IS学園が謎の集団の襲撃を受けて一週間目。
IS学園生徒会室は、夜遅い時間だというのに数人の生徒が残っていた。
生徒会長であり学園最強の存在である更識楯無。
対暗部用暗部「更識家」の当主でもあり、17代目の楯無ということだ。
そして生徒会メンバー布仏 本音(のほとけ ほんね)と布仏 虚(のほとけ うつほ)姉妹。
彼女たちは生徒会員であると共に更識に仕える者たちだ。
彼女たちは今後の方針の提示、襲撃者の動向の予測、生徒に怪しい動きがないかなどの内容を話し合う会議を行っている所だ。
例の襲撃者の調査の際、学園内部に協力者がいる可能性を考え、生徒、教師に関わらず調査をしていた。襲撃の後の教員会議で、内部からの手引きでもない限りIS学園に八人もの人間が入り込むのは到底不可能と考える者が多かったからだ。
その結果、何者かが学園内から外に極秘で連絡をとっていることが分かった。
しかし、それ自体はよくある事だ。
何しろこのIS学園は、いかなる国家や組織であろうと学園の関係者に対して一切の干渉が許されないという国際規約があるものの、実際はあらゆる組織の思惑が交差している。
一例をあげるならシャルロットを送り込んだデュノア社等だ。
織斑一夏と白式のデータを盗むために、シャルロットをIS学園に送り込んでいた。
当時のシャルロットはひそかにデュノア社と連絡をとっていたりしていた。
あの程度なら、まだたいしたことないが、逆に言えば似たような連中は他にも複数存在している。
IS学園のセキュリティを踏まえた上での暗号通信を使ってやりとりを行っている連中も何人もいる。
だが、それらは問題ではない。
組織内だけにしか分からないはずの工夫された独自の暗号通信も、IS学園のセキュリティと対暗部組織である更識家の力が合わさればほとんど無力と化す。
その程度の問題は学園の上層部が考える問題だ。今の所、楯無たちが動く事はない。
しかし、今回は話が別だ。
学園内部から電波のやりとりがあった事は掴めているのに、暗号解読どころか、通信の傍受も探知もできなかった。
通信している事はたしかなのに、ダミーや電波妨害によって阻まれ、その発信元を掴むのにとても苦労していた。
しかし、逆に言えばそこまでの技術力を持つ者は限られている。
完璧すぎた事が逆に仇になったと言えるだろう。
思えば学園の侵入の際も、カメラに映らず、警備員に見つからず完璧に侵入してきた。
だからこそ、そこから相手のやり方が絞り出せるはずだ。
完全犯罪なんて超常的な力でもないかぎり、そう出来るはずがないのだから。
(・・・つまり超常的な反則技を使う連中の場合には、無意味ってことなのよね)
楯無は疲れた息を吐く。
ほぼ間違いなく相手は学園都市の人間だろう。
もしかしたら正体を隠す気などないのかもしれない。
一体どういう意図があるかは知らないが、戦争中の学園都市がIS学園に何の意味もなくちょっかいを出すはずもない。
問題は相手の目的だ。
ただでさえ超絶した科学技術を持つ学園都市にISの技術が渡ってしまえば、世界のパワーバランスが大きく崩れる。
いや、今だってパワーバランスがとれているとは言えないのだが、少なくとも戦争が始まるまでは学園都市が表だって動くようなことはなかった。
それにこの学園には、IS以外にも様々な世界の情報が集まっている部分がある。
外の世界と隔絶した学園都市が狙うのはそれかもしれない。
それに侵入者に関して情報を求めてくる各国の代表がうるさいと織斑千冬が愚痴っていた。
そこで楯無と千冬は話し合い。あえて情報を隠さず、改変して流した。
不審者が侵入しようとしたが、結局何も奪えず逃げて行った。
この話だけを聞けば、学園の警備のいい宣伝になる。希望的観測ではあるが。
そういう奴がいたという事を教えることで、生徒たちの注意を向ける目的もある。
そして、この学園に忍び込もうとするほどの手練れを相手に、織斑一夏が臆することなく勇敢に立ち向かい撃退した、という情報を流した。
実はこの部分が一番千冬と論議することになった。最初は反対していた千冬も、どうにか納得したようだ。
しだいに相当な尾ひれがつきはじめているが、一夏は学園で英雄扱いとなり注目されている。
