担い手も異世界から来るそうですよ?   作:吉井

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投稿ペースあげるぞー!
さて今回からオリジナルの話となります。


第七話 決戦前夜 

「何……これ……」

 

 ノーネーム本拠地にたどり着いた華蓮達は、目の前の光景に絶句した。

 そこにあったのは、およそ人が住んでいけるとは思えないほど破壊された建築物。何百年もの時間を感じさせる風化した光景だった。

 

「土が死んでる……」

 

「……おい黒ウサギ。魔王のゲームがあったってのは――今から何百年前の話だ?」

 

「……僅か3年前でございます」

 

 再び華蓮たちは言葉を失った。自信家の十六夜でさえ、引きつった笑みを浮かべている。

 だがそれも当然のことだろう。ここまでボロボロになっているにもかかわらず、過ぎた時間が3年というのは、どう考えてもおかしかった。

 

「やっぱり、これって魔王の力?」

 

「九分九厘そうだろうぜ。――しかし魔王の力がこれほどとはな……」

 

「怖いの?」

 

 華蓮自身、そんなことはないと思いつつも、意志確認のために十六夜へそう尋ねた。

 答えは思ったとおりのものだった。十六夜は獰猛そうに笑うと一気に言い放つ。

 

「怖い、ね。――ハッ、怖くなんてねぇよ。俺はむしろ楽しみだぜ。たった3年でここまでの被害を出すほどの奴が、この箱庭にはわんさかといるんだろ?」

 

「そういうと思ったよ十六夜。どんなやつが出てきても倒してしまえばいいんだからね」

 

 この二人は問題児達の中で特に気を付けないと、と黒ウサギはこっそり決心していた。

 

「……あれ? あっちから走ってくるのって……ジンじゃない?」

 

 突然、耀が話し出した。

 一同が耀の示すほうを向くと確かにジンが走ってきていた。ただ、様子がおかしい。ジンの顔には明らかな焦りと不安があった。

 

「何かありましたか⁉ ジン坊ちゃん!」

 

 なにかしらのことがあったと悟った黒ウサギが慌てて事情を聴く。するとジンは、乱れた息を整えながら言った。恐らく、黒ウサギ達が最も恐れていたことを。

 

「ハァ……ハァ……。み、皆さん大変です! リリが……子供たちがさらわれました!」

 

「「「なっ……⁉」」」

 

「誘拐⁉」

 

 誘拐、人さらい、どの世界にもいるであろう悪人。幼い子供から大人、老人すらさらい、身代金要求やら、奴隷売買で金を稼ぐ奴らだ。主力が不在の子供しかいないノーネームは格好の獲物だったに違いない。

 

「なんですって⁉ ジン坊ちゃん。それはいつのことですか!」

 

「リリ達数人がいないって気づいてたのが30分くらい前で! みんなで周辺を捜したんだけど、どこにもいなくて! さらわれた、って気づいたのに何もできなくって、それで……それで‼」

 

「お、落ち着いてくださいジン坊ちゃん。大丈夫です、絶対に助けますから!」

 

 焦りと不安でパニックを起こしてしまうジン。11では仕方ないことだと思うが、リーダーである以上もう少ししっかりして欲しい。

 華蓮はそう思う一方で、人さらいの素性に見当をつけていた。といっても、このタイミングで利益のでる奴など、一人――いや、『一匹』しか思いうかばなかった。

 

「皆さん、緊急事態です。人さらいを探すのを手伝ってくだ……って、どこへ行くんですか皆さん⁉」

 

「どこって……ああ、黒ウサギはいなかったからね、知らないか」

 

「俺もいなかったけどな。……だが、人さらいにしてはタイミングが良すぎることと、ギフトゲームを明日に控えていることから推察できる」

 

「こんなことをするのはあの外道しかいないわ」

 

「……行こう。助けに……」

 

 さぁて――あのネコちゃんにお仕置きタイムといこうか。

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

「――俺に、『六百六十六の獣』を裏切れと?」

 

 コミュニティ『フォレス・ガロ』ガルドの屋敷。

 ここでガルドは選択を迫られていた。人生を左右するかもしれない選択を。

 

