【完結】死んで生まれて魔法学校   作:冬月之雪猫

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第五話「選抜試験」

第五話「選抜試験」

 

 キングス・クロス駅。ホグワーツ特急に乗り込むと、いつも俺はドキドキする。豪華な客車に乗って、優雅な風景を眺める。対面の席には親しい友人が居て、一緒に美味しいお菓子をお腹一杯食べる。生前、俺は夢にも思わなかった。こんな、幸せな時間を過ごせるなんて、信じられない。

 ロンが箱を開けたカエルチョコレートがコンパートメントの中で飛び跳ねる姿を見ると、今でも胸が踊る。カードの絵柄は【マーリン】だったらしい。彼の名前は生前から知っていた。【魔術師マーリン】という海外ドラマをテレビで観ていたから。伝説的な王様、アーサー王と彼の友情物語に夢中になった俺はこのドラマが大好きだった。

 この第二の人生は楽しい事でいっぱいだ。苦しい事や怖い事や哀しい事がたくさんあったけど、それでも俺はこの人生に幸せを感じている。でも、もうこの幸せにしがみ付いているわけにはいかない。俺は俺の幸せや命以上に大切な存在が出来た。

 だから、どんな手を使っても勝つ。

 

 学校に到着し、セストラルの馬車に揺られながら、俺は対面の席に座るアルを見た。あの日以降、一度も会話を交わしていない。端から見て不自然な程、互いに声を掛ける事を厭うている。ママ達やハリー達が心配して声を掛けてくれたけど、俺は何も言わなかった。ただ、大丈夫と応えてやり過ごした。俺の決意を認めてくれる人は居ない。皆の結論はアルの勝利。俺の勝利なんて、誰も望んでいないし、元より不可能だと思われてる筈。

 試練の内容がどうあれ、アルに勝つには正攻法だけじゃ駄目だ。使える手があるなら何でも使っていかないと、三年間、闇祓いの精鋭と訓練し続けてきたアルには勝てない。だから――――。

 

 ※※※※※※

 

 年の始めの大イベント【組み分け】が済み、大広間で在校生と新入生の顔合わせを兼ねた食事会が終わった後、寮に戻る前にダンブルドアが生徒全員を呼び止めた。咳払いによって大広間を静まり返らせた後、ダンブルドアは「さて」と輝くような笑顔を振り撒いて言った。

 

「諸君! みな、よく食べ、よく語らった事じゃろう。さぞかしベッドでぬくもりに包まれ、瞼を閉じる事を夢見てると思うのじゃが、もうしばし、この哀れな老人に時間をおくれ」

 

 生徒達はスリザリンも例外無くダンブルドアを見つめた。いつもの注意事項は食事の前に既に語られた。禁じられた森への進入禁止など、上級生にとっては今更な内容だ。

 

「諸君には幾つかの知らせがある。残念なお報せからじゃ。今年の寮対抗クィディッチ試合は取り止めじゃ。楽しみにしておった諸君にこの事を告げる事はワシにとっても辛い事じゃ」

 

 悲鳴も怒声も響かない。生徒達は皆一様に口をポカンと開け、ダンブルドアの言葉をうまく呑み込めずにいる。それも一瞬の事。静寂の時間が終わり、大広間は衣を引き裂くような悲鳴と壁を揺るがす程の怒声で包まれた。

 火花と爆発音が三度響き、それらを封殺したのはスネイプだった。新入生にとっては怖い印象の先生。在校生にとっては最高にクールな熱血先生。

 

「この決定は今年の十一月に始まり、今学年の終わりまで続くイベントの開催が故なんじゃ。先生もこの学校を警備している闇祓いの方々もこのイベントに多大な時間とエネルギーを傾ける事になる。しかし、わしは皆がこの一大イベントに百年に一度の盛り上がりをみせるじゃろうと確信しておる。さあ、発表するとしよう。今年、ホグワーツで三大魔法学校対抗試合を行う!!」

 

 再び、大広間は爆発の如き声に埋め尽くされた。ただし、今度の悲鳴には怒気も悲哀も無く、あるのは只管の歓喜の叫び。

 ある生徒は冗談かと疑い、ある生徒は夢を見ているのかと頬を抓った。全校生徒が現実を受け止めるまでの間、ダンブルドアは微笑ましそうに生徒達を眺めた。

 漸く、生徒達が落ち着いて来るのを見計らい、ダンブルドアは大きな咳払いによって生徒達を黙らせた。

 

