切り抜ける手段がないわけではないのですが、できれば使いたくなかったんですよね)

 

内心穏やかではないが、迅速にこの場を切り抜ける手段を模索する。

 

「それでは質問です。簪ちゃんの居場所はどこでしょうか?ちなみに逃げようとしたり、黙秘したり、嘘をついちゃったりした方はもれなく手足をぶった斬っていきまーす」

 

そして正解者には安らかな眠りを。なんて幻聴が聞こえてきそうだ。

 

今の楯無なら手足を切断するくらいしてしまいそうだ。

 

本来槍は斬る物ではないのだが、ISの性能で無理やり切ることが出来るだろう。

 

斬る物ではないぶん余計に痛そうだ。

 

怒りと殺意を抑え込むのに必死で、口調もどこかおかしくなっている気がする。

 

(・・・・本当にどうしますか)

 

本当のことを言ってしまったら、それこそぶっ殺されそうだ。

 

しかし嘘をついてもすぐに見破られて斬られそうだ。

 

楯無は怒り狂っていても思考は冷静だ。

 

そして黙秘しても斬られる。

 

 

(どれ選んでも斬られそうですね。無難なのは嘘をついてごまかすこと、なんですが・・・)

 

とても残念なことに、この状況での海原の仕事は本当のことを楯無に教えることだ。

 

(・・・・本当に嫌な役目ですね)

 

海原はこれから起こるであろう事を考えて鬱になりそうだ。

 

「彼女は今ロシアにいます」

 

「・・・・ロシア?」

 

一瞬楯無にはその言葉が理解できなかった。

 

彼女の顔から笑顔が消える。

 

ロシアは今戦争の真っ最中だ。

そして第三次世界大戦の最前線になる場所でもあるのだ。

 

楯無の眼が鋭くひかり、顔も今までとは打って変わって憤怒に歪んでいる。

 

「・・・どういう事よ」

 

「言葉どおりの意味ですよ。彼女は学園都市がロシアの戦場に送りました」

 

その瞬間。楯無は海原を殺そうとするのを必死の意志力で堪えた。

 

今までの人生で一番の我慢だったと断言できるほどだ。

 

(今は簪ちゃんを取り戻すのが最優先。こいつにはまだ聞きたいことがあるんだから

。だからまだ殺しちゃ駄目。まだダメ)

 

必死に自分に言い聞かせる。

 

楯無は大きく息を吐き、落ち着きを取り戻そうとするが、あまりうまくいったとは言えない。

 

(まずは目の前の奴を拘束して簪ちゃんの変装をはぎ取って、監禁する部屋にぶち込んでからしっかり尋問しなくちゃね。確実な情報を得なくちゃ駄目なんだから・・・)

 

手足の一本くらいぶった斬ってもいいんじゃないかという誘惑を振りほどき、海原を拘束しようとしたその時。

 

 

 

 

 

 

 

 

「残念ですが、質問の時間は終わりです」

 

その瞬間。海原の服の内側から、爆発するように何かが飛び出し、部屋を荒れ狂う。

 

「なっっ!?きゃああああっっ!!!」

 

楯無が驚きの声を上げる。

 

海原から飛び出したのは彼の持つ『原典』だ。

 

生徒会室を荒れ狂う『原典』が蹂躙する。

 

この巻物状の『原典』には迎撃用術式『武具を持つ者への反撃』が記されている。

 

かつてショチトルは『武器を持つ者をその武器で自害させる』術式を使っていたが、海原がやったのは単純なことだ。

 

武具を持つ者が術者に危害を加えようとした時、力の一部を開放するというもの。

 

それは『原典』を扱うとはとても言えないただの力技に近い。

 

もし楯無が本当に海原に槍を振るったならば、彼女は『原典』に殺されていただろう。

 

それに、『原典』にはその知識を広めようとする者に味方する。

 

海原が死んで楯無に『原典』が渡っても、彼女にそれを理解することなど出来ないのだから。

 

解放した力は原典の力はほんの一部だがそれだけでも、もしかしたら部屋一つ消し飛ばすくらい簡単なのかもしれない。彼にも『原典』がどれくらいの力を持っているのか分からないのだから。

 

だから問題なのは『原典』の力を抑え込むことだ。

 

「ぐうっ!!やっぱりきついですね」

 

荒れ狂う力を海原は必死に抑え込む。

 

激しい頭痛が海原を襲うが気にしている場合ではない。

 

無秩序に暴れ出せばどこまでの被害がでるか分からない。

 

『原典』はしだいに大人しくなり、海原の服の中に戻っていく。

 

海原は頭痛を堪え、辺りを確認する。

海原が抑え込んだ成果か、部屋も荒れているが、それだけだ。

 

どうやら楯無がISを展開して本音と虚を庇ったようだ。

 

二人は気絶しているようだが、奇跡的に大した怪我もしていないように見える。

 

「・・・・よくも、やってくれたわね」

 

楯無は立ち上がり、怒りに震え、海原を睨み付ける。

 

「絶対許さない!!」

 

「くっっ!!」

 

海原は頭痛を堪えてふらつきながらも、一目散に生徒会室を出ていく。

 

「待ちなさいっっ・・・・!?」

 

海原を呼び止め、追いかけようとした時に気付いた。

 

(ISのエネルギーがこんなに削られている!!?)

