「これで満足かアレイスター」
学園都市にそびえる『窓のないビル』の中。土御門元晴はそこにいた。
様々なコードやケーブルが縦横無尽に這い回り、部屋には無数のモニターや機械類が設置され、部屋の中央には巨大なガラス瓶のような物が設置されている異様な空間だ。そのガラス瓶の中にいる人物と話している。
「ああ、中々面白いモノが見れた」
答える声は学園都市統括理事長アレイスター・クロウリー。
腰よりも長く伸びた銀色の髪を持ち、ガラスの液体の中に逆さまで浮かんでいる。男にも女にも見えて、大人にも子供にも見えて、聖人にも囚人にも見える得体の知れない『人間』アレイスター。
分かっている事ではあるが、妹達(シスターズ)も自分たちも、ゲームの駒のように扱われていることに土御門は苛立つ。
「織斑一夏にお前が興味を持つようなものがあるのか?」
アレイスターの目的は分からないし、聞いたところで理解できるとは思えない。
それでも、少しでも情報が欲しかった。
「では聞くが、織斑一夏の一番の特徴は何だと思う?」
アレイスターの質問に対して土御門は、
「超天然すけこまし野郎!!」
「・・・・」
アレイスターの表情は変わらないが、どこか呆れている気がするのは気のせいか?
しかし、それが織斑一夏を観察した土御門の一番の評価だ。
なにしろ奴の天然女ったらしは、あの上条当麻すらも超えているのだから。
「ISを扱える事だろう。実際、一般人は織斑一夏をISを扱える初めての男性程度の認識しかしていない」
何故織斑一夏はISを扱うことができるのか。
「織斑一夏がISを扱えるのは能力によるものだと?」
「今の段階では分からんが、いくつか候補があるな。たとえばイギリスに面白い例があったはずだ。イギリスの騎士派の子供が原石の能力者だった話だ。彼は騎士を目指していたが、能力に目覚めたせいで魔術を使うと拒絶反応が出てしまう。そのかわり手に入れた力は中々面白いもので、刀剣類から近代兵器や霊装まで、ありとあらゆる武器を全て達人以上に使いこなすことが出来る能力だ。彼はそれを『完全武装支配術(エインフェリア)』と呼んでいた。その力で騎士派の一員としてイギリスと王族に貢献してきたそうだ」
「・・・・織斑一夏も同じ能力だと?」
「今のはあくまで候補の一つだ。ちなみに彼は人間には行使不能といわれる神器と呼ばれる霊装すら扱える可能性があるようだ。万が一にもカーテナが彼の手に渡ることを恐れた一部の人間が彼を不敬罪で殺せと騒いだそうだ。最後はあらゆる武器の攻撃力をゼロにする術式を持つ騎士団長(ナイトリーダー)によって処刑された」
・・・・何故アレイスターがイギリスの裏情報を知っているのかはさておき、救われない話だ。
「そもそもISは欠陥があり女性しか扱えないとされているが、この時点でおかしい。何をどうすれば女性しか扱えず男性には扱えない欠陥など生まれるか、私ですらも分からない」
いくら学園都市にISがないとはいえ、学園都市は科学技術の総本山。そのトップが分からないなら誰にも分かるはずがない。公式発表では開発者の束ですら分からないらしい。
「しかし欠陥ではなく意図的な仕掛けだとすれば話は別だ。ISコアには男性を識別して扱えないようにロックがかかっているのかもしれない。束と織斑一夏は知り合いだったようだし、ISコアに織原一夏だけはロックにかからないよう登録されていたとしても不思議ではない」
「・・・何でそんなことを?」
「さてな。可能性の一つだ。ISコアを調べれば簡単なことだが、それでは各国が騒がしいからな。手に入れようと思えば簡単に手に入るが、あんな玩具に時間を使うのも馬鹿らしい。今はもっとすべきことがある」
エイワスの出現にともない。アレイスターのプランも次の段階に入ったのかもしれない、と土御門は予測する。
アレイスターは魔術勢力のみを警戒しているようだが、ISを甘く見すぎではないだろうかと土御門は考える。
ISはすでに全世界に広がっている強力な兵器だ。
たしかに、ISの力だけでは学園都市やローマ正教などの勢力は相手が難しいかもしれないが、すでに世界では女尊男卑やIS至上主義が根付いている。それに学園都市に対するIS関連の警戒が異常だ。ISコアを渡さないように各国が警戒し、ISの情報自体を学園都市に知られないように動いている気配すらある。
学園都市の情報網の前ではあまり意味はないのだが、問題なのは仲が悪い国も、この件に対しては異常なまでに協力し合っている事である。
よっぽど学園都市に知られたくないことでもあるのだろうか?
