担い手も異世界から来るそうですよ?   作:吉井

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すまない……投稿が遅れてすまない……
リアルが忙しかったんだ……すまない……



第七話 合流は檻の中で

 ギフトゲーム『Three fifths』二試合目。

『主催者』柊華蓮。

『ゲーム内容』―――ポーカー(特殊ルール無し)。

 全十戦の内、より勝利数の多いプレイヤーの勝利とする

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 トランプゲームにおいて運は最も重要な要素である。誰が何と言おうと、それは揺るぎない事実だ。

 ポーカーも例外ではない。

 各種様々な付属ルールが存在しても大本のルールは決まっていて、極論、『配られるカード』と『交換されるカード』の二つを完全に抑えることが出来れば確実に勝利することが出来るのだから。

 

 もちろんそれほど単純な話ではない。並の運――人の持つ運程度ならば、巧いイカサマでどうとでもなってしまう。配られるカードを操作されれば、如何に運が良くとも役が揃うことは無い。

 しかし相手は、条理を捻じ曲げるほどの恩恵()を持つ少女。

 これは神仏にも当てはまる事だが、徳の高い――高すぎるそれを持つ存在には、小手先の何もかもが通じない。運命そのものが味方しているかの如く、条理を捻じ曲げ不条理に、全ての事象が神仏有利に改変されていくのだ。

 

 つまりこのゲーム、敗北以外の未来が十六夜には無い訳だが、それならそれで都合が良かった。

 ―――これで、『Three fifths(このゲーム)』での勝利をスッパリ諦めることが出来るから。

 敗北しても構わない――とは流石に思わないが、時にはこういう決断も必要なのだ。特に十六夜の様に、大きな目標を見据えている者にとっては。

 

 ただしただでは終わらない。

 柊主催のこのゲームと残りの一つで、『極大化』の全容を暴いてみせる。

 あの日撒いた種(・・・・・・・)を根こそぎにしてしまう危険は、絶対に取り除かなければならないのだ――――。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

『ゲームリザルト』

 柊華蓮―――勝利数:八

 逆廻十六夜―――勝利数:零

 引き分け:二

 

 勝者―――柊華蓮

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 予想通りの結果だった。

 色々試していたら二回程引き分けになったが、今はどうでもいい。

 それは後で考えるとして、今はゲーム結果を振り返る。

 

 ―――彼女の作る役は、十回中八回R(ロイヤル)S(ストレート)F(フラッシュ)だった。

 最強の役。出る確率は六十五万分の一。それを八回作り上げているあたり流石と言わざるを得ない。

 作れなかった二回も十六夜のイカサマによるものだったし、それがなかったら間違いなく十回とも揃えていただろう。

 ―――十回連続なんて、最早計算するまでもなく低確率なのに、そう思う。

 

 正に天運。

 運命そのものが味方する、世界の意思とでも呼ぶべき力。

 圧倒的なその力は、並の対策などまるで意に介さない。

 

「これで私の二勝。とうとう後がなくなってしまいましたね十六夜」

 

 淡々とそう告げる柊。表情こそいつも通りだが、十六夜にはどこか満足気に視えた。

 華蓮の内側。柊の構成情報。―――『圧倒する』という第一目標。

 柊の感情らしきものが生み出した『嫉妬(悪感情)』が、無意識にそうさせているのだ。

 

「お前がそれを言うかよ、柊。最強の役がポンポンと出てくんだ、どうやって対処しろってんだよ」

 

 トランプを片付けながら言葉を返す十六夜。その脳内では考察の詰めが行われていた。思考の二分化にも、最早慣れたものである。

 勝利の熱に浮かされ、冷静さを欠いていた柊は気づかなかった。

 

(―――天運。一見隙の無い凶悪なまでの力だが、……しかし絶対じゃない。所詮は運だから、現実を改変することは出来ないんだ。先に配った俺のカード(・・・・・・・・・・)の中身(・・・)――わざと偏りを持たせた手札に変化が無かったことが証明している。……真に万能ならば、俺が組んだRSFを放っておくはずが無いからな)