 

どうやら自分が思っていた以上にアレが凄まじいものだと気づいた。

 

「これが、能力者・・・・」

 

畏怖と憎悪を込めて呟く。

 

楯無にとって初めての能力者との接触。その力の一端を知れた気がした。

 

実際には違うのだが、魔術の存在など知らない楯無には分からない。

 

楯無はISを解除すると、本音と虚の様子を改めて確認する。気絶しているが大きな怪我はしていないように見える。

しかし見た目で分からないだけで実際には大けがをしているかもしれないし、骨も折れているかもしれない。

 

楯無はケータイを取出し、電話をかける。

数秒後、すぐに繋がった。

 

『私だ』

 

「千冬先生。生徒会室で本音と虚が侵入者の攻撃を受け怪我をしています。治療の手配をお願いします」

 

『・・・・分かった。すぐに手配する。それで侵入者は?』

 

「すいません。取り逃がしてしまいました。侵入者は簪ちゃんの姿をして学園に紛れ込んでいます」

 

『なるほど。という事は、やはり学園都市か』

 

「はい。間違いありません」

 

『学園都市の侵入者が生徒に紛れ込んでいるのは予想していたが、まさかお前の妹に成り代わっていたとはな』

 

「ええ。私も驚きましたよ」

 

『それで。その侵入者の能力は他人に変装することなのか?』

 

「・・・・たぶん違います。あれは学園都市の超技術での特殊な整形なのかもしれません。顔だけじゃなく、体型や肌触りまで簪ちゃんと一緒でしたけど。学園都市の技術レベルは本当にぶっ飛んでますね。それと、正体は男です。変態です。女の敵です。ぶっ殺してしまいたいです」

 

『・・・・そうか。そいつの能力は分かるか?』

 

「はい。たぶん強力な衝撃破みたいな能力だと思います。ISのシールドエネルギーをかなり奪っていくくらい強力です」

 

『分かった。すぐに捜索させる』

 

「はい。こっちでも探します」

 

会話を終え、楯無は電話を切る。

 

(アイツは見つけしだい絶対ぶっ飛ばす!!)

 

拳を握りしめ、固く誓う。

 

しかし、彼女はすぐにそれを後悔することになるのだった。

 

 

 

 

 

海原は女子トイレの個室に隠れていた。

 

あの後、生徒会室から出た瞬間に一夏たちと鉢合わせてしまった。簪と同じ姿をしているのだから問題はないのだが、何があったか詰め寄られ、どうにか巻いてきた。

 

(さて、彼女はどうするんですかね)

 

楯無は海原の言葉を信じてロシアに行くか、それとも信じず直接学園都市に乗り込もうとするか。

 

彼女はどちらを選ぶのだろう。

それとも別の道を選ぶのか。

 

実際。簪はロシアに送られているらしい。詳しい事情は海原には分からない。しかし、ロシアに行くことが楯無にとっていいことだとは思えない。

 

助けに行くはずの妹が敵になってしまったとは夢にも思っていないだろう。

 

ロシアに行けば、楯無は絶望することになる。

しかし、学園都市に行っても簪には会えない。

 

(・・・・今は人の心配より自分の事ですね)

 

生徒会室から逃れてきたはいいが、IS学園のセキュリティを掻い潜って脱出するのは海原一人では不可能だ。

 

(どうしますかね・・・)

 

すでに教師たちも動いているだろう。

見つかるのは時間の問題だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「会長!!」

 

楯無が海原を捜索している時、一人の女生徒が楯無に走り寄ってきた。

 

「どうしたの?」

 

楯無が女生徒に問いかける。

 

「あの!簪さんがトイレで倒れていたんです!」

 

「っっ!?すぐに案内して!」

 

楯無は女生徒と一緒に女子トイレに向かう。

 

女子トイレには確かに簪が倒れていた。

 

腕に血に染まった包帯が巻かれている以外はさっき見た人物と一緒だ。

 

楯無は本物の簪である可能性を考えたが、すぐに違うと思った。

 

本物の簪がまだこの学校にいるなら、生徒会室のあの場面で侵入者が絶対に交渉に使ってくるはずだ。

 

それにあの侵入者はたぶん嘘を言っていない。勿論そのまま信じるつもりもないが、簪はロシアにいるか、それか学園都市にいるのだろうと考える。

 

本物でないことは残念だが、思ったより早く見つけることが出来た。

 

楯無は女生徒に気取られないように薄く笑う。

 

「ありがとう。あなたはもう帰っていいわよ」

 