「三大魔法学校対抗試合はその歴史を七百年前まで遡る。ヨーロッパの三大魔法学校が親善試合として始めたものじゃ。諸君らもご存知のホグワーツ魔法魔術学校、ダームストラング専門学校、ボーバトン魔法アカデミーの三校でのう。各校から代表選手が一人ずつ選ばれ、三つの魔法競技を争った。五年ごとに三校が交代で競技を主催してのう。若く生気溢れる魔法使い達があらゆる垣根を越え、友好を深めるには最も優れた方法じゃと、誰もが確信しておった。夥しい死者が出るに至り、中止に至るその日まで、その考えは衆目の一致するところじゃった」

 

 ダンブルドアの言葉に息を呑む生徒は少しだけ。多数派の生徒達は【夥しい死者】などというワードを気にも止めず、校長先生の話の続きを待った。

 

「これまで、何世紀にもわたり、このイベントの再開を幾度と無く試みられてきた。しかし、今日まで、その試みは成就せんかった。今日までは!!」

 

 今日までは、と強調する校長の言葉に生徒達の興奮は最高潮に達した。

 

「今年、【魔法ゲーム・スポーツ部】を始めとした魔法省の全面協力により、復活の時が来たのじゃ!! 今回は一人の死者も出さぬとの思いを皆の心を一致させ、一意専心取り組んできた!! 十月の終わりにはダームストラング専門学校、ボーバトン魔法アカデミーの両校の校長と生徒がホグワーツにやってくる。そして、ハロウィンの日に代表選手の決定が行われる。優勝した者に与えられるのは無論、優勝杯だけではない!! 学校の栄誉が与えられる。選手個人の栄誉が与えられる。そして、一千ガリオンが与えられる」

 

 生徒達は一斉に立ち上がり、我こそは代表選手にならんと雄叫びを上げた。すると、再びスネイプが爆発音で生徒達を黙らせた。今度は更にマクゴナガルが立ち上がり、生徒達はゆっくりと椅子に腰掛けた。マクゴナガルが横に並び立つと、ダンブルドアは言った。

 

「無論、全ての諸君が優勝杯をホグワーツにもたらさんと意気込んでおる事は承知しておる。じゃが、代表選手として戦う者には選手として選ばれるに足る資質が必要とされる」

 

 ダンブルドアの視線がグリフィンドールの席からスリザリンの席へとゆっくりと移動した。

 

「資質を持つ者とは、学業に優れ、実技に優れ、人として優れておる者を指す。その為に各校で代表選手として選ばれる資格がある者を数名選出する事となった。万が一にも資格無き者が選手とならぬ為にじゃ。資格者の選出の為、選抜試験が執り行われる事になった。即ち、予選大会というわけじゃ」

「一体、どういう内容なんですか!?」

 

 生徒の一人が聞いた。

 

「それについてはマクゴナガル先生から説明がある。では、主役の座を彼女に譲るとしよう」

 

 そう言って、ダンブルドアは一歩下がり、マクゴナガルに場所を明け渡した。マクゴナガルは優雅な動作で先ほどまでダンブルドアが居た場所に立つと、生徒達をゆっくりと見回した。

 

「さて、選抜試験の内容ですが、選抜試験は今週の週末に行われます。内容は秘密。これは突然の事態に対する対処能力も見る為です。そして、試験の回数も秘密です。これは試合に耐えうる精神力があるかどうかを見る為です。そして、もう一つ。選抜試験に参加するには資格が必要です」

「代表選手になる為の資格を得る為の選抜試験にも資格がいるんですか!?」

 

 生徒達の呻き声が響き渡る。

 

「ええ、あまりに多くの生徒が試験に望んでは対処がおいつきませんからね。なにせ、代表選手の決定までほんの一ヶ月ちょっとしかないのですから」

 

 マクゴナガルはすげなく言うと、羊皮紙を取り出した。

 

「選抜試験に参加する者は前年度の試験の成績が平均点よりも高く、かつ、学校生活において模範的な態度の生徒でなければなりません。条件を満たした生徒のみ、この羊皮紙に名前を書き、参加の旨を伝える権利があります。条件を満たさぬ者は羊皮紙に名を刻んでも瞬く間に文字が消え去ってしまうので、無駄な行為は控えるようになさい」

