別の道を目指して   作:亀さん

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初日

それから数時間後、ウォール・ローゼの南側に位置するトロスト区の訓練兵団に入隊した104期新兵たちは等間隔に直立させられ、『通過儀礼』と呼ばれる習慣の様なものを受けていた。

 

「お前は誰だっ!!」

「し、シガンシナ区出身、アルミン・アルレルトです!!」

「そうか、馬鹿みてぇな名前だなっ!!誰が付けたんだ」

「私の祖父に名付けてもらいました」

「アルレルト。どうしてここに来た!!」

「人類の勝利に貢献するためです!!」

あれから二年、兵士に志願したアルミンが敬礼したままそう答えると教官はアルミンの頭をガシッと掴むと顔を近づける。

 

「そうか。お前には巨人の餌にでもなってもらおう・・・・・。三列目後ろを向けっ!!」

その教官の怒鳴り声に三列目に並んでいた訓練兵たちが一斉に後ろを向いた。

アルミンも教官に頭を掴まれて無理やり首を回され後ろを向かされた時、一人の少年が走ってこちらに向かってきていた。

それに教官も気が付き、一瞬だけ優しげな顔をしたがすぐにしかめ面を戻して少年の前に歩いていく。

「貴様は誰だ?」

「すみません、私用で遅れました!!」

少年は並んでいる訓練兵達の後ろで見事な敬礼をして教官の顔を見上げる。

 

「本日付で訓練兵団に所属となりましたエレン・イェーガーです!!」

「「っ!?」」

アルミンとミカサは驚きで目を見開いて少年を見た。

記憶よりも背も伸び、筋肉が付いてガッシリとした印象に変わった幼馴染は周りの訓練兵たちの目線を集めながらも堂々と立っていた。

 

「そうか、話は聞いている。だがどんな事情があろうとも貴様が遅刻したことには変わりは無い。今から俺が許可するまでずっと走ってこい」

「はっ!!」

エレンはくるりと背を向けるとそのまま走っていく。

エレンが走り始めたのを確認した教官は勝手にエレンの方を向いていた訓練兵たちを叱り飛ばそうとしたが、ふと手に持った芋を食べている少女と目があった。

 

「おい貴様・・・・。貴様がもっているそれはなんだ?」

「えっと・・・・・。調理場に蒸かされた芋があったので」

「盗んだのか・・・・・・?何故貴様は芋を食べている?」

「それはどうして人類は芋を食べるのか、と聞いているのですか?」

教官が少女を睨み付けるが少女はそれこそ不思議だとでも言うような顔で教官を見返す。

すると何かに気が付いたように芋を半分にして小さい方を教官に差し出した。

「・・・・・・・?」

訳が分からないといった顔の教官に少女が呆れたような溜息をこぼした。

 

 

日が暮れはじめ、夕日によって長く伸びた二つの影の持ち主たちを訓練兵たちは興味津々で眺めていた。

「あの遅刻野郎、まだ余裕で走ってんぞ」

色味の薄い金髪を側頭部で刈り上げた少年は呆れたように隣にいた少年に呟く。

「サシャ・・・・・、だったっけ?あの芋を食べてた子ももう五時間走ってるよ」

「つーかあの芋女。死ぬ直前まで走ってろと言われた時より、今日は飯抜きと言われた時の方が悲壮そうな顔をしてたな」

少年の隣にいた少年と、そのすぐ横に立っていた訓練兵たちの中でも長身だろう少女が少年と喋りながらふと離れた場所でじっと走っている少年を見つめている珍しい肌の色の少女に気が付いた。

 

「よ、よぉ。アンタはどこ出身なんだ?あの時アンタは聞かれなかっただろ?」

「私は・・・・。エレンやアルミンと同じシガンシナ区・・・・・」

「「「「っ!?」」」」

ミカサの答えは小さい声だったがそれでもそれを聞き取った少年少女たちの表情が固まった。

それに気が付いた周りの少年たちも続々とやってくる。

「おい・・・・・。て、てことはいたんだよな『あの日』に・・・・?」

坊主頭の少年が興味深そうに聞いてくるのでミカサは首を少し縦に振った。

そんな時、鐘が鳴り響き皆が夕食の準備に取り掛かった時、エレンがシャワーを浴びてから食堂に現れた。

 

 