楯無は女生徒を帰し、簪の姿をした人物を拘束して尋問する部屋へと連れて行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を覚ました彼女には訳が分からなかった。

 

自分が見知らぬ部屋にいて、衣服を脱がされた下着だけの状態で、全身を冷たい皮で椅子に拘束されている。身動き一つとることもできない。

 

それに腕にとてつもない痛みがある。見てみると、右腕に血に染まった包帯が巻かれている。

 

どうしてこうなった?トイレに入っていったことまでは思い出せるのに、そこから先が思い出せない。

 

「あの、会長。これはどういうことですか?」

 

目の前にいる人物は知っている。生徒会長の更識楯無だ。

 

見知った人物がいることで、どうにかパニックにはまだなっていない。

 

「さて、それじゃあ尋問を始めましょうか」

 

楯無は質問に答えず、冷たい目をした感情の感じられない表情で告げる。

 

「まずは簪ちゃんの正確な居場所。それとあなたの名前と素性を教えてもらいましょうか」

 

楯無は冷ややかに問う。

 

「ち、ちょっと待ってください。いきなり意味がわから」

 

パンと音がして頬に痛みが走った。

 

自分が叩かれたことに遅れて気づいた。

 

「えっ?」

 

頬に熱が残る。

 

彼女には理解できなかった。

生徒会長は色々と無茶苦茶な人ではあるが、いきなり暴力を振るう人ではないはずだ。

 

「次はこんなものじゃないわよ。 意味がわからなかった?冗談も休み休みにしなさい」

 

彼女は知らない。今の楯無はIS学園の生徒会長ではなく、対暗部用暗部『更識』の当主だ。

しかも最高潮に怒っている。怒りすぎて顔から表情が消えてしまうほど。

 

「簪ちゃんの姿をしているから手は出されないとでも思ってたの?」

 

全身を拘束され、自分の姿を見れない彼女には楯無の言葉の意味が理解できない。

 

楯無は彼女の顔を思いっきり引っ張る。

 

「痛い!痛い!痛い!痛いです!!やめてください!!!」

 

「う~ん。やっぱり特殊メイクとかじゃないのね。私でも全く気づけないくらい完璧な整形ね。もはやこれって変身って言えるんじゃないかしら」

 

彼女の叫び声を無視して楯無は興味深そうに観察する。

 

「それに服を脱がせても武器や通信機の類は見つからなかったわね。あの時の巻物みたいな物はどこに行ったのかしら」

 

楯無の尋問は続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして二時間後。

 

楯無は困惑していた。

 

「知らない 知らない 知らない 知らない 知らない 知らない 知らない 知らない 知らない 知らない 知らない 知らない 知らない 知らない 知らない 知らない」

 

彼女は壊れたように呟き続ける。

 

彼女の脈絡のない言葉に楯無の疑問は増えるばかりだった。

 

まるで簪とも侵入者とも別人のように感じる。それなら、目の前の人物はいったい誰だ?

 

楯無が疑問に思っているその時。

 

「えっ!?」

 

彼女の身体が突然崩れ出した。

 

いや、正確には彼女の纏う『簪の皮』が溶けていっているのだ。

 

それは海原が仕掛けた隠蔽術式。IS学園に魔術による皮を解析されるのを回避するためと、長い間疑われたままだと可哀そうだと思い仕掛けたものだ。

 

『簪の皮』は完全に溶けて消え去った。

 

そして彼女の本当の姿が現れる。

 

「なっっ!!?」

 

崩れ落ちた簪の中から現れた人物。楯無はその人に見覚えがあった。

簪がトイレで倒れていると知らせに来てくれた女生徒だ。

 

だがその人物は目の前にいる。

 

それなら・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・知らせに来たのは誰だ?

 

「・・・・・・・・はめられた」

 

 

 

 

 

 

その後。千冬先生に確認をとってみると、その女生徒はIS学園からいなくなって帰ってきてないことが分かった。

 

入れ替わった侵入者はもう逃げてしまったという事だろう。

 

楯無の尋問を受けた女生徒は心に大きな傷を負い、寮の部屋から一歩も出てこないそうだ。

 

楯無は土下座もいとわないくらい彼女に謝罪したかったが、楯無がお見舞いに行ったら悲鳴を上げてベットの中に蹲ってしまった。

 

突然トイレで襲われて気絶させられ、腕の皮を切り取られ、目が覚めたら下着だけの姿で二時間も尋問を受けていたのだから当然だろう。

 

元はといえばすべての原因は海原にあるのだが、そんなことを知らない彼女からしてみれば楯無の存在こそがトラウマになってしまったのだった。

 

そして逃げ延びた海原も心の中で深く彼女に謝罪したが、どちらも彼女に届くことはない。

 




一方通行と番外個体の尋問シーンを見て、いつかやってみたかった楯無の尋問シーン。
どれくらいまで許されるか分からないけど大丈夫だよね。

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