 

 羊皮紙は玄関ホールの中央に置かれる事になると伝え、マクゴナガルは席に戻った。

 生徒達の視線はマクゴナガルの手に握られる羊皮紙に集中していた。眠気はすっかり消え去ってしまっている。

 

 翌日、玄関ホールには人が押し寄せた。我も我もと名前を書き、ある者は名前が消えてしまい悲鳴を上げ、ある者は名前が残り歓喜の声を上げている。

 迎えた週末。選抜試験の会場となった大広間には小机と椅子がずらりと並べられ、選ばれた生徒達が座って必死にペンを動かしていた。

 第一の試験は【筆記試験】だった。それも、ただの筆記試験ではなく、一年生から七年生までで学ぶ全ての授業内容から出題された凶悪無比な問題だった。下級生は上級生の問題に頭を悩ませ、上級生も下級生の頃の授業内容を思い出そうと頭を抱えた。すらすらとペンを動かせる者も居れば、自分の学年の問題で既に躓いている者もいる。

 試験が終わると、多くの生徒は項垂れていた。逆に安心感に浸る生徒も居る。殆どがレイブンクローの秀才達で、他ではスリザリンの天才達やグリフィンドールとハッフルパフの秀才達。

 合格発表が行われたのはそれから一週間後だった。合格者の名前と共に二次試験の開催日と開催場所が記載されていた。嘆きと歓声。相反する二つの声が反響する中、時間は過ぎ去り、一週間後、今度は競技場で試験が行われた。二次試験の内容は【実技試験】だ。一次試験で大分人数は減ったものの、競技場で試験に参加する生徒の数はまだ多い。最終的に代表選手の選抜にエントリー出来る人数は数人だけ。ギスギスとした空気が漂う中、特別な魔法を掛けられた人形に生徒達は呪文を掛けていく。正しい順番に正しい呪文を使う事で最終的に破壊する事が出来れば合格の試験。

 だけど、合格者は一気に減少した。必要な呪文を知らない生徒が最初に脱落し、呪文は知っていても使えない生徒が脱落し、立て続けに呪文を使い続け、集中力が途切れた生徒が脱落し、最後の破壊まで繋げられた生徒の数は試験開始の時の半分以下。

 三次試験についての告知は合格者にその場で告げられた。最初は三桁だった生徒の数も残るは二桁。三次試験の内容は――――【運動能力試験】。

 

 ※※※※※※

 

 三次試験の会場は再び競技場だった。マクゴナガルやフリットウィックによってアスレチックと化した競技場を魔法無しで走破する。単純な試験が故に誤魔化しの効かない試験。残っている面子は殆どが学業に秀でている連中だ。一次試験で先に体力だけが取り得の連中は根こそぎ消えていった。二次試験では魔法の熟練度に秀でている連中ばかりが残った。魔法の熟練度に秀でているとは、つまり生活の殆どを魔法で補っている連中だ。家でも家族が魔法使いなおかげで魔法が自由に使える連中。精神力はあるんだろうが、基礎体力に難がある奴等。

 そこに来ての基礎体力を審査する運動能力試験だ。子供の頃から鍛え続けてる俺にとっては楽勝なコースだけど、他の奴等にクリア出来るとは思えない。案の定、試験開始後の第一関門で殆どの奴が足止めをくった。ただの傾斜のキツイ坂を登れずにもがいている。それでも何人かが追いついて来たが、第二関門のロープ掴みで殆どが真下にある底無し沼に嵌って救助を待つ羽目になってる。足場から離れた場所に浮かんでいるロープに捕まるには相当な腕の筋力が必要とされる。余程のセンスか筋力のどちらかが無い限り、ここはクリア出来ない。ここで更に人数が減った。

 

「楽勝だな」

 

 第三関門の幅五センチしかない細い道を軽快な足取りで走破し、後ろを振り返ると、追って来ているのは三人だけだった。二人は予想の範囲内だ。問題は三人目。

 

「馬鹿な……」

 

 一人はハッフルパフのセドリク・ティゴリー。文武両道でユーリィの話で聞いた限り、本来、炎のゴブレットに選ばれる筈だった男。さすがとしか言いようが無い。

 もう一人はハリーだ。ハリーもヴォルデモートに狙われているのはユーリィと同じなんだから大人しくしていればいいのに、他に危険を押し付けたくないというユーリィと全く同じ理由で参戦して来た。厄介な事にこいつも俺ほどじゃないにしろ、この三年間、みっちり訓練を積んで来た。秀才のハーマイオニーが俺にとってのユーリィと同じく勉強を教えてやったせいで知識も豊富ときてる。実に厄介な相手だ。

