THEIDOLM@STER 同級生のアイドル   作:くろねこ7

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3話

「で、なにしてたんだ、あんなとこで」

 

 とりあえず事の真相を確かめるべく、彼女たちの路上ライブ?らしきものが終わった後、近くのカフェによって適当なコーヒーを頼み、話を聞く。凛の顔はまだ恥ずかしいのがのこっているのかほんのり赤みをお帯びているように感じる。

「なにって…。あ、アイドルだよ? まだひよっこだけど…」

 

 アイドル。アイドルと申したか。あの歌って踊ってお茶の間を賑やかなものへと変貌させるあのアイドルと申したのか。到底今までの凛を知っているものからしたら想像が出来ない言葉が凛の口から出たことによる驚きとは裏腹に、頭の中は何故か冷静に事を分析していた。

しかしそうか、この前凛が突然アイドルがどうとか聞いてきたのはこういうことだったのか。そう考えたらあの時の凛の挙動不審ぶりも納得できるものがある。自分で柄じゃないと思っているならやらなければいいのに。

 

「……いつからやってるんだ?」

 

「…先月くらいからかな。渋谷で歩いてたらスカウトされて、そのままって感じ」

 

 渋谷だけに渋谷ってか。…自重しよう。我ながら今のはつまらなすぎて笑えない。

 しかし今回はちゃんとした事務所だったからよかったものを、普通に考えたら危ない気がしないでもない。まぁ凛のことだからその辺はちゃんと考えて決断したんだろうが。

 

「おばさんとかは、ちゃんと知ってるんだよな?」

 

「もちろん。流石にこんなこと一人じゃ出来ないしね」

 

 ならいいのかな。凛のお母さんは楽観的なとこがあるけど、そこらへんはしっかりしてる…はず。仮に花屋さんを経営してるんだから、大丈夫…なはず。

 

「あ、あのー…」

 

 俺と凛がそんな風に話していると、凛の右隣に据わったショートヘアーの子がおどおどと手を上げた。

 しまった、話に夢中になりすぎて忘れてた。ここに来るまでの間に軽く自己紹介は済ませたけど、今の会話じゃおいてけぼりだったな。申し訳ないことをした。

 

「えっと、惣介君、だっけ。惣介君は凛のクラスメイトなの?」

 

 軽く手を上げたまま遠慮がちにそう聞いてきたのは本田未央。綺麗な茶髪を肩くらいまで伸ばし、見た目的はとても活発そうな子だが、場の雰囲気に合わせてここでは若干大人しめになっている。

 

「あぁ、うん。結構前からの知り合い。あと、さっき聞いた限りだと同学年みたいだし、呼び捨てでいいよ」

 

 そういうとようやく緊張が解けたのか、一息つくとすっかり和やかな雰囲気になる。

 

「え、じゃあ惣介君って凛の幼馴染とか? いいなー!」

 

 そう言ったのは凛の左隣に座っている島村卯月さん。この中では一人だけ年上の17歳。俺たちは今年で16際になるから一つだけ学年が上だ。ちょっと茶色がかった癖っ毛のある髪をおろしていて綺麗というより可愛らしい印象を持たせている。ただ残念なことにこの人を表すなら普通という言葉が似合いそうだ。アイドルが普通でいいのだろうか。まぁ俺個人の感想だからもっと何か持ってるものがあるのだろうけど。それと先輩に見えない。残念なことに。

 

「幼馴染って憧れるよねー!」

 

「そうかなぁ。そんな特別なもんでもないよ、実際は」

 

 卯月さんの言葉に未央が乗っかり、凛がやんわりと否定する。そこからいわゆる女子のテンションで話が進み所々付いていけないところが出てくるようになる。そこは笑ってごまかしておいた。

 

― ― ― ― ―

 

 未央たちと別れて家路につく。自分の部屋に着くと部屋着に着替えもせずベッドへと倒れこんだ。

 

 しかし今日は流石に驚いた。まさかあの凛がアイドルとは。未だにちょっと信じられない。ちゃんと歌ってる場面を見ればそれも信じられたかもしれないが、今日見た限りだと俺が知っているひらひらした感じのアイドル衣装じゃなく、私服に似たような感じだった。だから話に聞いただけで自分の眼だとあんまりアイドルしてるという実感はもてずにいた。

 

