別の道を目指して   作:亀さん

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壁外調査

 

前団長が考案した索敵陣形をアルミンが考えて改良したそれは今まで以上に正確な情報伝達を可能にしていた。

 

しかしこの最低限巨人との接触を避けるための陣形も、運が悪かったのか調査兵団は非常にまずい危機に陥っていた。

 

「三時、十時、十一時の三方向から同時に赤い煙弾を確認っ。囲まれましたっ!!」

馬を走らせながらアルミンは周りにいる部下から次々と上がってくる悲鳴にも似た煙弾の報告に頭を抱え、必死に逆転の一手を打とうとする。

 

 

本当に運が悪いことにどうやら巨人が近くに数体存在していたようだ。

それが多くの兵士、人間の集まりである調査兵団を狙って向かってきたのだ。

 

アルミンは息を吐くと緑の煙弾を用意して一時の方向に放ち、今度は黄色の煙弾を右に放った。

「エレン、頼めるかい?」

「任せろ」

アルミンの問いかけに頷いたエレンは単独で左に馬首を向けて走り出す。

 

黄色の煙弾は緊急時に司令部真後ろに居るジャンが率いる精鋭隊に巨人討伐を目的とした新しく作られた合図だった。

調査兵団最精鋭班と単独で何体もの巨人と戦えるエレンに討伐を任せて調査兵団全体に被害が出ないようにするためだ。

 

とはいってもこの合図は最終手段と言ってもいいほどでそれほどまでに緊迫した状況だったのだ。

 

 

「一時の方向に向かうわっ!!急いでっ!!」

ところ変わって左方索敵班を纏めるクリスタ・レンズ、本名ヒストリア・レイスは向かって来る何体もの巨人に冷や汗を流しながらも、アルミンから伝達されてきた緑の煙弾を同じように一時の方に放ちながら周りの部下を激励して士気を保ち続ける。

しかしながら追ってくる巨人たちは粘り強く、そして予想外に走り続けているためにいつ捕まるか分からなくなってきた。

「駄目ですっ!!どんどん差が縮まってます!!」

「距離はっ!?」

「距離400っ!!」

「くっ・・・・・・。全員抜刀っ!!戦闘準備っ!!」

もうすぐそばまで来ている巨人に覚悟を決めると、グリップに刃を装着して抜き放った。

周りの部下もそれを復唱しながら刃を装着していく。

 

「距離300っ!!」

「くっ・・・・・・!?」

クリスタが巨人に馬首を向けようとした時、黒髪の男がクリスタ達の前方を勢いよく横切ってそのまま前方の巨人目掛けて突撃していく。

一瞬止めようとしたクリスタは男の顔を見た途端、ケースに刃をしまって巨人に背を向けるように一時の方向に駆けだした。

これには部下たちも唖然としながらその背中を追い始める。

「は、班長っ!?あの兵士を見殺しにする気ですか?」

「・・・・全員っ、このまま一時の方向に駆け抜けてっ!!」

「で、ですがレンズ班長っ!!巨人四体は一人では・・・・・・」

自分だけでも助けに行こうとした一人にクリスタは微笑みながらだんだんと離れていく男を見やる。

 

 

「大丈夫、エレンは強いから」

「は?」

部下が意味も解らずに呆然としていると不意に味方から歓声が上がり、部下が振り返ると人類にとって絶対不利な平地であるにも関わらずすでに巨人が二体も地面に倒れ伏せていた。

しかもそれは平地戦でのマニュアルの一つにある足の腱を切り裂いて機動力を奪ったのではなく、倒れている巨人の急所であるうなじ部分が大きく削ぎ取られていて、巨人はその厄介な再生能力を発揮することもできずに即死、体が蒸発して消えていった。

 

彼自身も巨人と戦ったことがある部下は呆然として、目を疑いながら呟く。

「馬鹿な・・・・・・」

部下だって馬鹿じゃない、むしろこの場面はクリスタが率いている兵士たちを犠牲に払ったとしても巨人を撃破するのが最善だったはずだ。

しかしクリスタは男が現れたと同時に抜刀していた刃をしまって駆け出した。

その結果が犠牲も出さずにすでに四体中二体の巨人が絶命している。

やや後方からも巨人は迫っているが、すでにそちらはスタミナ切れのようでこのまま一時の方向に向かえば逃げ切れそうだった。

そしてじっと見つめていた先で、残っていた巨人がぐらりと倒れていくのが見えた。

 

「助かったよエレン」

戻ってきたエレンにクリスタは礼を言う。

それをくすぐったそうに苦笑しながらエレンは周りの兵士たちを見渡す。

 

「それより、ほかの兵士たちは大丈夫だったか?」

「うん。エレンが思ってたより早く来てくれたから損害は出なかったよ」

「そっか・・・・・・」

ほっとした様子のエレンにクリスタは少しだけ何とも言えないような顔をした。

 

「どうした?」

「最近疲れてない?あの戦いからずっとエレンは一番前で巨人と戦ってるんだから休める時はしっかりと休まなきゃ」

「大丈夫だって。それより早く巨人を駆逐してミカサとアルミンと世界を回るんだ。じゃ、またあとで」

そう手を振って中央に戻っていくエレンにクリスタは一部の不安を抱く。

 

エレンはミカサの死期を悟っており、自分に負担をかけてまで巨人の駆逐に急いでいるのが分かったからだ。

ミカサはあのリヴァイ兵長と同じように戦闘で肉体を酷使して、一気に衰弱したのだ。

そしてリヴァイ兵長と同じように死ぬのだろう。

それが分かっているからエレンは焦っているのだ。

 

「エレン、ミカサ・・・・・・。死なないでね・・・・・」

平地を馬で駆けながらクリスタはそう静かに呟いた。

 


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