 そして、最後の一人は……ユーリィだった。確かに、アイツなら第一と第二の試験は余裕だろう。学年で一、二を争う秀才で、ハーマイオニーの知識に負けないくらい博識だし、魔法の腕も相当なものだ。だが、頭の出来に反比例して、身体能力はお粗末もいいところだった筈だ。たかだか数週間で俺に追いつける程の身体能力が身に付くはずが無い。

 何かおかしい。そう思って、足を止めて奴を見ると、俺の顔は驚愕に染まった。

 

「ジャスパーだと!?」

 

 ユーリィは人格交代をしていた。ジャスパーが表に出ている。セドリックやハリーに追い抜かれながら、俺は身動きが出来なかった。

 何故、ジャスパーが出て来ているんだ。その疑問に応えたのは他でもないジャスパーだった。

 

「どうしたの? まさか、もう負けを認めちゃったのかい?」

「ふざけるな!! どうして、お前が!?」

「頼まれたからだよ」

「頼まれただと!?」

 

 誰に、なんて聞く意味は無い。答えは分かりきっている。ジャスパーに頼み事をするなんて考える奴は……というより、出来る奴は一人しかいない。

 

「お前、分かってるのか!? ユーリィが勝っちまったら――――」

「分かっているよ。だけど、手は抜けない。ボクの事も含め、全力でマコちゃんは勝ちにいっている。だから、ボクも力を貸すしかない」

「何でだよ!?」

「じゃないと、マコちゃんは納得しないからだよ」

 

 納得ってどういう意味だ。

 

「マコちゃんが言ったでしょ? 君を危険な目に合わせたくないってさ。その為にどんな手を使ってでも勝利するって、マコちゃんは決めたんだ。もし、少しでも手を抜いて負けたりしたら、マコちゃんは君を死地へ送る為に手を抜いた、なんて考えちゃうよ。そうなると、今の状態だと非常にまずいんだ」

「まずいって、どういう意味だよ……」

「分からない? こんな近くにいるのにかい?」

 

 ジャスパーは呆れたように俺を見て、舌で上唇を舐めた。

 

「ボクが言える事は一つしかないんだよね」

「何だよ……」

「勝ってよ」

「……あ?」

 

 ジャスパーは俺の目を真っ直ぐに見つめた後、先行するハリーやセドリックを追いかけて走り始めた。

 俺も慌てて後を追う。

 

「君がマコちゃんとボクの全力を打ち破るんだ。それが君のやるべき事だよ」

「……お前が手を抜いたら、ユーリィに分かるってのか?」

「まさか、負けると思ってるのかい?」

「んな訳ないだろ。だけど、気になっただけだ……」

「――――わかるよ」

 

 ジャスパーは言った。

 

「マコちゃんは今は完全にボクに人格を空け渡しているけど、ボクが手を抜いているかどうかはバレちゃうんだ。元々……ううん、これは今は言わない方がいいね」

 

 一瞬、ジャスパーは辛そうに顔を歪めた。

 

「おい、途中で言い掛けて止めるなんてマナー違反だぞ」

「君がマナーを語るのかい? まあ、いいけどさ。それより、ペースを上げよう。クリアは問題無いけど、順位が今後に影響するかもしれないよ?」

「ッハ! 追いついてやるさ」

 

 俺がペースを上げると、ジャスパーも悠々と追いついて来た。

 前方にある試練に手間取ってるハリーとセドリックに追いついた時もほぼ同着だった。

 

「おいおい、ユーリィと同じ体の癖にどうして追いついてこれんだよ」

 

 あの運動音痴の体でなんでこんなに運動能力が高いんだ?