変に隠すよりは噂を流して誘導してしまう。さすがは更識当主にして生徒会長。力だけの人間ではない。
おかげで情報操作はうまくいき、学園内の話の流れも、犯人の正体や目的よりも『一夏が守った』という方向に向かっている。
もちろん一部の人間は気づいている。裏を返せば、情報操作をする必要があった、それだけ侵入者の正体か目的に危ないものが潜んでいるのが感じられる。
「・・・それで、学園内におかしな動きをしている奴はいたかしら?」
楯無が二人に確認をとる。
「う~ん。表だって怪しい動きをする人はいないからね~」
「今の所、特筆すべき人物はいません」
二人が調べた限りでは、特に怪しい動きをしている人物は見られない。
「油断しないで。私達が探知し始めてから通信しなくなったと言う事は、奴らはこちらの動きが分かっているということよ」
楯無の言葉が、数日間異常が無かったために緩みかけていた緊張感を引き戻す。
「仕方ないわね、何も起きてないっていうのはむしろいいことだし。だけどいつまでも犯人が捕まらないのはまずいわね」
全く痕跡をたどれない。
侵入者の仲間である可能性が高い人物に、いつまでも学園内をうろつかれてはたまったものではない。
「お嬢様。怪しいと言うわけではないのですが、最近少し気になることがあります」
虚はどこか言いづらそうだった。
「何かしら?遠慮しないで言って見せて?」
「はい。先日の襲撃以来、簪様の様子が変なのです」
虚から見て、最近の簪は風呂に入るときや楯無に抱き着かれた時など、どこか挙動不審なように感じる。
「それは目の前で自分が一生懸命組み上げたISが破壊されたからじゃないの?」
あの一件以来、簪はISの起動訓練を一度も受けていない。
IS学園にいるからにはISの訓練は義務に近いのだが、先生方も、まだショックが抜けていないのだろうと簪が訓練を受けないのを許している。
「報告にもありましたように、簪様のISは破壊されたのではなく分解されているのです。一体何をどうすればそのようなことが出来るのかは全く不明ですが、分解されただけなら時間はかかっても組み上げることは可能なはずです。
勘違いされやすいですが、簪様は傷つきやすい人ではありますが、決して弱い人ではありません。簪様なら一刻でも早くISを組み直そうとするはずです。一夏くんたちだって自分から手伝おうと言い出していました。それなのに簪様は組み直す所かISに触ろうともしません。最初は目の前で自分のISを破壊されたショックのせいだと思ったのですが、どうも違う気がするんです。まるで、ISに興味をなくしてしまったかのように見えたんです」
姉である楯無は、そんな事にも気づけない自分を恥じ、面目ない気持ちだった。しばらく疎遠になっていたとはいえ、心のどこかで妹のことは一番わかっている気でいたのだ。
普段は自信満々、完璧超人な生徒会長様で通っているが、妹のこととなると、どこか冷静さを欠く。
「う~ん。あれはホントにかんちゃんなのかな?」
「・・・どういうこと?」
本音の言ってる意味が分からず楯無は困惑する。
「んー。うまく言えないんだけどね、まるでかんちゃんの外見と中身が違ってる気がするんだよね~」
本音の言葉にますます困惑する。
「簪ちゃんが事故のショックで二重人格に目覚めたってこと?」
人は強いショックを受けたとき、そのトラウマを隠すために別の人格を作り出すという話は、眉唾物だが聞いたことがある。
「簪様が侵入者に洗脳されている可能性もあるのでは?」
侵入者と最初に接触したのは簪だ。
何か細工されたのかもしれない。
「・・・う~ん、可能性を考えていたらキリがないねー」
とはいえ相手は学園都市、得体の知れない科学技術の他に、未知の能力者を保有する連中だ。警戒しすぎて損はあっても致命的な失態にはならないだろう。
「・・・簪ちゃんは私が直接調べたほうがいいわね」
会議を終え、部屋から退室していく。
余談だが、調査と称して楯無の簪へのスキンシップは、さらに過激な方向へと進んでいく。
第十話投稿しました!
海原の正体がばれそう!展開早いですかね?でもいい加減正体気づいてくれないと、IS学園から動かすのが大変なんですよね。
虚の簪への呼び方がよく分からないけど大丈夫だろうか?
次回も更新がんばります。