 

 リザルトにある『引き分け二回』の記述は、十六夜と柊が共にRSFを作り上げたために記されたのだ。

 

(ってことは、ルール次第じゃギャンブルでも勝てるってことか。いいね)

「―――うし、片付け完了」

 

 整頓したトランプをケースに収め、柊に手渡す。

 

「ありがとう十六夜。早速三戦目、――といきたいところですが、もう昼過ぎなんですね。誰かさんの所為でお昼を食べそこねていますし、チーズだけだとどうにも……」

「意外と根に持つんだな。……まあ俺も腹減ってたし、丁度いいか」

 

 一時休戦、というわけだ。

 二人は一緒に席を立つと、出店の立ち並ぶ街道を歩き始めた。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 数分程度で一軒のカフェを見つけた。

 時間も時間だったので、ピークを過ぎた様子の店内はがらんとしていた。ぽつぽつと客がまばらに座っている程度。

 出店が数多く並んでいる収穫祭では、やはり、こういった腰を下ろして頂く料理というものは、場にそぐわないのだろう。せっかくの祭りなのだから、色々な物を見て、選り好みをして食べたいものだ。

 だがまあ、そういった賑やかな場を好まない人種も一定数いる訳で。――そういった少数派を切り捨てない辺りは、流石の運営手腕なのだろう。

 そして、喧騒から離れたい二人にとって、この場は丁度良かった。

 

「そういえば」

 

 柊がそう呟いたのは、運ばれてきたランチが半分ほど彼女の胃に消えたあたりだった。既に食べ終えていた十六夜は、手にしていたカップをテーブルに置き耳を傾ける。

 

「十六夜が此処にいるということは、《ノーネーム》の主力は皆この収穫祭に来ているということですよね。本拠の守りが手薄になっているのではないですか?」

 

 その指摘はもっともだ。それを危惧して、ジンは参加する日数を区切ったのだから。

 しかし今、十六夜は独断で行動を起こしている。知っているのはレティシア達待機組のみ、リーダーのジンをはじめとした先行組はこの事実を何一つ知らないのだ。

 

「それについちゃ大丈夫だ。対策はしてある。俺の独断行動にしても、レティシアに連絡を頼んであるしな。……昼頃には伝わると言っていたから、もうそろそろ動きがあってもいい頃合いなんだが―――」

 

 と、十六夜がそんな事を口にした時だった。

 まるでそれを引き金にしたかのように、――というか、監視でもしていたんじゃないかってくらいピッタリのタイミングで、

 

 ――――ギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュル――――‼

 

 店の外に飾られていた花という花が、一斉に、一気に―――膨張(・・)した。

 膨張。

 膨張したのだ。字面通りに。

 

「「――――――――……………………………………………………………………………………」」

 

 無論比喩である。

 実際のそれはもっと現実的で、随分と非科学的現象だった。

 

 花たちは、膨張と錯覚するほど急速に。

 ―――遺伝子に刻まれた限界を凌駕した大きさまで、成長(・・)したのだ。

 

 ……そう、限界を凌駕し成長している。

 でなければ。

 そうでなければ、ありふれた観賞用の花が、二人のいるカフェを覆わんばかりに肥大するわけがないのだ。

 

「……確かに確保しやすいよう大通りを離れたのは俺だが、……まさかここまで大がかりな手を打ってくるとは思わなかったぞオイ」

 

 なにやってんだ、と言わんばかりのうんざりした表情で十六夜が零す。

 しかし一番の被害者は間違いなく、運悪く巻き込まれた店と客だろう。異常に太く硬質な花の茎によって閉じ込められてしまったのだから。

 