「ともかく織斑一夏の存在はプランの短縮に使える可能性がある。そのためにも力を詳しく分析してみるのもいいが、周りの有象無象たちがついてくるのは邪魔なだけか」
どうやら織斑一夏はアレイスターから一定の興味は持たれる存在らしい。平和に暮らすことを望む一般人が、アレイスターに興味を持たれるという事が、喜ぶ事なのか、嘆くものなのか、考えるまでもないことだ。
「そうだな。織斑一夏とその仲間達を、一度学園都市に招いてみるか」
「・・・・素直に来てくれるのか?」
「いや。彼らは自分から学園都市に来ることになるだろう」
・・・つまりそうなるように仕向けるというわけか。
「ロシアの方の問題はどうするんだ?」
「ああ。一方通行と打ち止めはロシアに向かったようだな。今は放っておいても問題ない。むしろ好都合だ。彼には次の段階に進んでもらわなくてはならないからな。それより今問題なのはロシア政教が作った不出来なモノだ。アレは回収しておきたいな。念のため番外個体(ミサカワースト)も動かすか。それと更識簪。彼女もロシアに向かってもらう」
「・・・いいのか?更識簪が動けばいい加減姉に気付かれると思うが」
「かまわないよ。まだ気づかれていないうちに海原光貴にIS学園のものたちと交流してもらっている」
「あの野郎!人が忙しく働いてるってのに、ラブコメ空間満喫中ってどういうことなんだにゃー!女子中学生に手をだしたり、義妹といちゃいちゃしたり、さらには女の園でハーレムかよ!あれか!あいつまでカミやん病なのか!」
土御門はIS学園にいる同僚を羨ましがっていた。
一方、IS学園では。
(つ・・・疲れた)
更識簪の皮を被った海原光貴は、心労でぐったりしていた。
ISの実技授業は、目の前で自分のISを破壊されたショックを理由にISに乗るのを拒否してきた。今の自分が魔術で更識簪の姿をしているといっても、ISを起動させられるか定かではないためだ。
さらに疲れるのは周りの人たち。元々簪は臆病で内気な性格の上、無口とは言わないまでも喋るのが苦手な方で、特に親しい友達がいたわけでもないのだが、それでもISの組み上げでお世話になった整備課の人たち、ルームメイトや織斑一夏、そして簪の姉である更識楯無、事件のこともあって気にかけてくれている。織斑一夏にいたっては自分の方がずっとショックを受けている様子なのに、それでも気にかけてくれている。簪のふりをしている海原は対応に困る。さらには着替えや入浴など、精神的に拷問に近いが、なんとか平常心を保って乗り切っている。
しかし、すでに海原の精神力もボロボロだ。
(数日でこの有様とは・・・・)
特に一番辛いのが簪の姉である更識楯無の強烈なスキンシップだ。
報告では姉妹の仲はあまりうまくいっておらず、色々とわだかまりがあるらしいが、どうも最近誰かに吹き込まれたらしく、仲を取り戻そうと奮闘している。具体的に言えば当たって砕けるような勢いであいさつがわりにハグしてくたり、「部屋にいるより外に出て気分を変えよう!」といきなり買い物に連れ出されたり、「姉妹のスキンシップだよ!」と突然一緒に風呂に入ろうとしたり・・・・
土御門等から見れば羨ましがるだろうが、実際は心労がハンパない。
それでもIS学園の内部情報を探ることも仕事の一環なので、生徒会長と仲良くなるのは悪いことではない。
(いくら仕事とはいっても、ばれた後が凄く怖いんですが・・・・)
そうはいっても仕事は仕事。今日も一日を乗り切り、自分の任務を達成しなければならない。
パンとほほを叩き、気持ちを切り替える。
「簪ちゃーん!!」
さっそく呼ぶ声がする。
今日も一日、自分は更識簪の役を演じる。
いつものように楯無が抱き着いてくる。何か柔らかい感触がするのは気のせいという事にし、表面は冷静に、内面は赤面しながら、どうしたものか悩んでいると
ゾクリ!と、最近何度か感じる、どこか遠くから殺気を浴びたような気がして首筋に冷や汗が流れる。
「ん?どうしたの?」
「なっ、何でもないよお姉ちゃん!」
最近何度か同じような悪寒を感じていた。周りを見渡してもとくに誰もいない。気のせいだとは思うが、不思議と不快は感じなかった。むしろ自分はこの殺気のおかげで今日も平静であれるような気がする。
学園都市の病室の一室。
ベットの上で上半身だけを起こしている褐色肌の少女ショチトルは、ガチャガチャと色を合わせる四角いキューブをいじっていた手を突然ピタリと止めた。
「・・・・何故だろうトチトリ。突然あいつを殴ってやりたくなった」
「今頃エツァリは美男子顔を張り付けて女を口説いてるんじゃないか?」
ピキリ!とショチトルの手の中のキューブにひびが入った。
「もしそうだとしたら、あいつをぶっ殺す!!」
海原の受難は終わらない・・・・