 凛はあの容姿もあり中学くらいから密かに学校内で人気があった。中3の頃には同学年後輩関係なくファンクラブ的なものが出来あがっていた。

 しかし当の本人はそんなのは知りもせず、自分から他人にかかわろうとするタイプではないので友達が多い方ではないと思う。別に嫌われているとかそんなわけではない。むしろ話しかけようとする人は性別問わず多かった。

 だからこそ凛がアイドルというのは驚きだった。うまくやっていけるのだとか心配なことは多いが、今回知り合った卯月さんと未央を見る限り、大丈夫なんじゃないかと思えた。あの二人は初対面の俺にも気にせず話してくれたし、凛も馴染めていた。

 まぁとにかく、俺がこんな深く考えるようなことじゃないんだろう。凛が決めた事なんだし。

 

 

 そう結論付けるとベッドから起き上がり、明日からまた始まる授業の予習を始める。確か明日は数学があったはずだ。幸い高校の数学は中学の数学が出来なくてもそれなりに出来るようになっていて助かる。一度サボるとそこからなし崩し的に出来なくなるというのは中学の時に痛いほど経験しているので、数学だけは手を抜かないようにしている。

 

 そんな感じに予習を進めていると、窓からコツコツと何か叩くような音がした。一瞬びくっと体が震えるが、窓の方をみるとあぁ、と納得する。随分と久しぶりに来たな。今日あんなことがあったからか。

 

 閉めていたカーテンを開けて窓を解放する。もうすっかり夜だ。今日は晴れだったから空も澄んでいて星がちらほらと見える。冬の方が星は視えるんだが如何せん寒いのがネックだ。

 

「で、何の用だ、凛」

 

 窓を開けた先には凛の姿。此処は二階で別に凛が浮いているというわけではない。単に家同士の間隔が狭くて互いの部屋にいながら話が出来るというだけだ。どれだけ狭いのかというと、互いに手を伸ばせば手が届くくらい狭い。

 

「いやさ、あの…」

 

 どうにも歯切れが悪い。おおかた今日の事でも聞きたいんだろうが…。

 

「私がアイドルって、どう思う…?」

 

 若干伏し目がちに不安そうな様子でそうたずねてくる凛にいつもの毅然としたクールな印象はなかった。新しい環境に不安を感じているのか、ただ自分がアイドルというのに自信をもてないのか。俺にはわからない。

 

「んー…別に今日見た限りじゃそこまで変な感じはなかったな。卯月さんと未央だっていい人そうだし、凛が楽しいなら続けてもいいんじゃないか?」

 

窓の縁に腕を置きながらそう答える。どんな返答が正解だったかは分からないし、アイドルのことなんて俺はわからないのでとりあえず今日感じたことを素直に話した。あの時は歌い終わった後もまばらながら拍手は送られていたし、まだ候補生というのなら人を立ち止まらせ、目線を自分たちに固定させるということができただけでも十分なのではないだろうか。

 

「……そっか。…正直、自分でも柄じゃないってのは分かってるんだ。元々そんな明るい性格じゃないし、人前に出るタイプでもないから」

明るい性格じゃないってのはちょっと違うと思うが。別に暗くもないし、その辺はスルーしておく。

 

そして、凛はでも、と話を続けた。

 

「何か、一つでも自分の力で打ち込めるものが欲しかったんだ。今まではずっと周りの人に甘えてきていた気がしたから。でも高校生になって、新しい生活が始まって。そんな今までの自分を変えたかった」

凛はそういって思いのうちを吐き出した。言っている内容は若干ネガティブ気味だが、それとは対称に顔つきは晴れ晴れとしていて、決意のこもった目をしているように思えた。

ただ、凛が周りに流されている、といっているのは間違いだとはっきりとわかる。こいつは嫌なことは嫌だと言うし、今までだってそんなこいつの性格に助けられてきたことは何度もあった。今まで凛と付き合いがある奴ならみんなそう言うだろう。だから。もっと凛は自分自身に自信を持ってもいいと思う。こんなこと、恥ずかしいから言わないけど。

 

「そうか。お前の決めたことだ。俺からはとくに反対もない。ただ、やるからには本気でやるよな?」

 

答えがわかりきった質問をあえてする。凛はその質問に一呼吸おいて

 

「当たり前だよ」

 

そういって力強く頷いた。

 

 


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