担い手も異世界から来るそうですよ?   作:吉井

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続きです。



第五話 白夜叉

「――というわけで、《フォレス・ガロ》とギフトゲームをする事になりました」

「どういうわけですか、この問題児様‼」

 

 何の脈略もなくそう言った華蓮にハリセンの一撃が直撃する。

 華蓮に先程までの威圧感はどこにもない。いつもの調子で黒ウサギにそう言っていた。

 

 その黒ウサギはというと、やっとの思いで十六夜をつれて帰ってきた途端に華蓮のこの発言である。半ば本気の剣幕で華蓮たちに詰め寄った。だが、

 

「「「ムシャクシャしてやった。今は反省している」」」

 

 この反応である。全くと言っていいほど反省していないようだった。

 黒ウサギもそれに気づいたようで、ガックリと肩を落としている。

 

「まぁその話はおいといて……御チビの話が本当なら、お前が一番面白そうだ、柊」

 

 ジンから説明を受けた十六夜がそう言ってくる。黒ウサギも華蓮に詰め寄りながら問いかけてくる。

 

「そ、そうです! ジン坊ちゃんの話では龍のギフトを使ったそうじゃないですか。それに箱庭のことも知っているような口ぶりだったようですし、柊さんは一体何者なのですか?」

 

 そもそも龍とはこの箱庭のなかで最強の種族。系統樹も存在しない生物。

 そんな強大な力を人間が使ったとなると、箱庭の貴族である黒ウサギが驚くのも無理はないと言える。

 

「知りたい? じゃあ二つだけ。

 まず私の口調が変わったって言ったでしょ? 私あの時の記憶がはっきりしないんだ。だから私にもよく分からない。

 何者、とか言うけど、私は人間だよ。多分この中の誰より異質だけどね。――それと、十六夜にはいつか名前で呼ばせると宣言する」

 

 説明は説明だが最後が余計だった。

 黒ウサギも最後の言葉でガックリきていた。それでも、華蓮の気持ちに気づいたのかそれ以上は詮索しなかった。

 

「俺が名前で呼ぶのは認めたやつだけだぜ柊。呼ばせたいんなら俺に認められるよう頑張るんだな」

「だと思った。でもすぐに呼ばせて見せるから、覚悟してなよ」

 

 華蓮と十六夜の間に火花が散る。それをみて黒ウサギが慌てて話題をそらした。

 

「で、では、ギフトゲームの前に皆さんのギフトの鑑定をしてもらいに行きましょう!」

「うん。行こうか」

 

 黒ウサギがそう提案する。華蓮は不機嫌そうにそう返した。

 

「そうだな。案内頼むぞ黒ウサギ」

「はい! では皆さん、今から鑑定を依頼するコミュニティ(サウザンドアイズ)に向かいます。ついてきてくださいね。……絶対についてきてくださいね!」

「それはフリか?」

「違います! もう! 迷っても知りませんよ⁉」

 

 必死に念を押す黒ウサギを茶化しつつ、黒ウサギの後ろをついて歩き始めた。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 ――箱庭東側、ペリベット通り。

 黒ウサギたちはギフトの鑑定を依頼するため、箱庭でも大手の商業コミュニティ――サウザンドアイズの支店へと向かっていた。

 

「それにしても、箱庭にも私たちのいた世界と似た花が咲いているのね」

 

 そう言ったのは飛鳥。確かに川辺に立つ木には、春によく見かけるあの有名な花が咲いていた。

 

「でも桜ではないわね、今は夏ですもの」

「いや、まだ初夏だし気合いの入った桜が咲いていてもおかしくないと思うが」

「今は秋だったと思うけど?」

「私のところは真夏。……どういう事、黒ウサギ?」

 

 かみ合わない話に黒ウサギに助けを求めた。黒ウサギはそのうさ耳をピンと立てると、一つ咳払いをして四人に説明し始めた。

 

「季節が違うのも無理はありません。御四人方は、それぞれ違う世界から召喚されているのですから」

「パラレルワールドってやつか?」

「半分正解半分不正解ですね。正確には立体交差並行世界理論というのですが、これをすべて説明するには一日二日では足りないので気になった方は個人で調べて見てください」

 

