次の日の朝、起床の鐘の少し前に起きたアルミンは周りを起こさないように起きると寝間着から自分の制服に着替えると余裕をもって食堂にたどり着いた。
「あれ?いつの間に起きていたんだい?」
「お、アルミンおはよう。日課でな、少し前に起きて鍛錬してたんだ」
アルミンは食堂にずらりと並べられた木製のテーブルの一角に腰を下ろしていたエレンの姿を見つけるとその横に腰を下ろした。
アルミンとエレンが時間まで喋っているとゾロゾロと訓練兵たちが入ってきて、その中にいた少女がキョロキョロとあたりを見回してエレンを見つけたかと思うと人ごみの中を流れるようにすり抜けてエレンの横の席に勢いよく座る。
「エッレーン!!今日もパン貰っていいですか!?」
「ダメ。パンは一人1つって決まっているはず。貴方の分を食べればいい。そしてそこをどけ」
そしていつの間にか現れたミカサがおねだりする様にエレンに出された手をグイグイと引っ張り椅子から引きずり落とそうとしている。
「エレン、いつの間にあの子と知り合ったの?」
「昨日な、あんまり腹減ってなかったから俺の分のパンをあげたら懐いたんだ」
エレンはアルミンに説明しながら目の前で行われている一向に終わりそうにないミカサと少女の戦いを終わらせるべく、自分のパンを掴むと三分の一程をちぎり取って少女に手渡す。
それを防ごうとするミカサの手を掻い潜りエレンの手にあるパンを受け取ると口に放り込んで食べてしまった。
「エレンッ!!」
「ありがとうございますエレン様~っ!!」
「サシャ、あと二人から三分の一ほど分けて貰えば二つ分パンが食べれるぞ」
「はっ!?そんな手があったとは・・・・・・・・。今から回って分けてもらってきますっ!!」
いつの間にか自分の分を食べ終え、なお食料を求める少女によってパンを強奪された男どもの悲鳴が上がる中、自分の分をさっさと食べてしまったエレンとアルミンは今日の訓練予定が貼られている掲示板を見に行った。
「今日は立体起動装置の適性審査をするらしいね」
「巨人を相手にするにはどれだけ立体起動装置を使いこなせるかだからな」
「じゃあいつ集合がかけられてもいいように先に準備をしておこう」
アルミンと一緒に部屋に戻ったエレンは支給された立体起動装置を補助するためのベルトを装着している時にふと違和感を感じた。
「どうしたんだいエレン?」
「なんか変なんだよ。どこかがおかしいかもしれないから背中側を探してくれねえか?」
エレンは先に装着し終えたアルミンに頼んで見て貰うが先に渡された紙に書いてあった場所をチェックしても破損はしていない。
「どこにもおかしい所はないけど・・・・・・・・。あったっ!!」
アルミンが指した場所の金具にひびが入っていていたのをベルトを外して見たエレンは試験をやる前で助かったと呟いて訓練生用の軍服だけを着なおして教官室に向かう。
「入れ」
「エレン=イェーガー、アルミン=アルレルト入ります」
エレンとアルミンは返ってきた教官の声に応えて木製のドアを押して中に入る。
「どうした?」
「自分のベルトに損傷が見られたため、教官に報告に参りました」
「なに?」
教官は手渡されたベルトを見て軽く首を傾げる。
「ここが破損するとは聞いたことが無いが・・・・・・・・。分かった、別のベルトを用意しよう。後で報告書をまとめねばな」
教官は事務員を呼び新しいベルトを持って来させるとエレンに渡す。
「ではな。遅刻するんじゃないぞ」
エレンにジロリと厳しい視線を向けると、教官はその横を通って今日の訓練のために教官たちとのミーティングに向かう。
間もなく集合を掛けられた訓練兵たちは広場の端にある立体起動装置の適性試験のために四本の木材を組み合わせて作られた器具がいくつも並んでいる前に集まった。
「まずは貴様らの適性を見るっ!!両側の腰にロープを繋いでぶら下がるだけの簡単な作業だっ。全身のベルトでバランスをとれ。それができないのなら即刻開拓地に移ってもらう」
