出立
昔、建設されたばかりの調査兵団のメンバーたちが内地に建てられた城を改造して作った旧調査兵団本部の前で旅立つ少年を見送るために数人の大人たちが集まっていた。
その中で一番小柄な男が少年の最後の荷物を馬に括り付けたあと少年の肩に手を置く。
「おいエレン。忘れ物はねえな」
「はいっ」
「飯食った後は絶対歯を磨けよ」
「はいっ」
「あまり遅くまで夜更かしすんじゃねぇぞ」
「はいっ」
今日から訓練所に向かい、訓練兵団に合流することになるエレンにその小柄な男はまるで幼子に言い聞かせるように次々と言う。
「まぁリヴァイ、そろそろエレンも出発しなければいけないからな。それぐらいにしておこう」
金髪の長身の男性がそう言うとしぶしぶといった感じで男は最後にと少年に言う。
「エレン、もしいじめられでもしたらすぐにでも連絡を寄越せ。俺が削ぐ」
「ぶふっ!?ちょ、リヴァイが、まじオカンッ!!は、腹いてぇ!!」
ついに腹筋を崩壊させた眼鏡をかけた女?が膝を着いてバンバンと地面をたたく。
「黙れクソメガネ」
それに青筋を立てた男は地面を転げまわって爆笑していた同僚を思いっきり蹴とばした。
その同僚は顔面を強かに蹴り上げられ、眼鏡のガラスがキラキラと太陽光に反射する中を弧を描いて宙を舞った。
その二人の様子に呆れたように男性が苦笑する。
「ほらリヴァイ、ハンジ、エレンをちゃんと見送らなければならないんだからはやく立ちなさい」
「チッ・・・・・・」
「ふぅ。じゃあねエレン。また実験しに訪ねるかもしれないけどね」
「エレン。手紙を送ってね?」
「しばらくの間は俺達が何とかするからさ」
「チッ・・・・・・。兵長に少しだけ可愛がってもらっているからって調子に乗りやがって・・・・」
「オルオもこう言っているが実はさみしがってるからな」
「てめぇグンタッ!!余計なことをshッ!?」
実はとても仲がいい四人のいつもの光景にエレンは笑みを漏らしながら着ていた緑色のマントを丁寧に畳んでエレンの上官を苦笑して説得し続けている長身の上官に渡す。
「しばらく預かっといてもらえますか。エルヴィン団長」
「了解したエレン。君がちゃんとした兵士として帰ってくる時を心から待っているよ。まあその他にもせっかく同年代と過ごすのだから楽しんできなさい」
「はいっ。行ってきますっ!!」
馬を駆けさせながら離れていくエレンの背中を見送りながらリヴァイはふと何かを思い出したかのように目を見開く。
「どうしたんだいリヴァイ?」
先ほどまで眼鏡が粉々に砕け、顔が陥没していたのにもかかわらずいつの間にか復活していたハンジが不思議そうな顔をしてリヴァイの顔を覗き込んだ。
「部屋の掃除を毎日しろって言うのを忘れた」
「だ・か・らっお前はエレンのオカンかよwwwww!!」
同僚がまた宙を舞うのは数秒後の事だった。