「結果的にはそうなるな。しかしお前も知っていよう。かの大悪魔はもう箱庭に帰ってくるつもりはさらさらないのだ。『六百六十六の獣』は主催者権限に集まるまさに烏合の衆よ。そんな場所で飼われていても、お前の将来は見えているぞ」

 

 そしてその選択を迫っているのがこの女だ。金髪の髪をなびかせ、ガルドを甘く囁くようにして誘う。見た目は十六夜達より2,3歳下に見える。だが、彼女から放たれるソレは十代のものではない。もっと濃い人生を送ったものが放つソレだ。

 

「……だが仮に裏切ったとして。……本当に『鬼種』のギフトをもらえるんだろうな?」

 

「もちろん約束は守る。お前に『鬼種』のギフトを与えよう」

 

 この女は、≪このまま明日『ノーネーム』に殺される≫か≪自身の所属するコミュニティを裏切り、ノーネームに勝つために『鬼種』の力を得る≫かのどちらかを選べと言っているのだ。

 どちらを選んでも確実にガルドは今の地位を失う。だが、ガルドにはどうしてもこの女に逆らうという気が起きなかった。

 

(くそ! この女、『鬼種』の純血でさえなければ今すぐにでも引き裂いてやるんだが‼)

 

『純血』とは、系統樹の起点に位置するギフトを指す言葉だ。その中でも『鬼種』の純血は、ほとんど神格として扱われる。

 

「……仕方ない。『鬼種』のギフトをもら――」

 

 そこまで言いかけたところで、扉をノックする音が聞こえてあわてて口をつぐむ。

 ガルドは平静を装いつつ声をかけた。あの女はすでに影も形もない。

 

「なんだ! 俺は今気が立ってんだ! 要件を早く言え!」

 

 そういうと扉の向こうからおびえた声が上がった。

 

「は、はい! れ、例のノーネームから子供をさらってきましたので、報告にまいりました」

 

「なに⁉」

(まだ俺は、運に見放されてはいない!)

 

 その言葉に歓喜するガルド。これであの女の誘いに乗ることなく生き延びることができるからだ。

 

(こっちには人質がいる。これであいつらに対して有利に事を運べる!)

「そいつらをここへ連れてこい」

 

 ガルドがそういうと扉が開き、手下と3人の子供が入ってきた。

 

「よしもういい、さっさと出ていけ!」

 

 ガルドがそういって手下を追い出すとこの部屋には4人だけになった。いや正確には、

 

「おい! 聞こえてんだろ女! さっきまでの誘いは破棄だ! 俺はお前の手なんか借りねぇぞ‼」

 

「「――――っ!」」

 

「…………?」

 

 突然大声を出すガルド。その声に2人は、恐怖で気を失ってしまうが、もう1人はその発言に疑問を抱いた。

 その子の名前はリリ。ノーネームの子供たちをまとめる年長組の一人だ。

 

(誰に向かって言ってるの? この部屋には私たち以外誰もいないのに……)

 

 そんなことを考えているとガルドが近づいてきた。

 そのガルドをリリは気丈ににらみつける。それにガルドは口を乱雑にゆがめて笑った。

 

「気の強ぇガキだな。そういうの嫌いじゃないぜ」

 

 だがな、そこでガルドは口を閉じると、

 

「名無しの分際で、この俺にそんな態度をとっていいと思ってんのかぁぁぁああ‼」

 

 リリを強く蹴り飛ばした。

 突然のことに反応できず、痛みで転げまわるリリ。だがガルドは休ませるつもりがないのか、間髪入れずリリの腹、腕、足と蹴り続ける。そのたびにバキ、ゴキとリリの体内から音が響いた。

 

「……おっと、あぶねぇ。勢い余って殺っちまうところだった。お前は大切な人質なんだからな……ってもう虫の息か」 

 

 やっとガルドが蹴るのをやめたとき、リリはもう虫の息だった。

 虎の脚力で何度も蹴られ、骨が砕けて破片が臓器に刺さっている。血だまりの中に沈む彼女は誰が見ても致命傷だった。

 

「まぁいい。こっちにはまだ二人も人質がいる。これで俺は……」

 

 ――だがガルドは知らなかった。彼らが人類最高のギフト保持者ということを。

 そして、ガルドは理解していなかった。彼らの仲間を傷つけることの重大さを。

 そして――――

 




次からオリ展開。。

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