 十六夜の問いかけに黒ウサギは微笑みながら言った。そう話し合っていると、黒ウサギが前方に見えてきた一軒の店を指差した。

 次の瞬間、黒ウサギはその店に向かって全速力で走り始めた。

 

「まっ――」

「待った無しですお客様。当店は時間外営業はいたしておりません」

 

 どうやら店じまいの時にきてしまったらしい。

 割烹着をきた店員と黒ウサギが何やら話しているが、店員は片付けの手を全く緩める事はない。容赦ない対応である。

 

(しかしこの店員、マニュアル通りの対応過ぎて逆に清々しいな)

 

「閉店の五分前に客を締め出すなんて!」

「不満があるのでしたら他所へどうぞ。今後一切当店への出入りを禁じます、出禁です」

 

(前言撤回。五分前とかあり得ない。この店員、もう少し融通きかないのかな?)

 

「この程度で出禁だなんて、お客様を舐めすぎなのですよ!」

「そうですね。箱庭の貴族に対して少々無下にし過ぎたかもしれません。では、店内で入店許可をいたしますのでコミュニティの名を教えていただけますか?」

 

(この店員、わざとやってるな……? 濡らしてやろうか、ビショビショに)

 

 少々イラッときたので掌の上で水をループさせ始める。

 だが、幸か不幸か誰もそのことには気づかなかった。そうしていると十六夜が躊躇いなく言った。

 

「ノーネームだ」

「では、何処のノーネームでしょうか。」

 

 元々ノーネームとはコミュニティの名ではない。名を持たないコミュニティの総称をノーネームと呼ぶのだ。

 商業コミュニティとしては、ノーネームほど信用のないものはない。それもサウザンドアイズほどの大手となれば尚更だ。

 そのことを箱庭の貴族として理解している黒ウサギは、恥をしのんで、旗のないことを告げようとする。

 

「わ、私たちに旗はありませ――」

「いやっほぉぉぉ! ひっさしぶりじゃのぉぉぉおお黒ウサギぃぃぃ‼」

 

 突如として店から着物をきた少女がとびだしてきた。

 その着物少女は黒ウサギにフライングボディーアタックをかますと、黒ウサギ共々川に落ちていった。

 

 突然のことに唖然としていると、黒ウサギの声が聞こえてきた。何やら話しているようだがよく聞こえない。わかったことといえば、少女が白夜叉と呼ばれていることくらいだ。

 

(なーんか、怒る気分じゃなくなったな)

 

 そんなことを考えていると白夜叉がとんできた。黒ウサギに投げられたらしい白夜叉は、空中でスピンしながら飛んで行き――十六夜の足で止められた。

 ドゴォ! と、ものすごい破壊音がしたが、白夜叉は全くダメージを負ってないようで、

 

「こらおぬし!とんできた美少女を足で止めるとは何様じゃあ!」

 

(自分で言うな!)

 

「十六夜様だぜ、和装ロリ」

 

 誰も突っ込まないので、華蓮は心の中で突っ込んでみた。

 

「貴方はこの店の人?」

「そうともさご令嬢。わしがこのサウザンドアイズの幹部、白夜叉じゃ」

「幹部? こんなにちっちゃくて可愛いのに?」

 

 当然の反応である。

 実際白夜叉の身長は、一番低い華蓮の腰くらいしかない。

 

「まぁ小さくても強いから大丈夫じゃ。それに、わしは見た目ほど若くはないしのぉ」

 

 微笑みながらそう言う白夜叉。

 

「それで黒ウサギ。何か用があったのではないか?」

「そ、そうです! 実は、この御四人方のギフト鑑定を依頼しにきたのですが」

「ふむ。まぁ、店内で改めて話すとしよう。ついて来い」

 

 白夜叉が黒ウサギたちをつれていこうとすると、店員が慌てて止めに入った。

 

「白夜叉様、彼女たちはノーネー――」

「構わん、わしが許可する。それに、ノーネームと知りながら名や旗のことを聞く性悪店員の詫びじゃ」

 

 これには店員もムッとした様子だ、彼女も、店の決まりを守った上での対応だったのだから仕方ない。

 

「……どうぞ、お入りください」

 

 渋々と言った様子で五人を店にいれる。ノーネーム一同はやっと店内にはいることができた。

 

 既に日は傾き始めていた。

 




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