担い手も異世界から来るそうですよ?   作:吉井

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初めての魔王はペストではない。でも主人公がいきなり魔王化ってどうよ。


第九話 A LIVING CORPSE (前編)

「リリ! よかった……本当によかった……」

 

 黒ウサギは先程からずっとあの調子だ。

 無理もない。なんせ一度絶望し、諦めかけていた命が蘇ったのだから。

 

「えっ、なにごとですか⁉ ここはどこですか⁉ 確か夕食の準備をしていたと思うのですが……!」

 

 リリの言葉に違和感を感じる黒ウサギ。だがそれを言葉にする前に、同じことを思っていた十六夜が朱雀に尋ねた。

 

「それはこのギフトの仕業だね。何でも元に戻すギフトの唯一の欠点が、記憶が消えるってことなんだ。そもそもこのギフトは私のオリジナル。あらゆる神話、伝説から使えそうなやつを選んで作り出したものだからね。仕方ないといえば仕方ない……」

 

「記憶が消える⁉︎ どの程度の記憶が消えるのでございますか?」

 

「心配しなくてもいいよ。消える記憶は怪我をしている頃のものだけだから。これは『治癒』じゃなくて『再生』ギフト。原理を詳しく説明すると、灰をデータと設定して、その中から一番新しい怪我のデータを丸ごと消去する。――つまり傷をふさぐのではなく、なかったことにしているって言った方が正しいね」

 

 ペラペラと自分のギフトの秘密を話す朱雀。それほど自信があるのか、それとも自分しか扱うことができないからか、どちらにしろとんでもないことは確かだ。

 

「さて、助けたことだし。契約期限まであと23時間か……」

 

「何を言っているの……?」

 

「……すごく嫌な感じ」

 

 急に黙り込んでしまった朱雀に、不安を感じる一同。そしてその不安は現実となる。

 

「主様との契約完了。この子は助けたからね、ここからは私の自由にさせてもらう」

 

 そう呟いた途端、纏っていた炎が激しさをました。そしてひときわ大きく燃え上がったそのあとに落ちてきたのは、

 

 ――――黒い契約書類(ギアスロール)

 

「これって、まさか!」

 

「おいおい、いきなりおもしれぇことになってきたなぁ‼︎」

 

「そんな……このタイミングで……」

 

 それぞれが様々な反応を示す中、朱雀は先程からは想像できない凶悪な笑みを浮かべると言った。

 

「私は『再生と業火の魔王』――朱雀。久しぶりに再開だ。……私のゲームを‼︎」

 

 問題児たちの初めての魔王のゲームは、こうして始まった。

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 ギフトゲーム

 《A LIVING CORPSE》

 

 ゲームマスター

 《朱雀》

 《柊 華蓮》

 

 プレイヤー

 《ゲームテリトリー内のギフトをもつもの全て(途中参加を認める)》

 

 ホスト側勝利条件

 ・全プレイヤーの無力化または降参

 

 プレイヤー側勝利条件

 ・ゲームマスター《朱雀》の打倒

 ・ゲームマスター《柊 華蓮》の殺害

 ・この世界の理から外れる

 

 ゲームテリトリー

 ・館を中心とした半径5kmの円の中

 

 ルール

 ・プレイヤーはゲームテリトリーから出てはならない(出た場合はペナルティを与える)

 ・テリトリー内で回復を拒んだ者にペナルティを与える

 ・ゲームテリトリー内ではゲームマスターによって全てのプレイヤーの傷が回復する

 

 ペナルティ

 ・ゲームマスター“朱雀”からのギフトによる攻撃(回避及び防御可)

 

 宣誓。上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

 “ ”印

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「なにこのルール⁉︎ 柊さんの殺害が勝利条件⁉」

 

「それに全ての傷が回復するって……」

 

「落ち着いてください皆さん。始まったものは仕方ありません。何も準備していない状態で魔王に勝つことは不可能に近いです。今回は生き残ることを最優先に考えましょう」

 

 黒ウサギの言葉に首肯する問題児達。たとえ彼らが人類最高のギフト保持者でも、実力と経験が違いすぎることは、白夜叉にあって思い知らされている。

 

「だがそうも言ってられねぇだろ。あいつがこれからずっと黙ってるわけがねぇからな。リスクは小さい方がいいだろ」

 

「そうね。でもルールでは傷は全部治るって書いてあるわ。それは大丈夫だと思うけど……」

 

「だとしてもクリアはしないとな。一つ目は考えるとして、二つ目は論外だろ、となると三つ目になるな。世界の理から外れる。……これは、無理だろ」

 

 十六夜がそう呟いたその瞬間、華蓮を中心として熱風が吹き荒れた。十六夜は飛鳥と子供たち、黒ウサギは耀とリリを抱えて一旦距離をとった。

 

「さて……今回こそ誰かクリアしてくれないかなぁ。いい加減飽きてきたし。――――ん?」

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

「とりあえず離れましょう、近くにいては危険です!」

 

「でも離れてどうするの? クリア方法もわからないのに……」

 

「いや、クリア方法なら分かったぞ」

 

「本当⁉︎ それって――」

 

「――ギャアアアァァアアアァァア‼︎‼︎」

 

 何? と、そう言おうとしたのであろう飛鳥の言葉を遮るように響き渡る絶叫。

 一同は一瞬身を強張らせたが、一斉に悲鳴の元へと駆け出した。近づくにつれて一同は悲鳴の異質さに気づき始めてきた。

 悲鳴の感じから断末魔の声なのは全員が分かっていた。それでも、恐らくペナルティを与えられたプレイヤーから少しでも情報を得ようとして走っている。だがおかしい。先程から悲鳴が途切れることがない。いや、途切れることは途切れるのだが、数秒後にはまた聞こえるのだ。まるで何度も何度も生き死にを繰り返しているかのように。

 そして、その場所は一同の想像を遥かに超える地獄と化していた。まず目に飛び込んできたのは赤。ドス黒い血の赤だ。だが生物の中にこれほどの血を持ったやつはいない。既に何度も繰り返し受け続けているのだろう。そしてペナルティを受けている、恐らくガルドの部下であろう狼男はすでに正気を失っているようだ。

 

「これは、酷い……」

 

「何をしたらこれほどの血がでんだよ……」

 

 そう話している間もペナルティは幾度となく与えられる。

 

「ぐぅああああぁぁぁあああああ‼︎ やめろぉぉぉおおおお――――ッ‼︎」

 

 コポコポと沸騰するような音と共に、狼男の体に血管がうかんでいく。

 

「まさか……!」

 

 直後、狼男の体がボンッという音と共に爆散した。

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

「あの狼男に与えたペナルティは『爆裂』。水分を沸騰させるギフト。生き物を対象にすればどうなるか……でも大丈夫」

 

 そして朱雀は笑った、にっこりと花が咲いたように笑った。

 

「……絶対に死なないから」

 

 




魔王系主人公、これは流行る!(流行らない
魔王化してるから華蓮が出せない……

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