担い手も異世界から来るそうですよ?   作:吉井

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第六話 再会

「では改めて、私がサウザンドアイズ幹部の白夜叉じゃ。黒ウサギとは少々縁があってな。コミュニティのことなど色々と面倒を見ておる器の大きい美少女なのじゃ」

 

(また自分で言ってる)

 

 客室へと通された一同に白夜叉は改めて自己紹介をした。その言葉に心の中で再び突っ込む。

 

「ええ、大変お世話になってますとも」

 

「ふーん、でも幹部ってことは相当強いんでしょ?」

 

「当たり前じゃ、私は東側の階層支配者(フロアマスター)。四桁以下のコミュニティでは並び立つものがいない最強の主催者(ホスト)なのだからな」

 

 最強の主催者、この言葉に耳ざとく反応する華蓮たち。

 

「そう……それなら貴方を倒せば私達が東側最強となるのかしら?」

 

「そういうことになるのぉ」

 

「へぇ、そりゃいいな。手っ取り早くて助かるぜ」

 

「私としては、こんなちっちゃな子と戦うなんて気が引けるけどね」

 

「そんなこといって、お前楽しそうだけどな」

 

 華蓮たちは闘志を視線にのせて白夜叉にそう言い放った。

 発せられるむき出しの闘志。黒ウサギすら冷や汗を流す程のプレッシャーを前に、白夜叉は高らかに哄笑をあげた。

 

「いやぁ、抜け目のない童達じゃ。依頼しにきたにもかかわらず、私を倒すとはな」

 

「な、何を言っているのですか⁉ 白夜叉様もやめてください!」

 

「よいよい黒ウサギ、私は常に挑戦者に飢えておる」

 

 止めにはいる黒ウサギを手をあげて制する白夜叉。

 

「よし、それじゃあ初めようぜ最強の主催者様」

 

「慌てるでない。やる前にお前達に一つ聞かねばならんからのぉ」

 

 そこで白夜叉は言葉を切り、ゾッとするほど凄絶な笑みを浮かべながら言った。

 

「お前達が望むのは試練への『挑戦』か? ――それとも対等な『決闘』か?」

 

 すると突然目の前の風景が変わった。周りを様々な世界が回る空間、その中の一つに一同は落ちていった。

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

 目を開けると、そこは先ほどまでいた和室ではなかった。

 太陽が水平に回る世界。周りを山脈に囲まれたこの世界は、さながら北の国であった。

 北の国――つまりかなりの冷気が漂っている世界。そんな世界を薄着で耐えられるはずもなく。

 

「「寒い‼」」

 

 華蓮と飛鳥は揃って声をあげた。

 

「ちょっと! 予告くらいしなさいよ!」

「まったくだよ。まぁ問題はないけどね。飛鳥、ちょっとこっち来て」

 

 飛鳥が言われたとおりに近づくと、華蓮は手から炎を生み出した。それは華蓮たちの身体を包み込むと消えた。その途端寒さが遠のいて行くのを感じる。

 

「暖かい……。その炎自由自在なのね」

 

「まあね、私の思い通りに操れるんだよ」

 

「華蓮、でもあの時水も操ってたよね?」

 

 耀に指摘され顔を引きつらせる。

 別に手札をみせても困ることはないが、この問題児達がそれだけで満足するとは思えない。力のことを根掘り葉掘り聞かれるのは目に見えていた。

 それに華蓮自身、力のことを理解しきれていない。

 

「あ、あぁそうだね〜。水も操れるよ」

 

「ほかにもなんか操れねぇのか?」

 

 思ったとおり十六夜が喰いついてくる。

 華蓮は十六夜をジロリと睨むと、一つため息をつき話し始めた。

 

「いつか話すよ――とは言えないね。――私はあと二つ操ることができる。土と風、それに火と水を加えた四つだね。それ以外は私も知らない」

 

 一通り話すと華蓮の方から話を切り上げた。そもそもここには白夜叉との戦いのためにきたのだ。だがいつの間にか華蓮のギフト発表会と化しており、周囲にはゆる〜い空気が流れていた。

 

 こんな時白夜叉が仕切るのだろうが、彼女の意識は完全に華蓮に向いていた。ギフトに驚いたわけではない。この箱庭において、万物を生みだし操るギフトを持つものなど五万といるからだ。

 白夜叉の意識はむしろ、ギフト使用時に感じた『気配』に向いていた。それは、白夜叉と何千年も前に戦い箱庭から去った魔王によく似ていた。

 

(いや、まさかな……)

 

 だが白夜叉はその可能性を自身で否定する。

 あの時魔王は、箱庭の外の幻獣でも倒せる程の重症を負っていた。生きているとは考えにくい。

 悩んでいても仕方ない。後で考えることにした。ゴホンと一つ咳払いをし、注意をこちらに向ける。

 

「では改めて。――ここは私の保有するゲーム盤の一つじゃ」

 

「この広大な土地が唯のゲーム盤⁉」

 