この教官の言葉にアルミンは唾を無意識に飲み込む。
アルミンは元々運動が得意ではなく、もしかするとここで落とされるかも知れなかったからだ。
やはり皆兵士を目指すだけあって初めてだったがふらつきながらも体勢をたもち、訓練生たちが合格していく中、アルミンの番が回ってきた。
「次、アルミン・アルレルトっ!!」
「はっ!!」
アルミンは体が震えるのを感じながらも前に出てベルトを着けながら頭の中で何度も教科書に書いてあったことを何度も繰り返す。
「いきます」
「よし、上げろっ!!」
教官の声に訓練兵がロープを引きアルミンの足が地面から離れる。
「く・・・・っ・・」
アルミンは必死にバランスを取り、ふらつきながらも何とか体勢を保つ。
教官が時計に目を落とし、秒針を見つめる。
教官の視線の先で秒針がゆっくりと動き、既定の時間を越えた。
「合格だ。下せ」
「はっ」
訓練兵がゆっくりロープを送り、アルミンを地面に下すとアルミンはベルトについていたロープを外して列に戻る。
列に戻るとそこでようやくエレンとミカサのことを思い出して辺りを見回すとミカサがちょうど吊り上げられていた。
「すげぇーっ!!全然揺れてねえぜあの女!!」
坊主の少年の声に反応した訓練兵たちがミカサを見て驚きの声を上げる中、教官が次の順番の訓練生を呼ぶ。
「エレン=イェーガーッ!!」
「はっ!!」
「あいつだ」
「ああ・・・・・」
観客と化した訓練兵たちにジロジロとみられながらエレンは堂々と前に出る。
エレンの順番を見逃すまいと自分の番を終えたミカサが急いでアルミンの横まで来たとき、ちょうどエレンのロープが引き上げられた。
「すげぇ・・・・・」
「うむ・・・・・・・。合格だ、降ろせ」
訓練兵たちからは感嘆の声が漏れるほど、エレンは宙に浮いているとは思えないほどゆったりとしてまっすぐに姿勢を保っていた。
地面に降り立ったエレンの姿を食い入るように見ている訓練兵たちに気が付いたエレンは驚いたような顔をしてから笑みを浮かべる。
「どうやったらそんなにぶれないんだ?」
「エレン、教えてっ!!」
エレンを取り囲むように訓練兵たちが質問攻めする中をエレンは何とか抜け出すとアルミンとミカサの前にたどり着く。
「合格したぜ」
「おめでとうエレン」
「あの、おめ「おめでとうっ!!」っ!?」
ミカサがエレンの前で緊張しながらおめでとうと言おうとしていたが、エレンの背中に小柄な影が飛びついた。
「って、クリスタ!?」
「エレンその子誰?」
「ああ、アルミンはいなかったっけ。こいつはクリスタ。俺がお前たちや母さんとはぐれてから別の開拓所で出会ったんだ。で、こいつはアルミンとミカサ。俺の家族と幼馴染だ」
「よろしくアルミン、ミカサ」
「よろしく」
クリスタとアルミンが握手する中、ミカサはまるで時間が止まったかのように動いていなかった。
「ミカサ、お前大丈夫か?」
「え、れん・・・・・」
「どうした?」
「その女、エレンの何・・・・・・?」
光を感じさせない瞳がエレンを見つめる。
その眼をジッとエレンが見つめ返す。
「嫉妬してんのか?」
「ち、ちが・・・・・・」
エレンの言葉に顔を赤くしながら離れようとしたミカサの頭をエレンが無造作に撫でた。
「大丈夫だミカサ。俺はお前の家族だし、絶対に戻ってくるからさ」
「・・・・・うん。わかった・・・・・」
コクリと頷いたミカサは片手をクリスタに差し出す。
「よろしく・・・」
「よろしくねミカサ」
差し出された手を握ったクリスタはスッと顔を近づけてニコリと笑う。
「私、エレンのことが大好きだから」
「・・・・・負けない」
「どうしたんだ二人とも・・・・・・・・?」
「変わったと思ったけど、そこは変わってないんだねエレン」
不思議そうな顔をして二人を眺めているエレンにアルミンは胃薬を持ち歩く自分の姿を幻視することになった。