「お、おいっ。お前もシガンシナ区出身なのか?」

「ああ」

自分の分のパンとお湯を飲んだ方がましと言うほど薄い塩味だけのスープを取って空いていた席に座ったエレンの周りに訓練兵が群がって話を聞きたがった。

その訓練兵たちを弾き飛ばしながらミカサがエレンの横の席を強引に奪取して座ると訓練兵たちが吹き飛んで道のように空いた場所をアルミンが苦笑しながらミカサと自分の分を持ってきた。

アルミンが座ってからまたエレンに対する質問攻めが始まった。

ちなみに何故エレンに質問が集中するのかというとミカサは訓練兵たちに見向きもせずにエレンを構おうと隙をうかがっているし、アルミンは二人をほほえましそうに見ながら自分の分を食べていているので話しかけるのを躊躇したのだ。

 

「超大型巨人を見たのか?」

「どんなんだった?俺は壁を跨いで越えたって聞いたんだ」

「そんなに大きくねえ。せいぜい壁から頭を出すぐらいだったぜ」

「鎧の巨人は?」

「あんなんただ体が硬いだけだ。攻略法は必ずある」

「じゃ、じゃあ・・・・・・。普通の巨人は・・・・?」

誰かが唇を震わせながら小さくつぶやく。

誰もが聞きたく、誰もが口にできなかった質問にしんと食堂が静まり返り、誰もが耳を澄ましてエレンの話を聞こうとする。

「あんな奴ら、俺達が立体起動装置を操れるようになればどうってことない」

 

 

 

「今度は俺があいつらを駆逐してやるんだ」

 

 

 

エレンの意志を感じる言葉に訓練兵たちは無意識に息をのんだ。

そばで聞いていた小柄な坊主頭の少年は目を輝かせてエレンに詰め寄る。

「す、すげぇ・・・・・。じゃあお前は調査兵団に入るのか?」

 

「おいおい正気かよ?調査兵団に入りたいのかお前」

 

エレンが答えようとした時、エレンの座ってるテーブルから通路を挟んだテーブルに座っていた少年が不思議そうに口をはさむ。

 

「ああ。俺は調査兵団を目指して兵士になったんだ」

「俺はあんな自殺願望者の集まりになんか行きたくないね、っと、悪いな。正直なのは俺の悪い癖なんだ。気を悪くさせるつもりは無かった」

ふと少年は周りの訓練兵たちの雰囲気を感じ取り、苦笑しながら謝った。

 

「そうか。お前は憲兵団を目指してんのか」

「ああ。十番以内に入って内地に行くんだ」

そう少年が言ったとき、夕食終了の鐘が鳴り響き、担当の訓練兵たちは片付け始めた。

「目標なんて人それぞれだしな。一緒に頑張ろうぜ」

「俺も言い過ぎたよ、これで手打ちにしてくれねえか?」

「ああ」

使用した木製の食器を当番に手渡したエレンは差し出された少年の手に自分の手をポンと合わせて外に出ていく。

アルミンも一緒に立ち上がってエレンの横を歩いていく。

少年も兵舎に向かおうとした時、エレンたちを追いかけようとしたミカサが目にとまった。

 

「な、なぁアンタ」

「・・・・・・・?」

「あ、いや・・・・。見慣れない顔立ちだったからさ。その・・・・。きれいな黒髪だなって・・・・」

「そう。ありがと・・・・」

ミカサはそういうと先に出て行ったエレンたちを追いかける為に小走りで去っていった。

その後ろ姿を目で追っていた少年はミカサがエレンに近寄っていくのを見て目を見開いて唖然としていた。

 

先に空気を読んで帰ったアルミンにおいて行かれ、ミカサを待っていたエレンは久しぶりの再会であるのにもかかわらず昔のように説教されていた。

「エレン。また喧嘩しそうだった」

「昔だったらな。でも今はそんなことしねえよ」

エレンは苦笑してミカサの説教を躱し続けているとふとミカサの髪に目がとまる。

 

「そんな事より、お前髪長すぎねえか?立体起動装置に絡まったら大変だから切るか縛るかしとけよ?」

エレンはミカサのサラサラとした黒髪に指を通しながら言うとミカサはコクっと首を縦に振った。

「わかった。でもどこまで切るといいと思う?」

「こんぐらいか?」

「エレンが言うならそうしよう」

そんなやり取りを入口で見ていた少年は坊主頭の少年の背中に思いっきり先ほどエレンと合わせた手の平をこすりつけた。

「おいっ!?おまえ今人の服で何拭いたんだ!!」

 

 

「人との信頼だ」

 

 

「はぁ・・・・?」

坊主頭の少年はその言葉を理解できずに、去っていく少年を見送るしかできなかった。

 


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