 そんな天然の檻。

 そこに一ヵ所だけ切れ目が入って、パックリと二つに割れたかと思うと、差し込む日光をバックライトにして、人影が四つ這入ってきた。

 

「……近頃の不穏な動きから、何かやらかすんじゃないかと感じていたけれど。……まさかまさか、こんなことをするなんてね十六夜君」

 

 糾弾の声が響く。

 逆光で姿が判別できなくとも、その声と口調を間違えることは無かった。

 

「うん、これは流石に擁護できない。勝手が過ぎたね、十六夜」

 

 声量は多くなかったが、しかしゆっくりと紡がれる言葉には明らかな怒気が含まれていた。静かに(いか)る少女の肩の上で、三毛猫も毛を逆立てる。

 

「ええその通りです! 十六夜さんが仕出かしたことは、到底冗談で済ませられることではありません‼」

 

 対してこちらは判りやすい。

 桃色に変わった髪が逆立って揺らめき、怒髪天を衝き―――貫いている。

 ウサギ耳をピンと立て、彼女は激昂していた。

 

 そして。

 最後に這入ってきた少年らしき影は、

 

「……僕自身言いたいことは山ほどありますが、まずは損害状況を明らかにしてしまいましょうか」

 

 内心の激情が窺える震え声で告げた。

 

境界門(アストラルゲート)の無断使用並びに価格の変更。それによって発生した損害―――。締めて、金貨数百枚分もの損失です」

 

 隣りから息を呑む音が聞こえた。……こんな話を聞かせる訳が無いから、間違いなく柊だ。相変わらず声の抑揚が巧い。

 それはともかく。

 ―――金貨数百枚。

 それはあまりにも膨大な額で、多少好転したとはいえ未だ懐事情に余裕のない《ノーネーム》が払えるものではない。

 しかしながら原因は《ノーネーム(地域支配者)》の暴走だ、突っぱねることは出来ないだろう。

 ―――と、これが十六夜の仕出かした事件の全容なのだが―――、そりゃ誰でも激怒する。

 

「損失…………――――ですけれども‼」

 

 ジンは更に一層大きな声で、――こちらが本命とばかりに吠えた。

 

「貴方って人は………‼ ―――………くっ!」

 

 だが様子がおかしい。

 怒りに任せて怒鳴り散らすかと思われたのだが、しかしジンは何度も何度も言葉を詰まらせる。その()瀬無(せな)い表情を見る限り、声が出ないという訳ではなさそうなのだが、―――ならば何故、何も言わないのだろうか。

 現ノーネームの古参であるジンならば、十六夜のとんでもない愚行に憤ることは間違いないのだが……。赦すなど(もっ)ての(ほか)、あり得ないだろうし。

 

 と。

 ここまでを前提として考えよう。

 ジンが―――己のコミュニティを心から大切に思う彼が、それでも何も言わない訳とは一体全体なんなのか。

 

「………この時ほど、自分に与えられた立場を恨んだことはありません……!」

 

 そして。

 長い葛藤の末、ジンは乱暴にこう吐き捨てるのだった。

 

「逆廻十六夜! 貴方の行動は、僕ら《ノーネーム》を危険に晒す悪質なものです! 本来ならば重い罰を科すところですが―――!」

「………」

「レティシア様からの伝言にあった成果(・・)を加味した上で再検討した結果―――‼」

「………」

 

「大々的かつ大幅に罪を軽減‼ 前代未聞の特例で、―――ええそうですよ! 無罪ですよこの野郎‼」

 

 そして十六夜は。

 唇を強く噛みしめるリーダーを真摯に見つめ、

 

「すまない」

 

 そう一言、告げるのだった。

 

 




別に十六夜が嫌いって訳じゃないんですけれど、後の展開と今作品の十六夜の思想をすり合わせた結果、仲がギクシャクしちゃった感じです。
ゆえの『苦労人十六夜』タグである。
今後ともよろしくお願いします。次は出来る限り早く投稿するゆえ。

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