 この広大な土地がゲーム盤だと知り、額然とする一同。

 

「そして私は太陽と白夜の星霊 。『白き夜の魔王』――白夜叉。今一度問う。お主らが望むのは試練への挑戦か? それとも対等な決闘か?」

 

「――――⁉」

 

 これには流石の問題児達も言葉を失った。

 星霊とは、惑星級以上の星に存在する主精霊のことで、星霊は龍の純血と同じく箱庭最強種の一角をになっている。

 極め付けに魔王。主催者権限を行使し数多のコミュニティから畏怖される天災が、今目の前にいる。

 圧倒的な力量差。だがそれでも、自分達が売った喧嘩をこのような形で取り下げるのはプライドが邪魔した。

 

「参った。やられたよ。降参だ、白夜叉」

 

「ふむ、ということは試練を受けるということで良いのかの?」

 

「これだけのゲーム盤を用意できるんだ、あんたには資格がある。――今回は黙って試されてやるよ、魔王様」

 

 十六夜の言葉に、堪えきれず高く笑い飛ばす。一通り笑うと、白夜叉は残りの三人にも改めて確認をとる。

 

「他の童達はどうじゃ?」

 

「……ええ、私も試されてあげてもいいわ」

 

「右に同じ」

 

「私も同意見」

 

 吐き捨てるように言う三人に、再び笑いそうになるが、我慢。

 

「もう! みなさんいい加減にしてください! 階層支配者に喧嘩を売る新人に、新人の売った喧嘩を買う階層支配者なんて冗談でも寒過ぎるのですよ! それに白夜叉様が魔王だったのは何千年も前ではありませんか!」

 

「つまり、元魔王様ってこと?」

 

「どうかのぉ? ……よし、それでは試練を始めようかの。お主達にはあれの相手をしてもらう!」

 

 白夜叉が指した方に視線を向けると、何かが近づいてくるのが見えた。

 

「「なにあれ……?」」

 

「グリフォン⁉」

 

「箱庭にはグリフォンもいるのか」

 

 四人が反応を示すと、グリフォンは白夜叉の元へ舞い降り深く頭を下げ礼を示した。

 

「こやつこそ鳥の王にして獣の王。『力』『知恵』『勇気』のすべてを備えた、ギフトゲームを代表する獣だ」

 

 ここで白夜叉は一度四人を見回し、少し考えて話しだした。

 

「肝心の試練なのじゃが。グリフォンの背にまたがり湖畔を一周するということにしようかの」

 

 すると虚空から契約書類が出現した。ギフトゲーム開始の印だ。

 

「では、だれが挑む?」

 

「私、私がやる」

 

 そう言ったのは耀。おとなしい彼女にしては積極的な発言だ。

 

「大丈夫ですか耀さん」

 

「大丈夫、問題ない」

 

 心配そうな黒ウサギにそう答え、前を向く。他の三人も今回は譲るようだ。三者三様の言葉をかけて送り出す。

 

「決まりじゃな」

 

 プレイヤーは耀に決まった。耀はグリフォンの元へ歩いていく。

 そして、翼から鋭い爪まで観察し終えた耀は慎重にグリフォンと言葉を交わし始めた。

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

 他種の生物と心を通わせるギフト。それを使って耀はグリフォンと話を続けている。当然グリフォンの言葉は耀以外にはわからない。

 

「命をかけます」

 

 そのため、いきなりの耀の発言に一同は言葉を失った。が、当然すぐに耀を止める声が黒ウサギと飛鳥から上がる。

 華蓮はなにも言わない。『覚悟をもって命を懸けると言った者にとやかく言うのは失礼』そう教えられてきたからだ。

 耀は二人に微笑むと再びグリフォンの方に向き直る。するとグリフォンが動き山脈の方に向き直り膝を折る、背に乗れということだろう。

 

「準備はできたみたいじゃの。それでは、覚悟は良いな」

 

 背にまたがり頷く耀。白夜叉はそれを見て扇子を振り上げた。

 

「よ〜い、スタートじゃ!」

 

 その声を合図に飛び立ち大空を疾駆するグリフォン。その姿はすでに遠く、山脈に差し掛かろうとしていた。

 ここで、このゲーム一番の障害が現れる。それは冷気。山脈から吹き下ろす極寒の風の中をあのスピードで駆けるのだ。体感温度はマイナス何十度にもなっているだろう。

 

「見えたわ!」

 

 飛鳥の指した方をみると、グリフォンがこちらに向かって疾駆してくるところが見えた。

 極寒の冷気の中、耀はまだ耐えているようだ。これにはグリフォンも焦ったらしく耀を振り落とそうと急降下、急上昇を交えた不規則な動きで残りを駆ける。

 そして遂に、ザンッと空気を切り裂く音と共にゴール。耀の勝ちだ。

 

「やったわ! 春日部さんの勝ちよ!」

 