 

「元々、この肉体のポテンシャルは相当高いんだよ。いつだったか、ドラコ君が言ってただろう」

「あ?」

 

 マルフォイの名前が出て来るとは思わなかった。アイツの名前を聞いただけで苛立って仕方無い。

 

「使い方が間違ってるんだよ。まあ、運動神経の鈍さの原因はボクにもあるから責められないけど……」

「どういう意味だ?」

「少しは自分で考えてごらんよ。

 

 こいつの言葉はいつも曖昧で謎めいている。

 ユーリィの言動の曖昧さとは別方向の曖昧さだ。どっちも共通しているのは俺を苛々させるって所だ。

 

「ハッキリ言いやがれ!!」

「ヒントはもうある筈だよ」

「何!?」

 

 ジャスパーの言葉に俺は思わず躓きそうになった。

 

「どういう事だ!?」

「君はもう真実に近い所に居る。……君が自力で真実に辿りつけたなら、きっと君はヒーローになれるよ」

「ヒーロー?」

「そうだよ。だけど、タイムリミットはある」

「なんだよ、タイムリミットって」

 

 最後の試練の百メートルダッシュを全力で駆け抜けながらジャスパーは言った。

 ハリーとセドリックは一つ前の滑る床に梃子摺っている。

 

「ヒントを与えられているのは何も君だけじゃないって事さ」

「どういう意味だ?」

「マコちゃん自身が少しずつ真実に近づこうとしている」

「ユーリィが……?」

 

 深刻そうに顔を歪めるジャスパーに俺は言葉を失った。

 

「ボクに出来る事はもうあまり残ってないんだ」

「ジャスパー……?」

 

 ジャスパーは俺に何かを訴えかけるように顔を向けた。

 ユーリィと同じ顔の筈なのに違う顔でユーリィと同じ声を発して言った。

 

「もう、あまり時間が残されていない。約束して欲しい」

「……何をだ」

「何があっても……。何を知っても……、君だけはマコちゃんを……護ってあげてくれ」

「お前……一体……」

「ボクには資格が無いんだよ。本当に最低なクズだけど、それでもどうにかしようと必死に足掻いたんだよ」

 

 ジャスパーはポロポロと涙を流し始めた。驚きのあまり声も出ないまま、俺はジャスパーを見つめ続けた。

 

「始まりも終わりも終わりの始まりも全てボクに責任がある。……アルフォンス君」

 

 ジャスパーは懇願するように言った。

 

「真実に辿り着いてくれ。君が君自身の手で真実を掴むんだ。でないと、今の君では判断を誤ってしまう。……ボクのように」

「判断をって、どういう意味だよ。お前が人を殺した事を言ってるのか!?」

 

 ジャスパーは肯定も否定もしなかった。ただ、静かに微笑むだけだった。

 

「ああ、殺したよ。ボクは大勢を殺した。だけど、ボクが言っているのはそうじゃない」

「じゃあ、どういう意味なんだよ!?」

「それはその時がくれば分かるよ」

「また、はぐらかす気か!!」

「君が真実に辿り着いた時、その意味も分かる筈だ。真実に自力で辿りつけたら、君はきっと判断を誤らないよ」

「お前の言ってる言葉は意味不明過ぎるんだよ!!」

「今はそうかもしれないね。だけど、真実に至れば、きっと全てが分かるよ。アルフォンス君……最後で最大のヒントを君にあげるよ」

 

 ジャスパーは足を止めた。もう、ゴールだった。

 

「マコちゃんの事をもっとよく見てあげるんだ」

「ユーリィを……?」

「きっと、ボクはもう君とこうして会話する事が出来なくなる」

「ユーリィが閉心術を身に着けたって事か?」

「……そうとも言えるかな。とにかく、頼んだよ」

 

 そう言って、俺に背を向けて歩き出した後、少しして、ユーリィの体は突然倒れ込みそうになり、ユーリィに人格が戻った。

 ジャスパーの言葉を頭の中で反芻する。

 真実って、一体何の事なんだ……。

 

 結局、ゴールに辿り着いたのは八人だった。この試験で一気に数が減った。

 次が最後の試験らしい。

 最終試験は一週間後。内容は【実践試験】。ランダムに選ばれた二人が決闘をして、勝った方のみが代表選手の選定のチャンスを得る。

 ハリーはスリザリンの男が相手。セドリックはレイブンクローの女。レイブンクローの男はグリフィンドールの七年生。そして、俺の相手はユーリィ。

 皮肉な組み合わせだが、確実に選抜試験を脱落させるチャンスが巡って来た。容赦はしない。確実に勝つ事がユーリィの安全に繋がる。

 十月に入り、いよいよトーナメント開始まで秒読みだ。覚悟はとうに決まってる。勝つのは俺だ。三大魔法学校対抗試合に出るのは俺だ!!


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