 耀の勝利に歓声をあげるが、次の瞬間グリフォンの背から耀が落ちた。

 耀はかなりの高さから落ちている。流石にこのままでは危険だと判断し、助けに向かおうとしたところで十六夜に止められた。

 

「ちょっと! 十六夜!」

 

「まだだ、まだ終わってない!」

 

 なにが? と耀の方を向くと、空中でありながら体制を立て直す姿が見えた。さらにそのまま空中を跳ねて近づいてくる。

 

「うっそぉ、空飛んでるよ……」

(空を飛ぶねぇ、練習しとこうかな)

 

 耀の突然の飛行にちょっと憧れる華蓮。一応風を操れるので飛行方法を思案してみる。

 割と真剣(マジ)に飛び方を考えていると、いきなり目の前に一枚のカードが現れた。

 

「わっ!なにこれ⁉」

 

「ギフトカード!」

 

「なにそれ? お歳暮?」

 

「お中元?」

 

「お年玉?」

 

 と、それぞれが反応を見せる。もちろん前者黒ウサギ、後者問題児だ。

 

「違います! それはギフトカードといって、ギフトをしまっておくことのできるたいへん貴重なものなのですよ!」

 

「それなら鑑定せずとも、自身のギフトの名前はわかるじゃろう」

 

 その言葉に改めてカードに目をやる。

 

 コバルトブルーのカードに逆廻 十六夜

 ・『正体不明(コード・アンノウン)

 

 ワインレッドのカードに久遠 飛鳥

 ・『威光(いこう)

 

 パールエメラルドのカードに春日部 耀

 ・『生命の目録(ゲノム・ツリー)

 ・『ノーフォーマー』

 

 そして、

 スノーホワイトのカードに柊 華蓮

 ・『万長権限(プレジデントコード)

 ・『四神相応(ししんそうおう)』↓

 《青龍》

 《朱雀》

 《玄武》

 《白虎》

 

「そのギフトカードは、正式名称を『ラプラスの紙片』。即ち全知の一端だ。そこに刻まれるギフトネームとはおんしらの魂と繋がった『恩恵』の名称。鑑定は出来ずともそれを見れば大体のギフトの正体が分かるというものだ」

 

「へえ? なら、俺のはレアケースなわけだ」

 

 ん? と、白夜叉は十六夜のギフトカードを覗き込む。すると白夜叉の表情が強ばった。

 

「……いや、そんなバカな」

 

 白夜叉が十六夜からカードを取り上げて真剣な眼差しでカードを見る。そこにはギフトネーム、『正体不明(コード・アンノウン)』と書かれていた。

 

「『正体不明(コード・アンノウン)』だと? いいやありえん、全知である『ラプラスの紙片』がエラーを起こすはずなど」

 

「何にせよ鑑定はできなかったってことだろ。俺的にはこの方がありがたいさ」

 

 白夜叉はなおも疑問に思っていたようだが、華蓮達のギフトをみることにした。

 

「ほほう、なかなかに強力なギフトじゃのう。さて残るお主のギフトは……」

 

 飛鳥と耀のギフトを確認した白夜叉が、最後に華蓮のギフトを確認しようとする。

 

「いいけど……どうぞ」

 

「どれどれ……⁉︎ これは!」

 

 気乗りしなかったが確認してもらう。その瞬間、白夜叉は十六夜の時以上の驚愕の表情を浮かべ、一瞬で華蓮との距離を詰めると首筋に取り出した扇子を当てがった。

 

「お主……なぜこやつらを持っておる! こやつらはあの時私自身の手で倒したはず、それを何故‼︎」

 

「し、白夜叉様⁉ いきなり何を?」

 

 しかし白夜叉は聞く耳を持たず、むしろより一層強く問いかけてきた。華蓮はその怒気に気圧されて、慌てて話した。

 

「し、知らないよ! 私も今これの存在を知ったんだし、何よりそいつらを手に入れた記憶がないって!」

 

「…………そうか、すまない取り乱した。じゃが、華蓮といったな? お主が知らないと言っても、事はお主が思っているより深刻じゃ。本当は今すぐ話したいのじゃが、もう暗くなってきておる。そうじゃな……明日のゲームの前にでも立ち寄ってくれ。いろいろと話すことがある」

 

 それを聞いた華蓮はコクコクと頷いた。黒ウサギたちも、先ほどの迫力にすっかり萎縮してしまっている。

 

「そのように硬くならんでいい。別にどうこうしようというわけではない。……まぁ今日は解散としよう」

 

 次の瞬間には、一同は元の茶室へと戻っていた。再び不思議そうな顔を浮かべるが、今日はそのまま帰って行った。

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

 黒ウサギ達が帰った後、白夜叉は茶室で一人ポツリと呟いた。

 

「まさかあいつらが戻ってくるとは。……黒ウサギ、お主のコミュニティのためとはいえ、厄介な奴を呼んだのぅ。……何事もなければ良いが」

 

 だが白夜叉の切なる願いが叶うことはなかった。

 翌日、彼女は信じられない知らせを耳にした。

 


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